美少女な俺様がマテヤの街を出る!
宿に戻ってくると、メアリーたち3人は、部屋の床に大量の薬瓶や瓶詰めの漬物や干し肉などを整理していた。
どうやら明日の準備をしているらしい、
「あ、ファムちゃんおかえりー!
用事って、もしかしてそれ買いに行ってたの?」
言いながら抱きついてきて、めざとく俺の左手の指にはめられた指輪を見つけて、そんな風に尋ねてくる。
「ただいま。
そうだよ、これ買いに行ってたんだ」
答えて、指輪に魔力を流す。
すると、淡く宝石が光り輝いて魔力の渦が伸び、その中から今日買ってきた新兵装、三節鎌のサーヴィカル・ヴァーテブラが姿を表した。
「へぇ、三節鎌か。
これまたニッチなものを買ってきたな……」
俺が取り出した武器に気がついたのか、レンが苦笑いを浮かべながら評価する。
「三節棍と大鎌は前世で使ってたことあるからね。
習得にはそんなに時間が掛からなかったよ。
あとは実戦で何回か試せば十分って感じかな」
「さすがだな……」
もう一度指輪に魔力を流して、三節鎌を収納する。
「それにデミトレント・ゴーレムの時のさ。
あの剣、壊しちゃったし。
絶対返すって言ってたの返せなかったから、今度は自分の武器を持っておこうと思ってね」
「なるほど」
それからは俺も荷物整理に加わって、明日の準備を済ませ、夕食の席で明日からの移動ルートを確認して今日はお開きとなった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
異世界生活13日目。
俺たちは夜明けと共に、ラプトルに乗ってマテヤの街を後にする。
朝の霧に包まれる中、ストレリア大湿原を大きく東回りに迂回して、次に目指す街は10日後に到着予定の港町サウスポーティア。
レンの話によれば、ここら一帯は元々イタリカ王国の土地ではなく、今向かっているアガレト皇国の南部地域だったらしく、このような名前になっているらしい。
そんな彼の説明を受けながら、湿原の畔を走っていると、霧の中から何か悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「ステラ!」
「わかってる!」
レンの合図で、2人ともラプトルを一時停止させる。
その間に俺は周囲の気配を探って、音の正体を確かめる。
「ファム、どうだ?」
「……馬車が一台、スライムに襲われてる。
襲われてるのは、なんていうの、トカゲと人を足したみたいな人間に近い気配のものが3人いる。
1人はなんか溶かされかけてる……のか?」
感じたことをそのまま伝える。
トカゲっぽい人はリザードマンと呼べばいいのだろうか?
リザードマンといえば、色んなRPGだと敵キャラ扱いにされることも少なくないけど、竜人とかいう呼び方をすれば仲間キャラっぽい印象が出る。
人間に近い気配ってことは、この世界だと亜人の扱いになっている……のだろうか?
そんな俺の疑問を察したのか、レンは『なるほど』と一拍置いて答えてくれた。
「この世界のリザードマンは鱗人の一種だ。
馬車が襲われてることから推測して、おそらく俺たちと同様、マテヤからサウスポーティアに向かう途中だろう。
盗賊の可能性もない事はないが──」
チラリ、とこちらの表情を伺う。
見れば他の2人も俺の決断を待っているらしい。
俺はラプトルから飛び降りると、指輪から三節鎌を取り出して答えた。
「どっちにしろ、実戦でこの武器を使って感触を確かめたいし、助けに行こう。
上手くすれば、お礼ももらえるかもしれないしね!」
⚪⚫○●⚪⚫○●
ストレリア大湿原の畔。
その街道沿いに、車輪を壊した一台の馬車ならぬ竜車があった。
二頭のラプトルを引いた幌竜車で、御者席には2人のリザードマンが座っている。
「くそっ、車輪が腐ってやがる」
急に重くなった客車に不審に思った御者のリザードマンが降りて確かめると、確かにそこには黒く焦げたような異臭を放ちながら腐っている車輪があった。
「やはり、木製の車輪だと湿原の畔を行くのは厳しかったか」
御者席に座っていたもう1人のリザードマンが、顔を出しながら言って、肩を竦めた。
「いや、この腐り方は湿気じゃねぇな。
どうやら、湿原からはみ出してきたアシッドブロブがいるらしい」
この竜車はサウスポーティアまで向かう途中で、濃い朝霧に視界を奪われていた。
そのため、ストレリア大湿原の水の中から忍び寄ってくる存在に気づくことができず、アシッドブロブという魔物の罠にかかってしまったらしい。
アシッドブロブは、スライムの中でも一つ一つが細かい粒状になっていて、それらが集まって一つの大きな群体をつくるスライムの一種だ。
酸性の粘液に覆われており、その酸は一瞬で草を腐らせるほど。
「む、それは拙くはないか?
確かもうすぐ雨季になるだろう。
つまり今は奴らの繁殖期。
気性も荒くなり、さらには数まで増えている。
ギルドの危険度ランクならC相当だぞ」
「あぁ、不味いな。
おい、ダットン!
ポーション取ってくれ!」
車輪を見ていたリザードマンが、荷台にいるらしい人物に声をかける。
「うーい」
幌の中から気の抜けたような返事が帰ってきて、ガサガサと荷を漁る音が聞こえてくる。
車輪を見ていたリザードマンは、ダットンのマイペースさに肩をすくめると、アシッドブロブが近くにいないか、警戒するべくあたりを見渡した。
(……嫌な静けさだ)
そう思った、次の瞬間だった。
「キュルルルルルルル!?」
「むっ、どうしたタツゴン!?」
急に暴れ始めたラプトルに、御者席のリザードマンが慌てて手綱を取る。
しかし、力が強すぎて抗えない。
リザードマンは暴れるラプトルに吹き飛ばされて、御者席から転がり落ちた。
「大丈夫か!?」
幌を警護していたリザードマンが、落ちたリザードマンに呼びかける。
「無事である。
しかし、いったい何が起きて……!?」
体勢を立て直し、ラプトルを鎮めようとしたその時だった。
彼は、ラプトルの足に巻きついた、ややオレンジ色のゲル状の物体に気がつき、全てを理解した。
「アシッドブロブ!?」
慌てて引き剥がそうにももう遅い。
アシッドブロブが食いついたラプトルの足は、既に骨が見えるまでに溶かされ切っていた。
──と、それを認識したのとほとんど同時だった。
「う、うわぁ!?」
幌の中から、ダットンと呼ばれていたリザードマンのうめき声が上がり、かと思えば次の瞬間、幌を突き破って、巨大なオレンジ色のスライム──アシッドブロブが姿を表したのである。
「「ダットぉおおン!?」」
ブロブの中で酸に侵されてしゅわしゅわと気泡を上げながら溶かされていく仲間を見つけて、2人が叫んだ。
もうダメだ、ダットンは助からない。
そう思ったその時だった。
「せい!」
雷のような閃光がブロブを一閃。
溶かされかけていたリザードマンが、何者かによってブロブの中から攫われた。
「ふぅ、危なかったね、君。
その鱗が頑丈じゃなかったら溶けてたんじゃない?」
聞こえてくる声に、視線を向ける。
するとそこには、大きな鎌を携えた、金髪碧眼の人間の美少女が、凶悪そうな笑みを浮かべてダットンを小脇に抱えていた。
呪術廻戦、かっこいいですよね!
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