美少女な俺様が冒険者になる!
「お待たせしました。
こちらが冒険者証と冒険者手帳となります。
冒険者ランクの更新や依頼手続き、冒険者ギルド提携店や街に入る際の入街税における冒険者割り引き、冒険者ギルドの医務室の利用などに必要となりますので、無くさずにお待ちください」
ゴブリンのスタンピードが終わり、草原グールも討伐を完了した後。
俺たちはユーリア砦のハンス中隊長から報酬として10万ギル──ギルはこの国の通貨の単位だ──を獲得し、冒険者ギルドへと急いだ。
そしてついさっき、冒険者ギルド入会試験の達成報告を3人分済ませたところだった。
いやぁ、長い2日間だった。
でもこの2日で得られた経験はなかなかに美味しい。
まず1つは、これからの旅の目的地がわかったことが大きい。
目指すべき場所。
その名も、魔導廃墟街。
それが一体どんなものなのかはまだよくわからないが、それについてはこれから調べていけばいいだろう。
あるいは、実はこれは常識的なことで、メアリーにでも聞けばすぐにわかるかもしれない。
2つ目は精霊の獲得だ。
今はまだ魔力量が足りないらしくて十全には使えないみたいだが、権能の一つである勇者化は、今の自分で倒せない強敵が現れた際はかなり有用な奥の手だ。
今のままでも十分通用するっぽく思えるが、今の強さにあぐらをかいていれば足元をすくわれる。
ゲームで言えば、今はまだチュートリアルが終わったあたりくらいなんだからな。
油断は大敵だ。
そして3つ目。
これは俺の装備が新調できたことだな。
俺が一番使いやすい武器であるブレイカーや、暗器としてパイルバンカーもゲットできたし、何より腕と脚用の鎧装備が手に入ったことで戦略が広がった。
あとは可愛らしいショーツとブラさえ手に入れば文句は言うまい。
「やっと終わったぁ!」
冒険者証と冒険者手帳を手に入れた直後。
俺は達成感のあまり、両手を上げてそう叫んだ。
「よっ、おめでと!
お祝いを兼ねて俺と結婚してくれ!」
「かわいいルーキーの誕生だな!
これから何か困ったことがあったら相談乗るから、代わりに結婚してくれ!」
昼食時だからか、ギルドの酒場で食事をしていた、何となく事情を察したらしい数人の冒険者が、パチパチと拍手と共に賛辞の声を浴びせる。
「あ、そういうのはいいんで」
ただし、賛辞の後半につけられた結婚云々に関しては全て無視である。
ノーサンキューだ。
俺が好きなのはあくまで女の子だからな。
それから俺たちは、ギルド酒場の一席に座るなり昼食を摂ることにした。
目の前にはお肉ゴロゴロのラム肉と小麦のシチューと白パン、温かい葡萄酒にひよこ豆のスープなどと言った品が並んでいる。
初めて刃物で生きた肉を切った後にこれを食すというのもなかなかハードだとも思ったが、口にしてみればすぐにそんなことは忘れるくらいに美味しかった。
肉の臭みがないのは、一緒に入っているこの緑の粉末のおかげだろうか。
味的には、なんとなくパセリに似ている気がする。
「何はともあれ、お疲れ、ファム。
それと……あー、2人とも?」
閑話休題。
どうやらメアリーとステラとの関係的に何と言った方が適切か迷ったのだろう。
レンは、やや疑問系気味に2人を労う言葉を付け加えた。
「メアリーで良いよ。
ファムちゃんの友達なら、私たちとも友達なんだから!」
「私もステラで良いよ。
それと──」
不意に、ステラがレンの耳元に口を近づけ、何かを呟く。
果たして、それが一体どのような言葉だったかはわからなかったが、しかし直後にやや顔を青ざめさせていた。
……本当に、何を言われたんだろうか……。
気になるが、聞かない方がいいだろう。
俺は、同情するような視線でレンを労うことにした。
「そ、そういえば!」
話題転換、とばかりにレンが別の話題を提示する。
「お祝いといえば、今夜はユーリア砦のみんながファムの初陣記念と祝勝会を砦でやるって言ってたよな!」
「お昼食べてるのにもう晩御飯の話って。
もしやお前、食いしん坊だな?」
ニヤニヤ笑いながら、軽く肘で脇腹を小突く。
「べ、別にいいだろ、これくらい!
……それで、晩のパーティーまではまだ少し時間があるみたいだけど、何か予定とかはあるか?」
拗ねたように言い返す彼から意識を食事に戻してシチューを一口咥えたところで、不意にそんな質問を浴びせてきた。
「んー、まぁ特にないけど。
2人は?」
俺は特に今すぐやらなければならない用事は無い。
新しい下着だって、明日にでも買いに行けばいいし、いつだって時間がある。
そう判断して他の2人に尋ねてみれば、どうやら2人とも特に用事は無いようだ。
それを聞いて少し安心したような素振りを見せると、彼は一言、こう口に出した。
「なら少し、一緒に来て欲しい所があるんだ」
⚪⚫○●⚪⚫○●
レンに連れてこられた場所は、ユーリア教会の敷地内にある墓地の一角に建てられた、金属製の慰霊碑の前だった。
そこには、沢山の名前が書き連ねられていて、一番上には『草原グールによる冒険者失踪事件、及び殺害事件の被害者 ここに眠る』と刻まれていた。
「これ……」
そこに刻まれた一文を読んで、思わず俺は口を開いた。
「俺の前のパーティメンバーは、ここに書いてある例の草原グールに殺されたんだ。
ダンジョンから帰ったら、故郷の村に戻って結婚するって、あの二人は言ってたんだが、運悪く死んでしまった。
冒険者にでもなれば、今後、絶対にそういうことが数え切れないくらい起こる。
昨日一緒に旅をした仲間が次の日には突然死んでいることもあるし、さっきまで隣で食事をしていた仲間が、突然やってきた魔物に頭を砕かれて死ぬこともある。
……お前が入会した冒険者ギルドは、お前が想像しているより過酷な場所だ」
静かにそう告げる彼の顔は、なんといえばいいかわからない表情をしていた。
俺がわかる言葉で表すならばそれは無表情だったが、しかし無と呼ぶにはあまりにも多くを語りかけてくるような顔をしていた。
「……わかってる。
この世界はゲームじゃ無い。
今日のスタンピードを経験してわかったよ。
すぐ近くに死の危険がある。
それは、俺が今まで暮らしてきた現実とは、全くかけ離れた世界だ」
例えば、今回の草原グール戦のように、たった一つの油断が、死に直結することとか。
言いながら、自分の頬についた傷を指でなぞる。
治癒力が高いせいか、すでにそこには瘡蓋ができていて、明日になればきっと、元の柔らかな肌が戻っているのだろう。
それでも、俺は今日の誓いを忘れない。
守るために、戦う覚悟を決めた。
生きるために、戦う覚悟を決めた。
中途半端な覚悟でいれば死ぬかもしれない事実を、肌で感じ取ることができた。
「あぁ。
それならいい。そしてもう一つ、お前はここに書き連ねられた人たちの、いや、それ以上の人たちの無念を取り除いてやることができたことも、一つ覚えておいてくれ……と、余談はこのくらいにして、だ」
暗い雰囲気を払拭するように、彼はニヤニヤとした笑みを浮かべた。
どうやらここに連れてきたのはこれが本題ではなかったらしい。
「実は、冒険者ギルドにこんな依頼があってな」
言って、レンは懐から一枚の依頼書を取り出した。
そこには『教会の墓地に奇妙な穴が空いています。私たちでは危険と判断しましたので、調査をお願いします』と書かれていた。
「奇妙な……穴……?」
同じく覗き込んでいたステラが、頭に疑問符を浮かべて小首を傾げた。
「あぁ。ちょうど、この石碑の裏なんだが」
誘導するように手招きをする彼の後ろをついて、慰霊碑の後ろに回り込んでみる。
するとそこには、まるで次元が湾曲したかのような、といえばいいのか、ブラックホールみたいな感じの黒い穴が、宙に浮いているのが見えた。
「……え?」
ᛁ
氷を意味するルーンです。
コアイメージは『物事が停止した状態』。
録画したテレビをイメージしてもらうとわかりやすいですが、要するに一時停止ボタンが押された画面みたいなイメージです。
氷系魔術の基礎ルーンでありながら、停止や硬化、凍結と呼ばれる、物体や事象の動きを停止させる効果を及ぼす魔術(凍結系)の基礎ルーンでもあります。
ᚾ の様な束縛系に分類される魔術との違いは、基準とする座標の違いによるもので、例えば ᛁ の場合は物体をその空間そのものに貼り付けて動けなくする一方で、 ᚾ はどちらかといえばロープなどでその場に縛り付けられている状態とか、足枷をつけられて行動が制限されている状態といったようなイメージに相当します。
なので、 ᛁ によって固定された物体は宙に浮くことができますが、一方で ᚾ によって捕縛された物体は、空中で使われると身動きが取れなくなるだけで地上に落下してしまうという特性上の違いがあります。
漢字一文字に変えると『停』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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