美少女な俺様がデミトレント・ゴーレムに挑む!
「なぁ、そういえば今更なんだけどさ」
光る苔の上を歩きながら、俺はレンに声をかける。
「ん?」
「ダンジョンって、確か前の説明だと最低6人以上じゃないと入っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
たしか、以前レンが補修箱の説明のついでにそんなことを話していた気がする。
クタの大森林は、未踏破のダンジョンだ。
つまり冒険者ギルドの規定に従えば、最低でも息のあった6人パーティでの探索が求められていたはず。
そんなことを思いながらの質問だったのだが、しかし彼は特に気にしたそぶりもなく適当に答えた。
「あぁ、それな。
アレは別にギルドが推奨してる人数ってだけだから、極論、ソロで潜ろうが罰則はないんだ。
とりあえず危険だから、これくらいの人数で潜った方が安全だぜってことを言ってるだけだからな」
どうやら、そこまで厳しい規定ではなかったらしい。
俺は、とりあえず納得した事にしてダンジョンの探索を続ける事にした。
クタの大森林に出現する魔物は、だいたい巨大なリスかネズミ、あるいはクラゲみたいな虫だった。
俺は虫が大嫌いだが、このクラゲのような奴は到底虫には見えなかったので、なんとかギリギリ相手をすることができた。
尤も、遠距離から氷の魔術で凍らせて終わらせてしまうにとどめるので、接近したりということはしなかったが。
「あっ、また外した!?」
まぁ、仕留めるのは俺じゃなくてメアリーなんだけど。
クラゲのくせにひゅいひゅいと《氷漬け》の魔術を回避する虫に、俺は苛立ちの声をあげる。
「焦っちゃダメだよ、ファムちゃん。
こういう動く魔物は、動きを誘導して仕留めるの」
言って、手本を見せるようにしてメアリーが虫を魔術で追い詰めていき、氷漬けにする。
すると一瞬にして30センチほどもあるクラゲ虫が一個の魔石になって地面に転がり落ちた。
「んー、難しいな……。
相手が動物なら、せめて地面を歩いてくれれば……」
魔術の狙いを定めるのは、意外と難しい。
視線によってカーソルを合わせて、タイミングを合わせてルーンを描かなければならない。
魔力のコントロールをしながらとなると、これが本当に難しいのだ。
(一文字のルーンなのに、こんなに難しいなんて……)
いくら魔力量が多いからと言って無駄撃ちはできない。
魔力の多さが身体能力の強化に貢献しているということは、魔術を使いすぎると身体能力がそれに応じて堕ちていくという事になる。
もし魔王軍の幹部とやりあうことがあったら、その点をちゃんと留意しなければならないだろう。
俺は苦虫を噛み潰したような顔で、そう肝に銘じておく事にした。
⚪⚫○●⚪⚫○●
クタの大森林を歩いて、どれだけ時間が過ぎただろうか。
木漏れ日の光量は、森に入った時と変わらないため、時間感覚がわからなくなる。
レンが言うには、ダンジョンの中は時間も歪んでるらしいから、正確な時間が測れないというのは結構辛いものがある。
……次からは、時計を準備しないとなぁ。
時計塔はあったけど、果たしてこの世界には懐中時計はもうあるのだろうか?
「……ストップ」
そんなことを考えていると、不意にレンが手で進行を制止させた。
俺が気配を探る限りは、特に魔物などの気配は感じられないのだが、一体何があったのだろうか。
「足元を見てみろ。
ここにでっかい足跡があるの、わかるか?」
言って、彼がそう指し示す先へ視線を向ける。
するとそこには、2メートルほどの幅の、蛇が這った後のような溝があった。
それほど深くないから、そこそこ軽いものが引きずられてできたものと思われる。
(……足跡ってなんだっけ?)
「ダンジョンの中は、常に自動修復が働いている。
こういう足跡は、たとえできたとしてもすぐに消えていくはずだ。
それがまだ残っているということは、この足跡の主がまだ近くにいる可能性が高い」
へぇ、そうなんだ。
「だとしたら結構でかい蛇かもしれないね。
けどさ、近くに魔物の気配とか全然しないんだけど──」
言い終えるかどうかといった、その時だった。
「──ギギギギギギギ!」
何か錆びついた扉が開くような、それに近い音が、森の全方位から聞こえてきた。
かと思えば何かの気配が急に現れ、遠く左手の方から音もなく近づいてきたのだ。
(なるほど、空間が歪んでるとこういうこともあるんだ)
突如姿を表したのは、巨大な樹木のような見た目をした生き物だった。
じっとしていればそこらへんの巨大な木とほとんど見た目は変わらないが、その枝の付け根が関節のように動き回って、全体をしならせながら体(?)を引きずるようにしながら迫ってきていては、流石に目についた。
「トレント……いや、あの球体関節はデミトレント・ゴーレムか?」
「何それ?」
「お前にわかるように一言で言うならウソ◯キーのでっかい奴だ。
木に化けた石製のゴーレムだな」
「あー、あの見た目絶対草タイプなのに実は岩タイプってあれね」
分かりやすいし懐かしい例えに、思わず苦笑いを浮かべる。
とはいえ、俺の魔術の腕は底辺も底辺。
それにアレだけの巨体となれば得意のカランビットも通じるかどうかわからない。
腰のナイフでもリーチ的に問題がある。
ならば。
「レン、剣を一本貸してくれないか?
俺の得物じゃ攻撃が通りそうにないんだ」
レンの現在の武装は、鉄製の弓と長剣が2本、それからラウンドシールドが1つだ。
剣が2本あるなら、そのうちの片方を借りても問題はないはず。
「わかった。
後でちゃんと返せよ?」
「大丈夫、どんな硬いモノを斬ったとしても、剣を折ることはないからさ」
俺はそんなふうに嘯いて、メアリーを護るように前に出る。
それと同時に、おそらく精霊術だろう、ステラは魔力を対価にして白い巨大な盾を取り出して長剣を構え、一緒に前に出た。
「じゃあ、私が攻撃を引きつけるから、ファムちゃん師匠はサポートお願いね♪」
「いいぜ、大船に乗ったつもりで頼ってくれ」
魔物と遭遇したときの対処法は、昨日からすでに考えられていた。
タンカーとなるステラに攻撃の対象を集中させつつ、俺が体力を削っていく。
メアリーは全員に支援魔術をかけつつ戦況を逐一報告。
レンはその情報をもとにして俺とステラの援護を弓で行いつつメアリーを護り、途中で別の魔物が介入してこないかを見張って対処する。
これが基本の陣形となっていた。
俺は頭の中に基本の作戦を思い描きながら、頭の中で先頭をシミュレーションさせる。
あの巨大さ、あの幹のしなり具合。
おそらく見た目以上に素早い動きで攻撃してくるに違いない。
しかもあの枝ぶりだ。
あれで薙ぎ払われたら、俺ですら耐えられるかわからん。
トラックとの正面衝突と同等、あるいはそれ以上の衝撃が来る可能性がある。
「ところで一個確認だけど、ステラ、もしアレの頭で薙ぎ払いとか来たら防げる?」
デミトレント・ゴーレムの全長は、だいたいマンションの7階分くらいはある。
頭の枝ぶりは立派で、もしあんなモノで頭突きやら何やらの攻撃をされれば、ズタズタになること間違いなしだ。
「無理だね。
その場合はメアリーの魔術に頼るしかないよ。
だから……その時は、頼りにしてるからね♪」
軽く後ろに視線を送って、作戦を確認する。
彼女はぎゅっと唇を噛み締めると、細く息を吐いて答えた。
「勿論だよ、ステラ!
だからみんな、絶対に無理しちゃダメだからね!」
こうして、俺たちは今まで遭遇してきた中で一番巨大な魔物と戦うことになるのだった。
冒険者のクラス
冒険者には、そのパーティの中でその人がどのような役割を果たすのか、どのような武器を使うのか、どのような戦闘スタイルなのかをわかりやすくするために、クラスというシステムが存在する。
だいたい、ゲーム的にいえばジョブとかそんな感じのイメージで、この世界では新しくパーティメンバーを募集するにあたり、必要な人材を素早く見つけるために作られたと言う設定になっている。
クラス毎には、その役割に応じた技術体系としてスキルが存在する。
例えばレンが使っていたサムライクラスのスキル《薄羽蜉蝣》などが相当する。
有名なスキルや基礎的なスキルなどは、ギルドが技術書にまとめて図書室に保管しており、習得にはそれを借りて練習するか、あるいはスキル保持者に師事して教えてもらうか、あるいは自分で作るのどれかが必要になる。
ちなみにクラスの申請は冒険者ランクが初めて上がった時に設定を任意で求められる。
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