美少女な俺様がスライムを討伐する!
異世界生活6日目。
俺は、ちゅんちゅんと鳴く鳥の声で目が覚めた。
「んぅ……朝……?」
眠い目を擦って、起き上がる。
昨日は風呂に入ってから寝ようと思っていたのだが、どうやら寝落ちしたようだ。
それにしても、昨晩は久しぶりに夢を見た。
大嵐の中を突き進む船の中で、雨に濡れながら目的地を目指す夢だ。
それにしてもすごい雨だった。
まるでバケツをひっくり返したみたいな雨で、なぜか今でもその雨に濡れたままのような感触が──ん?
「すぅ……はぁ……」
俺は、一度心を落ち着けるために深呼吸をした。
しかし、吸い込んだ空気に混じるのは、わずかなアンモニア臭。
「……」
嫌な予感がして、背筋を冷や汗がダラダラと流れていく。
いやだ。
認めたくない!
まさか!
まさかこの歳になって布団に世界地図を描いちゃうことがあってたまるか!
俺は現実の逃避先を求めた。
そうだ。
これは夢精だ。
夢精の女版みたいなやつだ、きっと!
そうに違いない!
男がそういうことをしてしまうことがあるなら、きっと女の子だってしてしまうことだってあるはずだ。
「……なわけねぇだろ」
仕方ない。
認めるしかない。
この臭いはもうどう頑張ってもおしっこだ。
俺は──お漏らしをしてしまったのだ……ぐすん。
盛大なため息をついて起き上がった。
(仕方ない、早く隠蔽工作を済ませるか)
じゃないと朝食に呼びに来たメアリーたちに見つかって笑い物にされるに違いない。
俺は履いていた青のプリーツスカートやらを脱ぎ去って、一昨日買った薄いベージュのワンピースに着替えた──ところで、部屋の扉がコンコンとノックされる音が聞こえた。
(ま、まずい!?
このままだとおねしょがバレる!?)
俺は慌ててシーツをベッドから引っ剥がすと、脱いだ服と一緒にベッドの下に突っ込んで隠す──が、その時、運悪くもそのシーツに足を取られ転倒。
不意のことに俺は反応できず、強く頭を打った──ところで、俺の意識は覚醒した。
「──はっ!?」
今となっては見慣れた天井が、俺の視界に映し出される。
一瞬、気を失っていたのかと思ったが、背中の布団の感触からして、どうやらさっきの出来事は夢の中の話だったことに気がつく。
「よかった……」
安心して、ほっと一息つく。
……しかし、どうやら試練はそこで終わりではなかったらしい。
「……」
ほっと安心して力が抜けたせいだろうか。
それまで下腹部にあった、張り詰めた尿意が、じょろろろろろと音を立てて解放されていく感触が、太ももの内側を伝って水たまりを作った。
「……拝啓、神様。
どうか私に、時間を巻き戻す超能力か汚物を隠蔽する超能力をください」
そう願う俺の目尻に大粒の涙が光っていたということを知るのは、自分の他にはいなかった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「──メタモライズッ!」
世界地図の隠蔽は勇者化の権能で解決するということまですぐに発想できたのは僥倖だった。
「ありがとう、神様……ッ!」
思わず、指を組んで神に感謝を捧げる。
勇者化。
俺の下腹部にある淫紋──正確には聖痕だが──に魔力を集中させ、呪文を唱えることでなることができる、俺の第二形態。
この姿になると、俺の想像力と魔力の限りで、あらゆる事象を起こすことができる。
要するに、魔術ではなく魔法が使えるようになるのである。
俺がこれを思い出せたのは本当に不幸中の幸いだった。
マジで神様には感謝しかない。
(神様の方も、まさか最初の魔法がこんなことに使われるとは思いもしなかっただろうなぁ……)
こんなシステムをつけてくれた神様には少し可哀想だが、いつかは試そうと思っていたことだ。
……あ、魔法の方ね?
決しておしっこを無かったことにすることじゃないからね?
そこ勘違いするなよ?
それから俺は、着替えを持って浴場に直行した。
昨日はお風呂に入ってから寝ようと思っていたのに、そのまま寝ちゃったからな。
このままじゃ血生臭い臭いが一生ついて回る。
脱衣所に到着した俺は、空いているロッカーを開けて着替えをぶちこみ、湯着に着替えた。
脱いだ服は奥の部屋にある、元の世界でいうところの洗濯機の中に全部放り込む。
まぁ、ただ正方形の箱の中に小分けにされたスライムがぶちこまれてるだけのものなんだけど。
(スライムってほんと便利な魔物だよなぁ……)
体は洗ってくれるし、洗濯もしてくれるし、食器洗いもしてくれるし、掃除関係は全部スライムがやってくれている。
初めて体験した時はちょっと怖かったけど、一度経験した今となってはもう慣れっこだ。
俺は鼻歌混じりに髪を纏めると、浴室へと続く扉を開けた。
するとそこには、1人の見知った青年が、なんかでっかいスライムに食われてた。
「……え?」
⚪⚫○●⚪⚫○●
「ぷはぁ、助かったぜ……。
サンキュー、ミカネ。危うく溺死するところだった」
「いや、まぁそれはいいんだけども」
俺は、床に落ちた拳大の魔石を拾いながら、スライムからドロップしたのだろうゲル状のぷるぷるしたものに塗れた青年──レンの様子を観察した。
目立った外傷はない。
少し湯着が爛れたみたいに穴が空いているくらいで、火傷のような跡は見受けられなかった。
「……何があったの?」
浴場の水路へ視線を移すが、体を洗ってくれるリッカースライムは現在。
ということは、さっきのスライムはまた別の種類だろうことが予測できた。
「それがそのスライム、薬湯の中に隠れてたみたいでさ。
湯船に浸かろうとした瞬間に襲ってきたんだ。
だから俺も何が何だか……」
「え、なにそれ怖っ」
「たぶん、そこの排水溝から迷い込んできたんだろう。
スライムはどんな隙間でも通り抜けられるからな……」
言って、ブルブルと体を振るわせる。
ちょっと水遊びした後の犬みたいでかわいい。
「……まぁ、こればっかりは仕方ないさ。
俺の故郷でも何回か似たような事件はあったし。
ミカネも、風呂に入る時は排水溝とか気をつけろよ?」
彼はそう言うと、俺の頭をポンポンと撫でてその場を後にした。
(排水溝……ね)
撫でられた頭に手を触れながら、彼の背中を目で追いかける。
地球だと、田舎の方ならクマが庭に侵入してくる事件とか、海外でもプールにワニが忍び込む事件とかもそこそこ起きていた。
これが異世界になると、あんなでかいスライムが人を襲うようになるのか……。
(氷魔術、メアリーに習っておいてよかった……)
俺は水路の前に腰を落ち着けると、リッカースライムを体に纏わせながらそんな感想を抱くのだった。
ᛞ
1日を意味するルーンです。
コアイメージは『ルーチンワーク』。
このルーンは、間に挟まれた術式を、込められた魔力が続く限り何度も繰り返し発動し続けるようにしたり他のルーンを上に重ねて使うことによって、発動を条件づけたりする事ができます。
漢字一文字に変えると『慣』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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