美少女な俺様が雷霆を振る!
「うおぉぉおおおおおおおお!!」
ステラが盾を構えたままデミトレント・ゴーレムに向かって、雄叫びを上げながら突進していくのを横目に、俺は音もなく奴の背後へと回り込む。
アニメや映画では、こういった目がついていないタイプのモンスターというのは、だいたい音に敏感なパターンが多い。
いわゆるエコーロケーション的な探知方法で敵を発見するのだ。
しかしこの世界には魔力がある。
あるいは魔力を探知して索敵するタイプかもしれない。
それを調べるための作戦として、今のようにステラは雄叫びを上げながら突進しているのだ。
(もし音に反応するならステラに、魔力に反応するなら俺に攻撃を仕掛けようとするはず……!)
その予測通り、デミトレント・ゴーレムは体をぐにりと曲げると、その体をスイングさせてステラの方へと薙ぎ払い攻撃を仕掛けてきた。
「ッ!」
ステラはより一層接近して潜り込むと、盾の影に隠れて踏ん張った。
遠心力というのは先端に行けばいくほど大きくなるので、ダメージの小さい根元に潜り込んだのだ。
ガガンッ!という音を立てて、ステラの盾が完全にゴーレムの動きを止める。
その間に俺は背後から回り込み、その太い幹に向けて、横に一閃した。
「せやぁっ!」
地面の力を足の踏み込みによって伝える《震脚》、その力を増加させる《体振動》と《関節駆動》。
それらを全身の脱力によって一致させ、剣がヒットする瞬間に合わせて、人体のリミットを解除する呼吸《雷声》を合わせ、一息に振り抜く。
ユーリア流白兵剣術奥義──《雷霆》。
──ズガァン!
そのあまりの速さに、剣の周囲の空気が泡となって弾け、まるで雷のような音が森中に響き渡り、ゴーレムに深い傷を合わせた。
どうやら前世で使っていた技は、こちらの世界でも有効だったようだ。
それにしても、威力が跳ね上がりすぎて恐ろしいが。
俺は、ぱっくりと裂けたその幹に今度も同じく《雷霆》で責める。
続けること3度。
幹の傷はわずか1秒のうちに、その半径の3割を削り取った。
「うぇっ!?
こんな硬いのどうやったらそんなスパスパ斬れるの!?」
少し離れたところから、ステラの驚きに満ちた叫びが聞こえてくる。
「筋力による補正も多少あるけど、大体は地面の力と脱力、それから肩甲骨と股関節の駆動に呼吸のタイミングを合わせりゃ誰でもできるぜっ!」
「いや無理だろ!?」
遠方からレンのツッコミが飛んでくる。
その気持ち、俺もわかる。
だって前世でこの技使った時、雷みたいな音とか出なかったし、せいぜい直径5センチの鉄パイプを軽く両断できる程度の威力しか出なかった。
それがこっちの世界に来たことでかなりパワーアップしている。
おそらく、魔力による身体能力の補正が生み出した結果なのだろう。
普通人体には出すことのできない、限界を超えた一撃が、まさに文字通りの《雷霆》を再現させたに違いない。
(それにしても、さっきの感覚)
俺は、《雷霆》を打ち出すごとに感じた、体内の違和感に意識を向けた。
なぜか技を使った時、体から自分の魔力が剣の方に浸透して流れていくような感覚があった。
あれは一体、なんだったのだろう?
それから、俺とステラによる攻撃は続いた。
ゴーレムの方も、枝をしならせて攻撃してくるが、場所が場所のためヒットしない。
ヒットしたとしても軽く盾を擦る程度で、ほとんどサンドバック状態に近い状態が続いた。
──が、そんなボーナスも長くは続かなかった。
「ギギギギギギギ!」
どこから出しているのかわからない咆哮が、デミトレント・ゴーレムから発せられる。
その咆哮にはどうやら魔力がこもっていたらしく、その衝撃によって俺たちは四方に弾き飛ばされた。
魔術ではない、単に魔力による攻撃。
そういえばあの草原グールも、ルーンを使わずに魔術を使っていたけど、今思えばあの気配は魔術ではなく単純な魔力の気配だったように思う。
あれは一体、どういうことなのだろうか?
これについては後でメアリーにでも聞くとしよう。
俺はそんなことを考えながら、剣を地面に突き立てて、吹き飛ばされるのを耐える。
「2人とも無事か!?」「みんな大丈夫!?」
レンとメアリーの心配する声が同時に重なる。
「あぁ!
俺は無事だ!ステラは!?」
「私も、吹き飛ばされただけです!」
特に毒とか麻痺の状態異常はない。
単純な吹き飛ばし攻撃だったか。
俺は全員の無事を確認すると、改めてデミトレント・ゴーレムの方へと意識を戻した。
するとそこには、ギュルギュルと全身を捻らせたやつの姿があった。
確認すると同時に、俺の直感が警鐘を鳴らした。
あのフォルムの敵が、こういう動作を取った時に起こる次の現象は、大体限られているということを、俺は前世でプレイしていたゲームの知識で知っていたからだ。
「メアリー防御だッ!」
「わかった!」
ゴーレムが幹をさらにグググと捩らせ、撓ませる。
その枝の先につけられた鋭い葉に、例えば限界まで引かれた弓のような力が加わっていき──
「《障壁》!」
一瞬早く、メアリーの防御魔術が発動し、黄色い光のドームが各個人を中心に展開されると、ゴーレムはその幹の捻りを勢いよく戻して、竜巻の如く石の葉を周囲全体へ振り撒いた。
──ガガガガガガガ!!
黄色い光の《障壁》に石の葉がぶつかるたびに、嫌な音を立てている。
まるで台風に当てられたガラス窓のような、今にも割れてしまいそうな不安感が俺たちを煽った。
「くぅ……ッ!!」
メアリーが歯を食いしばる声が、少し遠くから石の嵐に紛れて聞こえてくる。
このままじゃジリ貧だ。
観察した限りだと、この石の葉はただ勢いに乗って飛んできているわけではなく、どうやら魔力によって操作されて空を飛んでいるらしい。
つまり、このゴーレムの魔力が尽きるまで、あるいは諦めるまではこの攻撃は終わらない。
そしてメアリーの様子を見るに、この防御も長くは保ちそうにない。
(……やるしかないみたいだな)
実戦でやるのは今回が初めてだし、訓練の時より数が多いが──今の俺の身体能力なら、できるかもしれない。
「ふぅ……っ!」
俺は呼吸を整えると、剣を構えて一瞬だけ、練習のために体を動かした。
石の葉が飛来する気配、速度、タイミング。
その全てを観察し、体の動きを合わせていく。
──いける。
今の俺ならいける……ッ!
俺はそう確信すると、《障壁》の黄色い光の壁の中からメアリーに呼びかけた。
「メアリー!このままじゃジリ貧だ!
策があるから、5秒数えたら俺の《障壁》だけ解除してくれ!」
「「えっ!?」」
俺の指示に、3人が驚いたような表情を見せる。
「数えるぞ!」
しかし躊躇させる暇など与えない。
俺はそう宣言すると、剣を構えて声を張り上げた。
「──5!4!」
いきなり有無を言わせず数え始めた俺の行動に、メアリーはあたふたする。
しかし、それでも数えることをやめない俺に、意を決したのか。
彼女は杖を構えると、真剣な眼差しでタイミングを計った。
そんな彼女の様子を見て、こんな時だと言うのに俺は嬉しくなってしまった。
あぁ、俺は今、信頼されているんだな、と。
「──3!2!1!」
──カウントが終わる。
──黄色い光の膜が破けて、石の葉が一斉に俺をズタボロにせんと向かってくる。
──俺はその軌道を完璧に把握すると、生前、師匠から教わった秘奥義を、人生で初めて行使した。
「秘剣──《千鳥返し》!」
黄色い光の膜が消えた瞬間、俺の視界は酷くゆっくりとなった。
人は死が身近になると、体内時間が一気に加速し、世界がゆっくりになる。
俺はその状況を《雷声》と呼ばれる呼吸法によって人為的に起こし、さらに同時に脳のリミッターを解除することによって、加速した体内時間と同じ速度で移動することができた。
迫る石の葉の群れの動きは、まるで止まったように緩慢だ。
俺は足を一歩踏み込みながら《震脚》を使って地面の力をそのまま体に伝えると、股関節と肩甲骨を球状に駆動させ、全身を波打たせて全てのエネルギーを剣先にに集中させ──その遠心力を使って、竜巻のように振り抜きながら石の葉を撃ち落とした。
音は聞こえない。
加速した時間の中では、大気の動きさえ緩慢になる。
俺はその中を一歩踏み出すだけで、周囲に衝撃波を撒き散らせた。
前世ならば考えられなかった効果だ。
体内の魔力の働きが、それをブーストしているのだろう。
俺はそのまま竜巻のように剣を振り回し、舞い踊りながらデミトレント・ゴーレムの手前まで到達すると、そのまま剣の遠心力に任せてその太い幹に斬りつけた。
パラディン
冒険者のクラスの1つ。
タンカー(壁役、防御役)のクラスの内、剣と大盾を用いて自ら仲間の盾となる。
勇者パーティではステラが担っている。
盾を用いた攻撃スキルが他のタンカーに比べてやや魔術タイプ寄りに豊富で、例えば《シールドファイア》は盾で攻撃を受けた時に、そのダメージ分を炎属性の魔術攻撃として反射できる。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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