美少女な俺様がマテヤの街に到着する!
お待たせ♡
ユーリアの街を出て2日目。
異世界生活10日目もそろそろ終わりに近づいた頃、遠くに高い街壁が見えてくるようになった。
ちなみにエイハブとは河で別れたので一緒には来ていない。
なんでも、先にボルダリアでやることがあるのだそうだ。
ところで。
広い平野を駆けるラプトルの背中に乗っている、あのウェーブのかかった、金髪碧眼の美少女は誰でしょう?
ヒントその1。
髪の毛は魔術で染色している。
ヒントその2。
青いリボンで髪を縛っている。
ヒントその3。
ものすっごい美少女。
答えはわかったかな?
そう、その正体は──俺だ!
そう!
俺だ!
俺だよ!
俺俺!
いや、誰がオ・レだよ。
牛乳混ぜんな!
いいか?
今から俺の後ろでラプトル操ってるレンが答えを言ってくれるからな!?
よーく耳をすませて聞いとけよ!
3……2……1……Say!
「あれがマテヤの街だ」
背後から聞こえてくる声に、俺はぽかーとした顔でへぇ、と適当に相槌を打った。
おいおいレンくんよ。
そこは俺様の名前を呼ぶところじゃないのかい?
仕方ねぇ、自分で名乗ることにするよ。
俺の名前はファム!
前世の名前はミカネ・ユウ!
ほら、思い出したか?
思い出したろ?
じゃあもう怠いからそろそろ本編再開ね!
えーっと、そうそう。
レンがマテヤの街について説明してくれてるところからだったな。
レンの話によれば、マテヤは近くの湿原で釣れる魚が多く出回る街らしく、料理も魚が中心のようだ。
残念ながら日本のように生魚を食べる文化はないらしいが。
というのも、寄生虫が紛れている可能性があるからのようだ。
「うげぇ、虫……」
思わず、うぇ、と舌を出す。
「あと有名なのはカニだな。
形は伊勢海老に近いが、味はもっと甘い」
「エビかぁ……。
俺エビもあんまり好きじゃないんだよなぁ。
だって虫じゃん、あれ。
あれを美味しいって食える人の脳みそが理解できない」
なんかハサミついてるし、顔キモいし。
なんなのあれ。
しかも尻尾が黒い悪魔の羽と同じ成分だっていうじゃないか。
あんなものを変える奴のことを俺は全く理解できない。
「マジか。
俺結構好きなんだけどな」
レンの発言に、俺はギョッとする。
彼の中では、エビやカニは虫とは違うように分類されているらしい。
ちょっと俺の中にはない感覚だ。
もしかしたら貝類とかダイオウグソクムシとかナマコとかは、こいつの中だと虫ではないのかもしれない。
俺からすれば、あんなものを食える奴の気が知れないのだが。
そうこうしているうちに街壁が近づいてくる。
関所に並ぶ人の数は少ない。
「んーっ、やっと着いたな!」
ラプトルの鞍から降りて、伸びをする。
ラプトルの背中は揺れるから、そのせいで腰がかなり痛い。
鞍にクッションがついて入るが、衝撃を吸収し切れるほどのものでもなかった。
そんな風に独り言ちていると、そんな俺たちに気づいたのか、先に並んでいた旅人がふと振り返った。
金色の髪に青い瞳をした、おそらくエルフだろう青年。
緑色のマントに緑の羽根つき帽子をかぶっている、垂れ目がちなチャラそうな男だった。
「えっ、待って待って。
ねぇ、キミめっちゃかわいくない?
うわ、その金髪とかチョーサラッサラじゃん!
こんな綺麗な髪の女の子マジで初めてなんだけど!
街に着いたらお兄さんとお茶しようよぉ?」
「え?」
経験したことのないタイプのセリフに、俺は一瞬戸惑う。
しかし、これがいわゆるナンパだということに気づくのに、そう時間は必要なかった。
なぜなら。
「私の妹に何か用があるなら、まずはお姉ちゃんを倒してからにしてくれないかな?」
前に出る影があった。
金色の髪をたなびかせる、俺とほとんど同じ体格の少女──メアリーだ。
「あっれぇ?
もしかして双子ちゃん!?
いいよいいよ!オレ、双子ちゃんと3Pとか大好物で──」
しかし、どうやら逆効果らしい。
更に勢いの増した旅人の男に、メアリーが怯む──と思いきや、彼女は軽く深呼吸をしてポーチから杖を取り出し、突きつけた。
「これ以上!
これ以上しつこくするなら、その舌を凍らせて喋れなくしてあげてもいいんだけど?」
魔力を含んだ杖の先端が、ゆっくりとルーンを描こうと下に振り下ろされる。
それを見た旅人は、急に口を噤んで静まり返って、苦笑いを浮かべながら回れ右をした。
目の前を進んでいた馬車は、すでに少し先に車輪を転がした後だった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「いやぁ、それにしてもあれはどうなるかと思ったわぁ!
メアリー、ありがと!」
「ふふん、これからはお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよっ!」
マテヤの街、その今日の宿の夕飯の席。
食堂の片隅のテーブルにつきながら、俺は彼女にお礼の言葉を告げる。
彼女の方も、あの男の態度にはスッキリしたのか──、満足そうに拳を両腰に当てて仁王立ちし、文字通り鼻を鳴らした。
「あー、考えとく」
「くっ、意地でも呼ばない気か……ファムちゃんよ……」
苦笑いを浮かべて返された俺の答えに、彼女は芝居がかった様子でガッカリと肩を落とす。
「でもほんと、かっこよかったよメアリー♪
私が手を出すまでもなかったくらい!」
ステラがメアリーの隣に腰を下ろして、落ち込んだ(?)その頭を抱え込むようにして撫でくりまわす。
「やぁ、やめてよくすぐったい!」
「おりゃおりゃー♪
偉いぞメアリー♪」
うりうりうりうり。
撫で回されて、ステラの巨大な胸部装甲がメアリーの体に当たってむにむにと変形している。
「眼福だ」
「たしかに──っで!?」
おらの独り言に同意するように、レンが口を挟むが、俺は彼の脛を蹴り飛ばした。
「ちょ、何すんだよミカ──ファム!?」
「ステラのおっぱい見過ぎ。
見るなら俺を見ろ」
言って、彼の視界に入るように、魔術で金色に染色させた髪を避けながら、少しだけ指で襟を引っ張って見せつけた。
レンの瞳に、彼が選んで買った下着が映り込むのを見逃さない。
「……うっせ、貧乳」
が、彼はどこか馬鹿にしたような笑みを浮かべて、肩を竦めながらそんな風に返してきた。
(ケッ、強がりやがって)
ため息を吐き、両腕を頭の後ろで組みながら言い返す。
「昨晩散々吸ったのはどの胸だったかもう忘れたのか、ベビー?」
「はっ。
吸ってたのはお前だろうが」
赤ちゃんプレイが好きそうだな、と思って昨日試したことを思い出す。
あんまり気持ち良くはなかったけど。
(身長のせいもあるんだろうけど、こいつ下手なんだよなぁ)
何が、とは言わないが。
2人には聞こえない程度の小声でそんなやりとりを交わしながら、ため息をつく。
どうすればこいつの視線を独り占めできるのか。
悩ましい限りだ。
何せこいつは巨乳好きだ、胸のない俺には見向きもしない。
脚には、結構自信あるんだが。
年齢の割に肉がついてるし、美脚だし、肌すべすべだし。
(ステラが羨ましい)
そんなこんなで夕食が運ばれてくる。
今晩の食事は湿地で取れた魚のソテーがメインだ。
あとご飯。
「……そういえば、異世界モノって普通お米とか出てくるの後半とかだけどさ」
スプーンで米を一掬いしながら、レンに声をかける。
「ん?」
「ここ、普通に出回ってんのなんで?」
ユーリア砦で俺が初めて食べた料理を覚えているだろうか?
そう、オムライスだ。
玉子のオフトゥンの中には、ケチャップで味付けされたチキンライスが眠っている、あの至高の料理だ。
つまり、初めからなんの疑問もなく、俺はこの世界で米を食べていた。
味というか食感は、やや餅米寄りだった気がするが。
「なんでって言われてもな。
地形的な問題としか言いようがないな」
地形……。
言われて、そういえばここは湿地が近くにあったことを思い出す。
つまりここは水捌けが悪いわけだ。
……ん?
じゃあどうして米が育てられるんだ?
水捌けが悪かったら根腐りだっけ?するんじゃないのか?
まぁ、農家じゃないから詳しいことなんもわかんないけど。
まぁ、異世界だし、もしかするとここにはそういう種類の稲もあるのだろう。
そういうことにしておこう。
その日の夕食は、4人で軽く明日以降の予定を打ち合わせてから、談笑しつつ終わりを迎えたのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
メイヴィス子爵領領都メイヴィスィアは、ユーリアの街を含むメイヴィス子爵領の中心街である。
中心に大きな湖を有し、その中心にある小山の上に建てられたメイヴィス城は、どこか御伽噺的な空気を纏っていて、都の観光名所にもなっていた。
そんな城の執務室に、1人の人影があった。
齢、20を少しすぎたあたりの年齢。
この世界では、人間の平均寿命は30歳程度のため、これでもそこそこ老齢の部類だが、見た目で年老いている様子はない。
というのも、30が最近というのは平民の話だ。
彼らにはお金がないため、確かな医療を受けられず、結果、風邪や虫歯、事故といったモノで、だいたいそれくらいの歳で死んでいくのだ。
閑話休題。
執務室にいた、薄い色の金髪を外側にいくつもロールしたような髪型の男は、背面、湖の映る窓ガラスを向いて立ちながら、何やら独り言を呟いていた。
「守備はどうだね?」
『ハッ、メイヴィス子爵様。
恐れながら、すでにユーリア砦はもぬけの殻でした』
耳につけられた、イヤリング型の通信用魔具から聞こえてくる返答に、男──メイヴィス子爵は舌打ちをした。
(チッ、オウルコスめ、やってくれたな……)
ユーリアの街は元々イタリカ王国のものではなかった。
先代の国王が、勇者を政治利用──もっとあからさまにいうなら軍事利用するために、隣国のアガレト皇国から戦争で勝ち取ったものだった。
ユーリアの街は、勇者が最初に現れる街。
予言によれば、そこでゴブリンのスタンピードを退ける事になっていた。
故に、先代の王の命令に則って、魔王軍が姿を現し始めたのと同じ時期に部下を配備。
スタンピードが終わり次第、勇者を捜索し、功労者として迎え入れる手筈だったのだが。
(スタンピードが始まると、原則としてまず冒険者ギルドに連絡が行き、次に避難が必要な規模の場合は街の役所に連絡が通り、避難指示が出されるはずだが)
部下がしくじったということは、その間でなんらかの情報操作が行われたのだろう。
そしてそれができるのは、ユーリアの街の冒険者ギルドマスター、すなわちオウルコスのみとなる。
(予言でのスタンピードの規模は万を超えていた……。
避難指示が出なかったのは明らかにおかしい)
そこまで考えたところで、メイヴィス子爵はかぶりを振った。
すぎたことを悔しんでも仕方がない。
彼はすぐさま切り替えると、部下に連絡した。
「では今すぐ国境を張れ。
決してアガレト皇国に勇者を渡すな」
『ハッ、すでに準備を進めております故、ご安心を』
「うむ、頼んだぞ」
どうやら指示を出す前にすでに動いていたようだ。
優秀な部下の対応にメイヴィス子爵は満足げに頷くと、通信を切った。
ファムちゃん、金髪に染色しました!
⚪⚫○●⚪⚫○●
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