美少女な俺様が騎士団に預けられる!
そんなわけで、紆余曲折ありつつも冒険者風の男性(名前は教えてもらえなかった)に、森の出口まで案内してもらうことに成功した俺は、ようやくあの迷いの森を抜け出すことに成功したのだった。
いやぁ、それにしても結構あっさりと抜けられたもんだなぁ。
やっぱり冒険者はすごいや。
そんなことを思いながら彼について行き、近くの街までやってきた。
「……おい、どこまでついてくる気だ?」
道中は牧場歌的な草原が広がった街道をまっすぐ進むだけだったので、必然的に彼の後ろをついて歩くことになったのだから、そのセリフはないのではないだろうか。
「ついでに冒険者ギルドか教会か、あるいは宿にでも案内してもらおっかなぁ、って」
ニヤニヤと笑みを湛えながら、男性に答える。
「そこまでしてやるとは言ってないんだが」
「道が一緒なんだからいいじゃないか。
それにほら、キミもこーんなかわいい俺様と一緒にいられて嬉しいだろ?」
「はっきり言って迷惑なんだが」
「なんで!?」
予想と違う反応に、再度がっくりと肩を落とす。
おかしいなぁ。
こんなにかわいい筈なのに、どうしてこいつは俺の美貌に靡かないんだ?
もしかしてこいつそういう趣味なのか?
いや、でも初対面でプロポーズしてくるくらいだから、そんなことはないと思うんだが……。
(もしかして、俺がかわいすぎて逆に警戒されてる?)
ありえない話ではない。
俺だって生前、こんなかわいい美少女に付き纏われたら、何か裏があるんじゃないかって勘ぐってしまっていただろう。
ははーん?
なるほど、こいつ、さてはモテたこと無いな?
この拒絶ぶりは絶対そうに違いない。
そう感じ取った俺は、余計面白がって初対面の彼にちょっかいを仕掛けてやろうと思った。
せっかくの新しい人生なんだ。
思いっきり楽しまなきゃ損するだけだしね。
そうこうしている内に、一行は高い壁に囲われた街にやってきた。
「うおおおお、さすが異世界」
さっき遭遇したゴブリン(?)もそうだけど、こういうでっかい壁を見つけると、俺って異世界に来たんだなぁって実感する。
そんな俺のセリフを怪訝に思ったのか、男は眉をひそめて小声で呟いた。
「記憶喪失の設定の次は異世界人か……」
しかし、その言葉は初めての異世界に興奮している俺の意識には届かない。
無邪気にはしゃいで、門の前に並ぶ旅人や行商人らの列の最後尾へと駆け出した。
⚪⚫○●⚪⚫○●
門は簡素な煉瓦作りで、少し広い堀を木製の跳ね橋が渡った先にあった。
砦の作りは、それなりに背が高いためにどっしりとしていてカッコいい印象がある。
門の中に入ると、二人の門兵が見張りをしていて、そのうちの一人に冒険者の男がカードを見せた。
「おかえり、レン。
そっちは?まさか盗んできたのか?」
ちらり、と兵の二人がこちらを見る。
そういえばこの冒険者の男はあれ以降全く俺様の美貌に靡かなかったが、他の男性はどうだろうか。
試しにニコッと微笑んでみる。
「初めまして、お嬢ちゃん。
オイラはバトスってんだ、よろしくな」
「初めましてバトスさん。
よろしくお願いします」
軽く白のスカートの端を摘んでカーツィーをする。
その仕草に見惚れたのか、顔を紅潮させて鼻の下を伸ばしているのがよく見て取れた。
どうや、魅了できているらしい。
(となると、こいつの精神力がおかしいだけか?)
もう一人の方にも微笑んで、『ご機嫌よう』と挨拶をしてみれば、こちらも似たような反応を示してくれた。
なんだか操り人形で遊んでいる気分だ。
おもしろい。
「それで、どうなんだ?
どう見てもどっかの貴族のお嬢様に見えるんだが、本当に拐ってきてたらシャレになんねぇぞ?」
怖い顔をして、バトスがレンと呼ばれていたあの冒険者に問いかける。
「バカ、んなことするか。
森で迷子になってたところを保護した。
記憶喪失らしいから、ちょっと騎士団のところで預かっててもらえないか?」
「「森で!?」」
二人が声を揃えて叫んだ。
たしかに、あんな迷いの森の中にこーんなかわいい女の子が一人で彷徨ってたら驚くよな。
俺も驚いたし、きっとこいつも驚いたに違いない。
しかし、実際二人が驚いていた1番の理由はそこではなく、貴族の娘(?)が領主の城からかなり離れた位置にあるこの場所に一人でいたということだった。
しかし、俺にはそんなことはわからない。
だって俺は貴族じゃないし、なんならついさっき生まれたばかりですらある。
なので二人の驚きには、あんな危険な場所に小さな子供が一人でいたなんて危なすぎるだろ!?程度の驚きだと思っていた。
「そういうことなら、騎士団で預からせてもらおう」
バトスじゃない方の門兵が、右手の拳で左胸のあたりを叩きながら宣言する。
「となると、しばらくこの子は寮で一緒に過ごすことになりそうだな。
後の話は上と相談するとして、了解した。
この件はとりあえずギルドにも報告しておいてくれ。
くれぐれも内密にな」
「あぁ、わかった」
短いやりとりをして、レンが去っていく。
俺も彼の後ろについて冒険者ギルドというのを一度見てみたかったのだが、仕方ない。
「それじゃ、オイラはこの子をハンス中隊長のもとに連れて行ってくる。
アビは引き続き頑張ってくれ」
レンの姿が見えなくなってしばらく。
バトスが俺の肩に手を回しながら、門の中にあった扉の方へと連れて行こうとする。
──のを、寸でのところでアビと呼ばれた門兵が彼の腕を掴んで制止した。
「待てバトス。
それは俺がやる。お前はここでゆっくり、他の来訪者が来ないか見張っててくれ」
アビがニコリと笑顔を浮かべてバトスに告げる。
しかし、彼の目は笑っていなかった。
「おいおい、今扉に近いのはオイラの方だぜ?
ならオイラがハンス中隊長に報告しにいくのが理に適ってら。
お前の方こそそこで見張ってろ」
対して、ヘラヘラとした調子でアビに近づけさせまいと俺の体をより扉の方へと近づけさせた。
そんな様子を見て、俺はニヤリと笑みを浮かべる。
ほほう、これはアレだな?
メスの取り合いというやつだな?
俺の美貌が、ここにまた一つ争いを生んでるわけだ。
まったく、なんて罪な女なんだろう。
……俺、やっぱりファム・ファタールだわ。
名前聞かれたらそう答えてやろうかな。
なんで考えている内に取っ組み合いに発展しそうだったので、二人の間に入って仲裁をすることに決めた。
「やめて!私のために争わないで!(裏声」
一度は言ってみたかったセリフを言えて大満足、みたいな笑顔を浮かべながら、間に割って入って両手を広げた。
「……そうだな。
こんなところで争ってても意味はねぇ」
「だな。
だが、彼女を譲るつもりは──」
「無論、毛頭無いな」
殴り合いにまで発展しそうだった雰囲気は沈静化したものの、やはり争いの火種がここにいるせいか、収まる兆しが見られない。
そこで俺は、一つの提案をしてみることにした。
「じゃあ、ジャンケンで決めるっていうのは?」
「「ジャンケン……?」」
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