美少女な俺様がメアリーの秘密を聞く!
前話、ユナとの戦闘シーンに入る前のセリフで、めちゃくちゃ大事な情報が欠けていたので挿入しました。
その後、ミカネは魔石を回収すると宿へと戻る事にした。
この件の報告は、また明日、彼女が冒険者登録をする際に一緒に報告しようと言う事になり、一路帰還する。
「あんな事があったのに、市街の人たちは呑気なもんなんだな」
街の酒場や宿屋から灯りが漏れ、ぎゃーぎゃーと騒ぐ夜の喧騒をBGMに、レンはため息混じりに口を開いた。
「知らないものは感知しようがないだろ?
あの草原グールが人払いの結界でも敷いてたんだろ」
頭の後ろで手を組んで、ぶっきらぼうに言いながら前を歩く銀髪の美少女。
その髪は今、戦闘時に発した熱を覚ますかのように、青いリボンでアップにまとめられており、白い首筋が顕になっていた。
今夜は少し、いつもより暑いせいもあるかもしれないが。
「……そんなことよりさ」
「な、なんだ?」
不意に、ミカネが後ろを振り返って、ニヤニヤ笑みを浮かべながらからかってきた。
「お前、俺のうなじ見つめすぎ。
そんなに好きか、ポニーテール?
もっかい求婚する?」
「やめてくれ、黒歴史を掘り起こさないでくれ頼むから」
「うーわ、こいつプロポーズを黒歴史とか言ってきた。
これからもどんどん発掘していこ、お前の黒歴史」
ニシシ、と笑みを浮かべてさらにからかってくるミカネ。
どうやら彼の反応を見て楽しんでいるらしい。
(これからはお面でもつけてやろうか……。
いや、それだと逆にからかわれる結果になる。
どうにかしてやり返してやら……ん?
……俺、今何を……)
まるで、これからもずっと彼女と一緒にいる事が決まっているかのような言葉に、頭の中で疑問符を浮かべる。
思い返してみればそうだ。
前世の本名を名乗れば、最悪自分があの人殺しの子供である事がバレてしまうかもしれないと言うのに、自然と自己紹介してしまった。
そうする事が自然であり、そうする事になんの躊躇もいらない。
彼女なら大丈夫だと、何か安心感のようなものを感じていたからか。
頭を振って、考えを改める。
いいや、違うだろう。
あれは単に、そう、単に、彼女のその暴力的な美しさに心を奪われ、気が動転してしまった結果だ。
それが、あんなふうに自分を曝け出させた。
きっとそうに違いない。
自分で自分を納得させるように、心の中で唱える。
しかし一方でそんな様子の彼を、ミカネは怪訝な目で見上げていた。
「まぁいいさ。
数少ない同郷の者同士、これから仲良くやっていこうぜ?」
「そうだな、よろしく頼むよ」
⚪⚫○●⚪⚫○●
部屋の前で別れを告げて部屋に戻ると、まだ部屋の灯が灯っていた。
灯は二つのベッドに挟まれたところにあるチェストの上のランプからで、直方体に加工された鉱石が淡い光を灯し、ベッドの上に座って待つステラとメアリーを照らしていた。
「寝ててもよかったのに」
時間の経過はわからないが、それでも日が暮れてから数時間は立っている。
良い子はすでに眠る時間のはずで、それでも起きていたと言うことは、つまり、話がまとまったと言うことか。
俺は空いている方のベッドに腰を下ろして、あくびを堪えた。
メアリーが話を切り出す。
「その、私のこと、なんだけど、さ」
「うん」
暗い空気が立ち込める。
元来、こう言う雰囲気はあまり好きではないが、しかし決心を固めて話す事にしてくれたのだ。
その誠意を無駄にしたくない。
そう思いながら、俺は耳を傾けて相槌を返した。
メアリーは、辿々しい口調で話を始める。
自分の性別について。
境遇について。
身分について。
そして、目的について。
「驚かないで聞いてほしいんだけど、実は私、王族だったんだよね」
彼女の本来の名前は、メリアン・グレイル・アーゼンフェルド・イタル。
ここ、イタリカ王国が王族にして、現国王の元第7位王位継承権保有者であった。
長いので、彼女の名前はメアリーで統一するとして、そんな彼女の身の上話を要約すると、以下のようになる。
生まれた頃から睾丸を持たなかったメアリーは、王宮の中で陰茎があるからということで王子として育てるか、あるいは王として子供を作れないのはいけないことだということで王女として育てるかで意見が分かれていた。
というのも、王位継承権をどうするかという問題が浮上してきたからである。
王位継承権は、この国では普通、王子のみが得ることのできる特権であり、第7子であった彼女にも、当然のようにその話が持ち上がった。
もし彼女を王女として育てれば、余計な派閥争いを増やす事がなく面倒がない。
しかし一方で彼女を王子として育てることで、これまでの王国にとって前例がない法令などを施行させる、よい取っ掛かりになると考えた派閥がいたのである。
そんなわけで、他の上6人の王子の派閥とメアリーを王子に仕立てたい派閥が激突。
解消される間も無く、時は過ぎ、彼女も大人へと成長していく。
そんな派閥争いに面倒臭さを感じていたメアリーは、自ら王位継承権を辞退することに決める。
しかし、それだけではメアリーを王にしようとしている派閥によって邪魔をされる恐れがあった。
最悪、拉致監禁される恐れもある。
そしてその結果、操り人形の王が完成してしまうだろう。
それでは国にとって大きな損害をもたらしてしまう。
貴族は自分たちの懐しか興味がないのだから、そのような未来が来てしまうのでは立つ瀬が無い。
そこで、彼女は思い切って自殺を偽装する事にした。
自殺を偽装した後は、当時メアリーの側近だったらしいステラを頼り、彼女の家であるバトラリンクス公爵家の養女となって身を潜めた。
公爵という階級は、王族を除く貴族の中で最も位が高い。
そのため、彼女を王子にしたくない派閥の貴族の中で、もっとも信頼していたバトラリンクス公爵を頼ったのである。
しかし、どこからか情報が漏れて、メアリーがバトラリンクス家に匿われていることが知られてしまう。
焦った彼女は、それを隠すためにバトラリンクス公の信頼のおけるメイヴィス子爵領の女騎士見習いとして、事情を知るステラと共に偽装する事に。
その時ちょうど魔王軍との戦争が始まったため、ついでにもし勇者が見つかったとすれば、勇者の手助けをするようにと頼まれる事になった。
「──それで、どうして俺が勇者だと?」
出来るだけ平静を装いながら尋ねる。
こうして彼女が俺についてきていると言うことは、つまりどこかで俺が勇者であると確信した出来事があったはずだ。
しかし俺が見せたのは、本気のほの字分しか出していない、例の騎士との模擬戦くらい。
多分彼もあんまり本気じゃなかっただろうな。
それでも、高位の冒険者であれば同じ事ができそうな感じのことである。
答えのわからないなぞなぞみたいだ。
そんな風に思いながら尋ねる俺の言葉に、『それは──』と、ステラが口を開いた。
「言い伝えがあったの。
『勇者は銀の髪と蒼い瞳を持つ、美しい異国の乙女である』って」
「あー。
なるほどな、確かに俺かわいいからなぁ」
一目見て条件にぴったりだ!ビビーンって来た!って言われても信じるわ。
なんせ、あまりの美しさで、一目惚れされてプロポーズを受けたくらいだからな。
うんうんと頷いて納得してみせる。
にしても、そこまで容姿を説明されてる言い伝えも珍しいよな。
地球で見かける神話だと、そういう人物像ってだいたい男か女か、とか、それがどんな動物かとか、それくらいしか書いてないことの方が多い。
まぁ、例外はあるけど。
というのも、神話はもともと口伝えで継承されるものだから、途中で内容が変わったり、姿形が変わったりする事があるからだ。
説明されていないというより、説明を省かれた、あるいは忘れられたと言った方が近いんだけど、まぁ、この話はこれくらいにするとして。
(メアリーって王族だったのか……)
ジッ、と彼女の容姿を見つめてみる。
黄金色のふわふわの金髪。
宝石みたいな蒼い瞳。
その目尻はやや吊り上がっていて、妙な威厳のようなものが感じられないこともない。
「あー。
実は俺も隠してた事があるんだけど」
頭の後ろをカリカリ掻きながら、この際だしと思って口を開く。
「俺、『実は記憶喪失は嘘』って言ったら、信じる?」
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