美少女な俺様が香油を買いに行く!
ユーリアの街の商業地区の一角。
俺たち3人は、買い物の前にまずは腹ごしらえをしたいということで、今日買う予定のものとか欲しいものとかを色々相談するついでに、近くのレストランで昼食を摂っていた。
「ん〜っ!
やっぱりここのタマゴサンドは絶品だワン!」
ペロリ、と口元についたソースを舐め取りながら、メザイアがタマゴサンドの感想を述べる。
しかしその実態は、どちらかといえばタマゴサンドというよりも、前世でいうところのエッグベネディクトに近い。
やや固焼きされたマフィンには、ハムやベーコン、何かの果物(色はアボカドっぽい気がするけどなんか違う)にポーチドエッグらしきものとチーズが挟まれており、なかなか豪勢な一品だ。
それだけあって値段もそこそこで、100ギル(日本円換算で1000円から2000円)。
まぁ、単品でその値段というわけではなくて、ブドウの果実水とフライドポテトらしいもの(形状はどちらかといえばK〇C寄りか)、それからナゲットらしきものがセットなので、まぁ適正価格ではあるのだろう。
なんというか、気分は完全にゴールデンアーチのファストフード店だ。
思わず注文の時にお姉さんに『スマイル1つ、お持ち帰りで』とか頼んじゃいそうになったけど、そこはなんとか踏みとどまった。
「そうなんだ。
また来た時にはそっちも頼んでみようかなぁ」
ちなみに俺が注文したのはオークサンドだ。
前世だとビッグな方か、あるいはテリヤキチキンを頼んでいたので、似たようなお肉のものをチョイスした。
オークというのは、前世の世界だと豚の魔物みたいなイメージだが、食べてみた限りでは、どうやらこちらでも豚肉らしい。
味は……そんなにだけど。
(たのむ方をしくじったかな……)
てっきり、甘めの味付けを期待していたのだが、出てきたのはしょっぱい味付けのトンテキとトマトなどの野菜、それからチーズがサンドされたものだった。
このチーズがそんなに美味しくなかったのは、すごく残念である。
「そうだな。
この店はイタリカ全土でチェーンができてるから、次の街でも多分見つけられるさ」
そんな俺の様子に、レンは苦笑いしながらフォローを入れる。
対する彼が食べているのは、オークのステーキセットだ。
ご飯とパンがない代わりに、マッシュポテトが主食として腰を下ろしている。
俺なら絶対ご飯が欲しくなるところだ。
「それで、まずはどこから見て回ろっか?」
閑話休題。
昼食を全てたいらげ終えた俺たちは、早速今回の計画の話を始めることになった。
今日の買い物の目的は、メザイアによるレンへのハンカチの弁償、それからメザイアお気に入りの香油専門店への案内。
俺の個人的な目的を入れると、普段着や下着のセットにカバンの購入と、それからメアリーとステラへのお礼の購入だ。
運良く2人への恩返しができるタイミングがあって本当に助かった。
まぁ、ついでにレンにも、初日にあの森から助けてもらったり、この街に連れてきてくれたり、あと昨日の草原グールとの戦闘でのフォローしてくれたお礼とか買ってやってもいいけど……。
流石に本人の見てる前で買うのはなぁ。
なんかちょっと、気恥ずかしいというか。
それに、コイツは曲がりなりにも俺の命の恩人。
メアリーやステラにあげるようなものよりも、少しいいものの方がいいだろう。
何をプレゼントすればいいのかは、まだちょっと分からないけど。
チラリ、と彼の方に視線を向ける。
そういえば、こいつの方が俺より異世界歴長いんだよなぁ。
何年くらいになるんだろ?
そんなことを考えていたからだろうか。
2人に向けて発言していたつもりが、レンに尋ねている形になってしまい、少し狼狽えた雰囲気で『そ、そうだな……』と、少し考えるそぶりを見せた。
「俺のハンカチとかは最後でいいから、先に香油を見て回るのはどうだ?」
その彼の提案に、メザイアが首を傾げた。
「いいのかワン?」
「あぁ、別に急ぎのものでもないしな」
なんともないとでも言うように、あっさりとそう応えてみせる。
なんだかいつにも増して少し落ち着いているような気がするが、もしかして緊張してるのか?
そう思ってじっ、と彼を観察していると、先ほどからずっと彼の視線が一点に集中していることに気がついた。
(……まさか!?)
ふと、彼の視線を辿ってみる。
するとその先には、メザイアの開いたワンピースの胸元、その谷間に視線が集中していることに気がついた。
更によくよく見れば、メザイアの方もその視線に気が付いているのか、少し頬が紅潮している。
「ぬぐぐ……!」
こんなにもかわいい俺様が隣にいるというのに、別の女に鼻の下を伸ばすとは……!
腹の底から、何かふつふつと怒りが込み上げてきた俺は、不埒な視線を向ける彼に、少し分からせてやらねばなるまいと、ある計画を画策するのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
食事を終えた俺たちは、まずは香油の専門店に向かうことになった。
メザイアの話によれば、香油は練金屋と呼ばれる店でも購入することができるようなのだが、やはりおすすめは専門店に行くことらしい。
というのも、練金屋に売られている香油は、大体見習いの錬金術師が練習で作ったものが置いてあるくらいで、質があまり良くないのだとか。
「へぇ、この世界には錬金術師なんているんだ」
道中、メザイアの説明に軽く相槌を打つ。
「そうだな。
あの店のイメージとしては、元の世界でいうところの薬局に近いかもな。
パンとかはそこらの店より安く買えるから、冒険者が食料を揃えるときは大体そこに行く」
なるほど薬局……。
(ということは、アレもありそうだな)
そんな話を続けながら道を歩いて数分。
一行はとある店の前にたどり着いた。
看板の木には、『魔女バーバラの香油専門店』と彫られている。
「魔女?」
「ウィッチクラフトっていう系統の魔術を使う人のことだワン。
悪魔と契約して、それに因んだ知識と魔術を行使するんだワン」
悪魔──。
その言葉に、俺の脳裏にある言葉が蘇る。
『せっかくの勇者と悪魔の熱いバトルだったのによ』
昨日、あの草原グールが吐いた言葉だ。
そういえばあいつは自分のことを悪魔だと言っていた。
俺はてっきり魔物だと思っていたのだが、何がどう違うのだろうか?
「なぁ、その悪魔ってのは──」
そう尋ねようとした時だった。
不意に、店の扉が開いて、1人の少女が姿を表してきた。
紺色の大きな三角帽子を被った少女で、身長はメアリーと同じくらい。
光の加減によっては虹色に見えるその金髪は長くて、人の耳に当たるあたりからは、横に長い、白くてふわふわしてそうなケモミミが覗いていた。
「あ、バーバラだワン!」
呼ばれた少女──バーバラは、紺色のローブを翻してこちらに振り向いた。
「あら、メザイアじゃない。
もしかして店に用事?」
やや高飛車気味な口調で、彼女の呼びかけに応じるバーバラ。
メザイアは彼女に、今日店に来た目的を話した。
「実は、友達が香油を買いたいらしくて。
それで、バーバラのお店を案内していたんだワン!」
「そう、いい子ね。
ご褒美にジャーキーをあげるわ」
言って、肩から下げていた紺色のポーチから、一切れのジャーキーを取り出してメザイアの鼻先まで持ち上げてみせる。
「わーい、ジャーキーだーっ!
──って、私はペットじゃない!だワン!」
バシッ、とバーバラの手を払い除けてノリツッコミを入れる。
「だって、あなたいつもワンワンうるさいじゃない」
「それはバーバラが作った香油のせいだよ、ワン!?」
「そういえばそうだったかしら?」
「そうだワン!
これはもう忘れもしない先週の土曜日のこと……!
明日どうせ仕事がないからって試作の香油を勝手に髪に塗られて、それからずっと治らないままなんだワン!
早くどうにかして欲しいワン!
正直恥ずかしさでどうにかなりそうなんだワン!」
メザイアの追求に、柳に風と受け流すが、尚も彼女の追求は止まらない。
それにしても意外なところで衝撃の事実が発覚したものだ。
俺はてっきり、彼女のど〇ぶつの森の住人みたいな語尾はキャラ作りでやっていると思っていたのだが、まさかそんな裏話があったとは。
俺たちは同情の視線を彼女に向けた。
「どうにかしろと言われても。
どういう仕組みでそうなったのか分からないから、治しようがないわね」
「そんなぁ……!
せっかく見つけたと思ったのにワン……」
そのままその場に項垂れ、ののの、と地面に指を擦り付けるメザイア。
もしかしたらあの時俺のことを舐めまわしてきたのも、実はその呪いの香油のせいだったのかもしれない。
……俺、こんなところで香油買って大丈夫なのか?
そんな俺の不安げな感情が顔に出ていたのか。
バーバラはニコリと軽く笑みを浮かべながらフォローを入れた。
「大丈夫よ。
このお店は、顧客に悪戯なんてしないから」
フフフ、フフフフフフフフフフフ。
まさに、悪魔の笑みとでも形容できそうな笑い声が、なんとも俺には不気味に思えた。
……まぁ、結局。
『その点については本当に安心していいだワン』というメザイアの説得もあり、俺はここで香油を買うことになったのだが、それはまた、次のお話で。
ᛊ
太陽を意味するルーンです。
コアイメージは『強烈な光』。
基本的には ᚲ の上位互換みたいなものだという認識で大丈夫です。
夜の闇でも周囲を明るくする《夜払い》の魔術に使われる他にも、相手に注目されやすくする魔術としても使えますし、組み合わせ次第では相手を興奮させたりする精神攻撃にも使えます。
漢字一文字に変えると『魅』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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