美少女な俺様が九死に一生を得る!
その集団同士がぶつかり合ったのは、ほとんど同時だった。
「ぜやぁっ!」
先頭を走っていた俺は、頬の傷に誓った通りに迷いなくゴブリンの脇腹を、そのブレイカーで抉り抜いた。
やけに生暖かい血液が迸って、自分の顔に付着するその感覚が生々しい。
しかし、ここで怯むわけにはいかなかった。
俺の後ろには、数十人の騎士がいる。
中には見習いもいるだろう。
そんな中、俺が怯んだりすれば、後続の彼らの士気に関わるし、何より邪魔になる。
『散兵は敵陣に入り込み、ゴブリンどもの中にいる弓兵や投槍兵を率先して狩る。
それと同時に、包囲を抜け出そうとする個体がいれば追いかけてトドメを刺す。
後ろでは2列横隊に並んだ歩兵分隊が待機している。
歩兵分隊はできればコの字型にゴブリンを包囲し、突破を試みる個体がいれば撃退する』
作戦会議時に提示された作戦を思い出す。
戦争──合戦というものは、ただ単に兵士を並べて敵に突撃すればいいというものではない。
いかに陣形を組み、敵を包囲するか。
それが全てだ。
(要するに、囲碁みたいなもの──って簡単に解釈してたけど)
後ろからくる槍による突きを、ヒラリとブレイカーで流しながらかわしつつ、懐に詰め寄って肋を抉る。
(これはなかなか、難しい作戦だなッ!)
緑のかった肌に、骨の仮面をつけるゴブリンどもの腹を切り裂きながら、槍を構えるゴブリンを中心に殺していく。
これがもしゲームであれば、広範囲にダメージを与えるタイプのスキルか何かを使いたいところだが──実際にやってしまうと、近くにいる仲間もろともフレンドリーファイアを食らわせてしまいかねない。
……まぁ、そんな技、使えないんだけどね。
(いや、魔法少女モードになれば、一応できなくはないんだけど)
でも変身するために『メタモライズ』って大声で叫ばなきゃならないのがなぁ……。
もし近くにステラが居てくれたら、守ってもらいながら変身することもできたけど、この状況で戦いながら魔力に意識を集中させるなんて無理だ。
(今度こっそり練習しよう)
別の分隊で今も戦っているだろう、黒髪の元女騎士見習いのことを思いながらそんな事を考えつつ、ほとんど反射的に、襲いかかってくるゴブリンの武器をブレイカーの刃で受け流し、懐に入り込んで急所を狙うという動作を繰り返す。
──と、不意に、頭上にヌッと大きな影が覆い被さった。
「──ッ!?」
股関節の駆動を使って、常人ならざる速さで上から振り下ろされた攻撃を回避する。
振り下ろされたのは、巨大な手斧だった。
およそ、人間が扱えそうなサイズではないことから、おそらく冒険者から奪った武器ではないことが窺えた。
(周りのゴブリンの気配のせいで、接近に気づかなかったか!?)
見上げれば、そこには巨大な体躯の緑色の肌をしたゴブリンが見えた。
間違いない、こいつがゴブリン・ジェネラルだろう。
そしてその肩には、見覚えのある、真っ黒で腐ったように爛れた人影があった。
「──草原グール!?」
驚きのあまり、一瞬、魔力が体から漏れる。
その一瞬の魔力の放出から、どうやら俺の正体を見破ったらしい草原グールは、『ほほぅ?』と口を三日月に開いて笑みを浮かべた。
「ゴャゴャ」
『ゼタさま、イマ、ユーリアのケハイ、しタ。
こいつ、タブン、ユーリア』
草原グールが何か喋ろうとしたのに被せるようにして、ゴブリン・ジェネラルの方が口を開いた。
しかし、自分が喋ろうとしたのを邪魔されたのが気に食わなかったのか、ゼタと呼ばれた草原グールはイライラと声を荒げながらゴブリン・ジェネラルの頭にゲンコツを落とした。
「バカてめぇ、今オレがその話をしようとしてたのに何で勝手に喋んだよ!?」
「ゴャゴャ」
『ウ?
だっテ、ゼタさま。
ミつけたらオシえロ、イっタ』
「見つけたのはオレも知ってるんだから言わなくていいんだよ、それくらいわかるだろ!?」
何だかよくわからないが、仲間内で揉めているようだ。
(だったら今のうちに──!)
俺はホブゴブリンのゴブリン・ジェネラルの背後に回り込むと、その膝の腱をブレイカーで弾き切ろうとした。
しかし。
「おっと、そうはさせねぇよ?」
瞬間、何か見えない障壁のようなものに阻まれて、ブレイカーが弾かれた。
「えっ!?」
まるで、石か何かでできた壁を殴ったみたいなその衝撃に、すぐにその正体に思い当たる。
(まさか!?)
上を見上げると、ニヤニヤと笑みを浮かべる草原グールの顔があった。
そしてその近くには、渦巻く炎の塊が浮かんでいて──。
(──まずい!?)
咄嗟にバックステップを踏みながら、背後にいたゴブリンの頭を踏み台にさらに遠くへと移動する。
炎の弾丸はそんな俺を追いかけるように何回も何回も打ち出され、そのたびに俺が足場や盾にしたゴブリンが煤のようになって弾け飛んだ。
「おいおい、勇者ともあろう者が逃げてばかりで大丈夫かぁ!?」
相手の、おそらくファイアボールとかそういった名前であろう魔術を、ウサギのように逃げ回る俺に、嘲笑しながらその目を向けてくる。
しかし俺も逃げてばかりではない。
杖を構えているようには見えないが、十中八九この草原グールの魔術によるものなのだろう。
しかし魔術を放つ際に的である俺を、その複数の目で追いかけているところを見るに、相手は目で魔術の照準を取っている。
──であれば!
「ふっ──!」
俺はゴブリンの後ろでは方向転換し、フェイントをかけながら草原グールが乗っているゴブリンの肩の方とは逆の方へと回り込み、接近する。
これで草原グールからは完全に死角になったはず。
俺はその死角に入った瞬間を狙って、一気にゴブリン・ジェネラルの方へと接近すると、草原グールに気づかれるよりも早く、その膝裏の腱をブレイカーで切り裂いた。
──バクン!
「ゴャァァァ!?」
「うぉっ!?」
衝撃で、ホブゴブリンが片膝をついた。
その急なバランスの崩壊に反応できなかったのか、肩の上で草原グールが肩の上でふらつく。
今なら魔術を放てまい。
俺はそう推測すると、一気に跳躍してホブゴブリンの肩の上に跳び上がると、さらに跳躍し、上から草原グールの首の後ろを掻っ切ろうと試みた。
──しかし。
「そうくると思ってたぜ?」
眼下に映る草原グールの手には、石でできた、先の鋭い棒──槍のようなものが構えられていた。
「しまっ!?」
途端、世界の動きが緩やかになる。
世界から色が消えて、白と黒だけになる。
脳裏に走馬灯は走らなかった。
代わりに走ったのは、頭を貫かれる激痛──ではなく。
「《小飛輪》!」
聞き覚えのある声と炎の熱が、眼前を通過し、さっきまでいたはずの草原グールが吹き飛ばされていた。
「っ!!」
咄嗟に、目標を失った俺は、すぐ近くにあるホブゴブリンのうなじを狙ってブレイカーで掻っ切って、その勢いを利用して宙返りし、地面に着地した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
全身から冷や汗が流れ落ちる。
もしあの時、草原グールが吹き飛ばされなければと思うと、心臓が何か冷たいもので撫でられたような感覚になった。
「間に合った……」
聞き覚えのある声が鼓膜に届いてきて、ハッと振り返った。
するとそこには、金属製の弓を携えた茶髪の男の姿があった。
ᚺ
雹を意味するルーンです。
コアイメージは『急激に現れる変化』。
変化系の基礎ルーンで、例えば姿を変えたり、ある魔術が途中で別の魔術に変わったりと言った使い方がされたりします。
その他にも、普通に氷の礫を雨のように降らせて相手に攻撃する、というような使い方もできます。
※ただし、氷系の魔術は別の ᛁ というルーンがメインで使われ、 ᚺ 単体の場合は雹を降らせることしかできません。
漢字一文字に変えると『変』。
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