美少女な俺様が騎士をフる!
修練中だった騎士ユーゴーと模擬戦を行うことになった俺は、修練用の訓練服に着替えることになった。
着替えは近くの更衣室で行う。
修練場の隅に建てられた小さな建造物で、騎士の訓練用の道具が納められているらしい。
さて。
しかしその訓練服というのを俺は持っていない。
この服のまま戦っては、万が一破れたりしては困るということで、騎士見習いたちの中で一番小柄なメアリーという金髪碧眼の女の子から借りることになった。
(女の子が着てた服を借りるなんて……っ!)
背徳的な興奮を覚えながら、俺は身につけていた衣装を脱ぐ。
白のスカートを脱いで、ベルスリーブの青いワンピースだけになる。
これも脱いでしまうと、木綿製の白いトランクスっぽい下着と、同じく木綿製のスポーツブラの様なトップスだけが残った。
「おおぅ……」
傷一つない白い肌。
細く長くしなやかな肢体。
触れてみれば薄い脂肪の膜の下に、しっかりと鍛えられた筋肉の硬さがあって──。
「ん?」
と、お腹のあたりに視線を向けた時だった。
そこに、いくつかのハートが連なった様な模様が浮かんでいるのが見えた。
「なんだこれ?」
指でなぞってみるが、インクで描かれたという感じでもない。
タトゥーみたいな、なんだろう、これ?
よくわからないが、神様が作ってくれた体だ。
きっと何か意味があるのだろう。
変に弄っておかしくなったりしたら困ると思った俺は、ちょっと怖い感じもしたが、とりあえず放置する方針に決めた。
そんなわけで、俺はそそくさとメアリーの服に袖を通すことに。
前世での年齢が二十代後半だったことを考えると、かなり年下の子の体操着を着ようとしているわけだから、さすがに最初は躊躇を感じた。
だって、服からなんかいい感じの匂いがするんだよ?
柑橘系の甘い香りが鼻いっぱいに広がって、正直めちゃくちゃ背徳的で興奮する。
メアリーも俺に着られることを望んでたし、別にやましいことでもないのだが、前世ではモテない男だった身からすると、こう、クるものがあるというか。
(だめだめ、こんなにゆっくりしてたら怪しまれちゃうし)
服に顔を埋めて下腹に手を伸ばしそうになるのを、意志の力で強引に引き戻し、さっさと着替えてしまう。
訓練服は、結構な重みがあった。
分厚い布を何重にも縫い合わせた服は暑苦しいし、その上から取り付ける革の鎧も結ぶのに苦労する。
(ていうかこの服、中に鉄板みたいなの入ってるし……)
イメージとしては、分厚い長袖のローブ型防弾チョッキみたいなものだ。
ワンピース型で脚まで守られておらず、足首ほどまでの丈がある。
(いつか俺もこういう装備を買う時が来たら、もっとかわいいデザインのをオーダーメイドしよう)
無骨な訓練服の着用を終え、脱いだ服を畳んでベンチに置く。
「それじゃ、行きますか」
⚪⚫○●⚪⚫○●
「「きゃー、ファムちゃんかわいいーっ!!」」
更衣室を出てすぐ、ステラやメアリーたち見習い女騎士たちが、黄色い声を上げてミカネ──もといファムに抱きついてきた。
「おわっ!?」
あまりに唐突な行動にファムは反応に遅れて、女子たちの甘い匂いに押しつぶされる。
(うぅ、クラクラするぅ……。ここが天国かぁ……っ)
かわいいというのはそれだけで役得だな、なんて思いながら、ニヘラと幸福な笑みを浮かべた。
「ファムちゃん、とっても似合ってるよ!
前のゆったりした髪型も良かったけど、今のポニーテールもすっごくかわいい!」
「あ、ありがとう……えへへ」
ステラがファムの両手を握りながら、にっこりと微笑みながら評価する。
今の彼女の髪型は、戦闘の邪魔になるということで全部の後ろ髪を一つにくくって纏めていた。
まとめるのに使った青いリボンは、転生した時から髪を縛っていたものを利用したものだ。
今の髪型ならば、激しく動き回っても邪魔になることはないだろう。
建物を建て、外の修練場へと顔を出す。
するとそこには何人もの騎士たちが修練場を囲む様にしてギャラリーができていた。
「「おおぉぉ」」
四方から騎士たちの感嘆の声が聞こえてくる。
きっと、俺様の凛々しい姿に見惚れたんだな?などと思いながらニヤニヤと笑みを浮かべて、そんな修練場の真ん中を突っ切った。
「待たせたね、ユーゴーさん」
ニヤニヤした笑みを、これから始まる模擬戦に対する期待の表情に切り替えて、手を差し出した。
しかし、彼から握手が返されることはなかった。
「……ユーゴーさん?」
怪訝な表情を浮かべて、彼の顔を下から覗き込む。
すると、彼の顔が真っ赤に染まっていることがわかり、あ、これ照れてるんだな?と察してニヤニヤとした笑みを浮かべた。
(まったく、このかわいさは罪だぜ)
「ん」
言って、握手するのを催促する。
と、ようやくその手を認識することができたのか、彼は慌てて手を握り返して、唐突に口を開いた。
「結婚してくれ」
「お断りします」
何を言われるか、もうそろそろ想像できる様になってきたファムは、笑顔を浮かべながら即答でそう答えて見せた。
「……えっ、あっ、えっと……はい、ごめんなさいすみません調子乗りすぎました許してください」
しばらく返事の意味が理解できなかったのか、狼狽えた様子を見せるユーゴー。
しかしようやく頭の回転が戻ってきたのか、慌てて手を離して早口に謝罪してきた。
(なんか忙しいやつだな)
あはは、と苦笑いを浮かべる──のも束の間。
ギャラリーから聞き覚えのある声が聞こえてきて、彼の失恋した心にさらにダメージを与えた。
「仕方ねぇよ!
そいつ、男に興味がないレズビアンだからな!
俺も門のところでフラれた!」
所詮、お前には最初から希望なんてものはなかったのだ。
ガハハと笑いながら、フォローとも取れない慰めに、ユーゴーは更に精神を削られ、一方でギャラリーにもどよめきが走った。
この時、女性陣の一部が目をギラギラと輝かせていたことにファムは気がつかなかったが、それはまた別の話。
(これ、勝負する前にもう負けてないか、この人……)
せめて、戦うならお互い万全の状態がいい。
そんな彼の傷ついた精神を労うべく、勤めて優しい笑顔を繕って手を差し出した。
「あー、模擬戦の方はしっかり頼むよ?」
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