美少女な俺様が弟子に稽古をつける!
テントを張った場所から少し離れたところ。
木と木の間が少し広くなったところで、十分拠点の様子が見える場所だ。
(あんまり離れたら、俺の天然の魔除け効果が届かなくなるしな)
半身になって前手に持った木の枝──というか棒?──を青眼に構え、左手は腰に回す。
対してステラの方は、木剣を両手で持って、中段に構えていた。
ただ中段に構えるのではなく、半身になって、剣は水平に傾けている。
普通、剣身というのは裏刃表刃をまっすぐ垂直にして構えるものだが、しかし彼女のそれは、真横に傾いていた。
天然理心流の平青眼という構えだ。
そういえば、俺の兄弟子が齧ってたな……。
でも、まさか前世の日本の剣術が、こんな異世界にまで波及してるわけ──いや、もしかすると異世界人が伝えた可能性も……。
レンという前例があるんだ、他に転生者が居てもおかしくはない、か。
考えて、ニヤリと口元を歪める。
「まずは攻撃してみな。
伸び代があったら教えてあげるから」
「お願いします、師匠!」
その言葉を皮切りにして、ステラが動いた。
彼女の重心が落ちる。
見上げていた俺の視界から一瞬だけ彼女の姿が消え、かと思えば低い位置から横薙ぎに一閃が繰り出されてきた。
(初手で《脛斬り》を選ぶのか)
軽く飛び跳ね、空中で一回転しつつバックステップを踏む。
それに追随するように《唐竹割》を繰り出す。
空中でそれを回避する術はないので、木の棒で下方に受け流しながら、回転を利用して威力を軽減。
着地と同時に来る突きを弾いて、彼女の背面に回り込む。
(うん、いい反応速度だ。
それにしても剣が低い。背の低い俺に対応するためというのはわかるが、さて、機動力の程は──)
回避されるのを視認して、ステラは木剣を持つ手の片方を地面につけると、それを支点に、地面を蹴って一気に180度回転した。
ついでに横一閃の《脛斬り》。
(まるで実写版のるろ剣みたいだなっ!)
思わず笑い声が漏れる。
ユーリア砦で相手をしたユーゴーの剣術とは全く違う流派。
非常に洗練された動きを見て、さすが元王位継承権保持者の側近だっただけはある。
身の回りの世話ばかりではなく、きっと護衛も兼ねていたのだろう。
細かい剣戟。
離れたらすぐに追随する反応力。
これだけでもまぁ、かなりの腕前であることが窺える。
(重心の制御もまぁまぁ。
深層筋の働きもそこそこできてはいるが、まだ内功は練られきってはいない。
原因は、表層筋の瞬発力に頼りすぎているせいか。
武器の重さを制御する腕は、そこらの訓練を受けた兵士よりはずば抜けているが──)
「骨が甘いッ!」
下からの斬り上げに対して応じるように、同じ軌跡を描きながら木の棒を振り上げる。
《切先流し》という技だ。
「あっ!?」
彼女の悲鳴と共に、体幹が崩れる。
《関節駆動》と《体振動》の合わせ技によって、激しい振動が彼女の木剣越しに体を撥ね上げさせたのだ。
「もっと関節を使え、筋肉に頼るな!
内側の筋肉が使えてないぞ、もっと意識しろ!
呼吸が乱れてるぞ、腹を使え!」
これを起点に、今度は攻守が逆転する。
ステラは必死に俺の攻撃を捌こうとするが、その全てが通り抜けられて体にバシバシと打撃を与えていく。
きっと彼女からは、防御したはずなのに攻撃が木剣を通り抜けているように見えただろう。
しかし実際はそうではない。
関節を柔軟に駆使することで、最初の攻撃をキャンセルし、全く別の角度から攻撃しているだけである。
《二拍子》と呼ばれる技術だ。
これを初見で回避するのはほとんど不可能に近いが──。
(目が慣れてきたのか、あるいはコツを掴んできたか──)
何回か攻撃をしているうちに、その内の数回、《二拍子》を防御することに成功し始めたのだ。
やり方は至極単純で、俺が攻守逆転させた時に使った《切先流し》と同じ原理だった。
(元から知っていたのか、あるいは戦いながら覚えたのか──。
後者だったら、凄まじい才能だな……羨ましい)
相手が攻撃してきた方向と同じ方向に攻撃することによって、相手の技を受け流す技法。
反応速度が元々高いせいもあって、しばらくすると《二拍子》を何度か防げるようになっていた。
──が。
(やっぱり、動体視力に頼ってるところがあるな)
体の動かし方もまだ改善の余地がある。
どうやら、ステラは防御が苦手らしい。
攻撃の手段の方は、予備動作を見せないようにするところからだな……。
俺はわざと彼女に攻撃させる隙を与えると、カウンターのようにして彼女の木剣を奪い、地面に組み伏せた。
「わぶっ!?」
「いや、流石にさっきの隙は罠だってわかるでしょ……」
呆れたように溜息をつく。
それでも、彼女の隙を突く反応速度はなかなかのものだった。
もし俺の身体能力が前世のもののままだったら、負けていたかもしれない。
あと最初の攻撃。
低い位置からの横薙ぎの一閃は、身長の低い俺に対応するためだったと言うのもあるのだろうが、懐に潜られないようにするという目的もあったのだろう。
そう言う点でもなかなか評価できる点ではある。
「うぅ、面目ない……」
悔しそうに表情を歪めながら、うつ伏せにそう呟く。
(それにしても)
構えから天然理心流の使い手かな、とか、俺の記憶の中であの構えを使うのがその人しかいなかったもので勝手に思ってたけど。
(全然スタイルが違ったなぁ)
まぁ、よくよく思い直せば、平青眼くらいなら古流の剣術にはごくありふれた構えだしな。
たしか柳生新陰流も似たようなの使ってた気がするし。
「すごい……」
そんなことを考えていると、テントの方からそんな声が聞こえてきた。
言わずもがな、メアリーの声だ。
「起きてたんだ、おはよう、メアリー」
「んぇ、メアリー?」
ステラを解放してメアリーの方に向き合う。
金色の髪がボサボサになって、羽織っていた緋色のマントの上に金の川のように流れている。
「ご飯は?」
土や落ち葉を払いながら、ステラが尋ねた。
「残ってたので適当にやったから大丈夫。
ね、ファムちゃん。
お姉ちゃんにも稽古つけてよ!」
見れば、いつのまにか彼女の手には細長い木剣が握られている。
ステラが使っていた、普通のロングソードのものより幅が狭く、しかし細剣にしてはやや広い。
濶剣──つまりこれはブロードソードと呼ばれるやつだ。
メアリーはブロードソードの木剣をクルクル回しながら、そのやる気をアピールして見せている。
どうやら威勢は十分らしい。
(使えるのは魔法だけかと思ってたけど──)
「メアリー、剣も使えたんだな」
「嗜む程度だけど、王宮剣術は護身として習っててから」
『ふふん、かっこいいでしょ?』とでもいうように、腰に手を当てて胸を反らす。
「わかった。
それじゃあ、全力で掛かってきてくれ」
ᚦ
番人や警告を意味するルーンです。
コアイメージは『危険な場所に近づけさせないようにする警備員』。
ここから先に危険なものがあると教えてくれる存在で、危ないものから自分の身を守ってくれます。
自動防御の基礎ルーンで、例えば ᚦᛗᛏ で術者の身を守るガーディアンを設置したり、あるいは ᛏ の後ろに ᚷᚠ を付け足すことによって、相手の攻撃を自動で吸収して跳ね返す《リフレクション》の魔術を作ることができます。
漢字一文字に変えると『警』。
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