美少女な俺様が作戦会議に参加する!
その日、冒険者レンウォードはギルドに訪れていた。
「レンさん、今日はいかがされましたか?」
迷うことなく受付に足を向ける彼に、受付嬢の1人──猫の獣人族だ──がテンプレートに従って対応する。
「ファム──あー、銀髪の冒険者志望の女性は、まだ試験から帰ってきてないのかと思って」
「あ、あのかわいらしい女性ですね。
本日はまだお見えになっておりませんが、何か言伝でも?」
「いや、見てないならいいんだ。
昨日中に試験をクリアするとか豪語しておいて、今朝になっても帰ってきてなかったから……」
「心配して確認に来た、と」
「そんなところです」
短く理由を答えて見せる彼に、獣人の受付嬢はニヤニヤと笑みを浮かべる。
この受付嬢は、実は昨日、ファムたち勇者一行を応接室まで案内していた獣人だった。
なので、その時何やら仲良さそうに話している2人の姿を見て──ついでに今回の彼の質問を聞いて、こんな邪推をしていたのである。
(この2人、もしかして付き合ってるのでは……?
ええ、きっとそうね。
昨日の勇者様の表情、あれは恋する乙女のそれだったもの!)
しかしこれは、当人たちからすれば全くの見当違いであり、迷惑甚だしい勘ぐりだったのだが──今ここにいる人物に、それを知る手立てはなかった。
そんなやり取りの末、そろそろギルドを後にしようとした時だった。
勢いよくギルドの扉が開かれて、見知った騎士の顔が現れた。
「バトス、それにアビも。
どうしたんだ、そんな顔色変えて」
やってきたのは、どこにでもいる20代前半に差し掛かった年頃の男性2人。
ファムが初めて砦に来た時に出迎えた、あの門番の衛士だった。
「ゴブリンがスタンピードを起こしたんだ!
ファムちゃんがそれに巻き込まれて──いや、無事に帰っては来たんだが──」
「──スタンピードだって!?」
──ざわ。
レンの鸚鵡返しに、ギルドの中にいた冒険者たちや係員がざわめきだす。
スタンピード。
それは、魔物が大群を以って人間の住む街や村などの集落に押し寄せてくる現象をさす言葉だ。
幸い、この街は森との間にユーリア砦があるし、万が一突破されたとしても街を囲うようにして高い壁が築かれている。
規模にもよるが、そうそう突破されるようなことはないと思うが──と、そんな風に騒いでいた最中だった。
「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるせぇな、一体何事だ?」
ギルドの奥から、1人の巨漢が現れた。
黒い肌に、灰がかった黒髪、左側の額からは鬼の角が生えている。
鬼人族にして冒険者ギルドユーリア支部がギルドマスター、オウルコスだった。
「ギルマスか、ちょうど良かった!
実はかくかくしかじか──」
バトスは事情を説明した。
ファムたちが試験のために森に入ったこと。
翌日になって空からガーディアンで帰ってきたこと。
そして、100匹近くのゴブリンとホブゴブリン、他にも魔術を使う魔物がいた事を知らせてくれたこと。
「勇者を名乗るくらいだから、それくらい余裕かと思っていたんだが──」
ギルドマスター──もとい、オウルコスは頭の後ろをガシガシと掻きながら溜息をつく。
「まったく、これだから調子に乗ってるガキは嫌いなんだ」
言って、踵を返す。
「ギルマス、どこへ?」
不審に思ったアビが、短く尋ねる。
すると彼は振り向きざまに面倒くさそうな口調でこう答えた。
「便所」
言って、そのままギルドの奥へと姿を消すオウルコス。
その姿に、その場にいた全員が唖然としたのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
ユーリア砦では、100近い数のゴブリンに対してどう対処するかの作戦が練られていた。
「──というわけで、敵の中にはホブゴブリンが2体いる可能性が高ぇ。
しかも片方は魔術を使ってきたという証言よりゴブリン・メイジである可能性が高く、勇者殿の証言から今回のゴブリンどもはかなり統率の取れた行動をとっている。
十中八九、残りのホブゴブリンはゴブリン・ジェネラルだろう。
故に、森の中で戦うのは危険だ。
そこで、ゴブリンどもを森から追い出したいわけだが──何か案はあるか?」
ユーリア砦、作戦司令部。
その長方形の少し広い石造の部屋で一つの長机を囲む集団に問いかけるのは、金髪碧眼の筋骨隆々の巨漢──ハンス中隊長だった。
「(彼、現場の指揮を取るなんて、そこそこ頭良かったんだ?)」
小声で、ステラとメアリーの方に尋ねる。
「(まぁ、一応中隊長だからね)」
苦笑いを浮かべながら、ステラが応える。
中隊長だから、という言葉はよく理解できなかったが、小隊を複数まとめ上げるのが中隊長なのだから、その通りなのかもしれない。
ただ、初対面の印象的に、そこまで頭のキレる男には見えなかったものだから、なんというか、ギャップがすごい。
(まぁ、十中八九。
一度惚れた俺様にかっこいいところを見せたいのだろうけど)
チラリ、視線を向ければ、やや顔が赤く、少しだけ体が強張っているのが確認できた。
こういうのを見ると、なんか授業参観で親に良く見られたい小学生みたいでなんかかわいいな。
「はい!」
と、そんなことを考えているうちに1人の小隊長が挙手をする。
赤い髪が特徴的な、若い犬系の獣人である。
見た目ではまだ20代に登ったばかりのように見える。
「ローズリー小隊長」
「一個小隊を斥候として森に配備し、ゴブリンの集団をトレインする、というのではどうでしょう?」
彼のセリフに、俺が小首を傾げる。
(トレイン……って、なんだ?)
しかしそんな俺の反応は眼中にないか、険しい顔のままハンスが言葉を返した。
「それはどの隊がやるんだ?」
「私めの部隊が担当しましょう。
我がローズリー小隊は、森の中でも機敏に動き回れる獣人が多数所属しております。
森の中であれ、ただのゴブリンどもに引けは取りますまい」
とローズリー小隊長が即答する。
「なるほどな。
他に案はねぇか?
……ねぇみてぇだな。んじゃ、その作戦で行こう。
誘き出した後の作戦は──」
それから、いくつかのパターンで作戦を練り終えた俺たちは、装備を整え、直ちに出陣する運びとなるのだった。
ᚱ
車輪を意味するルーンです。
コアイメージは『遠方の情報とやりとりする』が近いかもしれません。
転送系の基礎ルーン。
ᛟ や ᛖ などと組み合わせることで《転移》の魔術が使えます。
漢字一文字に変えると『運』。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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