美少女な俺様が第一村人(?)に遭う!
「はぁ……はぁ……はぁ……。
……な、なんで、森から出られないの……?」
そばの木に寄りかかりながら、俺はぜぇぜぇと荒い息をつき、もう何度も見た同じ景色──最初に俺が目覚めた場所にあった池を睨んだ。
森での迷わない歩き方くらいは、流石の俺でも知っている。
木に切り傷をつけて、無意識のうちに進路が分からなくならないようにするのだ。
初め、ここから意気揚々と出かけたときはそれをするのを忘れてここに戻ってきてしまったので、実を言うと木に傷をつけて出発し始めたのは2回目の時。
しかし、だというのに俺はまた同じ所に戻ってきてしまった。
最初は、もしかすると似たような池がもう一つあるのかな?とか思ったりした。
しかし、その時にふと俺は見つけてしまう。
池のほとりについた、小さな手形。
俺が池の中を覗いた時についた、小さな手の跡である。
これをみて、俺は確信する。
また、戻ってきてしまった、と。
そこで違和感を持ち、はじめに傷をつけたはずの木に近寄ってみることにした。
するとそこに傷はどこにもなく、完全に新しい木になっていた。
ちなみに、俺が傷をつけるのに使っていたのは、初期装備として神様がプレゼントしてくれたと思われる、腰にささったサバイバルナイフだ。
それなりに大振りで、自分の肘くらいまでの刃渡りがあるナイフだったので、つけた傷も結構大きめ。
見逃すことはないような大きな傷をつけたのにもかかわらず、その木には跡が見当たらなかった。
『もしかして、これ、自動回復とかしてるのか?』
仮説を確かめるために、傷をつけてしばらく待ってみる。
すると、十数秒後くらいには傷が塞がり始め、やがて傷は完璧になくなってしまった。
どうやら、仮説は正しかったらしい。
そりゃ迷うはずだよな。
そこで次に俺が取った行動は、蔓草を木に巻きつけるという方法だった。
これならば木を傷つけることなく進んでいける。目印がなくなることもないはずだ。
そう思ってやっていた。
しかし、今度は骨のお面を被ったゴブリンみたいな魔物に遭遇してしまった。
きっと、俺のかわいさのあまり、花に誘われるハチドリのごとく誘引してしまったのかもしれない。
人型の生き物を殺すとか以前に、恐怖が勝ってしまった俺は、そのまま森の中を逃げ回り、失敗。
もとの池のところに着いた時には、なぜか蔓草も消えてしまっていた。
──というわけで、今に至るのだが。
「しょっぱな迷いの森からスタートとか、難易度高すぎんだろこのクソ神がぁあ!」
フラストレーションが溜まりに溜まった俺は、叫ばずにはいられなかった。
大声を上げて慟哭する。
きっと、ゴブリンたちもこの俺の甘い哭き声に気がついただろう。
ここでずっと止まっているわけにもいかず、俺は足を前に踏み出して──後ろから近づいてきた足音に気が付き、跳び退いた。
空中で身をひねりながら、手にしたナイフを横薙ぎに牽制の意味を込めて振り抜く。
「うわっ、ぶね!?」
しかし、そこにいたのはゴブリンではなく、背の高い人間の男だった。
「えっ、人!?」
驚きのあまり、体が硬直する。
高い身長と茶色い短髪。
装備は革製のジャケットに金属製の胸当てと肩当て、それから手甲。
背中には剣が一本と丸盾が背負われていて、腰にも剣が一本ささっている。
容貌から察するに、きっと冒険者か何かだろう。
こちらが相手を観察する間も、相手は目を丸くしてこちらを見下ろしていた。
──が、不意に。
「……結婚してくれ」
「え?」
小さくつぶやかれた言葉に、俺は耳を疑った。
今、こいつ結婚してくれって言ったか?
俺は男だぞ?
もしかしてこいつホモなのか?
俺にはそんな趣味はないし嬉しくもない……って、あ、そっか。
俺、今は超絶美幼女なんだった。
あまりの苛立ちに、自分が美幼女になっていたことを忘れていた俺は、ようやくそのことを思い出し、ニヤリと笑みを浮かべた。
が、その表情で自分が何を口走ったのかを思い出したのか。
男は慌てて手をブンブン振りながら、弁明を始めた。
「いっ、いやっ、違うんだ!
今のは、その、あまりにも君が綺麗だったから、その、つい口が滑ったというか……っ!」
そんな様子の彼を見て、ふと、鳩尾のあたりにフワリとした感覚、あと背筋を駆け上るような、ゾクゾクとした感覚も覚えた。
この感覚は、一言で表すならそう。
(快ッ感!)
男に対してこのような感情を持つのはシャクだが、しかしなぜだろうか。
この彼の反応を見ていると、なんだかとても、ゾクゾクする。
なんていうかなぁ、こう、掌で転がしているような、この優越感っていうの?
超快感なんだけど!
未知の高揚感に震えながら、少しだけ頬を紅潮させて口元を緩めた。
「わかる。君の言いたいことはよぉくわかるよ?
この俺様の事がかわいすぎて、プロポーズを我慢できなかったんだよね?
仕方ないさ、この美貌は神が与えてくれたものなのだから!(ドヤァ」
『かっこドヤァ』までセリフに加えながら、芝居がかった仕草で冒険者の言葉を肯定してあげる。
いや、多分この言葉は90%以上が、自分に対する称賛の現れなのかもしれなかったが。
フフン、と満足気に細めた視界の隙間から、彼の様子を伺う。
さぞ、この美幼女の容姿に惚れた事だろう。
そう確信してのことだったのだが。
「……あ、はい。
ありがとうございます」
何か残念なものを見るような態度に感じるが、多分気のせいだろう。
素っ気なく見えるが、きっと今にも襲いかかりたいのを強靭な精神力で耐えているに違いない。
俺にはわかる。
「それはともかくとして」
恥ずかしいのか、顔を無表情にしながら話題の転換を図る冒険者。
「君は、こんなところで何をしているんだ?
薬草を取りに来たというわけでもなさそうだが」
完全に平静を装いながら(俺にはそう見える)そう問いかけてくる彼に、俺はいいことを思いついたとばかりに掌に拳を打ち付けた。
「あー、実はだね。
気がついたらここにいて、出られなくなっちゃってさ。
ここにくる前の記憶も全然ないし、途方に暮れてたんだよねぇ」
チラッ、と下から目線に、狙ってローブの下の胸が見えるような角度で彼に近づいて、答えた。
俺の頭の中の作戦は、ズバリこうだ。
名付けて“記憶喪失になっちゃったから、街まで運んでくれないかな大作戦”!
正直めっちゃ恥ずかしいけど、振り切ればなんとかなる!筈!
めっちゃ恥ずかしいけど!
ジー、と彼の顔を見上げる。
それにしても、こいつからなんかめっちゃ美味しそうな匂いするよなぁ。
そういえばこっち来てからずっと何も飲んでないし食べてない。
森を抜けたらご飯でも奢ってもらおうか。
この美貌なら楽勝だろ。
「だからそこのお兄さん。
このかわいい幼女を助けると思って、近くの町まで案内してくれないかな?」
自信たっぷり。
このあざと過ぎるくらいの仕草に、きっと彼は胸を撃ち抜かれ、よし、助けよう!という気になったに違いない。
──そう、確信していたのだが。
「あー、悪いが急用ができた。
別のをあたってくれ」
「なんで!?」
はっきりとした拒絶の言葉が返ってきたのだった。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m
もしよろしければ、ここまで読んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。
そして、また続きが読みたい!とお思いであれば、是非ともブックマークへの登録をよろしくお願いしますm(_ _)m




