美少女な俺様が浮気を疑われる!
「それで、今日の予定なんだけどさ」
朝食のクロワッサンと卵のスープ、それから何かの肉のステーキと野菜の盛り合わせに、あったかいワインという至極普通の朝食も終盤に差し掛かった頃。
俺は最後のステーキのカケラを飲み込んで、話を切り出した。
「悪いんだけど、冒険者ギルドにもう1人、一緒に連れて行きたい人がいるから、そいつと合流してからにさせてくれないかな?」
「「合流?」」
誰のことか分からず、2人目を合わせてぱちくりと瞬きして見せる。
と、ちょうどその時だった。
朝の鍛錬を終えて、風呂で汗を流してきたのだろう。
頭にタオルを乗せてクシクシと薬湯の水を拭き取りながら、1人の長身の男が食堂に入ってきた。
リネンの白シャツに、黒っぽい革のズボンを履いた、茶髪の青年。
昨日、俺と一緒に草原グールを討伐した同胞。
「レン!ちょうどよかった、これからお前の話をしようとしてたんだ!」
「どうしたんだ、ミカ──
あー……ファム?」
素で俺の本名を話そうとした瞬間に軽く殺気を当てて黙らし、ファムに訂正させる。
「よしよし、よくできました。
えらいえらい」
彼の羞恥心を掻き立てる目的を込みにして、レンのリネンシャツを引っ張って頭を下げさせると、強制的にその茶髪を撫でさせる。
「ちょっ、頭撫でるな!?」
ふぅむ、意外と髪が柔らかい……。
それにちょっと、汗が流しきれてないのか、少しだけ男臭い匂いもあって……。
(あれ、なんだこれちょっとクセになりそう)
だがしかし、俺は元はといえ男だ!
男に欲情する心なんて持ち合わせていない!
そんな心を誤魔化すように、俺はレンの髪を鷲掴みにすると、顔を引き寄せて口を開いた。
「次間違えたら髪の毛全剃りな?」
ついでに軽くガンを飛ばしておく。
すると彼は少し渋い顔をして──
「……以後、気をつけます……」
「っていうのは冗談なんだけど」
「冗談なのかよ!?」
鷲掴みにしていた髪の毛を離すと、代わりにレンの手を引いて先まで案内する。
「だってお前、いい反応するんだもん、面白いからつい弄っちゃうんだよね」
実際は誤魔化しただけなんだけど。
「さてはお前いじめっ子だったな?」
目を眇めながら、怪訝そうにツッコミを入れる。
しかしそんな彼の追及を、俺はヒラリヒラリ。
闘牛士のようにかわして見せる。
「さぁて、どうでしょう?
でもこぉんなにかわいい女の子に虐められるなら、むしろ僥倖なのでは?
今ならサービスで、俺様が自ら生足で顔を踏んであげる」
「それで喜ぶのは一部のマゾヒストだけだろ」
「……えっ、お前違うのか!?」
「何意外そうな反応してんだコラ!?」
おっと、これ以上は怒らせすぎるか。
どうどうどう、なんて言って軽く馬鹿にしながら落ち着かせながら、にこやかに笑って見せる。
この笑顔できっと毒気も抜かれてしまうに違いない。
果たして、彼は『まったく……』などと呟きながら長いため息をついて、『それで?』と話を戻してきた。
ちょうど、3人で集まっていた席にたどり着く。
見れば、2人ともなんだか若干頬を膨らませているように見えた。
メアリーが言う。
「お2人、仲良いんですね」
……あれ?
なんで敬語?
「あの、メアリー?
なんで怒ってるの?」
「ファムちゃん、お姉ちゃんは悲しいです。
昨日私をあんなにしておいて、すぐに他の人と仲良くするんですもの」
腕を組んで、そっぽを向く。
(えぇ……)
いや、そんなこと言われてもなぁ。
助けを求めるために、ステラの方へと視線を向ける。
「師匠は女たらしです」
ぷい。
ステラまでメアリーと同じくそっぽを向いてしまう。
「女たらしって、俺は男だろ……」
後ろでボソリとレンがつぶやく声が聞こえるが、とりあえず無視をする。
「はぁ、2人とも何をそんなにいじけてるのか知らないけど、コイツとは同郷で馬が合うってだけだ。
べつにそれで2人のことを蔑ろにしてるわけじゃ──」
って、なんだこのセリフ。
これじゃまるで──いやいや、無い無い無い無い。
ありえないから。
俺がレンに浮気してたみたいなんて、絶対ありえないから!
そんな俺の慌てた気配を感じ取ったのか、不意にステラがクスッと失笑したのが聞こえた。
「ちょっとステラ、笑っちゃダメだよwww
ファムちゃんからかってるのバレちゃうwww」
「だって、メアリーwww
私、こんな師匠、耐えられないんだもんwww」
笑いながら、2人がそんなふうに暴露する。
どうやらそっぽを向いていたのは、怒っていたのではなく笑いが堪え切れなくてのものだったらしい。
にしても、なんで笑われてるのかさっぱりわからないんだけど。
怪訝に眉を顰めて、2人の笑いがおさまるのを待つ。
「お前ら、仲良いんだな」
「酔ってるだけだろ」
視線を、机の上で空になったワインボトルを見る。
この世界に来て初めて知ったことの一つは、食事時に飲むものといえば、温めたミルクか果汁100%のジュース、あるいはホットワインだということだ。
どうして水じゃ無いのかと食事中に尋ねてみると、水はどうやら、そのまま飲むと食中毒を起こすので、普通、店で出される場合は、厨房に魔術が使える人がいないと飲めないらしかった。
そう言うわけで飲んでいたのがホットワインだったわけだけど。
(俺も同じだけ飲んだつもりなんだけどな)
どうやら、2人はお酒に弱いらしい。
そんな発見をする朝食であった。
閑話休題。
レンの紹介を済ませ、事情を諸々説明した後。
一行は冒険者ギルドへと向かうことになった。
ギルドの内部は、昨日とは打って変わって閑散としていた。
(昨日はあんなに殺伐としていたのに……。
魔術ってのは凄いもんだなぁ)
メアリーとステラに続いて入ったギルドの中には、冒険者の姿が少なかった。
見えるのは小さな子供のグループがちらほら、掲示板を前にあーだこーだと騒いでいるくらい。
おそらく、初心者のパーティなのだろう。
耳を済ませてみれば、どうやらある程度育った高位の冒険者はもっと朝早くに来て、良い依頼をそうだりしてしまっているらしい。
なるほど、それでこんなに閑散としてたのか。
昨日冒険者が多かったのは、お昼近くだったからというのも理由に含まれるのだろうか?
そんなこんなでステラがカウンターにつく。
「本日はどのような御用件でしょうか?」
獣人らしい。
茶髪の上に猫のような三角のお耳がついた受付嬢が、笑顔で応対する。
ちなみにカウンターテーブルは12歳くらいと思われる俺の小柄な体でも、背伸びせずにカウンターの奥を見ることができるくらい低かった。
180くらい身長がありそうなレンと比べても、高さは腰より少し低いくらいの位置にある。
(もしかして、子供とかドワーフとかにも対応できるようにするためなのかな?)
これが、多種族混合地域のバリアフリーデザインか。
などという風にちょっとだけ興奮している間に、2人のやりとりは進んでいく。
「この件で来たのですが」
ステラが背中に背負った巨大な鞄から、一枚の封筒を取り出し、受付嬢に手渡した。
封はされておらず、『失礼します』と一言置いて中を確認し、何度か俺の目を見た。
「なんだ、もう惚れたのか?」
困るなぁ、仕事中ですよお嬢さん。
そう言うのは仕事終わりにですな……。
「おっさんか、お前は」
──などと、小声で冗談めかしく呟く俺に、レンがツッコミを入れる。
「スマイルください。テイクアウトで(キリッ」
「マ●クじゃねぇんだから」
そんな風にショートコントを繰り広げているうちに、手紙を読み終えたのだろう。
受付嬢は明日から立ち上がると、後ろに控えていた他のスタッフに何やら声をかけてこちらに一礼した。
「では、御三方を応接室まで案内させていただきます。
えーっと、そちらの方は……」
言い淀んだ理由は、十中八九レンだろう。
今の流れで彼女の反応をなんとなく予想していたのか、レンは笑顔を浮かべながら
「俺も少し、秘密に報告したいことがあるので、要が終わるまで部屋の外で待たせてくれませんか?
できれば、こいつと一緒に話したいので、終わったら呼んでくれると助かります」
「畏まりました。
そう言うことでしたら、ご案内いたします」
一礼し、一行を背に応接室へと案内する受付嬢。
俺たちは彼女の案内に従ってカウンター脇の扉をくぐると、そのまま2階へと足を踏み入れるのだった。
レン「スマイルください。テイクアウトで(キリッ」
ファム「……えと……あの……あと30分でwwwブファwwwやべぇ、お前が言うとめっちゃキモいwww」
レン「やれっつったのお前だろうが!」
ファム「いやwww無理wwwキメ顔キモいwww慣れてなさすぎてキモいwww」
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