美少女な俺様が魔物に逃げられる!
中華風の衣装に、洋風な軽装鎧を混ぜたようなその青色の衣装に、俺は目をパチクリさせる。
「へ、変身しちゃったぁぁぁあああ!?!?!?」
『魔法少女みたいなもの』と言われた時から、なんとなくそんな予感はしていたが、まさか本当に変身してしまうとは。
想像していなかった事態に、俺の脳みそはショートしそうになる。
「どうダ、気に入ってくれたカ?」
「気に入ったも何も……驚き過ぎて感想が……」
ニシシ、と、してやったり的な仕草を見せる神。
「でも、まぁ、一言言うなら……スリットめっちゃエロいっすね……。
パンツもろ見えじゃねぇか、しかも黒だし……」
衣装の素材は絹っぽくてツルツルしている。
軽くて柔らかい素材だ。
そのくせ、引っ張ればやや弾力があり、よくわからない素材である。
「その状態が、ユーリアとして現状、もっとも勇者としての能力が強く解放された状態だヨ。
名付けて、勇者化ダ」
「勇者化……」
神の言葉を繰り返す。
「それを使いこなせるようになれば、魔力の許す限りなんでも思うだけで魔術が使えるようにナル。
強敵と遭遇した時の切り札として申し分ない能力ダロ?」
こくり、頷いて肯定する。
ただ、魔力の許す限りという制限がつくものの、敵に対して、かなりのアドバンテージとなるはず。
とはいえ、敵にあまり奥の手は見せたくないからな、使い時は選ばなきゃだけど……。
いや、むしろ積極的に使っていくのもアリか……。
「マ、後の詳しいことはガイドラインに聞いてヨ」
言って、神は俺に向けて人差し指を向けた。
すると、目の前に光の玉が現れて、その中からなんか謎の巨大生物が現れた。
「うぇっ!?」
だいたい、全長2、30メートルくらいだろうか?
白銀に輝く体毛。
その巨大なシルエットはオオカミに似るが、しかし耳がウサギのように長く、先端が青く染まっている。
背中からは一対の翼が生えており、さらに頭には黄金に輝く、いわゆる天使の輪のようなものが浮かんでいた。
(なんか、ちょっとかっこいい……かも)
──と、そんなことを思っていると。
『ガイドラインです。
よろしくお願いします』
「うおっ!?」
ビー玉のように輝く、鋭くも美しい青い瞳をこちらに向けながら、それは合成音声のような機械的な声で直接脳内に語りかけてきた。
「ビックリしたぁ……」
唐突にかけられた声に驚いて、思わず叫ぶ。
すると、心なしか反省したように長いウサギの耳を垂らして『すみません、ユーリア』と、今度はちゃんと口に出して言葉を返した。
しかも声が意外と高い……。
音声モデルが女性じゃん……。
「ガイドラインはキミの為に新しく作った精霊ダ。
ただ、そいつはボクとの通信手段でしかないヨ。
あとからいろんな機能を盛り込むつもりだから、楽しみにしてるといいヨ」
「お、おう……。
わかった……」
機能を盛り込むって、何を盛り込むつもりだ、この神様は……。
それから、俺はガイドラインの基本的な機能を教えてもらった後、下界に戻してもらうことになった。
ちなみに、現在は基本的にこちらから呼びかけないと何もしてくれない上、勇者化していない間は教会の近くでないと実体化できないらしい。
なんでも、実体化に必要な魔力が足りていないのだとか。
俺、下界ではそこそこな量の魔力保有者の筈なんだけどな……。
神曰く、魔力量を増やすには、魔物を倒すか、或いは魔力溜まりを封印するしかないようだ。
魔力が増えれば魔王軍と戦う力も手に入るし、これからは見つけ次第、積極的に封印していこう。
それにきっと、この大きな背中に乗って空を飛ぶのは、とても楽しそうだしな!
⚪⚫○●⚪⚫○●
「──ハッ!?」
ガクッ、と高いところから飛び降りたかのような浮遊感を感じて目を開くと、俺は教会に戻ってきていた。
「どうした、ファム?」
礼拝は終わったのか。
隣で不思議そうな顔をしながら、レンが見下ろしてくる。
「……いや、なんでも」
自分の体を見下ろす。
そこには、昨日から着ている青の服と白のスカートがあるだけで、さっき見た、中洋折衷な感じの魔法少女な衣装では無くなっていた。
白昼夢か?
一瞬そう思ったが、しかし記憶を遡れば確かに、あの神との会合の記憶がある。
確かな現実として、はっきりと。
(魔導廃墟街、か……)
そこに行って何をすればいいのかはわからない。
これについては、また別の街の教会に行けば教えてくれるだろう。
俺はそれだけを念頭に置いて、行動することにした。
「そろそろ行くか」
「そうだな」
俺はそう言うと、修道女に見送られながら、2人して教会を後にした。
⚪⚫○●⚪⚫○●
教会を出ると、ちょうどステラとメアリーがこちらに向かってくるところだった。
「ファムちゃぁぁあああん!!」
「おわっ!?」
メアリーが俺の姿を見つけるなり、猛然と駆け寄ってきて抱きついてくる。
ふわり、鼻腔を柑橘系の甘い匂いが充満して、頬に柔らかな胸の膨らみを感じる。
「メアリー!」
「寂しくなかった、ファムちゃん!?
私、お姉ちゃんが居なくて寂しがってないか心配だったんだよ!?」
いや、絶対寂しがってたのはメアリーの方だろ……。
俺は苦笑いを浮かべながら、彼女の頭をよしよしと撫でる。
撫でながら、首筋の聖痕を見つめる。
(これに咬み傷をつければ、従者に……)
思い出していたのは、先程神に言われた言葉。
従者が増えれば、勇者化の性能が上がる。
でもそのためには、彼女の首筋に咬み傷を作らなければならない。
歯形ではなく。
(そんなの、どういうシチュエーションで作ればいいんだよ)
作るのは跡ではなく傷だ。
しかも口で作る、咬み傷。
下手をすれば嫌われるかもしれない……。
(これについては、当分保留かな……)
そんなことを考えているうちに、後からステラが追いついてくる。
「よかったー、待ち合わせ場所決めてなかったから、すれ違いになってたらどうしようかと思ったよ〜」
ほっと胸を撫で下ろしながら、背中の巨大なバッグを背負い直す。
相変わらずすごい荷物量だ。
「おつかれ。
買い出しって、何を買ってたんだ?」
ゲームだとポーションの類とかだろうけど、ここはリアルだ。
他にもいろいろあるはずだし、今後の参考にでも聞いておこう。
「保存食と葡萄酒がメインだね。
お昼は砦の食堂を借りるとしても、念のために今日の晩ご飯とか、明日の分の朝ごはんは用意しておいたほうがいいでしょ?」
なるほど。
たしかに失敗した場合を考えた対策というのは重要だな。
「そうだな。
ま、俺様としてはこんな簡単な依頼、今日中に終わらせるつもりだけどな!」
拳を両腰に当てて、無い胸を張る。
正直、ゴブリンごときに苦戦する気が全くしないし、最悪の事態なんてそうそう起こらないだろ。
そんな俺の様子がどこかおかしかったのか、レンは苦笑いを浮かべながら俺の頭をポンポンと叩いた。
「あんまり油断するんじゃねぇぞ?
ゴブリンとはいえ、野生の魔物を討伐するんだ。
一筋縄ではいかないと思っとくんだな」
「安心しろ、無問題だ。
ていうか、気安く頭触るんじゃねぇ!」
頭の上に乗せられた手を払い除けて、そう宣言してみせる。
「そうだな、お前は勇者だもんな?
さて。それじゃあ俺の付き添いはここで終わりだな」
タイミングを見計らって、レンが口を開く。
「あ、そうだったな。
お前がいると不正扱いされるかもしれないんだっけ」
今朝彼に言われたことを思い出して、そう口に出す。
「おう。
んじゃ、3人とも頑張れよ!」
ヒラヒラと手を振って、そこでレンと別れる。
そんな彼の後ろ姿を見送っていると、心なしか、胸の内側が変な感じがした。
……なんだ、これ?
「……それじゃ、早速入会試験に挑むとしますか!」
そんな変な感覚を誤魔化すように、俺は声を張り上げながら、2人を伴ってひとまずユーリア砦まで足を運ぶのだった。
ちなみに。
向かおうとした方角が全然別の方角で、直ちに2人に呼び止められたのはまた別のお話。
⚪⚫○●⚪⚫○●
試験の場所は、ユーリア砦を抜けた先にある森だ。
街から砦まででも少し距離があるが、砦から森に行くのにも距離がある。
というわけで、試験に挑む前に砦の食堂でお昼をご馳走になってから向かうことになった。
といっても、この前に間食食べてるんだけどね。
ユーリア砦で昨日ぶりに出会った見習い女騎士たちや、門番をしていたバトスやアビ、ハンス中隊長に、剣の勝負をしたユーゴー小隊長とも少し話をして、森に向かう。
話の中で、ゴブリンたちは今は繁殖期だから、普段より少し手強くなっているみたいな情報を教えてくれた。
もしかすると、上位種であるホブゴブリンがいるかもしれないというわけで、現在調査中らしい。
「もし見かけたら、砦に知らせてくれ。
できるなら討伐も頼む」
このセリフはユーゴーのものだ。
ちなみにハンス中隊長からの伝言らしい。
どうやら、即答でフラれたことがショックで、昨日の今日ではまだ話しかける勇気もないのだとか。
見かけによらず、意外と繊細なんだな。
ユーゴーがフラれていたのを見て『俺もフラれた!』って叫んでいたのは、きっとヤケクソだったに違いない。
閑話休題。
昼食のオムライスをペロリと完食して、森に向かう。
向かう森は、俺がこの世界にやってきたスタート地点であるあの迷いの森の隣にある、別の森である。
特に名前もないその森に踏み込む頃には、太陽はすでに天辺を少しずれた頃になっていた。
「じゃあ、試験内容を確認しよう」
森の手前で立ち止まり、ステラに預けていた依頼書のスクロールを開く。
「えっと、達成目標は『ゴブリン3匹の魔石を持ち帰る』だね」
「うん。
というわけで、まずはこの森の中からゴブリンを見つけないといけないわけだけど──」
ステラの代読に頷いて、森の方に視線を向ける。
かなり深い森だ。
気配を探ってみると、いろんな動物の気配がそこそこに散らばっているのがわかる──が。
正直、どれがゴブリンかなんてわからない。
「こういう時って、どうやるか知ってる?」
今になって、壁にぶち当たる。
ゲームならば森を適当に散策すればゴブリンを見つけることもできる。
しかしここは現実。
生き物の気配がわかるとはいえ、そう一筋縄でいくわけがない。
今思えば、あのギルドマスターの不敵な笑みは、こう言った事態を予見してのことだったのかもしれない。
尋ねるも、2人ともさっぱり想像がつかないようだ。
「なら、もう片っぱしから当たっていくしかないか」
ため息を吐き、森に意識を向ける。
ゴブリンは今、繁殖期だと言っていた。
つまり、ゴブリンの子供が一緒にいる可能性が高い。
子供のような弱い気配のあるところを参考にして、片っぱしから潰していくに限るだろう。
そんな脳筋的な方法を2人に提示すると、それしかもう方法が思い浮かばないらしく、この方法を実践することになった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「だめだ、全然見つからない!」
体感的にはもう何時間も過ぎた──実際には2時間くらいしか経ってないけど──ころ。
俺たちは音を上げていた。
「ちゃんと気配のする方向に向かってるはずなのに、なんで見つからないんだ……?」
昨日は2匹もそれらしいのが釣れたのに。
俺が移動するたびに、逃げるように気配が動く。
完全にこちらの動きがバレている。
「きっと、ファムちゃんの魔力のせいじゃないかな?」
「俺の?」
メアリーのセリフに、はてと首を傾げて見せる。
「お姉ちゃん、昨日ファムちゃんに魔力の量がその生き物の身体能力に大きく左右するっていう話はしたよね?」
言われて、昨日の砦でのことを思い出す。
「たしか、多ければ多いほど強くなるんだっけ?」
「そうそう。
そうやってみると、ファムちゃんって結構、魔物たちにとって恐怖の権化みたいに映ると思うんだ」
言われて、なるほどと納得する。
たとえばライトノベルなんかで、なんか強い魔物に追われて魔物たちが逃げ出すとかいうシーンをよく見かけることがある。
つまり今の状況は、その強い魔物が俺自身になってしまっているという状態なわけだ。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
魔力を持っているだけでそうなるなら、もうどうしようもない気がするのだが。
そう思って尋ねてみると、メアリーは待ってましたとでもいうかのように、えっへんと両腰に拳を当てて、ない胸を反らした。
これが漫画なら、きっと背景に『バン!』とかいう擬音語が登場しているに違いない。
「というわけで、お待ちかね。
お姉ちゃんの魔術修行の時間だよ!
今日はファムちゃんに、魔力制御ができるようになってもらいます!」
そう言って彼女が杖を振ると、空中から黒板が現れ、ドシンと森の地面を揺らした。
魔法少女といえば使い魔は必須だよね!
でも動物のイラスト描けないからガイドラインちゃんの挿絵は挟めませんでした。
ごめんなさい。
⚪⚫○●⚪⚫○●
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