美少女な俺様が舐め回される!
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
結局、幽霊茶で気分は害したものの、後から普通の紅茶を淹れてくれたことで、さらにクッキーやらスコーンで機嫌を取り戻したのを見計らい、大男──ギルドマスターらしい──は口を開いた。
(ファムちゃん師匠、お菓子で機嫌直すなんてかわいいなぁ♪)
そんなステラの見守るような視線に気づかず、俺は手に持っていたクッキーを口に放り込んで紅茶で流した。
「入会試験の話だな」
「その通りだ、勇者」
スタッフがケーキスタンドを机の中心からずらして、ワゴンの中からいくつかのスクロールが取り出された。
1つは地図だ。
ギルドマスターが机に広げて見せたからわかる。
かなり黄ばんでいる羊皮紙で、暑さもかなり分厚い。
おそらく、結構前に描かれたものなのだろう。
「試験の内容は、この森まで行って、ゴブリンを3匹討伐し、魔石を持ち帰ること。
これができればクリアだ」
言って、地図上のある地点に指を置く。
見れば、俺がこの世界に来たときのあの森とは別の森だった。
「……それだけ?」
提示された内容が、意外と簡単なものだったことに驚いて、遠くに行ったスタンドからクッキーを取ろうとする手が止まる。
「それだけだ。
終わったらこのスクロールと一緒に魔石をカウンターに提出してくれ。
引き換えに冒険者証と冒険者手帳が渡される流れになっている。
この2つについてはもらった時に説明を聞いてくれ」
言って、残りのスクロールを俺たち1人ずつに渡す。
開いてみれば、3人とも同じ内容が記載されていた。
曰く──
『冒険者ギルド入会試験:ゴブリンを3匹討伐し、魔石を持ち帰ろう!
条件:ゴブリンの魔石を3つ提出する
試験期間内(2日以内)でのクリア』
その文章の間には、ゴブリンらしきモンスターの絵が描かれている。
結構写実的なイラストで、ちょっとキモい。
なんだろ、この本能的に嫌悪感を抱きそうな表情は。
(まぁ、試験期間は2日間もあるみたいだし、慣れるだろ)
スクロールを巻いて、イラストから目を逸らす。
これくらいなら楽勝だろうな。
だって、ゴブリンを3匹倒せばいいだけだし、魔物との戦闘なら昨晩やったばっかりだ。
つまり、森にぴゃーといってぴゃーと帰ってくれば済む。
(こんなのが試験だなんて、この人絶対俺たちのこと舐めてるな?)
俺は不敵な笑みを浮かべると、自信満々に口を開いた。
「いいぜ。
こんな試験、今日中に終わらせてあげる」
「そうか。
なら、期待して待っていよう」
そんな俺に、ギルドマスターも負けじと不敵な笑みを返した。
──ただ、この時はまだ、俺はこの試験の本当の意味を理解していなかった。
そのせいでまさか、あんな目にあうだなんて、全く想像すらしていなかったのである。
⚪⚫○●⚪⚫○●
ギルドの入会試験についての説明が終わった俺は、一旦2人と別れて別の応接室へと案内され、レンと合流した。
「ねぇ、この話って俺必要?」
部屋に入るなり、ソファに腰を下ろして目を瞑っていたレンに声をかけた。
「めんどくさい書類を処理するのに必要なんだよ」
「うげ、そんなのに付き合わせんなよ……。
本当はこんなかわいい俺様を、ずっとそばに置いておきたかっただけじゃねぇのか、このムッツリめ?」
「そうやって文句を言う割には、素直に隣に腰を下ろすんだな」
レンの真横に、どっかと腰を下ろして足を組んでみせる俺に、揶揄っているつもりか、そんな風に返す。
「まぁ、気になることがあったからな」
言って、自分の腕を枕にする。
気になること。
それはズバリ、俺がストーリーを飛ばしてしまって訳が分からなかなっていた、例の冒険者失踪事件についてだ。
今回の草原グールによる被害の結果だ、と、あのグールの女は言っていたが──。
(これがゲームなら、今回の事件はチュートリアルに相当するんだろう。
ユーリア砦での話を聞く限り、似たような被害が各地で散発してることが窺える。
つまり──)
これから高い頻度で遭遇する危険のあるイベントということだ。
事件について調べていれば、魔王軍について、何か情報が得られるきっかけになるかもしれない。
それともう一つ。
これについてはここでわかるかどうかは検討もつかないが──魔王軍の手下がこうやって街に入りこむなら、どうやって連絡する手段を確保していたのか。
伝書鳩みたいなものがあるのか、それとも、あるいは別に観測官のような存在がいるのか。
もしそのような存在がいれば、今回の俺たちの行動は全て魔王軍に知られていることになる。
報連相は重要だからな。
俺が魔王なら、きっと今回の件で俺への対策をとってくるはず。
それについては、この情報の如何によって今後俺も対策しなければならないわけで。
しばらくすると、後ろの扉が開いて、1人の獣人が入ってきた。
背が高い、ピンク色の髪をしたキツネ系の耳をした女性である。
(この世界にはいろんな髪色の人がいるんだなぁ)
そんなことを思いながら彼女を観察していると、不意に、その女性の視線が俺の目と交錯していることに気がついた。
「……お、おおお、おおおおおおおおお」
「……?」
なんだろう、この、既視感のある気配は。
何となく臨戦態勢をとりながら、ふんわりローツインテールな髪型の女性を見つめる。
──が、しかし。
「!?」
姿が掻き消える。
足音も、接近する気配もない。
正面にいない。
どこに──!?
「お持ち帰りさせてくれぇ!だワーン!!」
「ふぇあ!?」
──むぎゅっ!
突如、背後からそんな叫びと同時に、細い白い腕が伸びてきて、俺の体を抱きしめた。
驚いて変な声が出てしまったのも仕方ない。
「あー、かわいいよー!
お肌すべすべ〜!
モチモチだねぇ、食べちゃいたいくらいかわいいねぇ〜!」
頬擦り、甘噛み、とにかく激しいスキンシップで攻める、謎の獣人。
その拘束を解こうにも、力が強すぎて太刀打ちできないばかりか、自身の体勢の悪さも相まって何もできない。
「うあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ」
桃のような甘い香りが、頬擦りされるたびに鼻腔をくすぐってくる。
そういえばメアリーとステラもなんかいい匂いしてたけど、これ、何の匂いなんだろ……。
お風呂のリッカースライムの匂いなわけないし、薬湯の匂いでもないし……。
頭の中が甘い匂いで充満して、何も考えられなくなっていく──。
「はぁ、快楽……」
顔中をベロベロと舐めまわし尽くし、満足したのか。
俺の体を引き離して、恍惚な表情を浮かべる女性に、俺は目を回す。
「な、なんだ、この人ぉ……」
頭がぁ……おっぱ……やわらか……でか……はげし……。
昨晩、ステラにされたスキンシップとはまた違うベクトルの──ステラはどちらかと言えば性欲だったが、この獣人の女性は食欲に近い気がする──激しいそれに、俺の思考回路がショートする。
「申し遅れました!
わたくし、冒険者ギルドの事案対策部長を務めております、メザイアさんでございます!だワン!」
閑話休題。
慌ただしげにそう自己紹介しながら十字を切ってみせる、メザイアと名乗る変人。
「ふぁ……。お、俺様はファム……なんだぜ……よろしく……」
対して、未だ醒めぬ脳みそで、なんとか自己紹介を返す。
「レンウォードだ。
冒険者失踪事件について話したいことがあったんですが……すみません、少し待たせてもらっても?」
頭上で、レンの同情するような声が聞こえてきて、同時に肩を抱き寄せられる感覚がする。
大きな掌……。
硬い体……。
大きい体……。
抱擁感があって……なんか……安心する……。
思わず、彼の体に寄りかかる。
彼ならば俺を支えてくれると、そういう信用がいつの間にかあったから。
もしかしたら、それは同郷の人間で、似た価値観を持つ相手だからというだけかもしれないが。
いや、絶対そうだろ。
それ以外に何があるんだよ。
“もしかしたら”ってなんだよ。
勘違いすんじゃねぇよ、俺。
いや勘違いって何!?
頭の中を言葉が駆け巡る。
ぼぅ、とする頭とこいつに肩を触られているせいで、変な思考が浮上してきて頭がおかしくなってるんだろう。
「む……」
肩にまわされた手を払い除けて、革張りのソファに身を投げる。
そんな様子の俺を見て、メザイアは軽く笑う。
「あはは〜、刺激強すぎちゃったか〜。
いいよ、しばらく待ったげる。だワン」
「ありがとうございます」
人間が主人公しかいない、例の森ゲーの住人みたいな特徴的な語尾で話す彼女に、苦笑い気味に礼を告げ、隣に腰を下ろす。
「ミカ──ファム、ハンカチ使え」
「んぅ」
ゴワゴワした布を無意識で受け取り、そのまま唾液に塗れた顔を拭い去る。
唾液を拭うと、少しは頭がはっきりしてきた。
「ごめんね〜、ファムちゃん。
つい抑えきれなくて」
「いえ、俺様がかわいすぎるための弊害なので」
「あ、自分でかわいいって言うんだ」
「事実なので」
小声でツッコミを入れる彼女のセリフに反応する。
かわいすぎるのは、自分にも弊害が出るのは、昨日から知ったことだけど……。
(かといって、ロレ●ツォになるのもなぁ)
髪の毛マニアで髪の毛を咥えるとなんか異能を発揮するオオカミ人間が登場するギャグ漫画のイタリアンマフィアの1人を想像しながら、心の中で言ちる。
第一、それにしたって喋る二足歩行のヤギがいないのでは意味がない。
……伝わるよね?
毛探偵、知ってるよね?
……それはともかくとして。
段々と戻ってくる思考回路。
ぼぅ、としていた頭が冴えてきて、目が覚める。
「戻った。
……このハンカチどうすんの?」
拭い終わったそれをプラプラさせながら、レンに突き出す。
「あー、それなら別に──」
「──それについては弁償するよ、レンウォード。
今度新しいのを買っておくから、暇な時間を教えてくれないかな?」
言いかけたレンの言葉を遮って、メザイアがそんな風に申し出る。
本来なら、彼女のせいでレンのハンカチが汚れてしまったのだから、筋の通った申し出だと思うそのセリフだった。
しかし、その時の俺は何故か、その彼女の目が、ニヤニヤとしていることが気になって、不意に、脳裏を『嫌な予感』という言葉がよぎってしまった。
「そうですか?
なら、お言葉に甘えて、明後日にでも──」
「──待って」
返しかけた言葉を、掌を出して遮る。
「レン、昨晩のことはもう忘れたのか?
お前は警戒心が薄すぎるから、昨日も草原グールの罠にかかってたんだろ?」
なんだろうか。
心のどこかがモヤモヤするのは。
まだあの唾液が付着しているのか。
あるいは、それとも──。
……唾液?
「いや、あれは流石に不可抗力だろ!?」
「どうだかな?
非モテのお前の事だ、女の子の誘いにヒョヒョイ乗っかって、挙げ句の果てに美人局に捕まって大損食らう未来がありありと予想できる」
言いながら、周囲の気配に気を配る。
それだけじゃない。
このハンカチについた唾液と、このメザイアと名乗った女性の気配、ついでに、その足元の影も。
「お前、言っていいことと悪いことが──」
「変に思わないのか?
普通、いくら俺様がかわいいからと言って、あそこまで舐める人間がどこにいる?
仮にいたとして、舐められたくらいで、あんなに意識が乱れる人間がどこにいる?」
2つの気配は、陽炎のように揺れていた。
昨日から何回も触れて覚えた、この独特な感じ。
そう、これは──魔術の気配だ。
最近、夜遅くまで起きてるので、朝が寒いのも相まって起きれないんですけど、どうすりゃいいっすかね?
⚪⚫○●⚪⚫○●
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