美少女な俺様が水遊びをする!
5月。
雨季を目指して空気が徐々に湿り気を帯び始めるが、未だ冬の乾季を引きずって暑い日差しが降り注ぐお昼時。
ミカネたちは今、川の浅瀬で遊んでいた。
「きゃー!あははは!」
「そりゃー!」
「あはは!ファムちゃん師匠はしゃぎすぎーっ!」
舞う、水飛沫。
照りつける陽光。
そして、下着姿の半裸の美少女が3人。
なんたる眼福。
ミカネとメアリーの俎板のような胸はともかく、ステラのぶるんぶるんと揺れる巨乳は、河岸で荷物番をするレンの視線を釘付けにした。
河で水を飲んでいたラプトル二頭も、そんな彼女に触発されてか、今や3人から目を離さないでジッとしていた。
(わかる、わかるぞ二頭とも。
あの巨乳は目が離せなくなる)
うんうん、と頷きながら、少しだけ座る姿勢を変える。
理由は……言わなくてもわかるだろう。
河で水をちゃぷちゃぷ掛け合う姿をそんなふうに見守っていると、ミカネの方から声をかけられた。
「レンも一緒に遊ばないのか?
そこ暑いだろ?」
じゃぷじゃぷ音を立てながら近づいてくるその姿は、12歳とは思えない艶やかさを孕んでいた。
なんといっても、魅力的なのはその肢体だろう。
きめ細やかな肌に覆われた、太すぎず細すぎずの太ももや二の腕。
ベッドの上で抱いた時も、そのすべすべとした肌触りと柔らかさ、高めの人肌の体温が情欲を掻き立てる。
加えてその珍しい銀色の髪が現実感をなくし、まるで夢の中にあるかのような感覚にさせ──。
「いいんだよ、今はちょっと……わかるだろ」
これ以上見つめていてはどうにかなってしまいそうだった。
好みとしては絶対にステラの方がタイプではあるのだが、二度抱いたというその経験のせいなのか、或いはその美しすぎるほどに整った容姿と、現実離れした銀髪の存在のせいか、彼女を見つめていると危うい気持ちになった。
顔を赤くして視線を逸らす彼に、ミカネは『ほほぅ?』といたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「目ではステラの胸ばかり追っていたくせに、いざとなると俺とは目を合わせられないか……」
(バレてる!?)
できるだけ全体を見るようにして盗み見ていたつもりだったが、どうやらミカネにはお見通しだったらしい。
彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながら懐に跪くと、彼の内腿に手を触れ、耳元に口を近づけた。
「えっち」
「√﹀\_︿╱﹀╲/!?」
小声で囁かれる言葉に、全身にビリビリとした刺激が走る。
これが夜であれば、そのまま彼女に押し倒されて朝まで勝負が続くのだろう。
しかし今はそんなわけにもいかない。
レンは彼女を突き放すと、赤らんだ顔のまま彼女に呟いた。
「今晩は覚えてろよ」
「残念だけど、それは無理な相談だね」
照れたような顔を隠しながら言う彼に、ミカネはニシシと子供のような──実質子供なのだが──笑みを浮かべて、その場を後にした。
2人の元に戻った彼女が『やっぱだめだったー』と伝えているのが鼓膜に届く。
それからしばらく3人が、水辺で魚を手掴みで獲ったりするのを眺めていると、不意に、頭上を何か大きな影が通り過ぎた。
「ん?」
気になって影の正体を確かめるべく首を振ると、少し離れた位置に、ラプトルを5倍くらいにしたような中型のドラゴンが羽休めしていた。
「アルヴライデン種の騎竜……それにあのでっかい剣……って、もしかして!?」
エメラルドグリーンの鱗に覆われたその巨体は、日光を反射してキラキラと輝いており、その背中には分厚い革製の鞍と、巨大な人影が乗っていた。
その体格を一言で示すならば、筋骨隆々、或いは百戦錬磨。
背中には傷だらけの分厚い大剣が下げられており、まさに歴戦の士と言った風体だった。
薄く日焼けした肌はいくつもの刀傷に塗れ、短い灰色のオールバックの下には、左目を隠すように黒い眼帯がされている。
レンはその人物が誰か知っていた。
「よぉ、レンウォード!
昼間っから酒池肉林たぁ、いい御身分だなぁ、グワハハハハ!」
ドラゴンを連れてこちらに歩きながら、豪快な笑い声をあげる。
「酒池肉林じゃねぇよ、失礼だろうがこのクソ師匠!?」
「あ?誰がクソだって?
もっかいノーウォーク竜の巣にぶち込んでやろうか?」
そんな2人の騒ぎを聞きつけてか、浅瀬からミカネたち3人がこちらへと駆け寄ってくる水音が聞こえてきた。
「レン、その人は?」
3人の方を振り返ると、そこにはビチビチと跳ねる巨大な魚を両腕でがっしりホールドしているミカネの姿が真っ先に入ってきた。
「いや、その前にお前……その魚どうした?」
「ラプトルにあげようと思って、底の深いところ潜って捕まえてきた」
言いながら、ラプトルの方は視線を向けるミカネ。
だが、その後ろにいたラプトルよりも巨大なドラゴンに驚いたのか、目を奪われて固まってしまった。
「うわっ、何このドラゴン。
ピカピカしててちょーかっけー」
「グワハハハ。
嬢ちゃん、このドラゴンの良さがわかるか!」
そんな彼女の感想に満足したのか、男は笑ってミカネの頭を撫でようとしてくる──が、それを寸でのところで一頭のラプトルが頭を割り込ませて防ぐ。
「おぉっと。
ハハーン、こいつやるなぁ」
「キュルルルルルルル」
ニヤニヤと笑いながら、代わりにラプトルの頭を撫でくる男。
対して、威嚇するように喉を鳴らすラプトル。
「餌を奪られると思ったのかな」
「いいや、この反応は餌じゃねえな。
お前さん、大分ドラゴンに好かれる性質らしい。
ちゃんと名前もつけて大事にしてやれよ?」
彼女の純粋な反応に、男が笑顔でそう告げ、頭をポンポンと叩かれる。
彼女は一瞬、このラプトルはアガレティアまで行ったら売るつもりだと告げようとした。
しかし、二頭から期待されるような眼差しを受けると、どうもそうと言い出すことができなかった。
(まぁ、狩りに出れば維持費もそんなにかからないだろうし……考えておくかな)
そう思うと、二頭の甘えたような表情が少し可愛く見えてきて、ミカネはラプトルたちに魚を与えた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
突然現れた謎の男の正体は、レンにとって最初の剣術の師匠、エイハブと名乗った。
アルヴライデン種と呼ばれる、中型のエメラルドグリーンのドラゴンを乗り回すAランク冒険者で、そのことからドラゴンライダーの二つ名を持っているらしい。
二つ名。
リアルで聞くと厨二病っぽいが、この世界で改めて聞くとなかなかかっこいいのではないだろうか。
体格は、すでに背の高いレンの15割くらいはある、筋骨隆々の巨漢だ。
浅黒い肌には刀傷らしきものがたくさん刻まれていて、まさに歴戦の戦士といった風貌である。
眼帯もしてるし、さらに厳つくなったスネ◯クみたいな印象を受ける。
彼の話によると、アガレティアでの剣術大会の話を聞いて皇都に向かう最中、見覚えのある頭が見えたため、降りてきたそうだ。
ということは、彼と大会に参加するのだろうか。
強さは今の俺とほとんど互角に見えるが、少し嫌な予感がする。
できれば戦いたくない相手。
そんな雰囲気だ。
お互いの自己紹介を終えて、俺が勇者だと言う話になったあたりで、エイハブは眉を顰めた。
「どうしたんだ?」
すかさず、レンがエイハブに尋ねる。
「いや、そういえば最近ここら辺で、自分こそが勇者だと嘘をつく輩が現れ始めていてな。
ちょいとその事を思い出したのさ。
魔術で髪の毛まで銀色に染めて聖痕まで自分の体にペイントしやがるモンだから、街の守衛共が片っ端から捕まえて回ってるのさ」
「「えぇ!?」」
俺とメアリー、ステラの3人が驚きの声をあげる。
「ど、どうしようファムちゃん師匠!?
ファムちゃん本当の勇者なのに、これじゃあ次の街に着いた時に捕まっちゃうかも!?」
「あぁ。
もしそんなことになればアガレト皇国にはまず入れねぇだろうな。
犯罪歴のある人間を亡命させるわけにはいかねぇから、もしそんなことになれば絶対に取り押さえられる」
ステラの言葉に、レンが解説を加える。
有名人のなりすましって、やっぱりどの時代にもあるんだな……。
勇者の姿なんて、伝説だか予言だかを見ればある程度把握できるものだし、実際に俺の姿を見ていなくても、その姿を真似ることはできるだろう……が。
(どうしてこのタイミングで……?)
不自然なアクシデントに、俺は首を傾げる。
もしかして、俺がゴブリンのスタンピードで活躍したことが周りに知られたのだろうか?
でも、そんなことより。
「アガレト皇国に行けないのはまずいよね。
白狼の迷宮にいるはずの魔王軍の幹部が倒せなくなる」
何を企んで皇国にいるのかはいまいちわからないものの、メアリーのその呟きに、俺は首肯した。
そこで、俺は一つの解決策を提示することにした。
「じゃあさ、俺の髪色を変えちゃえばいいんじゃない?」
そういえば、行方不明になったローズリー小隊は、今どこで何してるんでしょうね?
⚪⚫○●⚪⚫○●
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