美少女な俺様がサウスポーティアに到着する!
「《闘気法》?」
全員揃って朝食を終えた後、日課となった朝の修練の時だった。
そういえばバーラたちの戦闘能力がどれくらいのものかと思い至って、軽くバーラの套路を見ていた時の話である。
彼が妙な息遣いをしながら体を動かすと、彼の体から漏れる魔力の残滓が、魔術のような働きで動いて、炎を纏い始めたのを見て尋ねたのだ。
「あぁ。
赤拳闘士のスキルさ。
特殊な呼吸法で魔力の質を変化させるのさ」
「なるほど……」
言われて、思い当たる現象を思い出して納得する。
昨日のアシッドブロブの時や、デミトレント・ゴーレムを退治した時の話だ。
俺が《雷声》という呼吸法をしながら技を使うと、体に雷が纏うようになった。
その現象の正体が、おそらく彼の言う《闘気法》というレッドモンクのスキルなのだろう。
「これか」
言って、試しに《雷声》を行ってみると、やはり全身に雷が纏うようになった。
「そう、それそれ。
姐さんのは、俺たちの間じゃ《纏雷》って呼ばれてる、《闘気法》の中でも1番難しいやつさ」
バーラが言うには、《闘気法》には、4つの《纏力》と呼ばれる基本の呼吸法があるらしい。
それぞれ、《纏炎》、《纏風》、《纏水》、《纏地》。
これを使いこなせるようになれば、俺の使った《雷声》──彼の言うところの《纏雷》──が使えるようになる、と、バーラは師匠に教わったと言う。
ふむ。
名前の感じからして、俺の知ってる呼吸法とどれが対応するのか、なんとなく予想がつく気がする。
俺は彼の説明を受けた俺は、竜車での移動中やることがないので、その間にちょっとだけ試しにしてみることにした。
……え?
なぜバーラに習わないのかって?
答えは簡単。
体の作りが違うから、結果として呼吸の仕方も人間版とは変わってくるだろうという予想である。
そうやって幾つか呼吸法を試してみる。
最初に試すのはヨガの呼吸法の一つである《火の呼吸》。
前頭葉を活性化させて、考える速度を上げる呼吸法だ。
しかし、結果は何も起こらなかった。
これかと思ったが、どうやら違ったみたいだ。
それからいくつかの呼吸法を試しながら、自分の体内にある魔力の動きを、《雷声》のときの魔力の動きと比較しながら観察していくことにする。
(なるほど、ここの筋肉をこうやって使うとこう動いて……ふむふむ……)
そうやってしばらくするうちに、俺はなんとなく感覚を掴むことに成功。
俺は《闘気法》のほとんど全てのパターンを把握することができたのだった。
まぁ、《纏雷》が使えれば他の《闘気法》も全部できるってバーラ言ってたし、おかしくはないよな。
その日の夜にバーラに成果を報告すると、彼は少しポカンと口を開けたままにして固まってしまった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「うーん、やっぱり威力補正は《雷声》が1番高いか……。
あとのやつはまぁ、使いようによっては、って感じかな」
異世界生活15日目。
ストレリア大湿原から出てきた魔物を狩りつつ、三節鎌の調子や《闘気法》の運用の仕方、新しく仲間に加わったバーラたちとの連携を確かめながら、俺たちは着実にサウスポーティアへと進んでいた。
レンの見立てでは、この速度でいけば、おそらく明日か明後日には着くらしい。
ラプトルに乗っていれば着くのはあと1週間は先だっただろう。
4頭立ての馬車になっただけで、ここまで速度に違いが出るのか。
とは思ったが、どうやらこれは竜車のタイヤを改造したことによるもののようだ。
一体いつの間に済ませたのだろう。
閑話休題。
そんな感じでストレリア大湿原沿いの街道を進み続ける。
基本的に竜車を操縦するのはリザードマンズの仕事だったので、昨日と同様、俺たちは荷台の中で揺られるだけで、特にやることがなく暇を持て余していた。
なので、その間様々な話題が飛び交った。
《纏雷》は、リザードマンズの師匠であるルーラーシャ・ガボット氏曰く、《闘気法》における最も効率的な呼吸法だと言っていた、というゴールの話に始まり、そのルーラーシャというのはマテヤの街で武器屋をしていたガボットと同じなのか、いいやそれは彼の娘だ、そのルーラーシャはレンの師匠であるエイハブに弓を教えた人でもある、やっぱり強い人はみんな彼と何かしら繋がっているのか、うんぬんかんぬん。
話題は尽きず、雑談で喉が渇いては俺の有り余る魔力で水を補給してを繰り返した。
こんなに大勢で盛り上がった話ができるのは久しぶりで、俺も楽しかった。
時折飛び出してくる魔物を狩って、魔石や素材を手に入れ、また雑談しながら旅を続ける。
そうやって街道を進んで翌日の異世界生活16日目。
俺たちはようやく、次の目的地であるサウスポーティアへと辿り着いたのだった。
「おぉーっ、なんか、圧巻!」
サウスポーティアは、複数の木製の船が寄せ集まって、その上に家が立っているみたいな感じの景観だった。
所々煉瓦の路地とかも見えるが、大半は木でできており、表面には茶色い漆のようなものがなられている。
「だねー。
私もこういうところくるの初めてだから、ちょっと楽しみかも。
海が近いし、海水浴とかしてみたいなぁ」
俺の感想に、ステラがそんな風に反応してくれる。
「そろそろ雨季だし、雨が降る前に遊びたいよね。
ここの海って潜っても大丈夫なのかな?」
メアリーの疑問に、そういえばと思い出す。
今でこそ空は晴れ間が続いているが、すぐに雨が降る季節になる。
そうなってはせっかく海に来たというのに、しかも元々の予定より1週間も早く着いたんだし、遊ばないと損だ。
「なら、水中都市区に行ってみればいいさ。
サウスポーティアは、もともと鱗族のマーフォークとリザードマンが交易のために築いた街だからな。
今見えてる海上部分以外に、水中にも街は広がってるから、まぁ海遊びとはちっとばかし趣は違っても、初めてなら面白いかもしれねぇぞ」
サウスポーティアの関所を抜けたところでくるくるとあたりを見渡していると、詳しいのか、バーラがそんな風に解説してくれる。
「マーフォーク?」
「お前の認識だと人魚みたいな種族だな。
透き通る柔らかい鱗と、魚のヒレに似た耳を持っているのが特徴で、総じて肌が青い」
聞いたことのない名前に首を傾げれば、レンが補足してくれた。
「へぇ、そうなんだ。
メアリーとステラはマーフォークの人と会ったことある?」
俺の記憶が正しければ、マテヤの街にもユーリアの街にもマーフォークらしい人は見かけなかった。
もしかしたら彼女たちが昔いた王都とか、他の都市で見たことがあるかもしれない。
そう思って尋ねてみるが、どうやら彼らは滅多に海を離れないらしく、2人とも見たことがなかったらしかった。
「まぁ、この街にいればきっと見かけるさ。
それじゃあ俺たちは宿を探してくる。
通信用の魔具は持ってるか?」
バーラが早速雑用としての任務を引き受けるべく、提案してくる。
そういえば、通信用の魔具って持ってなかったな。
この世界では、携帯電話としてよく使われる魔具らしく、だいたいイヤリング型をしている。
登録された周波数の魔力と反応して通話できるようになっているらしいけど……。
「んーん、持ってない」
「じゃあ俺のを貸してやる。
宿が取れたら連絡するから、それまで観光でもしてきてくれ」
言って、赤い宝石がつけられた金属製のイヤリング型の魔具を渡された。
リザードマン用なのか、人間のものとは形が少し違っていて、ちょっと補聴器か、あるいは無線イヤフォンっぽい形をしている。
なるほど、種族が違うとそういうこともあるのか。
そんな感慨を覚えながら受け取ると、3人のリザードマンは竜車で大通りの方へと消えていった。
現実に存在する武術の呼吸法って、だいたい肛門をキュッてさせながらやるよね。
あれなんでかっていうと丹田を意識させるためなんだよね、たしか。
……あれ、違ったっけ?
⚪⚫○●⚪⚫○●
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