美少女な俺様が装備を新調する!
ローズリー小隊が森へ向かう準備を始めている間、俺も作戦遂行のため、準備を整えるべく、ユーリア砦内の武器庫へとやってきていた。
「ここにある武器なら、好きなものを持っていってくれて構わねぇ。
それで勇者殿の実力が発揮できるなら、我が兵たちも心強いだろう」
案内してくれたのは、ハンス中隊長だった。
というのも、作戦会議の終わりに、俺が彼に頼んだのである。
実を言えば、ナイフよりもカランビットの方が扱い慣れてるからな。
この際だから武器を新調しようとお願いしたのだ。
まさか、彼自ら案内してくれることになるとは思はなかったが。
ちなみにステラとメアリーは別行動中だ。
「ありがとう、ハンス中隊長」
「……やっぱり、この作戦から身を引く気はねぇんだな」
不意に、彼の顔に影が走る。
どうやら、俺が前線に立って戦った結果、怪我をしたりといったことでも心配してくれているのだろう。
意外と紳士な男だ。
「まぁ、今日中にゴブの魔石をギルドに持ってかないと、試験失格になっちゃうし?」
そうだ。
昨日は魔力操作ができなかったせいで、ゴブリンたちに避けられ、1日でクリアするという目標が達成できなかったのだ。
思い返せば、あの時ギルマスが笑っていたのはこういうことを見越してのものだったのかもしれない。
──それに、別の目的もある。
「そういえばそうだったな。
……あんまり無理はしないでくれ」
最後に、その巨大でゴツゴツした手で肩を叩くと、倉庫の鍵を手渡してその場を後にした。
「さて、じゃあ探しますか、カランビット!」
⚪⚫○●⚪⚫○●
カランビットナイフ。通称、カランビット。
元は東南アジアで虎の爪からヒントを得て作られた農具だった。
形状は三日月のようで、その月の半分はグリップとなっており、先端には人差し指を入れるリングがついていたりする。
この武器のいいところは、関節駆動と体振動、この2つの技と相性がいいところだ。
ほとんど重さがないゆえに素早く攻撃することができ、さらに重心も手中に近いため操作が容易い。
曲がったブレードは敵の攻撃を絡めたり武器を奪い取ったり、技を受け流すことに向いており、こと白兵戦では下手をすれば剣よりも強い。
……まぁ、武器の強い弱いなんて、それを扱う人の技量の問題なんだけど、俺の戦闘スタイルとはかなり相性がいいのだ。
(厳密には、俺と相性がいいのはカランビットじゃなくてブレイカーって言うやつなんだけど……)
三日月の弧の方に、もう一つ出っ張りのあるカランビットで、とあるアクション俳優が映画のために作ったという武器。
あれがなかなか使いやすいのだが──。
(はてさて、この世界にもブレイカーはあるのか……)
武器庫の中を見渡しながら、目当ての武器を探していく。
見つかるものの多くは剣や刀、槍、斧、鎚、盾、鎧……。
「そういえば、奥に行けば盗賊から押収したものもあるって言ってたっけ」
入り口付近では見つからなかったので、奥の棚を探すことに決める。
「まぁ、騎士がカランビットで戦うはずないもんな、こっちになくて当たり前か」
そもそも、カランビットは鎧を着て使う前提ではない。もっと動きやすい服装で扱う前提の武器なのだから、鎧を着込む騎士の武器を置いているエリアにはあるはずがなかった。
「お?」
そんな風にして奥の戸棚を漁ってみると、ビンゴ。
いくつかのナイフなどが雑多に入れられた箱の中に、カランビットナイフを発見した。
いくつかあったものの中から、一番しっくりきたものを手に取って確かめる。
「ふむ、グリップも重さもちょうどいい感じ……。
子供の盗賊でもいたのかな」
軽くクルクル回したり、カランビット用の套路をその場で軽く練ってみる。
「デザインもブレイカーに近いし。
よし、これにしよう」
鞘に収めて、腰のベルトに吊るす。
「あとは……」
せっかくだし、他のものも物色していこう。
周囲を見渡し、様々な武器や防具を漁っていく。
「おっ、パイルバンカーあるじゃん!」
見つけたのは、小型のパイルバンカー。
革製のベルトで腕にくくりつけるもので、長方形の箱のようなものがついている。
色々いじってみたところ、どうやら魔力を入れることで鞘から杭を射出することができるらしいことがわかった。
「この手甲もいいな。
軽いし頑丈だし。
……やや、このグリーブ、めっちゃサイズぴったりじゃん!」
滑らかな表面を持つ金属製の鉄鋼を手と脚に嵌めながら、感触を確認する。
前世だと、自分の前腕を盾にして攻撃を弾いたりすることもよくあったから、自分のサイズに合う手脚の防具があって助かった。
でもなぁ。
グリーブ、直に肌に触れるとちょっと冷たいなぁ。
外の日光にあたれば熱くて火傷しそうだし、下に履くレギンスか何かあればいいんだけど……。
思いながら、衣類が収容されている棚を調べる。
「うーん、お、この黒のレギンスっぽいやついいな。
あー、でもサイズが……ん?
こっちの黒いタイツっぽいのは……ゴム製じゃなくてシルク製っぽいな、手触り的に。
でも結構丈夫だ、虫食いもない。
サイズもぴったり……おや?
隣のこの服、今着てるのより丈夫そうだな。
デザインも今着てるのより可愛いし、このタイツにも合うぞ」
続いて手に取ったのは、伸縮性のあるベルスリーブの青いレザーハーフコートと白のワイシャツ。
同じく青いレザーのプリーツスカート。
プリーツの幅が広いやつで、どちらかというと佩楯(鎧の腰のところにあるスカートみたいなやつ)に近い。
レザースカートのプリーツの縁や、レザーコートの前立てと裾、襟元のベルトに金の刺繍が入れてあって、見た目的に盗賊が使っていたようには思えない。
多分、何処かの冒険者から盗賊が盗んだものなのだろう。
その持ち主が分からず放置されていたものと推測される。
もしかすると、その冒険者は俺と同じ年頃の女の子だったんだろうなぁ。
「南無」
心の中で冥福を祈り、それらの装備を頂戴する。
そうして俺は装備を変更すると、再度体の動きに支障がないかなどを確認した。
「うん、問題なく動ける。
魔力による筋力補正のおかげかな、全然重さを感じないや」
ニッ、と微笑んで満足げな表情だ。
「衣装もかわいくなったし。
なんなら、今のこのデザインの方が魔法少女衣装よりかわいいんじゃねぇの?」
目の前に姿見こそなかったが、気分的にくるりと回ってみせる。
スカートは短いが、タイツを履いているので安心だ。
……問題は、タイツの下にあるのがトランクスということだが。
(お金ができたら、ショーツを買おう。
できるだけかわいいやつ)
かくして、準備を整え終えた俺は、意気揚々と武器庫を後にして、集合場所へと走って向かうのだった。
ᚲ
火を意味するルーンです。
コアイメージは『暗闇に灯る火』が近いかもしれません。
純粋な炎という意味もあれば、光明が見えるということわざにおける光明の意味もあり、また、情熱の炎という捉え方もできます。
火属性魔術の基礎ルーンで、レンが草原グールと戦った時に使った《小飛輪》という魔術は、このルーンが使われています。
※ちなみに魔術として放つ火や水の形状そのものは、術者のイメージによってある程度制御することもできますが、 ᛇ というルーンを重ねて使うことで、簡単に魔術を敵に飛ばすことができます。
漢字一文字に変えると『燈』。
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