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美少女な俺様が世界を救う!  作者: 青咲りん
ミッション1:草原グールを討伐してみよう!
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美少女な俺様が森の中で野営する!

 メアリーの指導で、早くも魔力操作の技法の一つ『呼吸』を習得した頃だっだった。

 青空教室の背後の茂みが、ガサガサと音を立てて揺れているのを、俺とメアリーは発見した。


 果たして出てくるのは魔物か、それとも或いは──。


「ただいまー、メアリー、ファムちゃん師匠!」


 しかし、そんな警戒は杞憂だった。

 なぜなら現れたのは、いつの間にか姿を消していたステラだったからだ。

 その懐には、薪らしきものが束となって抱えられている。


 どうやら野営の準備をしに行っていたらしい。


 そんな彼女の手荷物を見て空を見上げる。


 すると、木の葉の隙間から見える空は、いつの間にか朱色に染まっていた。

 夕暮れである。

 こうなればもうゴブリンの討伐は今日は諦めたほうがいいだろう。


 あんなに威勢良く、今日にでも依頼を完了してやると言った手前癪だが、仕方ない。


 3人は野営の準備を始めることにした。


「そういや、野営ってしたことないんだよなぁ」


「そうなの?」


 少し驚いたような顔で、ステラがこちらを向く。


 日本に住んでいるならば、野営を経験したことがある!という人は少ないのではないだろうか。

 あるとすれば、キャンプが好きな人か、あるいは浮浪者くらいしか思いつかない。


 当然、そこそこな都会で暮らしてきた俺にとっては初めての経験となるわけで、隣でそそくさと石を並べて焚き火の準備をする2人をキラキラとした目で眺めていたのだ。


「俺のいた世界じゃあ、そこかしこにホテル──あー、宿屋があったからね。

 ……ねぇ、何か手伝うことある?

 なんかやってみたい!」


 何もしないのでは申し訳ない、というよりも、面白そうだからやってみたいという好奇心で、2人に申し出る。


「じゃあ、たきぎを組んでみよっか!」


 それから、俺はステラに薪の組み方、火の起こし方、焚き火をするときの注意など、様々なことを教えてもらい、それが終わると冒険者用の簡易テントの組み立て方も教えてもらったりした。


 そんな風にわいわいと楽しみながら準備を終えて、今朝ユーリアの街でメアリーたちが買ってきてくれた干し肉や黒パン、スープなどでお腹を満たした。


 黒パンは、話ではスープに浸さないと硬くて食べられないと聞いていたけど、俺にとってはそこまで硬くは感じなかった。


 メアリーとステラはとてもそのままでは硬くて食べられないらしく、俺のこの行為に目を丸くしていた。


 食事中の話は、もっぱら2人のことに集中した。


 ユーリア砦ではどんなことを習ったのかとか、今朝の買い物であった出来事とか。

 聞けば聞くほど、ここは異世界なんだなぁ、と実感する夕食だった。


 食事が終わり、テントに入る。

 元の世界でいうところのワンポールテントみたいなもので、真ん中の支柱から円錐型にテントの屋根を張るものだった。


 今回は場所が森なので、ポールは森の木が利用された。


 テントの中に、2人が支柱を挟んで並び、寝袋がわりのマントを羽織って横になる。

 残りの1人──最初の見張り番はジャンケンで負けたメアリーがすることになった──は焚き火の前で火が消えない様に随時薪を足している。


「眠れない?」


 薪の爆ぜる音に、風で葉が擦れる音。

 外の気配に敏感になってなかなか寝付けないでいると、ステラが話しかけてきた。


「ちょっと寝床が固くて」


「あはは、確かに宿のベッドよりは固いかも」


 軽く笑って、寝返りを打つ。


「でも寝なきゃダメだよ。

 またすぐに見張りの時間だから。

 寝られる時に寝ないと」


 『メッ』。

 指先を立てて、芝居がかったように言ってみせる。


「ねぇ、ステラ。

 なんかコツとかないの?

 こういう場所で寝るの初めてで、緊張しちゃって」


 家の中で寝るときは、外の危険とかを考えなくて済む。

 だから安心して寝ることができるが、しかし外──それも近くに魔物の集団の気配があると、警戒心が先立って眠れそうにないのだ。


 そんな俺の問いかけに、ステラは思い出す様に唸ると、こう続けた。


「教官は──あ、私が騎士見習いをしてた時の話なんだけどね──心を空っぽにするために、頭の中で音楽を演奏するんだって言ってたよ。

 そうしたらいつの間にか寝てるんだって」


「なるほど……」


 教官のそれは多分、禅宗とかでやってる瞑想に近いやり方だな。

 それで不安な心を沈めてリラックスさせて眠るって感じか。


 今の俺にはピッタリかも。

 流すならクラシック系のゆったりした音楽だな。

 そうだな、ドビュッシーの『月の光』とかいいかもしれない。


 水面に映る月か、あるいは夜の森から見上げる、木の葉の間から差し込む月の明かりを連想させる、あの柔らかいメロディ。


 きっと、今の不安な気持ちも安らげてくれるに違いない。


 ……まぁ、細かいメロディは覚えてないんだけど。


「ありがとう、試してみるよ」


 こうして、今日という長い1日が終わりを告げたのだった。


 ……まぁ、この後見張り番として起きることになってるんだけどね、約3時間ごとに。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「おはよ……」


 異世界生活3日目の朝。

 チュンチュンと小鳥の鳴く声すら聞こえないのは、俺の体から漏れる魔力のせいか。

 静かな朝が森の中に訪れて、薄く霧が立ち込めていた。


「おはよう、ファムちゃん師匠。

 昨日はよく眠れた?」


「まーねー……背中痛いけど……」


 最後の夜番ついでに、朝食の用意までしてくれていたのだろう。

 焚き火の上に設営された簡易的なかまどの上でスキレット(よくキャンプとかで持って行く小さいフライパンみたいなやつ)からは、何やらいい匂いが漂ってきていた。


 干し肉を焼く匂いに加えて、これは何かの香草だろうか。

 いい匂いだ。


「なるべく腐葉土の多いところに建てたんだけどね」


 苦笑いを浮かべながら応える。


 昨日、ステラに教えて貰った野営のコツだ。

 テントを建てる場所は、なるべく地面が柔らかいところで、水分があまり含まれていない、乾いた場所がいいのだとか。

 なければスコップとかを使って軽く耕すらしい。


 というのも、地面が硬すぎると、体が痛くて翌日の行動に支障が出るのだとか。


「メアリーはまだ寝てる?」


「まだみたいだよ。

 さっき寝言言ってた」


 ちなみに内容は『お姉ちゃん……』だった。

 どうやら夢の中でまで俺の姉気分らしい。


 まぁ、それだけこの短期間で親しんでくれているのは、俺としてはとても嬉しいことなんだけど……でも同時に、それが怖くなる時がある。


 もしかしたらこの彼女から向けられる好感の眼差しも、実は俺が勇者だから──こんな美貌の少女だからこそ、そう言った風に魅了されているだけなのではないか、と。


 俺が2人にしてあげられたことなんて、今の時点ではほとんど、というか、全くと言っていいほど無い。


 表面上気にしては居ないように振る舞っているものの、ファムではない、元の水銀ミカネユウとしての俺の人格は、そこを非常に気にしていた。


(早く、2人に師匠らしいことをしてあげないとな……)


 朝食を済ませて、朝の套路とうろをすることにする。


 昨日の朝もやった、八卦掌はっけしょうとクラヴ・マガを合わせた護身術の套路だ。


 師匠曰く、『護身の基本とは自ら危険に赴かないこと』なのだが、生憎今生でそれは難しい。

 師匠も言っていた。

 『もし逃げることができないなら、素早く短時間で敵を制圧しろ』と。


 何せこれのモットーが『臨機応変』と『素早い制圧』だからね。

 相手が何もできない、抵抗が絶対不可能な状態というのは、すなわち相手が瀕死、あるいは死んでいる状態。

 制圧とはすなわち相手の戦意を喪失させることではなく、確実に2度と立ち上がれない状態にすることである。


 これによって活人剣というものは成立する。

 師匠曰く、この言葉はもともとそういう意味らしい。


「ふぅぅぅぅぅ」


 足を肩幅の1.5倍くらいに開き、つま先を正面に向ける。

 重心を落として膝を軽く曲げ──と、套路に従って体を動かして行く。


 腹式呼吸を意識しながら、ゆったりと体を動かす。


 幸い、ここは森だし、木人椿ぼくじんとう──よくカンフー映画でバコバコ叩かれてる木のサンドバック的なあれ──の代わりにできる木もたくさん生えている。


 一つ一つの動きを注意しながら体を動かし、木人椿代わりの木を殴って、蹴って、その周りをぐるぐる回りながら殴って、蹴ってを繰り返す。


 そんな俺の動きを、真剣な眼差しで覗く瞳があった。


 ステラだ。

 彼女はよくよく俺の動きを観察しながら、足を動かしたり、体を揺らしたりしていた。


 套路を1つ終えて、ステラに向き直る。


「ステラ。

 もう少し体の中の筋肉を使うように意識してみて。

 外はしなやかに柔らかく、中の筋肉を強く。

 そう、重心はもう少し低くして──飲み込みがうまいな……」


「えへへ、これでも騎士の家系だからね。

 そこそこ剣は使えるよ」


 『じゃないと、側近になんてなれなかったし』。

 付け加えられた言葉に、思い出す。


 そういえば、メアリーは元王族で、ステラは公爵の令嬢なんだっけ。


 ……じゃあ、昨晩、寝るコツを聞いた時に出てきた教官っていうのはらそっちの方の教官だった可能性もあるのか。


 いや、どっちでもいいんだけど。


「道理で。

 だったら、套路から教えるよりも先に一戦、剣を交えた方が、上達点を指摘しやすいかな」


 言って、落ちていた木の枝を拾う。


 長さは大体、今の俺の腕の長さと同じくらい。

 武器で言えば、歩兵用の剣(ショートソード)相当か。


(ナイフの方が得意だけど──)


 左手を腰に回して、右手に持った木の枝を軽く振る。

 太さもしっかりしてるし、それなりに丈夫。


 うん、いける。


(──別に、剣術が苦手なわけではないからね)


 剣先ポイントに見立てた木の枝の先端を、ステラのちょうど首あたりに向けて、ニコリと笑う。


「うぇ!?

 ま、まぁその通りだけど……っ!?」


 慌ててテントに戻ったかと思えば、訓練用の木剣を引っ張り出してきて急いで戻ってくるステラ。


「それじゃあ早速、お稽古といきますか!」


 こうして、異世界生活3日目の朝は、ステラとの模擬戦で幕を上げたのだった。

 (ウル)


 力を意味するルーンです。

 コアイメージは『野生の雄牛』。

 野生の荒ぶるめちゃつよな暴力的な力のイメージです。

 それは例えば、天災とか厄災とか、そういう人間ではどうしようもない絶大な暴力みたいなものをイメージすると近いかも。

 強化系の基礎ルーン。


 たとえば ᚠᚢ(フェオーウル) の組み合わせだと『力を溜める』という意味になります。

 ※術式の文法は、常に前の文字を後の文字が修飾する形になっている


 漢字一文字に変えると『暴』。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m

 もしよろしければ、ここまで読んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。

 そして、また続きが読みたい!とお思いであれば、是非ともブックマークへの登録をよろしくお願いしますm(_ _)m



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