美少女な俺様がダンジョンに挑む!
「そういえば、レンとは共闘したことはあっても、対戦した事って無かったよな?」
朝食も終わって、レンとステラの自由組手の様子を見ながら、ふと思い出す。
俺の指導は、まず套路で体の動きを学ばせ、次に実際に用法を教えた後に、実際にそれを使って自由組手──練習試合みたいなものだな──をして技を身に付けさせる。
今は単純に基本的な身体操作だけだが、そもそもの話、レンが実際、どれだけ動けるのかはよくわからない。
(ステラとの自由組手の様子を見る限り、彼女と互角か、あるいはそれ以上ということは判るんだけど……)
レンの斬撃を、肩甲骨を引く事で正中線をずらしつつ、重心の移動で体をくるりと回しながら受け流して足を狙う。
一方でレンはその剣を足で踏んで封じ込めつつ、《震脚》だろうか。
木剣を折る勢いで踏み込みながら、その空いた頭部に膝蹴りを見舞った。
「そこまで!」
俺の制止する声で、2人の動きが止まる。
今のはどう見てもレンの勝利だ。
「ステラ、武器に執着しすぎだ。
そう言う場合は一旦武器を離して蹴りに対処してみるといいだろう」
言って、先程の状況を再現するべく、ステラの握っていた木剣を地面に下ろして、レンにも先程の姿勢を再現させる。
「剣に執着すると、視野が狭くなるからな。
こう言う時は一旦こうやって剣を離して──こうやって抱え込んだら、相手の体幹のある方向に遠心力をかけて、ちょうど軸足になってる踵の方向に倒すんだ」
頭を下げて少し前のめりになりながら、肩でレンの太もものあたりを抱え込むと、足の裏から生じさせた遠心力で軽く地面に投げつける。
「うおっ!?」
《体振動》の応用技だ。
前世ではよく兄弟子にこうやって練習台にされたのを思い出す。
あの時は痛かったなぁ。
「それで倒したらこうやってローリングすれば脚の関節を極められるし──」
プロレス技を応用した関節への攻撃とか──
「──イダダダダダダダ!?」
「──こうやって脚の関節を極めながらこっち側に力をかければ、人体の構造上起き上がれなくなる」
カンフーの技を応用したツボへの攻撃とか──
「──痛い痛い痛い!ストップストップストップ!
ミカネぇぁあああ ゛あ ゛あ ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「──で、これを無理やりこうする、と見せかけて逆側に力を加えると、ここの骨がポッキリ簡単に折れます」
「「ストップストップ!それは流石にやりすぎ!!!!!!!」」
メアリーとステラの2人がかりの制止を受けて、ゆっくりと彼の脚を元に戻した。
いきなり戻したりすると、それこそ腱にダメージが入ってあぶないからね。
……え?
実際どうなってるのか全くわからないだって?
あぁ、それは意図的にそうしているのさ。
実際試すと超絶危険だから、悪い子も真似できないようにモザイクを少し。
──と、それはともかく。
俺は、ぐったりとその場に横たわるレンを放置して、2人に説明を続けた。
「──と、この様に、仮に武器を取られる結果に陥ったとしても、それに執着して武器を取り返そうとしなくても、相手を制圧する手段は無数にあるんだ」
「「な、なるほど……」」
因みにいうと、この状態から脱出する方法というのも実はある。
そもそも技というのは、ある一つの技に対処するために生まれていく様なものなのだ。
このパンチが来たらこう対処する。
こう対処されるから、このパンチはこうした方が有効的。
こう対処したらこう対処されるからこう対処した方がいい。
以降、エンドレス。
現代に伝わる武術というのは、そうやって進化を遂げてきたのだ。
まぁ、スポーツに成り下がったものは、その真の力というのが忘れ去られてしまっているものも多いのだが……それはまた別の話ということで。
⚪⚫○●⚪⚫○●
午前の修行を終え、昼食。
今日の献立はウサギ肉のステーキとひよこ豆のシチューだった。
ウサギ肉は初めて食べたが、このステーキは香辛料のおかげか、さほど獣臭くなくてとても美味しい。
ひよこ豆の方も良い煎り具合で、一緒に出される白パンとよく合う。
「ファムちゃん、技を教えてる時はちょっと怖いけど、こうやって美味しそうにご飯食べてる顔はかわいいの。
なんでだろうね?」
もっきゅもっきゅと白パンをシチューに浸して食べていると、不意にメアリーがそんな風に口を開いた。
「そんなの、元がかわいいからに決まってるじゃん、何を今更」
呑み込んで、メアリーの疑問に至極単純な回答をする。
「いや、そっちじゃなくて怖いときの方だよ。
こんなかわいい顔してるのに、一体どこからそんな覇気が出てるのか気になって気になって」
ステラの補足に、『あー』と呟く。
おそらく2人が言っているのは《武気》の事だろう。
俺はそれを察すると、早速3人に説明した。
「あー、これは《武気》っていう技でね。
まぁ、一言で言えば、相手にプレッシャーを与える技術なんだけど──」
《武気》は《心眼》と呼ばれる、ユーリア流白兵戦術の基礎技術、その応用である。
そもそもこの《心眼》というのは、相手の心の動きを読んで、相手が攻撃する前に攻撃したり(先の先)、あるいは相手の攻撃と同時に攻撃したり(対の先)、または相手が攻撃した後でもしっかり先手を取って攻撃したり(後の先)する技術だ。
要するに心を読む技術だな。
これができることによって、どれだけ早い攻撃も対処することができるのだ。
これができるということは、つまり逆にこちらからプレッシャーをかけることによって、相手を怯ませることもできるわけで。
「──慣れてくると、なんか無意識に出ちゃうんだよね」
まだまだ修行が足りない証拠だ。
──と、そこで、今朝レンとステラの自由組手を見ていて思っていたことを思い出した。
「そういえば」
そう切り出して、話題を切り替える。
「俺って、レンとは共闘したことあるけどさ、まだ対戦ってしたことないんだよなぁ。
なぁ、この後時間あるなら、一戦だけで良いから付き合ってよ」
言いながら、隣に座る彼に視線を向ける。
するとなぜか彼は『えー……』とどこか嫌そうな顔をして視線を逸らした。
「何?
もしかして怖いの?」
「そりゃあんな容赦のない関節技喰らった後だからな。
躊躇ぐらいするっての……」
なんとも言えない表情で返す彼に、メアリーとステラが同情する様に苦笑いを浮かべる。
仕方ない。
レンとの対戦はまた今度にするか。
俺は至極残念な気持ちで頬を膨らませると、昼食の残りを全て平らげた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
午後からは昨日と同じく森での対魔物の戦闘演習を行うことになった。
昨日はオークくらいしか見かけない森の中腹あたりでの演習だったが、今日はそれよりももう少し先に脚を伸ばして、少し強い魔物が出るらしいクタの大森林に行くことになった。
「それにしても、木がデカいなぁ」
全てがセコイア並みに高い樹木で構成された森の中を歩きながら、俺はつぶやいた。
地面にまで光が達しているところはほんのわずかであるにもかかわらず仄かに明るいのは、地面にびっしりと生えている緑色のコケから、柔らかな光が出ているからだろう。
他にも光るキノコやシダなどが木の根元に生えており、なかなか幻想的な風景を醸し出していた。
「あぁ。
ここは未踏破の迷宮だからな。
魔力が濃いし空間も歪んでるから、しっかり手を繋いでないとはぐれちまう」
そう解説するのは、俺の左手を握っている青年──レンだ。
「魔力が濃いと空間が歪むのか?」
「そうだ。
だからダンジョン攻略には魔力界計が欠かせない……んだが、お前がいると狂うからな。
今日は持ってきてない」
その言葉に、俺を含めた3人が、『えっ!?』と驚きの表情を浮かべる。
しかしその反応は予想通りだったのだろう、彼は『安心しろ、別の方法を考えてある』と言って、空いている左手をみんなの前に差し出した。
「……なんか、スチームパンクっぽいデザインだな、その手袋」
その左手には、革製の指抜きグローブが付けられていた。
しかしただの指抜きグローブではない。
手の甲のあたりに何か、魔法陣のようなものが刻まれた金属製の円盤が取り付けられていて、その円盤の中心にあるガラスから、淡い緑色のレーザーが出ていた。
「蒸気機関じゃないけどな」
そう前置きして、その魔具の説明を始める。
「魔力界計っていうのは、要するに魔力界の歪みから空間の歪みを割り出して、空間の穴がある場所を探知する道具だ。
だが、これは魔力界を通して空間の穴を把握するのではなく、重力の傾きを把握することで空間の穴を把握するんだ」
「ごめん、全くわからん。
空間の歪みと重力ってどう関係すんの?」
彼の説明に理解が追いつかず、思わず待ったをかける。
「ファムは、重力の正体は何か知ってるよな?」
「え?あ、うん。
星の持つ万有引力と遠心力が足されたやつだろ?」
物質は重ければ重いほど物を引き寄せる力が働くというのが、確か万有引力だったはずだ。
星は重いから、それに引きずられることによって重力が発生している。
しかし星は回転しているので、万有引力とは逆の向きに対して遠心力がかかるから、その分軽くなる。
この力の合計が重力だった……と、確か小学校の理科で習った記憶がある。
「そう。
つまり、星の中心から離れれば離れるほど、空へ行けば空へ行くほど、その重力は軽くなる。
ここから空間中の重力分布図を計算して、正常な空間の方角がわかるようになるわけだ。
あとはこの正常な重力分布と、歪んでる空間の重力分布を重ね合わせれば、魔力溜まりの方角、つまりその奥にある空間の穴の位置がわかる──んだが……」
チラリ、とメアリーとステラの顔を確認するレン。
しかし2人とも何を言われているのかちんぷんかんぷんとあった様子で、頭の上に疑問符を浮かべていた。
「大丈夫だ、2人とも。
俺もレンが何を言ってるかさっぱりわからん」
1ミリも理解できなかったが、まぁ、とりあえずダンジョンの空間の歪みがわかって、ついでに空間の穴がある場所もわかるすごい魔具、ということだけは分かった。
魔術基盤(または魔術陣、サークル)
ルーンを描かずに発動する代わりに、ある特定の魔術のみ発動できるように作られた道具(=魔具)を動かすのに必要なプログラムのこと。
見た目は魔法陣と言われて想像するような感じで、円の外周にルーンを刻むことで使えるようになる。
魔術基盤に魔力を流すことによって魔具は起動する。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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