美少女な俺様がタッグを組む!
「正確には、敵が狙っているのはお前だがね。
しかもその敵は、お前がここに来ることを知っていた、あるいはここに呼び出した張本人で、しかもその正体は女に化けた草原グールだ」
「──っ!?」
口に出した瞬間、あるいは彼が何かを口にしようとした瞬間だった。
そこにいた全ての人間──の映像(?)が足を止めて、不自然にこちらを向いた。
「「うぇっ!?」」
唐突な気持ち悪い演出にギョッとする。
よく見れば彼らに目はなく、眼窩は暗い空洞になっていた。
やがて、そのうちの誰かがパチパチと手を叩き始める。
そこから波のように広がって、しばらくすればそこにいた全ての幻影がパチパチと拍手を始めた。
──パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
そしてその拍手も激しくなり、頂点に達した瞬間、ピタリと一斉に止まる。
「……気味の悪い喝采だな」
B級ホラー映画の世界にでも入ったみたいだ、なんて感想を心に浮かべながら口に出す。
こう言った急激な緩急の付け方は、質の悪いホラー映画じゃありがちな演出で、実際作品としてみるときには飽き飽きしたものだが。
(実際に受けてみると、こんなに気持ち悪いんだな)
不快に眉を顰めて、軽いため息をつく。
「褒めてくれてありがとう。
そして、勇者というのは随分目敏い生き物なんだね。
策を弄してみたのに、全くの無意味じゃない」
まるでモーゼの十戒のごとく人の波が割れて、奥から1人の少女が歩いて来ていた。
15歳前後あたりの年齢に見える、黒い髪のオオカミのような耳をつけた少女の姿。
よく目を凝らしてみれば、陽炎のようなゆらめきが体に纏わり付いている。
(《変身》で姿を変えているのか)
感じる気配が、人間のものと少し違っていた。
人とも獣ともつかない、何か異質な気配。
例えばそれは、ホラー映画を観た後にお風呂に入っていたら、なんだか奇妙な気配を背後に感じたあの時のような、端的に言えば恐怖の気配。
意識してよく観察すれば、それ以外にもいくつか、似た気配が幻に紛れてチラホラ。
「……まさか、そんな、ユナ、お前なのか……っ!?」
現れた少女の姿を見て、目を見張るレン。
どうやら、俺の推理は当たっていたらしい。
ユナと呼ばれた少女──否、草原グールは、クフフと笑いながらレンに返した。
「そうだよ。
一連の冒険者失踪事件の犯人、実は私なの」
……え?
何それ、俺知らないんだけど。
冒険者失踪してたの?
マジで?
(うわぁ、初耳だわぁ。
これ絶対どっかでイベント見落としてたぞ、俺……)
例えばゲームで主要イベントを飛ばして攻略を進めていたみたいな、そういうバグに引っかかってしまった時のような無念感が俺を襲う。
一方でレンの方はといえば『じゃあ俺をここに呼び出したのも──ッ!』なんて憤りの表情を見せている。
あー、だめだ。
ついていけない。
やべぇ、ストーリー飛ばしたせいで感情移入しづらくなっちまった。
うわぁ、ミスったぁ……。
「そうよ。
冒険者の数を少しでも減らすため、罠にかけて食べるつもりだったの……。
だけど、想定外だったわ。
まさか、勇者が一緒だなんて」
俺も想定外だよ。
まさかめちゃくちゃ大事そうなストーリーをスキップしていたなんてさ。
……あー。
リアルはスキップなんてできないから辛い。
これがゲームなら即プレイをやめるか、あるいはストーリー飛ばしておそらくこの後に来るだろう戦闘パートまでボタン連打して持っていくのに。
こんなん一気にやる気無くすやんか……。
「……それで。
お前は魔王軍の一味って認識でいいんだよな?」
こうなったら、会話を誘導してサクッと終わらせるに限る。
なんか、あまりにも失望感が強すぎて、のんかものっすごい眠くなって来たんだよね。
なんで、俺としては早く終わらせて寝たいわけで。
(あー、そういえば、この後まだメアリーのイベントが残ってるんだっけか……)
そう考えると、かなりだるい事になってしまったと後悔する。
一体どこでミスったのか、さっぱりわからないけど。
(多分、今日中に教会に向かわなかった事が原因だろうな……)
もしあそこで教会に行く選択肢が有れば何とかなったのに。
ともあれ、悔やんでも仕方ない。
俺はこんな気怠いキャラじゃないんだ、さっさとすませて、いつもの自分に戻るとするか。
閑話休題。
あまりの唐突な腰の折り方に、ユナと呼ばれた草原グールが、若干の戸惑いを浮かべながら返答した。
「……そうだけど」
「じゃあ、サクッと終わらせてもいいよね?
答えは聞いてないッ!」
俺はそんな彼女の返答を聞くなり、さっさと終わらせたい一心で某仮面ライダーのセリフをパロディすると、腰のナイフを抜きつつ、縮地をしながらユナに斬りかかった。
「ちょっ、急すぎッ!?」
縮地しながら逆手で抜いたナイフを、首目掛けて斬りつけるも、寸でのところで何やら黒い影のような腕で防がれる。
しかしこれは想定通りの反応で、むしろそれを誘っていた俺は、斬りつける寸前で走圏の足運びで背後に回ると、ナイフを別の方の手にパームしつつ、最初とは逆方向から、背後から首──ではなく、首と肩の間、その骨のない筋肉の隙間から刃をグサリと突き刺そうとした。
内臓の配置が人間と同じであれば、ナイフの刃は心臓の上辺を傷つけ、その分厚い筋肉の壁に穴を開けるだろう。
だが。
(やっぱ無理……ッ!)
一瞬の躊躇を隙と見たのか。
ユナが後ろ蹴りで俺の体を後方へと蹴り飛ばした。
「ふぅ……ッ!?」
空中で姿勢を立て直して、再び構え直す。
(やっぱり、生き物を殺すのはまだちょっと躊躇するなぁ……)
昼間に心を決めたからといって、すぐに対処できるようになるわけじゃあない。
本気で攻めればできないこともないことだが、こればかりは手が止まってしまう。
「銀髪!」
そんな俺とユナの戦闘に、今になって脳みそが追いついたのか、レンが俺を呼んだ。
「お前はもう手を出すな!
ここから先は、俺の聖戦だ!」
……いや、まだ錯乱状態らしい。
あるいは、草原グールの《魅了》とやらにかかってしまっているのか。
これは推測に過ぎないが。
おそらくレンは、このユナというやつのことが好きだったのだろうな。
だから俺を近づけさせたくなかったんだろう。
それが、実は草原グールだった、なんて知ったら、即座に正気に戻れるはずもなく、心の隙間をつかれるのも致し方ない──。
(だとしても、よくもまぁそんなとっさに某ラノベのパロディのセリフが出てくるもんだ。
実はこいつ、まだ正気なんじゃないのか?)
モテない男というのは、存外に冷淡な生き物である。
好きだと思っていた女からの告白が、実はドッキリだったとしても『ですよねー、そんなことあるわけないもん!』などと、分かりきっていた結末でむしろ安心すらする。
しかし、その一方で心が傷つくのもその通りで。
だから寧ろ、こいつは正気を保っていると考えられる。
正気を保っていた上でこのセリフ回し。
だとすれば。
「いいえ先輩。
ここから先は、俺たちの聖戦だ──ッ!」
不意に、レンの背後に陽炎のような気配が集まるのを察知して、俺は縮地をして一気に接近し、その勢いを殺さずに飛び回し蹴りを放った。
「うぉわっ!?」
「ギャギッ!?」
子供大の黒い何かがメリメリメリ、なんて嫌な音を立てながら俺の足にめり込んで、結界の壁にぶち当たる。
刃物で攻撃するより、こちらの方が幾分躊躇いなく攻撃できるな。
「あっぶねぇだろテメェ!?」
「テメェじゃない、ミカネだ。
……お前は?」
敢えてファムという名前は出さずに、ついでとばかりに自己紹介をする。
つまり俺が聞いているのは、レンというこの世界での名前ではなく、前世での名前だ。
おそらく、今さっきのやりとりからそこまで連想することに成功したのだろう。
ぶっきらぼうに、彼は答えた。
「田中蓮太郎。
こっちじゃレンウォードって名前だ、言っとくが俺がつけた名前じゃないからな?」
「レンタロー。うん、口に馴染むいい名前だな。
レンウォードなんかより随分呼びやすいじゃないか」
目の前で結界にぶち当たった黒い小人のような何かが、紫色の燐光と共に、紫がかった黒曜石みたいな石に姿を変えるのを確認しつつ、流し目にレンを見やった。
「そりゃどうも」
「んじゃ、俺様のことはファムと呼んでくれ」
「じゃあ俺はいつも通りレンで──って、その名前からファムってどうやっても捻らんねぇだろ!?」
目の前の敵を無視して、無邪気にツッコミを入れるレン。
そんな彼に、俺はにこりと笑顔を浮かべながらこう返した。
「かわいい弟子がつけてくれたんだ。
2人っきりの時以外はそれで頼むよ」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m
もしよろしければ、ここまで読んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。
そして、また続きが読みたい!とお思いであれば、是非ともブックマークへの登録をよろしくお願いしますm(_ _)m




