美少女な俺様が新しい武器を調達する!
異世界生活12日目。
今日は旅の備品を買い揃える日だが、俺だけ少し別の用事があると1人で抜け出していた。
向かう先はもちろん武器屋だ。
というのも、昨日のストレリア・トードとの一戦で、俺は思い知ったのである。
リーチの短い武器では、人型との戦闘には有利でも、魔物との戦闘では圧倒的に不利だという事実を。
だから今日は、そんな俺に見合った武器を買いに行くことにしたのである。
流石に、オーダーメイドだと明日の夜明け出発までに間に合わないからな。
ちなみに、剣はあまり得意な方ではないので今回は論外だ。
デミトレント・ゴーレム戦で剣術の奥義をいくつか組み合わせてやったが、あれは今の俺の身体能力がプラスされてのことだ。
実際の戦闘だと、もっと長い武器の方が得意なのだ。
だから、選ぶなら断然柄長武器だろう。
大鎌とか戦斧あたりが妥当だろうか。
無ければハルバートでも良いが……問題は俺の身長に合うものがあるかどうかなんだよなぁ。
ドワーフ用のものとかあればいけるかもしれないけど。
……あ、でも持ち運びの問題があるか。
長い旅になるからな。
あんまり取り扱いに苦労するとこの先困ることになるだろう。
……ふむ。
剣なら腰に刺せば良いけど、こういう武器はたしか背中に背負うんだっけ?
良いものがあれば助かるんだけど……魔術で大きくしたり小さくしたりとかできないかな。
ほら、孫悟空の如意棒みたいな感じでさ。
「ごめんくださーい」
冒険者ギルドと提携しているらしい武器屋を見つけて、とりあえず良いものがないかと店の中に入ってみる。
四方の壁には大量の武器が吊られており、壁に収まりきらない分が樽の中に雑多に詰め込まれていた。
「はーいらっしゃー……!?」
カウンターにいた、髭を蓄えた店主が、新聞(?)越しに俺の姿を見て、口を開けたまま固まる。
おそらく俺に見惚れたのだろう。
「あの、ここに大鎌って置いてますか?」
とりあえず第一希望の武器種をチョイスして、店主らしき人物に問いかける。
舐められないよう、少しだけ《武気》を発しながら。
「あ、あぁいや、すまんがデスサイズは置いてねぇな。
あれは扱いが難しいから、こんな表の武器屋には置いてねぇのさ。
欲しけりゃガボットの店に行きな。
あそこならマイナーな武器も揃ってる筈だ」
というわけで、店主に道を教えてもらい、件のガボットの武器屋へ向かうことにする。
それにしても、この《武気》の使い方は新しい発見だったな。
これを使えば、いきなり球根を申し込んでくるようなアクシデントが起こりにくくなるかもしれない。
次からちょっと試してみるか。
そんなことを考えながら、言われた通り裏路地に入る。
そこは暗く、じめじめとしていた。
日が差しにくい地形と水捌けの悪い立地が組み合わさったせいか、生ゴミのような臭いが立ち込めていて、時折ネズミの鳴き声すら聞こえてくる。
うぇ、気持ち悪い。
どうしてこんなところに武器屋なんて作るんだろ。
もしかしたら、柄の悪い人向けのお店だったりして。
ブレイカーのグリップを握り込んで、周囲を警戒しながら前に進んでいく。
そうやってしばらく小道を進んでいくと、乾いたレンガで舗装された細道にたどり着いた。
俺が来た道を含めて四方に分かれ道が走っていて、中央には謎の花壇と、強い魔術の気配。
よく見れば、その中に小さな石像が配置されていて、ルーン文字が彫刻されていた。
「えっと……このルーンはたしか土地だっけ?
こっちは財産で……これは道……いや、たしか車輪だった気がする……」
まだ完璧ではないルーン文字の知識で読解を試みるが、いかんせんうまくいかない。
中国語を習っていれば、おそらくなんとなく意味が理解できたのだが、無い物ねだりしても無駄だ。
「中国語……」
ルーン文字は、杖の振り方を文字化したものだ。
そしてその杖の振り方は、その効果に対応する象徴物を象形文字みたいに形にしたものだと、メアリーは魔術の授業で教えてくれた。
だから、その点で似ている中国語でも理解していれば、ルーン文字の読解はかなり楽だったんじゃないかという発想だったのだが……。
「……ふむ」
であれば、もしかして同じく象形文字を含む漢字でも、ルーン文字と同じ効果を得られたりしないだろうか?
「……ちょっとやってみるか」
漢字には象形文字だけでなく形声文字も含まれるから注意しないといけないが……とりあえず、害のなさそうなもので試してみよう。
俺は少し戻って、道の湿っている方を向くと、指先に魔力を集中させて、とりあえず『水』と書いてみた。
──バヂン!
「うおっ!?」
一瞬、何か紫色の閃光みたいな、雷みたいな物が発生して、俺は思わず驚きの声を上げた。
予測していた結果と全く違う反応だ。
てっきり水が出ると思っていたが、そうはならなかったらしい。
わからなくて少し首を傾げる。
「水が出なくてなんか暗い雷みたいなのが出たけど……なんで?」
わからない。
とりあえずこれについては帰ってからメアリーに相談することにしよう。
もしかすると何かわかるかもしれないし。
それから、俺は店主に教えてもらった通り、石像に魔力を込めてから花壇を左に曲がって突き進んだ。
石像に魔力を込めた時、自分の体に何か変な魔術がかかったような気がするが、とりあえずそのまま道なりに進むことにする。
そうやって突き当たりを右に曲がって進んでいくと、奥の方に扉が見えた。
鉄製のアーチ扉で、丸いすりガラスが鉄格子越しにはめられている。
「…….」
ごくり、と生唾を飲む。
なんか、いかにもって感じの店で、男のロマンがくすぐられる。
若干手が震えるのは、緊張のせいか、それとも──。
俺は意を決すると、その鉄門扉を2回、コンコンとノックをした。
『……りんごの指先の名前は?』
すると、しゃがれた老婆のような声が、扉の向こうから放たれてきた。
店主に聞いた合言葉だ。
俺は貰った紙に視線を通すと、そこに書かれていた文字を読み上げた。
「茂みに足を入れた三角定規」
『……エビの貝殻に雄の棒』
少し、動揺したような気配が伝わってくる。
どうやら聞き慣れない声音に驚いているらしい。
「カエルが鳴いたらひっこめろ」
最後の合言葉を告げると、内側からガチャリと鍵が開く音が聞こえた。
なんだか秘密基地みたいでワクワクする。
俺は、ニマニマと笑顔を浮かべながら、その扉が開かれるのを待った。
そして、その奥から出てきたのは──羊のような角を携えた、紺色ローブの、ショッキングピンクと紫の中間のような髪と瞳をした背の低い少女だった。
てっきり、しゃがれた老婆のような声だったのでかなり年老いたおばあちゃんが出てくるのかと思っていただけに、俺は驚いてしばらくその場にフリーズする。
「どうした、入らないのかね?」
彼女は一瞬だけ、驚いたような顔を見せるが、すぐに真顔に戻ってそんなふうに催促した。
「お、お邪魔します……」
ぱっつん前髪にロングストレート。
ペッタン胸に低身長で、ローブの襟で口元が隠れている少女。
「誰の紹介だね?」
カウンターまで引き返しながら、幼女特有の甘い声音で尋ねる。
「えっと、たしかリンドって人の武器屋です。
ここならマイナーな武器を取り扱ってると聞いて来た……のですけど、もしかして、あなたがガボットさんですか?」
独特な雰囲気を纏う少女だ。
《武気》でも《魔力》でも《魔術》でもない。
その存在自体が生み出している、悪く言えば不気味な気配。
血と鉄と錆の飢えたような、肉食獣のような、あるいは賢いヤギのような、悪魔のような……。
そんな独特な雰囲気に呑まれて、つい気圧されてしまう。
俺と同じように、舐められないように気配を歪めてるのかもしれない。
「いかにも。
と言っても、私は二世だがね。
……ふむ、リンドの紹介か。
まぁ、それなりに魔力はあるようだし、武に秀でた才を持っていると見受けられる。
まずまずは合格かね……」
回り込んで、カウンター向こうの椅子にどっかりと腰を下ろす。
その時、長いローブの裾から、鉱石灯に反射してテラテラと輝く、黒に近いほど濃い紫色をした、ワニの尻尾のような物が揺れているのが一瞬見えた。
どうやら彼女は獣人かもしれない。
「それで、どんな武器を所望かね?
大体のものは置いてあるつもりだが」
言われて、ハッと我に戻る。
そうだ、一瞬忘れかけていたけど、俺はここに武器を買いに来たんだった。
「あーっと……俺の身長に合う大鎌って置いてたりしますか?
なければ柄が長い斧でも」
「ふむ、ポールウェポンが得意か。
もっと細かい武器の方が得意そうだが?」
言われて、心なしか口元が緩む。
見た感じでは、そこまで武芸の素養があるようには見えなかったが、どうやら客を見る目は確かのようだ。
こういう達人的な観察眼持ってる武器商人って、なんかすっごいロマンあるよね。
ワクワクしちゃう。
(これがわかるんだったら、もう少し踏み込んだ話でもいけるか?)
俺は少し楽しくなって、スカートの裾を握りしめた。
「相手が大型の魔物だと、リーチが足りないんですよ。
なので、リーチが長くて、それでいて小回りのきく武器を探しているんです。
このブレイカーみたいに、ブレードがカーブしてると嬉しいんですけど」
言って、持っていた武器をガボットに見せる。
彼女はそれを遠くからしげしげと眺めると、一言、『ふむ』と呟いてカウンターの奥へと消えてしまった。
それからしばらくすると、戻ってきた彼女の手には、三節棍ようなものが握られていた。
みたいな、というか、三節棍を構成している3つの棒のうち外側の一つに、大鎌の刃が付いているような感じだった。
さしずめ、ポール部分を三等分にした大鎌、と言ったところか。
「サーヴィカル・ヴァーテブラ。
まぁ、要するに折り畳み式のデスサイズさ。
大陸の極東にある国で、暗殺者が使っておった武器でな、魔力を流すことでポールを繋げたり分割したりできる」
言いながら差し出してくるそれを受け取った俺は、試しに魔力を流してみた。
すると、分割されていたポールが意思を持ったように動き出し、全て一本の長い柄を完成させた。
結果、どこから見ても普通の大鎌が出来上がった。
「これは……すごいな……」
もう一度魔力を込めてみれば、それに反応してポールがばらける。
これなら、三節棍のような戦い方と大鎌のような戦い方を瞬時に切り替えることができるだろう。
それにこれなら、持ち運びに不便になる事もない。
鎌の刃の角度も、魔力を流すことで変えられるから、折り畳めば腰のポーチに入るサイズだ。
まぁ、入れたらそれはそれで重いんだけど。
(でもまだ、俺の小さな手には、少しポールが太いのが気になるところだな……)
「ふむ、少し太いか」
その様子を見抜いたのか、すぐさま取り替えて、別の三節鎌とでも言うべき物を用意してくる。
「これならどうだね」
受け取って、太さを確かめてみる。
「……ピッタリじゃん、すげぇ……!」
しかもさっきのモノと違って、グリップに指がちゃんと噛むように凸凹してるんだ。
これならちゃんと《体振動》の力も伝わるし、棍で殴った時に威力が出やすくなって、かなり扱いやすくなった。
あと何よりブレードのデザインがいい。
何がいいって、このブレードのカーブの具合だ。
この具合ならただ振るだけで刃が引かれるから、力を加えなくてもスパスパと切れること間違い無いだろう。
それにこの刃紋……。
もしかしてこのブレード、日本刀と同じ作り方されてたりしてないか!?
「気に入ったようで何よりだよ。
なんなら、今から少し、奥で試し斬りならぬ試し刈りをしてみないかね?」
「します!」
嬉しそうなガボットの提案に、俺は即答で試し刈りをすることを決めたのだった。
コンポジットウェポンってロマンですよね。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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