美少女な俺様が情報を買う!
バーバラ曰く、この世界での香油の役割は大きく分けて3つあるようだ。
1つ、髪の毛のトリートメント。
2つ、香り付け。
3つ、エンチャント系支援魔術の媒介。
と言っても、一般的に用いられる用途は上の2つらしい。
薬湯のお湯やリッカースライムの粘液は、髪にダメージを与えやすく、すぐに傷んでしまう原因になる。
そのため、女性はよくトリートメントとして、また髪の毛の香り付けを兼ねて香油を髪につけるそうだ。
物によっては、一回つければ1週間〜1ヶ月も効果を発揮してくれる物もあるらしく、その点は自分の魔力の質などと相談して決めるらしい。
「──それで、最後がエンチャント系支援魔術の媒介として用いる場合の香油なのだけど、これは一般に魔術香油と呼び分けられているのよ。
そこの彼が頭につけているのが、ちょうどそれにあたるかな」
彼女──バーバラの言う通り、彼は髪にその魔術香油というものを付けていた。
今朝はその魔術の気配のせいで、魔術を使って隠れてこっちをのぞいていたのかと勘違いしてしまったが……。
(全く、ややこしい薬品だな…….)
バーバラは棚の中から、サンプルなのだろう、香油の入った箱を引っ張り出した。
ニスが塗られた木製の四角い箱で、蓋を開けると中には赤色の軟膏が詰まっていた。
香油というから、どちらかというと液体を想像していただけに、少し意外だった。
それにしても、たしかにここから魔術の気配がする。
どんな魔術なのかを見極めることはできないが、かなり複雑な感じで、普段使う魔術の気配と少し違うようだ。
これなら、これからは見間違えずに済む……かも……しれない(?)。
「それは、なんの魔術が?」
気になったのか、レンが覗き込みながらバーバラに尋ねる。
ちなみにメザイアの方はといえば、本来なら彼女が向かうはずだった用事を肩代わりした為に、今はここにはいない。
簡単にその時のことを説明すると、バーバラ曰く『もし代わりに用事を済ませてくれるなら、知り合いの呪術研究家に話を取りつけてあげるわ』だそうで、意気揚々と出て行っていた。
「これは……なんだったかしら。
火に強くなる、とかだった気がするわね。
……いえ、待ちなさい。
もしかすると逆だったかもしれないわ。
火炎草を使ったことは覚えているのだけど……どうだったかしら?」
「「いやこっちに聞かれましても」」
思わず彼女にツッコミを入れる2人。
しかし彼女が尋ねたのは、どうやら俺たちにではなく、いつの間にかその背後に立っていた何者かに対してのものだった。
「火に強くなる方だゼ。
ラベル、剥がれて床に落ちてたから気ぃつけろヨ」
「「!?」」
驚いて、2人一斉に振り返る。
するとそこには、りんご3つ分くらいしかなさそうな背丈の、いわゆる妖精っぽい存在が宙を漂っていた。
「ケケッ、驚いてやんノ!
それにしてもお前、キレーないい目玉してんナァ?
片っぽ食ってもいいカ?」
「いいわけあるかッ!?」
驚き半分、困惑半分。
思わずレンの背後に隠れながら、パイルバンカーを隠してある方の手を向けて牽制しつつ抗議の声を上げる。
妖精の姿は、日本人が思い浮かべるようなティンカーなベルみたいなやつではなくて、どちらかといえば西洋の民間伝承に出てくるようなタイプの容姿をしていた。
エメラルド色の肌にトンボのような2対の羽。
ユラユラと宙を漂う濃い緑色の髪に、長く尖った耳。
瞳の抜けた、真っ黒く塗りつぶしたような眼球。
服は着ておらず、全身が魚のような鱗に覆われていて、腰からは太くて長い尻尾が生えている。
完全に人を攫って食べるタイプの妖精である。
俺の眼球を食おうとしたことからも間違いなく言えるだろう。
「だめよ、████。
私の大事なお客なんだから。
お腹空いてるならこれで我慢しなさい」
言って、戸棚の中から水晶か何かでできているように見える花のようなものを妖精によこした。
「チッ、しゃーねぇナ。
真名で命令されちゃぁ逆らえねぇヨ」
妖精は花を受け取ると、酷く不服そうな台詞を残してその場から消えた。
「な、なんだったの、今の……」
「そ、そうだな……。
具現化した精霊ではなさそうだったが……」
ポツリ。
思わず口から頭の中身がこぼれ落ちる。
それに同意するように、レンが相槌を打った。
「ごめんなさいね。
彼、私が契約してる悪魔なのよ」
あれが、悪魔……。
そういえば、店の前でメザイアが言っていたな。
魔女というのは、悪魔と契約してウィッチクラフトと呼ばれる体系の魔術を使うものだって。
ならば、この人ならわかるかもしれない。
悪魔という存在がなんなのか。
魔物とはどう違うのか。
そして、あの草原グールの言っていた言葉の意味が。
俺は意を決すると、恐る恐る彼女に尋ねることにした。
「──あの、悪魔ってなんなの?」
質問の意味がわからなかったのか、バーバラが小首を傾げたので、疑問に至った経緯を話した。
「……そうね。
悪魔と魔物の違いは、簡単に言えば『どこで生まれたか』に集約するわね」
バーバラは、悪魔と魔物の違いについて、次のように説明した。
悪魔と魔物は、本質的には同じものらしい。
ただ、どこで生まれたか、どうやって生まれたかによって、それが区別されているだけのようだ。
例えば、魔物がどのようにして発生するのか。
この国の東にあるヨイツ森国にある魔術学校で教鞭を取っているというとある魔物学者の話によれば、全て、スライムの変異種である可能性が高いそうだ。
まぁ、簡単に話すと、スライムがある動物を取り込んだ時に、その姿を模倣する事で生きながらえるということを繰り返すうちに、模倣していた姿がいつの間にかデフォルトになってしまったものが魔物と呼ばれるものらしい。
例えばオークなら、豚と人間か何かの霊長類を取り込んで、その姿を真似たまま、それが他の種と交配して進化していった、みたいな感じだ。
一方で悪魔はと言えば、単純に魔力だけで体が構成されている存在であり、本来姿形は自由自在──すなわちスライムみたいな存在なのだという。
ただ、この世界では形がなくては生きていけない為、悪魔たちは何かの動物に取り憑いたりしてその姿を模倣して生きているのだとか。
「この世界では……というと?」
話の中に疑問に思う部分が現れたので、尋ねてみる。
しかし、これは知人の呪術研究家とやらの受け売りだそうで、彼女にはそこまでしか知識がなかったようだ。
バーバラは『さぁね、それ以上はあんまり興味がないから知らないわ』と最後に付け足して、掌をこちらに差し出した。
「1000ギルでいいわよ」
「……えっと?」
突然言われたそれが、いったい何を意味するのかわからず小首を傾げる。
が、しかしレンは意味が分かっているようで、そそくさと財布の中から言われた金額を引っ張り出して、俺の手に握らせた。
「情報料だ。
お前はこの世界に来て間もないから知らないだろうが、この国ではこれが常識なんだ」
「な、なるほど」
日本では払う必要がなかったけど、アメリカとかに行ったらチップを払うのは礼儀だよ、みたいな感じの話か。
(次からはいくらか値段を聞いてから質問することにしよ……)
日本円換算だと1万円くらいか。
結構ぼったくられて気がするが、今回は勉強だと思って素直に支払うことに決めたのだった。
ᛏ
戦略を意味するルーンです。
コアイメージは『戦の指揮を取る司令官』。
操作系の基礎ルーンで、例えば一度に沢山の武器を魔術で操って攻撃するとか、自分のパーティに使うことで士気を底上げしたりとか、心を冷静にさせて、計算力を高めたりする事ができます。
逆さに書くことで『戦の指揮を乱すもの』という意味に変わり、組み合わせ次第では相手の魔術を乗っ取る事ができたりします。
漢字一文字に変えると『揮』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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