美少女な俺様が草原グールを討伐する!
その時、砦から飛び出す1人の人影があった。
茶色い髪に高い身長。
体は軽装の鉄鎧に身を包んだ青年だった。
遠くでは合戦の声が上がっており、どうやら既にユーリア砦の騎士たちはゴブリンと衝突しているようだ。
青年は走りながら考えていた。
別に騎士団に招集されたわけでも無いのに、どうして体は勝手に、合戦の方へ──いや、誤魔化すのはやめよう──あの幼い少女、ミカネの方へと駆け出しているのか。
たった一度共闘しただけの、同郷の異世界人のために、なぜこんなに必死に、それこそ文字通り命の危険を冒してまで、助けに行こうとしているのか。
……本当は、わかっている。
彼は怖かったのだ。
もう一度、友人になれそうな、気の合うあの少女を失ってしまうことが。
脳裏に蘇るのは、この世界に生まれ変わった頃の、子供の頃の記憶。
肝試し、腕試しと、入ってはいけないと何度も言われたあの森に入って、友人を見殺しにして帰ってきた、あの記憶。
もう2度と間違えたくなかった。
こんな、人生をやり直すチャンスがもう一度与えられるだなんて甘えは到底無いから。
あいつの事だから死ぬことはないだろう、なんて思いも頭の中にあった。
自分より遥かに強いのは、あの一度の共闘でわかっていたから。
でも、嫌な胸騒ぎがするのだ。
なにか、とても悪い予感が。
(鍛治の精霊、力を貸してくれ!)
願いを込めながら、体内の精霊に魔力を注ぐ。
注ぎながら、欲しい形を頭の中に思い描いた。
──ここ、イタリカ王国の国教では、大人となる12歳の歳になると、教会で洗礼を受けさせるのが通例である。
その洗礼で子供たちは、ランダムに精霊が与えられるのだが──彼の場合は、鍛治の精霊だった。
魔力を代償とすることで、それに見合ったあらゆる武器や道具を作り出すことができる。
彼が今願ったのは──一張りの弓と、一本の矢だった。
「ふぅ──っ!」
矢を違えながら走り、横隊を組む騎士の上を跳び越える。
跳び越えながら、彼女の姿を探し──矢を放った。
「《小飛輪》!」
「──ッ!?」
跳びながら矢の先で描いたルーンが炎の玉を作り、弦を離すと同時に矢と共に飛翔していく。
そして飛翔したその炎の矢は、緩いカーブを描いて、今まさにミカネの頭を串刺そうとしていた草原グールを吹き飛ばした。
──ドッ!
軽い爆発のような音を立てて吹き飛び、のこり10匹近くとなっていたゴブリンの集団に着弾する。
「間に合った……」
同時に、うつ伏せに倒れるのは、体長から見てゴブリン・リーダーか。
おそらく、あの草原グールが《魅了》を使って操っていたのだろう。
「無事か、ミカ──あー、ファム」
ミカネ、と呼ぼうとして、彼女が一瞬頬を膨らませる気配がしたので、急いで『ファム』と呼び直す。
「……2回目だな」
「え?」
しかし、尚も頬を膨らませたままにする彼女に、青年──レンウォードは素っ頓狂な声を上げた。
「助けてくれたのだよ!
これで、あの迷いの森と合わせて2回目!」
「あ、あー、そういう」
(なんだ、周りに人がいる時に『ミカネ』と呼んだのが2回目とか、そういう話じゃなかったのか)
ホッ、と少し心のうちで胸を撫で下ろしてみせる。
「……ありが──」
「おいおい、痛ぇじゃねぇの、このクソ弓兵!?」
不意に、彼女が何か言いかけた時だった。
吹き飛ばされたはずの草原グールが土埃を落としながら、こちらに向かって怒声を浴びせてきた。
「悪いな、大事な友達が殺されかけたとあっちゃあ、こっちとしても手加減ができねぇ」
言って、もう一度矢を生成して番え、構えながら言う。
「そりゃねぇだろ。
せっかくの勇者と悪魔の熱いバトルだったのによ。
横槍ならぬ横弓入れてんじゃねぇよ、カスが!」
どうやら相当怒っているらしい。
暗く爛れた体を震わせ、指を突き付けながら暴言を吐く草原グールに、俺は口を開こうとした。
「……言いたいことはそれだけか?」
しかし、実際に言葉が吐き出されたのは、彼の口からではなかった。
漫画にすれば、おそらくゴゴゴゴゴ、とでも後ろに書かれていそうなほどの怒気が、隣の小さな少女から溢れていたのだ。
いや、怒気に混じって魔力まで放出されている。
相当怒っているらしい。
「ハッ、どう言われようが所詮負け犬の遠吠えだな。
忘れたなら思い出させてやるよ!」
次の瞬間だった。
草原グールの黒い腕が巨大化して、遠くから腕を伸ばして殴りかかってきた──かと思えば、いつの間にか細切れになっていた。
「なにッ!?」
驚きを隠せず、思わず呻く草原グール。
その喉元には、虎の爪のようなナイフを突きつけるファムの姿が、レンの目に映っていた。
「ただしその頃には、お前は八つ裂きになっているだろうけどな」
「ッ!?」
慌てて、首を逸らして彼女の一撃を回避する草原グール。
しかしいつの間にか後ろに足を掛けられていたらしく、それに引っかかった奴は、無様にも地面に仰向けに倒れた。
「──負け犬の、何だって?」
膝で奴の重心を捉えて押さえ込みながら、再度ナイフ──カランビットか?──の切先を喉に突きつけるファム。
もし仮に内臓の配置や血管の配置が人間と同じなら、まさにチェックメイトの体勢。
この時、レンは心に決めた。
今後、絶対に彼女を怒らせないようにしよう、と。
ᚾ
束縛を表すルーンです。
コアイメージは『一点に集中している状態』ですかね。
溜め系の中でも一点に圧力を集めるとか、集中させるために使われることも多いですが、他にも敵を捕まえて縛り上げるためにも使ったりします。
単体で欠乏という意味もあるので、壁に穴を開けたりもできますし、相手から何かを奪ったりすることができたりもします。
また、上下反対にして書くと『周囲に発散している状態』を意味するルーンにもなり、 ᚲ と合わせることで、炎系の《エクスプロージョン》という魔術が使えるようにもなります。
漢字一文字に変えると『絞』。
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