美少女な俺様が女子会を楽しむ!
黒っぽい木製の扉の前。
この砦に来た時に初めに案内されたステラの部屋の前で、緊張した面持ちでスカートの裾を握る1人の銀髪碧眼の少女は誰でしょう。
そう、俺です。
「……(ごくり」
どうも。
どうやら俺を元気付けるためにパジャマパーティーを開催してくれたと言うのに、緊張して部屋の中に入れませんミカネ・ユウことファムです。
生前はあまりモテませんでしたからね。
女の子の部屋にお呼ばれするなんて、実は人生で一回もなかったことなので、ちょっと、いやかなり心臓の音がエグいことになっております。
えぇ。
初めてユーリアの街で同じ屋根の下、しかも同じ部屋で寝た時はもう気が気じゃありませんでしたけど、あの時はもう、ヤケクソだったので(?)なんとかなりましたけど今冷静になって考えてみるとそのですねあのですねこそあどこそあど──。
「あっ、ファムちゃん来てたんだ!」
「うわぁビックリ!?」
「えドッキリ!?」
不意に。
ほんと突然、呼びかけられた声のせいで、某ユーチ●ーバーがリーダーの家の風呂場でミシシッピアリゲーターを見つけた時みたいな悲鳴が口から漏れた。
いや、俺の悲鳴の方にびっくりしたメアリーの方もなんか某テレビ番組の某芸人みたいな反応してたけど。
「え、あ、え、なに!?
ビックリしたのはこっちの方だよ!?」
メアリーは俺の驚き方に戸惑ってか、興奮が冷めきらず、そんな風にしばらく慌て続けたのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「それじゃ、ファムちゃん師匠も到着したことだし、そろそろ始めよっか!
第一回、勇者パーティ女子会!いえーい!」
「いえーいっ!」
ステラの音頭で、オレンジジュースの入った木製のコップを高々と突き上げ、乾杯をし、パチパチと拍手で女子会──パジャマパーティーが幕を開けた。
「い、いえーい……」
ノリについて行けず、やや遠慮気味にコップを上げる。
あぁ、彼女たちの甘い匂いが充満して、どうにかなりそうだ。
自分も美少女だということを、つい忘れそうになる。
それにしても、(ステラたちが砦を)出て行ったのが2日前だとはいえ、結構部屋のものとか残ってるものなんだなぁ、ぬいぐるみとか。
床も、下靴で出入りしているとはいえ砂埃もなく清潔だし、そのまま床に座っても服が汚れない。
……俺の服がゴブリンの返り血やらでドロドロだから、こんな綺麗な部屋を汚してしまうのではないかと不安だったが……。
自分の今の服装を見下ろして、少しだけ口元が緩む。
今着てるこのギンガムチェックシャツの青い亜麻のパジャマは、元々メアリーのものだ。
実にかわいらしいデザインのもので、今日の記念にと、水色のレースのショーツとブラという下着のセット付きでプレゼントしてくれた。
返せるものがないだなんだと断ることもできたが、彼女たちは俺を元気付けようとして尽くしてくれているのだ。
このお礼は、いつかきっと返したい。
視線を2人に戻すついでに、部屋を少しだけ見渡した。
ステラの部屋は、どうやらメアリーと兼用らしく、そこそこ広めの2人部屋だった。
部屋は大きく2部屋に分かれていて、片方がリビング、もう片方がベッドルームといった感じで、暖炉付きのレンガ組の壁で仕切られている。
風呂トイレは無し。
話によれば、寮の共同トイレとお風呂があるそうだ。
ちなみに、今俺たち3人がいるのはベッドルームの方で、メアリーはベッドに腰を下ろしながらジュースを飲み、ステラは自分の机なのだろう、シックなデザインの椅子に腰をかけていた。
ちょっと、楽しくなってきたかも。
「それでは改めまして──」
メアリーがコップを、部屋の中心にあるちゃぶ台みたいに丈の低い机に戻して、代わりにビスケットを手に取る。
棒状のビスケットで、全体的にチョコがついているものだ。
やったね!
異世界でもポッキ◯ゲームができるよ!
「今更だけど、自己紹介からいってみよう!」
棒ビスケットを天に掲げるようにして、ハイテンションに宣言するメアリーに、俺とステラが拍手で迎える。
「えー、ごほん」
ポッキ◯をマイク代わりに、口元に運ぶ。
「私、メアリー!17歳です!
好きなものはちっちゃくてかわいいもの!
ファムちゃん、私のことは是非、お姉ちゃんって呼んでね!」
よろしくお願いしまーす!」
えっ、17!?
前に成人したとか話してたから、てっきり20台前半くらいかと思ってた……。
驚きの感情が顔に出ていたのか、『どうしたの?』とかステラに聞かれるが、失礼なので『いや、どうしてそこまでお姉ちゃんって呼ばせたいのかなぁ……って』と言葉を濁した。
「そんなの、ファムちゃんが妹みたいでかわいいからに決まってるじゃない!」
キャー!、などと黄色い声を上げながら、俺に飛びついてくる。
「うわっぷ!?」
衝撃に少し体幹を崩して床に倒れると同時、ふわりと彼女の髪の毛から柑橘系の甘い匂いが鼻腔に広がって、少し気分が高揚する。
これが香油の力かっ!
仕返しに、抱き止めると見せかけて彼女の体をギュッと抱きしめ返して『うりゃうりゃ!』とか言いながら頬擦りをしてやる。
「あはは!
ファムちゃんくすぐったいよ!」
「そっちが先にしてきたんだからな!
嫌とは言わさないからな!」
首筋に顔を埋めて耳に息を吹きかけたり、脇腹をくすぐったりしてみる。
「あはは!
だめ!
そこ、ほんとだめぇ!
あははははは!」
どうやら脇腹と耳がメアリーの弱点らしい。
そうと分かれば彼女の制圧は簡単だ。
マウントを取られた状態から、彼女のぷにぷにと細いやわ脚に自分の脚を引っ掛け、股関節の駆動を使って一気に上下を逆転させる。
「うわお!?」
「へへっ、上は俺が貰ったぜ」
さーて、これで俺の攻め放題だ!
まずは両手を床に押しつけて、首筋から、耳にかけて──。
「んんっ」
──不意に、背後からステラのわざとらしい咳払いが聞こえてきて、ふと我に戻る。
すると目の前には、どういうわけか、桃色のギンガムチェックシャツのパジャマをはだけさせた、金髪碧眼美少女の姿があった。
しかもその表情は赤面しており、さらにはこっちを熱っぽい瞳で見つめ返して、ハァハァと荒い呼吸を繰り返している。
「……ファムちゃん、やり過ぎ////」
耳の表面を、軽く舌で撫でられるような、甘い声。
俺は不覚にも、その言葉に心臓を貫かれるような感覚に陥った。
「……ごめん」
呟き、彼女を解放し、深呼吸をする。
彼女の残り香が杯いっぱいに充満したことで、改めて冷静になった頭で、ふと、思う。
(──あっっっぶねぇ……っ!?!?!?)
危うくR-18な展開になるところだった事に思い至って、俺はわざとらしい咳払いで事態を止めてくれたステラにこっそり頭を下げた。
「まったく。
じゃれあうのもいいけど、場所を選んでよね……?」
「「はい、すいません……」」
……それにしても、メアリーの腕とか脚とか、いろいろ……柔らかかったなぁ……。
さっきまでの感触を思い出して、少しだけ赤面する。
これがもし俺と彼女の2人きりだったらどうなっていたか。
想像すると、少しだけお腹の奥が熱くなったような気がした。
「じゃあ次は私だね♪」
閑話休題、とばかりに、ステラがメアリーからポ◯キーを受け取って、口の端を弛めた。
心なしか、メアリーの顔が少し赤くなっている気がしたが、これ以上考えるとトイレが長くなりそうなので、無理矢理に意識をステラの方に移す。
「私はステラ、19歳だよ♪
剣とか、鎧とか、そういうのも好きだけど、やっぱり一番はかわいい動物のぬいぐるみかなぁ。
趣味で手芸とかやってるよ♪」
言って、机の上にあった手近なぬいぐるみを手に取って見せてくれる。
ツノの生えたウサギのぬいぐるみで、前世でいうところのユニコーンのぬいぐるみみたいなかわいらしさがある。
なんだっけ、あれ。
ほら、よくちっちゃい女の子の服とかにプリントされてる、ペガサスとユニコーンが合体したみたいな、あのかわいいやつ。
あれにちょっと雰囲気が似てる。
ステラのはツノが生えたウサギだけど。
「へぇ、すごい……」
それにしてもクオリティが高い。
縫い目も細かいし、売り物だと言われても信じちゃいそうな出来栄えだ。
「着れなくなった服を再利用してるんだ♪
ちなみに染色も全部自分でやってます!」
ドヤ!、と胸を張ってそう答える彼女を見て、『あ、なるほど』と納得する。
胸がでかい女の子にありがちなセリフがある。
1つ『また太った』。
2つ『肩が凝る』。
そして3つ──『すぐに服が着れなくなる』。
部屋にあるぬいぐるみの数と先程の彼女の言葉から推測するに、おそらくその服が着れなくなった原因は、今もなお成長し続けているその巨大な果実のせいなのだろう。
「せ、染色まで自分でって、凄いな……」
素直な驚きのセリフのはずなのに、なぜだろう。
視界の端に映るメアリーの死んだような瞳を見ると、全然別の意味に聞こえてくるのは。
「どうせ私は万年ド貧乳だよ……」
かなり小さな声で呟かれていたのが鼓膜に届いたが、今はそっとしておいてあげることにした。
それから俺たちは様々なことをして夜更かしをした。
お菓子を食べながら恋バナをしたりとか(2人は主に俺とレンの関係についてしつこいほど迫ってきた)、ポッ◯ーゲームで遊んでみたりとか、俺の元いた世界の話とか。
あ、あと髪も弄ったりしたっけ。
そうそう。
この時判明したんだけど、この体になったせいなのかどうなのか、俺はどうやら、息をするようにさまざまなヘアアレンジを自力でできるようになっていた。
生前ならいじることのなかった長い髪の毛を、鏡を見ずに綺麗に三つ編みにしたりとか、複雑な髪型にしたりとか。
そういえば、今までゴムもしないでリボンだけで髪の毛を纏めてたわけだけど、普通だったら崩れてるよな……。
崩れないように纏められてることが、実はいかに結構凄いことだったのか……ということを、メアリーとステラに言われて初めて気がついた。
それからこの世界でのお化粧の話を聞かせてくれた。
やっぱり化粧はこの世界でもするにはするらしいのだが、平民や冒険者はあまりしないらしい。
というのも、平民にとっては化粧品が高価で手がつかない一方で、冒険者は魔物を倒して強くなると、だんだんと美形に近づくかららしい。
メアリー曰く、ある一定量の魔力が溜まると、肉体の作りが僅かに作り替えられるのだとか。
ゲーム風にいえばレベルアップということなのだろうか?
ていうか、魔物を倒したら体にその魔力の一部が蓄積されていくって話初耳かもしれない。
要するに、その魔力とやらがゲームでいうところの経験値みたいなもの……って認識なのだろうか。
思いがけないところでこの世界のルールを知ったのだった。
あぁ、それにしても、なんて楽しい時間なんだろう。
こんな時間が永遠に続けばいいのに。
(……でも)
パジャマパーティーも終わり、深夜。
メアリーとステラのどちらのベッドで一緒に寝るかで少し揉めて、結果的にステラの巨乳に埋もれながら寝ることになった俺は、彼女の方に背中を向けるように寝返りを打って、心の中で小さくつぶやいた。
自称神様とやらが言うには、どうやらこの世界は危機に瀕しているらしい。
しかし今のところ、危機という危機らしきものには遭遇していない。
……いったい、どういうことなんだろう?
そんな疑問はいずこやら。
気がつけば俺は、ステラに抱き枕代わりに抱きつかれながら、深い眠りへと落ちていくのだった。
ᛈ
ギャンブルで使うダイスカップの象形文字で、ドラ◯エでいうところのパルプンテ的な意味を表すルーンです。
コアイメージは『何が起こるかわからない状態』。
ランダム性に関係するルーンで、この世界だと相手の魔術を妨害したり、逆さにしたり他のルーンと組み合わせることによって、命中率を操作したりするのに使ったりします。
漢字一文字に変えると『偶』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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