美少女な俺様が新兵装を振り回す!
ガボットの武器屋の地下には、そこそこな敷地を有する道場っぽい部屋があった。
全てが石──いや、この質感はどちらかといえばコンクリートに近いか──で囲われたその一室の壁際には、さまざまな鍛錬道具が配されている。
その中には、冒険者ギルドや商業ギルドでも見かけた石像──ガーゴイルまである。
感じられる魔術の気配が違うことから、おそらく用途は別なのだろう。
「それじゃあ、まずは手慣らしに素振りから始めてみようか。
操作の仕方はわかるかね?」
ガボットが部屋の隅からそんな風に尋ねかけてくる。
サーヴィカル・ヴァーテブラと紹介されたこの三節棍と鎌を足した様な武器は、その奇抜さから操作の難易度もかなり高いだろう。
基本的に三節棍の使い方を知らなければまず使い物にならない武器だが──。
「触ったことはないですけど、何となくわかります」
「そうかね。
なら、鎌の刃には気をつけることだね。
剣や槍と違って、刃の向きが直角なんだ、下手をすれば自分が大怪我を負う。
一応ポーションの用意はあるが、使うときは有料だから気をつけたまえ」
「はい」
彼女の忠告に、俺は真剣な面持ちで返事をする。
この武器のブレードはかなり鋭い。
少し掠っただけでも手足が吹き飛んでいってしまいかねないくらいだ。
ここは、難易度の低い動きから順に慣らしていくのが利口だろう。
というわけで、俺はまずは肩慣らしに大鎌の套路を練るところから始めることにした。
「ふぅ……」
息を吐いて、呼吸を整える。
三節鎌に魔力を通して大鎌形態にすると、鎌の刃が地面に向く様に、そして切先は自分の方を向く様にして、重心を落とし、やや半身気味に構えた。
──それから、俺はさまざまな套路で大鎌の操作感を掴んでいった。
ポールの素材が、前世と違って金属製のため、なかなかしならないので少し操作が難しかったところがあったが、それも何度も繰り返せば武気本体の癖を掴むことができた。
鎌のヘッドを手の内の動きだけを使って回転させる《絞鎌》。
よくアニメなどで見る、鎌を両手でくるくると旋回させる《舞花鎌》
柄尻を握って、ブンブンと頭上で大きく回したりする《旋鎌》。
相手の武器を引っ掛けて体勢を崩させる《崩し刈り》。
相手の首や体などに鎌を引っ掛けて、それを重心に移動する《掛け鎌》。
などなど。
基本の鎌の操作にはほとんど問題がなかった。
心なしか、生前の技の出来よりも少しだけ良好な気がした。
やはりグリップの形状がいいのだろうか。
力がかなり乗りやすい。
次に分解して三節棍状態にする。
棍ではなく鎌だけど。
(操作の仕方は基本的には三節棍か、あるいは鎖鎌と同じか。
まぁ、鎖鎌の場合は、投げるのは鎌の方じゃなくて分銅なんだけど)
とりあえず基本の套路から順に慣らしていくことにする。
真ん中の棍を持ち、遠心力を使って鎌を振る。
体のすぐ近くでこんな凶悪な刃物がビュンビュン音を立てているのは少々恐ろしいが、慣れるしかないだろう。
呼吸を整えながら、三節棍の套路を、三節鎌用にアレンジして繰り出していく。
体の前で鎌を振り回しながら、体の後ろでもう一方の棍を体の揺らしなどを使って振り回す《推揺棍》ならぬ《推揺鎌》。
鎌の刃が地面ギリギリを掠めていき、あわや鎌が地面にぶつかって跳ねて、自分のところへ飛んでこないかとヒヤヒヤする。
三節棍の技には、棍で地面をぶっ叩くものが数多く存在するが、果たしてここでそれをしたらどうなることか……。
想像はつくが、とりあえず試してまた方がいいだろう。
こういうのは恐る恐るやると逆に危ない。
俺は呼吸を整えて意を決すると、次の技に移った。
地面を叩きつける代表格、《三点棍》。
基本的には、《推揺棍》を少し大きくした様な感じで棍を地面に叩きつけるのだが、果たして──。
「フッ──!」
真ん中の棍を振って、コンクリートの床に叩きつける。
おそらく鎌が跳ね返ってくるだろう。
そのエネルギーを、肩甲骨の回転で生まれる力の波で相殺し、押さえつける。
これが1番鎌の跳ね返りを小さくする技なのだが──。
──ガギィン!
道場(?)全体に、鋭い金属音が響き渡る。
しかし、鎌が跳ね返ってくる事はなかった。
なぜならその鎌の刃は、コンクリートの床にぶっさりと突き刺さってしまっていたから。
「……マジかよ」
呟いて、鎌の刃の埋まり具合を確かめ──そして、唖然とした。
なぜなら、鎌の先端だけめり込むのならまだわかるが、どこからどの様に見ても、半分くらい埋まっていたからだ。
凶悪すぎる。
叩きつける技は威力が強すぎて、地面から抜けなくなる可能性が1番高いことに気がつく。
まさか、跳ね返ってこないとは思っていなかった。
そんな風に地面に突き刺さった鎌を見て呆然としていると、不意に、俺の肩をトントンと叩く手があった。
ガボットである。
俺はそこで、ようやくもう一つやってしまったことに気がついた。
「弁償……いくらですか……?」
⚪⚫○●⚪⚫○●
《三点棍》の鎌版とも言える《三点鎌》の失敗の原因は、単純に腰の落としすぎだろう。
これはもう癖になってしまっていて離れないのだけど、そのせいでかなり凶悪な威力を秘める様になってしまったと言うわけだ。
そんなわけで紆余曲折あり、その日のうちにある程度は三節鎌の操作に慣れたところで購入。
専用の、武器を圧縮格納できる指輪も買って、ガボットの武器屋を後にした。
それなりに値が張ったが、危惧していた持ち運びの件が解決した事は良かっただろう。
「それにしても、世の中にはこんな魔具が存在するんだなぁ」
日光が傾き、夕日が街壁に隠れる頃。
俺は裏路地から出ながら、不意にそんなことを呟いた。
左手の人差し指にはめられた、真鍮製のリング。
紫色に輝く宝石が嵌められており、中を覗けば、2つのルーンが重なって一文字になっているルーン文字が浮かんでいるのが目に見えた。
ルーンは他にも、リングの内側や、三節鎌のブレードとポールの繋ぎ目にも刻まれているのだが、殊にこの宝石に浮かぶルーンが綺麗でたまらない。
ガボット曰く、リングや三節鎌のルーンは、この指輪に格納するためのものでもあるが、同時に、血で濡らすことで魔力の情報を読み取り、所有者以外に装備できない様にする、いわゆる窃盗防止の機能もついているのだとか。
ついでに紛失したものを取り寄せる魔術についても教えてもらった。
追加料金は安くはなかったが、ガボットの話によれば、この世界は前世の日本よりもスリが盛んらしいから、気をつけることに越した事はないだろう。
そんなことを考えていると、宿へ帰る道が徐々に人混みを増してきた。
人の流れからして、どうやら一仕事終えた冒険者たちが、このマテヤの街まで帰ってきたところなのだろう。
振り返れば、街と外を繋ぐ関所からこちらに向かって、ギルドのある方角へ歩いていくのが見えた。
街の構造上、宿は門に近い位置に、ギルドは街の中央に面しているから、背丈の低い俺でも、人の波に呑まれ流されることもない。
俺は安心して人にぶつかることなく、冒険者たちで賑わう煉瓦造りの街並みを見物しながら、宿へと向かうことができるわけだ。
なるほど、建物の位置を調整することで、人の流れを操作して混雑を解消しているのか……。
(ここの区画整理を指揮した人は有能だな)
そんな風に考えていれば、すぐに目的の宿に到着した。
宿に入る前に厩舎のラプトル2頭の様子を確認しにいく。
厩舎には他にラプトルが停まっていないので、すぐに誰が自分たちのラプトルかわかった。
「「キュルルルルルルル!」」
2頭は俺の姿を見るなり、嬉しそうに目を細めながら喉を鳴らしてくれた。
かわいい。
自分のペットはかわいく見えるようになると聞くが、うん。
この子達には名前をつけてあげたいな。
フギンとムニンというのはどうだろう。
北欧神話に出てくるオーディンのワタリガラスの名前だが……。
「ちょっとその名前は厨二くさいか」
これについては、また今度みんなで考えてあげよう。
俺は笑みを浮かべながら2頭の頭を撫でてやると、そのまま宿へと踵を返した。
今更だけど、サーヴィカル・ヴァーテブラって言いにくいし名前長いよね。
次から三節鎌って書くわ(変わってない)。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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