美少女な俺様が魔力界計を狂わせる!
穴。
それは、そう呼ぶには奇妙で、しかし我々の知る概念の上では、やはりそう呼ばざるを得ない代物だった。
穴というのは、昔から異界に通じるものだと相場が決まっている。
例えば日本でも有名な童話の一つに、『おむすびころりん』があるし、かのロリコン作家で有名なルイス●キャロルだって、不思議の国へ行くにはウサギの巣穴をアリスに潜らせたのだから、きっとこの概念は洋の東西を問わずテンプレとして人の頭にこびりついているのだろう。
きっと、この世界でも同じく、どこかに続いているのかもしれない。
「これ、魔力溜まりじゃないかな?」
不意に、メアリーがそう結論づける。
「魔力溜まり?」
そういえば、神様がなんかそんな感じのワードを口にしてた様な。
疑問符を頭に浮かべながらメアリーに尋ね返すと、彼女は『ふっふーん』と、嬉しそうに両拳を腰に当てて解説してくれた。
「魔力溜まりっていうのはね、ファムちゃん。
なんらかの影響で、魔力が一箇所に集まっちゃった場所のことを言うんだ。
イメージとしては、水たまりに近い感じかな」
なるほどな。
この点に関しては、どうやら元の世界で見られる異世界系ラノベのそれとほとんど同じものみたいだ。
「なるほど……。
それで、できるとなんかやばいの?」
ラノベとかだと、中から魔物が生まれてくるというのが定番のパターンだが、この世界ではどうだろう。
穴が空いているし、きっと何か出てくるに違いない。
そんな予想を立てながら尋ねると、何故か得意げな様子でメアリーが答えてくれた。
「周囲一帯が迷宮化して、そこから魔物がたくさん溢れ出してくるよ!」
「あ、やっぱり」
予想とは少し違った回答だったが、なんとなく方向性は当たっていたらしい。
この魔力溜まりというのがどういう仕組みで発生するのかはとても気になるところだが……まずはこれをどうにかするのが先決だろう。
「それで、調査してくれって依頼だったけど、これ、どうするんだ?」
小首を傾げて、依頼を受けたはずである先輩冒険者ことレンに指示を仰ぐ。
「魔力溜まりの調査っていう依頼は、要するにこの中に入って、魔力溜まりの原因になってる空間の穴を塞げってことだ。
魔力溜まりがこんな風に見えてるのは、強い魔力の影響で時間と空間が歪んでるからだな。
そこで必要になるのが、この魔具だ」
言って、腰のポーチからとあるキューブを取り出した。
ガラスか水晶か、何でできているか判別がつかない材料でできたその正六面体の中には、何やら複雑な形をした文字が浮遊している。
昨日メアリーが教えてくれた、ルーン文字だ。
レンの説明によれば、どうやらこの魔具──補修箱という名前らしい──を、ダンジョンの中心に開いている穴に放り込むことで、依頼が達成されるのだとか。
その話だけを聞けばなんだか簡単そうに思えるが、曰く、この魔力溜まりの中は文字通り魔力の嵐で、いつどこでも魔物が無限に生まれては襲ってくるらしく、命懸けの仕事になるらしい。
なので冒険者ギルドの規定では、迷宮に挑む際は、最低でも息のあった仲間6人以上での調査が求められるらしく、迷宮化していない魔力溜まりの状態であっても、最低4人いなければ潜ることを禁じられているらしかった。
(なるほど、それで時間があるか聞いたわけだな?)
そうして、レンから迷宮や魔力溜まりについていろいろレクチャーが終わると、俺たちはようやく、この穴の調査を始めることになった。
……いや、それにしてもこの穴。
実際入ろうとするの、なんか怖くて躊躇しちゃうよね……。
マイ◯ラのキャラがネザーに入る時って、絶対こんな感覚だよ、きっと。うん。
⚪⚫○●⚪⚫○●
みんなと手を繋いで魔力溜まりに入っていく。
中では時間と空間が歪んでいるため、そうしないとはぐれてしまうらしい。
要するに、ゲームっぽく表現するとインスタンスダンジョンみたいなものだな。
これはオンラインゲームの用語で、パーティとか少人数グループ毎に一時的に生成されるダンジョンのことだ。
これはそれぞれのグループ毎にダンジョンが生成されるから、この中では一緒にダンジョンに入った人以外とは遭遇しない。
……そんなダンジョンの中で、もしはぐれたりしたらどうなるんだろう?
そんなことを思いながら、今通ってきた穴があったはずの場所を振り返ってみる。
するとそこにはちゃんと入り口にあったみたいな穴が空いており、どうやら自力で脱出すること自体はできる様だ。
ホッ、と胸を撫で下ろすと、途端に余裕が出てきて、俺はあたりを観察することにした。
魔力溜まりの中は、広い墓所だった。
果てしなく続く墓場は丘に囲まれ、墓石はひび割れていて雑草やたら植物が蔓延っている。
時間帯も、いつの間にか夜になっているし、墓石に彫られている文字は鏡映しのように左右逆転していた。
空間と時間が歪んでるというより、もはや全く別の場所のように思える……が、よくよく観察してみると、元の世界の墓地と地形がほとんど同じだ。
果てしなく広がっているように見えるのは、どうやらパッチワークのようにツギハギされているせいらしい。
それを証明するように、ある一定の区切りで、魔力溜まりの外にもあった、墓地を囲う鉄柵が配置されているのが見える。
それにしても、外より魔術の気配、というか魔力の気配が濃い。
魔力が溜まっているんだから当たり前かもだけど、どういうわけか、なんだか車酔いに似た感覚になる。
「ここが、墓地の魔力溜まりの中?」
最初に呟いたのは、俺ではなくメアリーだった。
「そうらしいな。
あー、そうだ一つ忘れていたが、ここで魔術を使う時は注意しろよ?
ここは魔力が濃い。
つまり、魔術の発動に必要な魔力量がかなり少なくなっている。
まだできて間もないからさほど強化されるとは思わねぇが、こまる魔力量は普段より少なめにすることを意識してくれ」
彼女がポーチから杖を取り出したのを見て思い出したのだろう。
彼はそのように注意すると、彼女が頷いたのを見て腰の鞘から剣を抜いた。
隣を見れば、さっきまで布製の服を着ていたはずのステラが、午前ゴブリンたちと戦った時と同じような純白の鎧をいつの間にか装備していた。
そういえば、あの時盾を出した時も思ったけど、全く杖を振った気配がなかったが、どうやっているのだろうか。
気になって尋ねようと思ったが、しかし今は敵地。
聞くのは帰ってからいつでもできる。
俺はグッと言葉を飲み込むと、自分もいつでもブレイカーを取り出せるように準備することにした──ところで、ふとあることに思い至った。
「道も何も無いんじゃ、その、空間の穴っていうの?探すの難しくね?」
見渡す限り、際限なく広がる異空間。
ここから空間の穴とやらを探し出すだなんて無茶にも程がある。
それに加えて、入るたびに地形が変わるっていうんだから、マッピングしても無意味だろう。
そんな思いを込めて口に出すと、『いや、実はそうでも無いぞ?』と、レンがカバンの中から金属板のようなものを取り出した。
見た目は金色の円盤で、中に砂鉄みたいなものが入っている。
「それは?」
「魔力界計って言って、魔力の流れ……というか、空間中の魔力の流れの強さとかムラとかを見る、まぁ、方位磁針みたいなものだな。
これを使って魔力の強いところに行けば、空間の穴のある方角がわかるんだ。
あー、ほら、中学の時やらなかったか?
砂鉄を撒いたバットの上に磁石置いてさ、磁界とかを見るっていうやつ」
言われて、『あー、あれね』と納得する。
中学の理科の実験を思い出した。
たしか、ナントカの左手とかいうのを習った時だ。
電気には磁界とか力とか電流の向きとかいうのがあって、磁力を持つ磁石の周りに砂鉄とか撒くと、その磁界の向きが砂絵みたいになって目に見えてわかるってやつ。
……懐かしいなぁ。
「要はあんな感じで、魔力の濃いところと弱いところを見分けるんだ。
空間の穴が近いところほど魔力が強いから、それで見分けられる」
言って、その魔力界計とかいうものを見せてくれたので、3人で覗き込んだ。
どうやら、魔力界計の砂は俺の方向を指しているらしい。
「……ん?」
嫌な予感がした。
魔力界計って、たしか魔力の強いものの方向がわかる……んだよな?
だったらそれって当然、俺の魔力も感知されてしまうわけで……。
もしかしてと思い、ちょっと右に動いてみる。
すると魔力界計の砂も、その動きに合わせて俺を追いかけてきた。
左に動いてみてもやはりそうで、どうやら俺の魔力が原因で、魔力界計の砂が引き寄せられてしまっている……らしい。
「「……」」
3人の視線が、俺に集まる。
ところで皆さん。
方位磁針を狂わせた経験がございますでしょうか?
方位磁針にネオジム磁石なんて強力な磁力を持つ磁石なんかを近くに置いていると、本来地球の磁場を捉えるはずの方位磁針が狂って、正しい方角を示さなくなってしまうらしい。
それと似たようなことが、今、目の前で起きていた。
「……」
3人の視線に耐えられず、俺はふいっ、と目を逸らす。
その表情は多分気まずそうに歪んでいたに違いない。
「……なっ、なんだよ。
別に俺悪く無いじゃん!」
耐えられなくて、俺はそう叫んだ。
だってそうだろ?
今だって《魔力の呼吸》で魔力が外に漏れないようにしてるのに反応しちゃってるんだもん!
俺悪く無い!
悪いのはこんな体にした神様の方だ!
……と、まぁそんなふうに主張したわけだが、こうなっては仕方ない。
こんな広大な異界で、空間の穴を見つけろなんて無茶すぎる話だからな。
そんなわけで今回、俺たちはこの調査を諦めるしか無くなったわけだった。
「理不尽だーッ!」
ᛃ
収穫を意味するルーンです。
コアイメージは『ある仕事を始めてから終わらせるまでの過程』。
機構系の基礎ルーンで、例えば ᛃᚲᛃᛚᛃ というようにこのルーンで囲むと、『火が出た次に水が出る』と言ったようなプログラムを組むことができます。
要するに、術式ごとにこのルーンで挟めば、一つの術式が終わると次の別の術式が続いて発動するというタイプです。
このルーンは上に ᛁ などのルーンを重ねて書くと、また別の指示を出すことができます。
この場合だと、プログラムの保留という効果になり、次に ᛃのルーンを上下逆さに書いたときに、保留していた術式が発動します。
漢字一文字に変えると『程』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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