美少女な俺様がデカパイ縦ロールと遭遇する!
バーラたちが宿を取りに行っている間、俺たちはこれからどうするかを話し合った。
おそらく彼らが宿を取るまでそれほど時間はかからないだろうという満場一致の意見から、とりあえずパパッと簡単に済ませられるものから解決していこうということになり、まずは冒険者ギルドに向い、これからの路銀を稼ぐための依頼を探しに行くことになった。
ギルドの扉を開けると、中が何やら騒々しい空気に包まれていた。
「どうしたんだろ?」
不審に思って呟くと、ステラがその原因らしいものを見つけたのか、指をさして口を開いた。
「ファムちゃん師匠、あれ見て!」
彼女の示した方角を見てみると、そこには何やら、目を疑う光景が広がっていた。
そこには──
「……もしかして、あれ、俺……か?」
──銀髪の少女を中心とした集団が、ギルドカウンターに押し寄せているのが見えた。
傾聴してみれば、どうやら、私は勇者だぞ、だからもう少し魔石の買値を高くしろ。など、なにやらギルド職員に迷惑行為を働いているらしかった。
この世界の人たちにとって、魔王軍が攻めてきているらしい今、勇者は救世主である。
その実力は未だ周知されてはいないが、予言書とやらを固く信じるこの世界の人にとって、勇者は無碍にできない存在だ。
おそらくだがこの集団は、それに乗じて無茶な要求をギルド職員に申しつけているのだろう。
これでは、いつか俺の功績が広まった時に覚えのない傷がついてしまう。
それはかなり嫌だ。
「メアリー。
あの銀髪、多分魔術で染めてあるやつだ。
あれを解除することってできる?」
「言われなくてもそうするつもりだよ、ファムちゃん!」
彼女はそう告げるなり杖を取り出すと、空中にルーンを描いて、集団に魔術をかけた。
「アイエエエエ!?
ミザリー、髪が!?」
「アイエエエエ!?
髪が!?
髪がナンデ!?」
魔術が誰に解かれたのかわからないのだろう。
集団はひたすら混乱した後、周囲の冒険者たちに『やっぱり偽物だったんじゃねぇか!』などと罵られた挙句、『迷惑かけんじゃねえ!』『二度と来んな!』と追い出されていった。
「ふん、所詮小物ね!
私のかわいいファムちゃんに化けようだなんて、千年早いわ!」
勝手に自滅した迷惑集団を横目に、拳を両腰に当てて胸を逸らすメアリー。
そんなかわいらしい彼女の頭を撫でて、お礼を言った。
「ありがとう、メアリー。
おかげで助かったよ」
「当然!」
と、そんなこんなでなんやかんや解決した俺たちは、早速掲示板の方へと足を向けた。
その後、問題を解決したお礼として、冒険者ギルドが提携する水着専門店の割引券を貰ったのは、また別の話。
⚪⚫○●⚪⚫○●
そんなこんなで紆余曲折。
俺たちは、冒険者ギルドサウスポーティア支部の依頼掲示板の前に立っていた。
「どうせなら、ついでに海で遊べそうな感じの依頼がいいなぁ。
せっかく水着専門店の割引券貰ったんだし、使わないと損だし、何より海でも遊びたい」
冒険者の仕事というのはかなり自由だ。
見る限りでは、依頼の目的さえ達成することができるならば、やり方を問わないものが多い。
だったら、遊びながら仕事ができそうなものを選んだ方が得というもの。
「そうだな……。
なら、これなんてどうだ?」
レンが依頼の一つを指差して提案する。
依頼の内容は、『海中にダンジョンができたので調査して欲しい』。
「あー、いいね。
水中都市区見て回るついでに行っても良さそう」
とりあえず剥がして保留することにしておく。
「メアリーとステラは?
何か良さそうなの見つけた?」
首を逆隣へ向けて、2人に尋ねてみる。
すると、嬉しそうな顔をして、2人がそれぞれの依頼書を突き出してきた。
「これなんてどうかな、ファムちゃん!
『マナビルディング大会で潜入調査』!
潜入調査だよ!?
ちょっと楽しそう!」
「これも楽しそうだよ、ファムちゃん師匠!
『海岸を荒らしている大量発生したオレンジナマコを掃除』する依頼!
オレンジナマコ、かわいいって聞いてたから、一度実物をこの目で見てみたかったんだよね〜♪
これ、獲ったら食べてもいいのかな!?」
思ったよりやる気の高そうな2人に、思わず気圧されて一歩退く。
「え、えぇと……良いんじゃない?
その、マナビルディング、っていうのはよくわかんないんだけど──」
「──あら、マナビルディングに興味がありますの?」
──と、そんなふうに話し合いをしていると、不意に背後から話しかけてくる声があった。
誰だとあと振り返ってみれば、そこには金髪を縦ロールポニテに結った女性が、両腕を組んで仁王立ちしていた。
そして、彼女の両隣には、彼女を守るように白髪の狼系獣人の少女(腰に剣をさしているから多分クラスは剣士だろう)と、スキンヘッドの男(多分こいつのクラスは格闘家だろう、証拠に、金属製の守りがついた指抜きグローブ型のガントレットを装備している)が立っていた。
ちなみに縦ロールの方は、なんかそこそこ高級そうな装備に身を包んだ魔術師らしい高身長の女性で、胸の谷間が目立つような服装をしている。
胸……デカいな。
チラリ、と警戒するようにレンの方へ視線を向ける。
すると、やはり彼は彼女の谷間にチラチラと視線を送っているのが見えたので、俺は彼の膝裏を軽く蹴った。
「イ ゛ッ!?」
一瞬、恨めしそうな目で睨んでくるのを、軽く《武気》を放って牽制する。
どうやら、彼はもう少し調教せねばならないようだ。
そんな俺たちのやりとりとは別に、メアリーがデカパイ縦ロールのセリフに反応する。
「あなたは?」
「これは申し遅れましたわ。
わたくし、エリザベスと申しますの。
今回開かれるマナビルディングで優勝を狙っておりますのよ、オホホ」
絵に描いたような成金趣味みたいな笑い声を上げながら、白手袋に包んだ手で口元を隠す。
どうやら、さっき潜入依頼が出されていた、マナビルディングとやらに、彼女も出るらしい。
……というか、マナビルディングってなんだ?
そんな感想が表に出ていたのか。
ステラがこっそり教えてくれた。
「マナビルディングは、魔術競技っていうスポーツの一種だよ。
提示されたお題に対して、魔術を使ってどれだけ早く解決できるかを競うんだ」
「それだけじゃなくってよ、剣士さん。
マナビルディングでは、術式の美しさも競争の対象になるわ。
他にも術式の強度、複雑さもあるのだけれど、それでもやはり美しさ!
そう、魔術の美学を競うことこそが!
マナビルディングの大いなる目的ですのよ!
オーッホホホホホホホホホゲホッゲホッゲホッ」
「だ、大丈夫ですかお姉さま!?」
「へ、平気?
大丈夫?
血とか吐いてない?
嫌だなぁ、吐血とか。
ほんとに大丈夫?
あ、手袋汚れたでしょう、交換するかい?」
口元に手を当てて高笑いを始めるものの、咽せて咳き込む彼女に、心配そうに2人が構う。
ていうかスキンヘッド。
お前見た目厳つい割に声がヘナヘナだし対応が過保護すぎんだろ、咽せただけで。
エリザベスは手袋で口元を拭うと、空いている方の手で2人を制して、少し息を整えてから俺の方を一瞥し、言葉を続けた。
「……あなたたち御二方は、相当魔力の扱いがお上手とお見受け致しましたわ」
「え、俺も!?」
言われて、驚きの表情を浮かべる。
なぜならそれもそのはず。
魔術なんて、1文字か2文字くらいのルーンならさっと書けるようにはなったけど、それ以上となると流石にできないし、何より俺のメインは物理戦術だ。
魔力の扱いと言われても、最近《闘気法》をマスターしたくらいで、とてもそんな大会に出られるような魔術の腕はないのだから。
しかし、そんな俺の驚きに『何を言ってるのかしら、このおチビさんは』と、キョトンと首を傾げて、答えた。
「貴女のその魔力量。
表に見えているものはフェイクでしょう?
その奥深いところに、魔力溜まりが1つ作れるくらい膨大な量の魔力が押し込められているのは、わたくしほどにもなれば簡単にわかりますのよ。
それを制御できるなんてただものじゃないってこともね」
言われて、少しだけ目を見開く。
まさかこの人、俺の勇者化になった時に増える魔力が見えているというのか!?
戦慄が走って、俺は半歩足を退けた。
エリザベスはそんな俺の反応にニコリと笑みを浮かべると、モコモコした毛みたいなのがついた扇子をビシッ!とこちらへ突きつけた。
「もし、お2人ともマナビルディングに参加する予定がおありのようなら、是非、本気で競い合いましょう?
行きますわよ、2人とも。
オーッホホホホホホホホホゲホッゲホッゲホッ」
「お、お姉さまぁ!?
無事ぃ!?」
「あー、だから高笑いはやめてとあれほど……!
大丈夫かい、エリザベス。
血とか吐いてないよね?」
高笑いで咽せるエリザベスを心配しながら、隣に立っていた2人がついて歩いていく。
そんな2人を見送りながら、俺が思うのはただ一つ。
(なんか、嵐みたいな人たちだったな……)
声には出さなかったが、3人の反応を見る限りでは、どうやら同じことを思っていそうな午前だった。
ニンジャスレイヤーのネタをぶちこみたかったんだけど、なんかめっちゃテキトーな感じになって、それはそれで面白くなったからいいやてへへのへのへのかっぱっぱ!
……なんつって。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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