美少女な俺様が世界の危機を実感する!
後半ちょっと生臭くなりますが、ストーリーの展開に重要なシーンですのでご了承ください。
お礼を渡し終えた俺は、2人を誘って食堂まで夕食を摂りに行くことになった。
「そういえば、今日面白い話を聞いたんだけどさ」
料理をトレイに乗せて席まで運びながら、不意にメアリーが口を開いた。
ちなみに今日の夕食のメニューはラーレと呼ばれる、ピザを何層にも重ねたみたいな料理がメインである。
「近々、アガレト皇国の皇都アガレティアで、剣術の大会があるんだって。
しかもなんと優勝者には賞金10万ギルと、皇都の地下に封印されてる皇都迷宮の挑戦権が得られるみたいなんだけど、その迷宮、噂によると勇者の言い伝えに登場する白狼の迷宮にすっごく似てるんだって!」
「勇者の言い伝えって、もしかして前に言ってたやつ?」
勇者の言い伝え、というのに出てくる勇者は、おそらく俺のことだろう。
メアリーとステラは、それを元に俺が勇者であると見抜いたみたいだし、ユーリア冒険者ギルド支部のギルマス──オウルコスも、それを元に俺の姿を想像していた。
だが、俺が聞いているのは勇者がユーリアの街に現れるという話くらいだ。
彼女が先程口にした勇者の言い伝えというのが、もしそれの続きだとしたら──。
「そうだよ?」
反応するところそこ?みたいな顔で、怪訝に返答する彼女に、俺は頭を抱えた。
なんてことだ。
もし俺の想像が正しいなら、勇者の言い伝えというのは俺に関する予言書だ。
そしてここに草原グールがタイミングよく仕掛けてきていたことを鑑みるに、おそらく敵も同じくその予言書を手に入れて、俺の行動を先回りしているに違いない。
となれば、その内容を知らない俺は、全てにおいて後手に回ってしまうことになる。
(世界の危機……。
これまで全然意識してこなかったけど、まさかこんなところで自覚させられるとは……)
「メアリー。
その言い伝えっていうのは、どういう内容なんだ?」
気を取り直して、俺は真剣な眼差しで彼女をみる。
まだその言い伝えとやらが予言書と決まったわけじゃない。
2人が特に慌てていない様子を見るに、おそらくそこまで細かくは描かれていないのだろう。
あるいは、序盤のあたりまでしか書かれていないとか、魔王を倒すには何が必要とか、そういう重要な情報しか書かれていなかったりするなら、まだ勝機がある。
「吟遊詩人が昔から歌ってる歌の1つだよ。
結構長いけど有名で、勇者誕生から魔王の討伐まで、細かく歌われてるの」
……どうやら、この世界は俺が思っていたより相当ヤバい事態に直面していたようだった。
絶望のあまり、食べかけのラーレを取りこぼす。
不幸中の幸いか、トマトソースが服につく事はなかった。
(いや、でも逆に考えるんだ。
吟遊詩人が歌い継いでいるってことは、歌う詩人によって所々ストーリーが改編されている可能性が高い)
取りこぼしたラーレを口に運んで、考えを改める。
前世のギリシャ神話みたいな感じで、いくつかの説とかに分かれていたりするなら、まだ相手が偽典をつかまされている可能性に賭けることだってできるかもしれない。
2人揃って不審な顔をしてきたので、俺は先程の考察を口にした。
「……っていう事は、もしかして魔王軍がアガレト皇国に隠れてるかもしれない、ってこと?」
「可能性は高いと思う」
ステラの予想に、俺は相槌を打つ。
2人が話すには、白狼の迷宮というのは、勇者が初めて精霊の力を使い、巨大な白い狼を召喚して戦う場所らしい。
言い伝えによればその迷宮の奥には、勇者の従者が魔王討伐に用いた、白銀の剣が封印されていて、魔王軍の幹部がそれを護っているらしい。
その白狼というのは、おそらくガイドラインの事だろう。
ガイドラインの力を俺が借りなければ倒せない相手が、その剣とやらを護っているのだとしたら、俺はこれから相当苦戦するハメになることが予測できる。
これは、本当に今のままの戦闘力じゃあ、相手にならない気がしてならないな……。
どうにかして、短期間で戦力を増強しなければ。
……その為にも。
「よし。
2人とも、明日は1日、剣術の稽古にあたることにしよう。
今のままじゃ間違いなく返り討ちにあう。
だから少しでも戦闘能力を底上げしておこう」
「そうだね。
私もそれがいいと思う」
「私も」
こうして、俺たちの明日の予定が決まった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
夕食を終えた俺は、レンに明日の予定を伝えるべく、食堂でそのまま分かれる事になった。
それに、忘れていたけど荷物を全部レンに預けたままだったんだ。
下着とかいろいろ取りに行くついでに、明日の予定をそのまま伝えよう。
(……それから、あと、もう一つ)
そのことを考えると、心臓がバクバクと破裂しそうなくらい高鳴っていくのが、まるで耳元に心臓が移動してきたみたいに感じられた。
大丈夫。
俺はちょっと、彼の記憶に自分の姿をこびりつかさせてやればいいだけなんだ。
それに、念のためにお礼の品を買う途中でこっそり抜け出して練金屋で買ってきたアレとアレもある。
大丈夫、きっと失敗しない。
俺はかわいいんだ。
かわいいの前では、男は無力。
言い聞かせるように心の中でつぶやいて、深呼吸する。
さぁ、もうレンの部屋は目の前だ。
俺は黒いスカートの裾をぎゅっと握りしめると、意を決してレンの部屋に忍び込んだ。
「……」
部屋の中は真っ暗だった。
天井の鉱石灯に灯りは灯っておらず、メアリーとステラの部屋と同じ間取りのベッドルームの方から、何やらギシギシという音が聞こえるばかりだった。
「……?」
不意に、鼻腔の中に何やらイカくさい臭いが漂ってきた。
この体になって嗅いだ記憶はないが、前世、男だった時代にはよく嗅ぎ慣れた臭いだった。
それがなんの臭いかまでは思い出すことができなかったが、しかしそれも束の間の話。
レンガの壁を超えてベッドの方に顔をひょっこ○はんしてみると、そこには、今日買ってきたばかりのショーツを片手に、何やら荒い息をしながら必死に上下──って。
「キャァーーーーーーーーッ!?」
「イヤァーーーーーーーーッ!?」
そこには、新品の俺のショーツ相手に必死に自分を慰めているレンの姿が、鉱石灯の灯りの中に映っていた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
イカくさい臭いが充満する中。
レンはベッドの上で正座させられていた。
夏の夜風は冷たく、むき出しになった下半身がスースーと冷たそうだ。
「使用済みの下着でそういうことする人がいるらしいって聞いたことあったけど、マジでするやつがいたとは思わなかったわ。
しかもそれが、よりにもよってお前だなんて……」
はぁ、とため息をついて、そのブツを睨みつける。
ちなみに、ここにある新品の下着は、フィッティングのために一回つけたブラ以外は、直接履いたりはしていない。
この世界のショーツは紐パンが主流なので、今自分が履いているものの上からつけて、身につけた際の見た目などを確かめるからだ。
無論、着けて見せたレンはそれを把握しているはずだから、そこがソコに触れていない事は分かっているはずで。
……にしても、こいつの意外とデカイな。
体が外国人モデルだからか?
「いや、えっと、これは……その……つい、魔が刺したっていうか……」
ゴニョゴニョと言い訳を試みるレンに、俺は『ふぅん?』と相槌を打つ。
「まぁ、かわいすぎる俺様が一度身につけたもので?
そういうことをしたくなる気持ちは?
まぁわからんでもない。
だから、これは半分は俺様のかわいさに免じて許してやることもやぶさかではない」
前世ではそんなことしたことなかったけどな。
俺のオカズは主に漫画だったし、そういう道具は一切買ったことがなかったからな。
頷きながらそんな風に答えてやると、彼は暗くしていた顔をバッと持ち上げて、期待の眼差しを向けた。
「それに、まだ玉の中のモノは出してなかったみたいだからな。
いくつか条件を飲んでくれるなら、今回の件は無かった事にしてやってもいい」
まぁ、最初から、何かしらえっちなアクシデントを起こして、レンが不埒な視線を誰かに向けるたびに俺のことを思い出させるよう、記憶に染み付かせさせる予定だったし。
それがたまたま彼自らヤってくれたというだけの話なのだ。
「わ、わかった!
何でもする!」
「ん?今何でもって言った?」
俺は、そんな風に懇願する彼のセリフを聞いて、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、スカートのポケットから、あるモノを取り出した。
いやぁ、異世界っつっても、やっぱり人間。
こういうのも売ってるもんなんだよなぁ、長くてぼこぼこしてるやつ。
「ヒッ!?」
レンはその凶悪な形状を目にすると、短く悲鳴を上げた。
どうやらコレで、今から何をするのかを察したらしい。
俺はニヤニヤと引き攣った口端をさらに吊り上げて三日月にすると、彼の心に一生自分という存在を染み付かせるべく、行動に移る事にした。
「さぁ、これから生臭い祭りを始めようか!」
「ひっ、ひぎゃあぁぁああああッ!?!?!?!?」
その翌日から、どうやら男子寮には幽霊が出るらしいという噂が広まるのだが、この時はまだ誰も知る由が無かった。
ᛚ
水を意味するルーンです。
コアイメージは『コロコロと移り変わる受動的なモノ』。
水属性魔術の基礎ルーンで、水を生成したり、あるいは感情に作用したりすることができます。
漢字一文字に変えると『月』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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