美少女な俺様が馬を買いに行く!
商業ギルドの裏口──正確にはそこから少し歩いたところにある駐車場(?)みたいなところだったが──に行くと、そこには馬車が一台停まっていた。
魔導車を期待していたのだが普通に馬車だったが、これはこれで異世界感があって面白かった。
馬車の種類はいわゆる荷馬車。
後ろの緑色の幌がかかっている荷台の中に荷物となる魚眼石が入っているらしい。
スイセンは懐から杖を取り出すと、軽くヒュンヒュンとルーンを描いて、荷台から魚眼石の塊が入っていると思われる木箱を2つ、念力みたいに宙に浮かせて取り出し、地面に置いた。
魔術ってこんなこともできるのか、と思いながら、さてさて魚眼石ってどんな石なんだろうと箱の中を覗き込んだ。
魚眼石は白っぽい、ちょっとトゲトゲした石だった。
白に緑色のラインみたいなのが走ってて綺麗に見える。
これが魔術義眼とかいうのになるのだろう。
なんだか石自体は脆そうに見えるが、こんなのを義眼にして大丈夫なのだろうか?
……あ、もともと眼球って脆かったっけ。
他の3人も一緒に箱の中を覗いて、魚眼石が入っていることを確認する。
「たしかに受けとりました」
木箱に蓋をして、レンが何やら書類にサインをもらったりするのを見守って、なんとなく木箱を担いでみる。
二つに分けられてるからだいたい15キロくらいかな、結構重そうだなーとか思って試しに持ってみたわけだが……意外と軽い?
「ねぇ、これ軽すぎるんだけど、本当に15キロあると思う?
ちょっと持ってみてよ」
レンは今取り込み中なので、メアリーに木箱を受け渡す。
「え、15キロってこれくらいじゃないの?
ちょっと重いけど。
たぶんファムちゃんが軽く感じるのは、魔力で筋力補正がかかってるからじゃないかな?」
「あっ、そっか。
そういえばそんな設定あったな」
メアリーの解説に納得する。
この世界は魔力の保有量によって、その人の身体能力が強化される。
つまり魔力を多く持っていればいるほど筋力値が高くなるので、俺には軽く感じるわけだ。
同じ理屈で、魔術師であるメアリーもそれなりに魔力を保有しているため、そのサポートが働いて軽く感じる、と。
……それでもちょっと重く感じるんだな。
「ねぇ、ステラも持ってみてよ。
15キロってこれくらいだよね?」
軽々と──元の世界では、彼女の体格だと多分重すぎてこんなふうに持てないだろう物を、ステラへと引き渡す。
「うん、これくらいだよ。
ちゃんと15キロある」
「へぇ、ステラもそう言うってことはそうなんだ……」
軽くカルチャーショック(?)である。
前世のウェイトトレーニングで使っていた物がだいたい10キロくらいだったから、こんな軽いはずがないって思っちゃったんだけど……。
なるほど、そういうこともあるんだなぁ。
そういえばクタの森でのデミトレント・ゴーレム戦で使った《雷霆》も、前世のものよりパワーアップしていた。
これはつまり、自分の魔力保有量が多くなったことでパワーアップしてたってことなのだろう。
基礎の筋力プラス魔力保有量による筋力補正が最終的な全体の筋力値になってる感じか……。
あれ?
そういえば以前にも同じようなこと気にしてたことあったな。
魔力が無くなったら身体能力も落ちるとか云々……。
それから俺たちはスイセンの見ていないところで魚眼石をメアリーに回収した。
⚪⚫○●⚪⚫○●
商業ギルドでの一件が済んだ後、俺たちは練金屋に向かった。
ボルダリアまで行くための準備物を色々買い足すのだ。
携帯用トイレに、外で体を洗う用のリッカースライムの瓶、魔力回復ポーション、怪我を治す治療用ポーション、不足の事態に備えて解毒ポーション、保存食各種に香辛料などなど……。
ついでに、隠れてこっそり夜のアレやコレやを買い足してポーチに。
(あいつ結構体力あるからな……)
ナニとは名言はしないけど、元の世界ではどうだったかは知らないが、この世界のこの手のアイテムはかなり安い。
ちょっと多めに買ってもバレないだろう。
俺のポーチ、実はゴドウィンに頼んで二重底にしてもらってるからな。
万が一中を覗かれてもバレないバレない。
「お待たせー。
じゃ、行こっか!」
練金屋を出ると、3人が待ってくれていた。
というのも、流石にみんなと買い物の最中に買いに行ったらバレるということで、実はトイレに行ったふりをして買い足しに行っていたのだ。
友達に隠れてグッズを買いに行っていると思うと、ちょっと興奮する。
危ない、変な性癖が開拓されそうだ。
「そういえば、アガレティアの剣術大会っていつ開かれるんだ?」
そういえば聞くの忘れてたな、と思い出しながら、メアリーに尋ねる。
「そういえば話が流れてたね。
剣術大会は10月だよ。
今が5月だから、まだひと月はゆっくりしてても余裕はあるよ」
「なるほど。
じゃあ馬車で向かっても十分間に合うわけだ?」
ていうか今5月だったんだな、とか思いながら、そのように告げる。
国境まで2ヶ月、大会まで5ヶ月、1ヶ月の余裕があるとすると、ボルダリアからアガレティアまでも2ヶ月の旅程になるのか。
全4ヶ月の長い旅。
ちょっと楽しみだ。
「いや、そうとも限らねぇぞ、メアリー」
しかし、そんな彼女の解説をバッサリと否定する声があった。
レンだ。
「もうすぐ雨季に入るからな。
地面がぬかるんで車輪が取られ、下手をすれば1ヶ月どころか2ヶ月、3ヶ月は遅れる可能性がある。
さらにボルダリアまでの間にはデカい湿原がある。
乾季なら普通に渡ることができるが、あそこは雨季になるとでっかい湖になるからな、早めに行って迂回しないといけないことを考えると……乗合馬車じゃ間違いなく間に合わない」
「えっ、そうなの!?」
彼のセリフに、驚いた表情を見せるメアリー。
きっと、机の上ではそれなりに勉強してきたのだろうが、レンのように実際に辺境を旅をした経験があるわけではないのだろう。
知識と経験はちがうものなのだ。
頭の中でいくらわかったつもりでいても、実際に経験をしたことのある奴と比べればわかる。
知恵というのは知識と経験の子供で、知識とは経験に基づいて生まれなければ意味がない。
閑話休題。
そんなわけで俺たちは、レンの提案に従って馬を買いに行くことになった。
冒険者用の馬は、普通の馬とは少し違う点がある。
それは、肉食であることだ。
厳密には馬ではなく、ラプトルと呼ばれる小型のドラゴンらしく、少しの魔物の肉で長時間走れる燃費のいい生き物だ。
レンの話では、チ◯コボとトカゲを足して2で割ったような姿をしているらしい。
しばらく歩いて店に着く。
大通りからは少し外れて裏手の方に回ったところにあるそれは、少し大きめのログハウスといった印象を覚える。
中に入るとカウンターがあって、恰幅の良い犬系の獣人の店主とドワーフが、2人でボードゲームをして暇を潰していた。
「ラプトルを買いたい。
数は二頭だ、2人乗りできるタイプがいいんだが」
ゲームの最中だった2人にレンが声をかける。
すると店主はコマを打つ手を止めて、こちらをチラリと見た。
「……結婚してくれ」
何か亡霊にでも取り憑かれたかのようにふらりとカウンターから身を乗り出して、そんなことを宣ってくる獣人店主。
その目はギラギラとしていて、何だかちょっと怖いというか、単純にキモい。
うずらハゲだし、脂汗かいてるし。
告るならもうちょい格好ってのを選べよ……。
「ごめん、キモい」
即答しつつ、一歩後ろに引く。
すると、彼はそんな俺に何か惹きつけられるものがあったのだろう。
より一層キモい顔をしてこちらに近づいてきた。
「ぐぅ……っ!
そのゴミを見るような目……最高でふっ!」
店主はそう叫ぶと、カウンターに足をかけて、今にもこちらに飛びかかりそうな体勢を見せた。
「ひっ!?」「きゃあ!?」「うわぁ!?」
ほとんど同時に、3人の悲鳴が上がる。
言わずもがな、俺とメアリーとステラだ。
咄嗟にレンを盾にする様に体を引く。
レンもレンで男から3人を守ろうと蹴りを振り抜こうと構えた──が、寸前。その店主は後ろに控えていたドワーフの男に服を引っ張られて、カウンター後ろの床に思いっきり叩きつけられた。
「ぐべっ!?」
ベチャ、とかそういう感じの音を立てて床に打ち付けられる店主。
ドワーフは手をパンパンと叩くとカウンター越しに苦笑いを浮かべた。
「すまんな、お嬢さん。
こいつ生まれてこの方彼女がいたことねぇんだ。
さっきも運命の人がどうたらこうたら話していたところで……まぁ、間が悪かったと思ってくれ。
普段はいい奴なんだ」
フォローをするドワーフ。
とはいえ。
レンも結構Mなところがあるが、こいつは違った意味で酷いMだ。
できるだけ関わりたくねぇな……。
そんな意思が表情に出ていたのだろう。
ドワーフの男は『少し待っていてくれ』と告げて、店主を引き摺って店の奥へ向かっていった。
レンはMよりのSで、ファムちゃんはSと見せかけてMというイメージ。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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