美少女な俺様がデバガメに遭う!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……っ」
異世界生活4日目の朝がやってきた。
「んっ……くぅ……っぁ」
実に清々しい朝だ。
「ふぅ……ふぅ……っん……っ!」
気温もそこそこ高くて暖かいし──
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……っんっ!」
何より朝から眼福な光景を目の当たりにすることができた。
「んくぅ……っあ……っ!」
大きな胸に抱かれる感触は心地よくて──
「ふっ、ふっ、ふっ、ふぅ……っ」
俺が抱き枕にされてるのか、それともステラが抱き枕にされているのか、もうわからないくらいだった。
「ふぅ……。
……それにしても、いい匂いだったなぁ」
俺は、濡れた手を首から掛けたタオルで拭いながら、彼女の髪から漂っていた、りんごのような甘い匂いを思い出し、汗で濡れた自分の腕に鼻を近づけた。
一晩中一緒にいたから、もしかしたら匂いが移ってるかもしれない。
そんな期待を込めてのものだったが、しかしそこから臭ってきたのは、少し塩味のある臭いだった。
要するに、汗臭かった。
「……まぁ、運動した後なんだし、仕方ないか」
俺は、手に持っていたブレイカーを鞘に戻して、砦内に設置されてある井戸の方へと足を運んだ。
……え?
さっきまで俺が何をしていたのかだって?
そりゃ、お前、アレだよ。
朝の日課。
套路さ。
これまではこいつがなかったから、徒手空拳中心の套路だったけど、今はちゃんと相棒がある。
自分のものじゃないものだから、しっかり手に馴染ませる意味も込めて、今日は少し長め、かつキツめに鍛錬していたのだ。
おかげで朝から汗だくだく。
腕を振るたび、腰を振るたび、何をするにも水滴が宙を飛んでぴちゃぴちゃと音が鳴る始末だ。
俺は周囲に誰もいないことを確認してから服を全て脱ぎ捨てると、井戸から水を汲み上げて頭からかぶった。
──ザパァ……。
頭がこんなに濡れたのは久しぶりだ。
スライム風呂じゃあ、頭をガシガシ洗うことなんてなかったから、違和感がすごい。
「ふぅ……きもちいい……」
やはり、外ということもあって開放感もあるせいか、前世での風呂よりもよっぽど清々しい気分になれる。
まぁ、水はとてつもなく冷たいんだけどね。
火照った体とこの高い気温には、ちょうどいいくらいだよ。
「昨日もちゃんとお風呂には入ったけど、やっぱり日本人。
ちゃんとした風呂に浸かりたいよなぁ……」
2回目の掛け湯ならぬ掛け水をして、すっかり体が整った俺は、予備に持ってきていたタオルで全身を拭──おうとしたところで、不意に背後から木の枝を踏み折る音が聞こえてきた。
「──ッ!?」
「あっ、えっ、と、これ、は、その、えぇっ……と……!?」
振り返れば、少し離れたところに見知った茶髪の青年が立っていた。
言わずもがな、レンである。
なぜだ?
なぜこんなところに人が?
俺、ちゃんと確認したよな!?
恥ずかしさのせいかどうなのか、心拍数がどんどん上がり、冷えたはずの頭がどんどん熱くなっていくのを自覚する。
しかし、それと同時に高速で回転を始めた俺の頭は、ふと、あるものを見つけた。
(……これ、魔術の気配……ということはもしかして!?)
「ち、違うんだミカネ!
これは事故で、決して意図して臨んだ事じゃ──」
「──ぶっころぉおお!!!!!!」
俺の握り固められた拳が、尚も弁明を図ろうとする彼の顔面を射抜くまで、多分、1秒もかからなかった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
今日はユーリアの街でメザイアさんと買い物をする日だ。
なのでメアリーとステラとは、今日は別行動。
代わりにレンが一緒である。
「お待たせ!だワン!」
待ち合わせに決めていた時計塔広場。
その時計塔を背にして待っていると、ギルドのある方角から、1人の背の高い獣人の女性が駆け寄ってくるのが見えた。
ピンク色の髪をふんわりとゆるいローツインテールにした、狐系の獣人である。
前回は飛びつかれて舐め回され、その身につけている香油のせいでかなりひどい酒酔いに似た感覚に陥らされたが──どうやら今回は自制してくれたようだ。
衝動で飛びつかないように、手の甲をつねって必死に耐えている気配に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「それにしても、今日はおさげなんだ、ワン。
とってもかわいくて似合ってる、だワン!」
閑話休題。
体を左右に揺らして色々な角度から俺の髪型を視界に映し、そんな評価をつげてくる。
今日の俺のコーデは──といっても昨日新調した装備しか持ってないからあの服装のままだ。
もちろん手甲とかの鎧装備は外してあるが、念のため武器は全部隠し持っている。
他に変えた場所があるとすれば髪型くらいのもので、ゆるい三つ編みにしたおさげを2本、背中に流している。
かわいいだろ?
この髪型に合わせるなら、せめて伊達メガネと帽子が欲しいところだな。
後別のセットの洋服も欲しい。
ベージュ系のワンピースとかで整えたいところだ。
(10万ギルで足りるかな)
今朝のうちにレンに聞いてみると、1ギルあたりの日本円との関係は、大体10倍から20倍。
つまり、1ギルは約10円から20円ほどに相当するらしく、今の俺の所持金を円に換算すると、約100万円から200万円程となるわけだ。
それだけあれば今日の買い物は楽勝、と言いたいところだが、レン曰く、服は元の世界のものと比べて5倍くらい高いらしいし、香油も同じくらいの値段がする。
これからの旅の目的を考えると、あんまり無駄遣いは出来ないし、5000ギルくらいで収まるよう努力しよう。
……とはいえ、実際に相場を互の目で確認してみなければそれで収められるか分からない。
前世の服の値段の相場が大体4桁だから、こちらの世界なら数千ギルするくらいの覚悟が必要かもしれない。
「ありがとう。
メザイアさんも、今日の服似合ってるよ」
彼女の服は、胸元が開いた、白いレースの肩出し長袖ワンピースをメインとしたもので、上から薄桃色のカーディガンと白のジーンズっぽいパンツで、全体的にペールカラーで纏めていた。
背の高い、黙っていれば大人っぽい彼女にとても似合ったコーデである。
衣装の大人しさに前世じゃ目立つピンク色の髪がとても似合っていて、とても可愛らしく仕上がっている。
ちなみに鞄はといえば、白い革製のものを肩から下げていた。
あまり大きいものではなかったので、多分財布とか化粧ポーチなんかが入っているくらいなのだろう。
俺は鞄とかは持ってないので、お金とかの荷物はレンに持たせることにしている。
なに、今朝の覗きの罰も兼ねて、今回買ったものの荷物持ちもこいつの仕事だ。
今日はこき使っても問題ないだろう。
気分は中世ヨーロッパのお貴族様だ。
……まぁ、彼も彼で、今日は彼女にハンカチを弁償してもらう目的があるからな。
ついでとしてもちょうどいい。
「ホント!?だワン!?
実は今日、ちょっと気合い入れてきちゃったんだー、褒めてくれてとっても嬉しいよ、ワン!」
まるでどう〇つの森のキャラのような特徴的というか、ある意味大雑把な語尾でそう嬉しさを表現するメザイア。
……でもなんだろう。
少し胸の奥が変な感じになるのは。
──こうして、俺の異世界初の休日が、幕を開けたのだった。
ᛉ
友情を意味するルーンです。
コアイメージは『上下関係のない横のつながり』。
上下関係のない横のつながりを持つ関係、すなわち友人間や仲間内に作用するルーンで、要するに魔術の効果範囲を人間単位で設定できるルーンです。
例えば、敵味方が入り混じった戦場で、広範囲に回復魔術を行使してしまうと、敵の方の体力まで回復させてしまう恐れがありますが、このルーンを組み込むことによって、仲間内だけを回復させたりすることができるようになります。
また、支援系の基礎ルーンでもあり、仲間内に様々なバフを与えることができます。
上下逆さに書くことによって、効果対象を『自分の仲間』からそれ以外に設定することができたり、結構便利なルーンです。
漢字一文字に変えると『系』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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