ごく平凡な冒険者の俺が厄災に取り憑かれる!
「このかわいい幼女を助けると思って、近くの町まで案内してくれないかな?」
目の前の美幼女が、そんな提案をしてきていた。
しかし、はっきり言おう。
この残念な彼女のこの行動は、はっきりいって怪し過ぎる。
道に迷った?
絶対嘘だろう。
これだけの魔力を秘めた幼女──おそらく見た目通りの年齢ではないだろう──が、こんな初心者が歩き回るような森で道に迷うはずがない。
さっきのナイフによる牽制の反応速度といい、きっとそれなりにランクの高い冒険者だと思われる。
そんな彼女が、こんな普通の森で道に迷うなんて、あり得るはずがなかった。
「あー、悪いが急用ができた。
別のをあたってくれ」
「なんで!?」
驚いたように言葉を返す銀髪の少女。
先程のおねだりには、危うくOKと返しかけたが……。
(まったく、どうしてこんなことに……)
俺は、それまでの出来事を思い返した。
⚪⚫○●⚪⚫○●
俺の名前はレンウォード。
長いからみんなは俺のことをレンと呼ぶ。
今はソロで冒険者をしている、Cランク剣士だ。
少し前までは白魔術師のポーラと赤魔術師のフレッドとの3人でパーティを組んでいたのだが、2人が結婚したのでパーティが解散してしまい、ソロになった。
男女混合の冒険者パーティにはよくあることだ。
といっても、俺が経験したのはそれが初めてで、結構ショックが大きかった。
ポーラ、あの子かわいかったからちょっと狙ってたのに、いつのまにフレッドのやつ手を出したんだ……。
そんなムシャクシャした想いを晴らすために、気分転換で近くの森にやってきた。
なんてことのない、普通の森だ。
出てくるのも弱いゴブリンかスライム、あるいは粘着液を吐き出してくるクリーパーくらい。
奥にでも行けばオークがいたりすることもあるが、頭上にさえ気をつけていれば、基本的には安全な普通の森だ。
そんな森でゴブリンを蹂躙しながら進んでいた時だった。
不意に、人の喚き声が聞こえた。
『しょっぱな迷いの森からスタートとか、難易度高すぎんだろこのクソ神がぁあ!』
内容についてはちょっとどういう意味かわからなかったが、『迷いの森』というセリフにちょっとした違和感を覚えながら、もしかしたら何かの幻術にでもかかっているのかもしれないと、走って救援に向かった。
声のした方へ向かうと、長い銀髪を垂らした、青のシャツに白いスカートを履いた少女の姿が見えた。
背は低く、子供のように見える。
しかしそれが纏う魔力は凄まじく、一眼見ただけで普通の子供とは違うだろうことが見て取れた。
何かの罠だろうか。
だとしても露骨過ぎるか。
元々人助けの精神がそこそこ強かった俺は、心配して声をかけようと近寄った。
──瞬間。
『うわっ、ぶね!?』
ナイフが目の前を横切るのを、咄嗟のバックステップで回避する。
一瞬でも反応が遅れていれば、手の指がいくつか失っていたに違いなかった。
『えっ、人!?』
まさか人間がやってくるとは思っていなかったような、そんな驚いた声が前方から届く。
かわいらしい声だ、と俺は思った。
前を向いて、少女の顔を見てみればやはりそうで──いや、それ以上で、思わず口が滑る。
『……結婚してくれ』
それは、少し前に仲間が結婚して出て行ったせいか。
不本意ながら、そんな台詞が飛び出してきた。
いや、もし許されるならば、このまま結婚するのもいいかもしれない、なんて思って──。
『え?』
しかし、そんな考えは彼女のキョトンとした表情によって掻き消された。
何ばかなことを考えてるんだ俺!?
そんな、初対面の人に失礼だろうが!
『いっ、いやっ、違うんだ!
今のは、その、あまりにも君が綺麗だったから、その、つい口が滑ったというか……っ!』
手をブンブン振りながら、言葉を訂正する。
しかし、時すでに遅く、銀髪の美少女はニヤニヤと笑みをたたえながら、満足げに、芝居がかった所作で許しのセリフを吐いた。
『わかる。君の言いたいことはよぉくわかるよ?
この俺様の事がかわいすぎて、プロポーズを我慢できなかったんだよね?
仕方ないさ、この美貌は神が与えてくれたものなのだから!かっこドヤァ』
『……』
最後の言葉の意味はよくわからなかったが、しかしそのセリフを聞いてどうやら気に来ていないどころかとても嬉しそうですらあった。
が、しかし同時に、なんとなく悟る。
この手の輩は、関わるとめんどくさい。
冒険者の中には、こういう濃いキャラを持ってる人というのが沢山いた。
沢山いたし、関われば碌な目にあわないことは周知の事実だった。
人付き合いするなら、もう少し普通の子がいい。
厄介型はごめんだ。
続く彼女のセリフに『実は記憶喪失なんだ』云々とあるのだから、厄介なこと極まりない。
こんな、迷子の高ランク冒険者のお守りなんてした日には、きっとその後もなんやかんやで彼女の世話をし続ける羽目になるのだ。
そんなのは絶対嫌だ。
そういうわけで、話は前話の最後のところに戻ってくる。
「あー、悪いが急用ができた。
別のをあたってくれ」
「なんで!?」
まったく想像していなかった答えだからか、非常にうろたえた様子で泣きついてくる幼女。
くそう、見た目だけならめっちゃかわいいのに……。
こんなので釣れると思ってるところとか残念すぎてかわいいのに……。
俺は、服にとりつかれて一瞬ドキリと心臓が跳ね、動揺するのを悟られまいと、深く息を吐いた。
「めんどくさいから」
「そんなぁ……!?」
心苦しいが、腕を払って少女を突き飛ばそうとして──思ったよりしがみつく力が強かったのか、なかなか離れない彼女に青筋を立てる。
「しつこい!」
「ガビーン!?」
ガビーンなんて言葉今日日聞かねぇぞ……。
ていうか、それ口に出して言うのか……。
「……」
綺麗な目を涙で潤ませて、こちらを見上げてくる幼女。
心なしか、手の甲に何か柔らかいものが押し付けられているような気がしなくもないが、その正体について考えるのは悪手だと気づき、盛大なため息をつく。
「あー、わかった!わかったよ!
でも出口までだ!森を出たら即刻解散だからな!?」
「わーいやったー!」
さっきまでの涙はどこへやら。
彼女は急に元気になるなり、両手を離して喜びを体全体で表した。
嘘臭ぇ。
頭が痛くなるのを、掌を当てて耐える。
これが、こいつ──ミカネとの初めての出会いだった。
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