美少女な俺様が名推理を披露する!
……紆余曲折。
そう、本当に紆余曲折があって、俺たちはようやく浴場に足を踏み入れることができた。
(なんだか色々、男として大事なモノを失った気がするけど)
思い出したくも無い。
いや、夜になればこっそり思い出すかもしれない、あんな屈辱的な過去を、頭を振って脳みそから追いやる。
俺は世界一かわいい。
故に、ステラがあそこで理性とサヨナラしてしまったのは、ある意味致し方がないことなのだ。
そうだ。
男として何か大切な物を連続で持っていかれてしまったのは、仕方のないこと。
……可愛さは武器にもなるが、それは逆にこちらに牙をつくこともある。
まさに諸刃の剣、気をつけて使わねば、いつか自滅しかねないな……。
あのギラギラとした目を向けられた後にヤられた事を教訓に、肝に銘じる。
そんなわけで意識を目の前に戻す。
この宿が一体どれくらいの値段の場所なのかは、お金はステラが支払ってくれていたのでわからないが、浴場は前世の日本の先頭に比べれば狭い方だった。
長方形の浴場。
石造りのその左にはそこそこ広めの浴槽が一つあって、向かいには何やら水路が一つと、五つほどの椅子があるのみ。
「おぉ、ここがお風呂か!
思ってたのよりなんか閑散としてるな!」
異世界のお風呂と聞いてどんなものかと少し期待していたが、異世界らしさはどこにも見当たらず、正直残念ではある。
元の世界と違うところはといえば、石鹸やタオル、桶やシャワーが無いことくらいか。
「そういえば、ファムちゃん師匠は記憶喪失なんだっけ?」
先を行くステラが、奥の椅子に座りながら思い出すように話しかけてくる。
「ま、まぁなんとなくイメージは覚えてるけど、使い方とかそういうのは全く覚えてないんだ」
実際、この水路だけ見せられても、元の世界の風呂場と全くシステムが違うように見えるから使い方がわからないのは確かだ。
この際、どうやら先験の知があるらしいステラやメアリーに使い方を教わるのも悪くないだろう。
まぁ、でもあんまりくっつきすぎると、また脱衣所での激しいボディタッチ──詳しくは割愛させていただきます──があったりすると、精神的に保たない。
俺は隣の椅子に腰を下ろしながら、苦笑い気味に答える。
「だったら、私が教えてあげても良いんだけど……」
言いながら、ステラが背中を逸らして俺の後ろへと、どこか呆れているというか、ニヤニヤと小馬鹿にしているような視線を送った。
釣られて振り返ってみれば、何やら前屈みになりながらヒョコヒョコと歩いてくるメアリーの姿が見えた。
「どうしたの、メアリー?」
まさか、と思いながら、怪訝な顔をしながら話しかけてみる。
すると、彼女は顔を好調させると、案の定、焦ったように口を開いた。
「うぇ!?あ、いや、その、こ、これはちょっと、生理現象──じゃなくて、えっと、な、なんでもない──」
──と、その時だった。
濡れた石畳は滑りやすかったのだろう。
焦って言い訳を紡ぐ事に必死になっていたせいか、湿った床に足を滑らせて背中から盛大にすっ転んだ。
「──ぎゃっ!?」
「「メアリーッ!?」」
体に巻いていた湯着が解け、宙を舞う。
自然、彼女の彼女が──いや、この場合は彼と言うべきか。
それが、2人の目に晒される事になったのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
紆余曲折。
あぁ、またもやこの四字熟語で過程をスキップしなければならないほど気まずく、そして過激なお風呂タイムを終えた俺たちは、気まずい空気のまま部屋に戻ってきていた。
窓の外には見たことがない、二つの月がこちらを除くという光景に子供らしく騒いでみるも、空気は全く一転しない。
あぁ、気まずい。
こんな時はどうすればいいのだ。
ベッドの上で頭を抱えながら悩む。
(こういう時はとりあえず何か別の話題を──)
そう考えるが、何も良い話が思いつかない。
この世界のお風呂が、実はリッカースライムとかいう魔物に身体中の汚れをとってもらうというやり方だった事に驚いて、思わず『実質スライムプレイじゃねぇか!?』と叫んでしまった話を蒸し返したとしても、この話は既に終わったことだし、そうなるともう残りは、彼女(?)の話になる。
……でもこれは、話して良いことなのかどうか。
性別のこと──ただ、『実は男でした!』程度の話であればよかったが、メアリーの場合はその両方を兼ね備えていたのだ。
これについて話すのは、まだ知り合って間もない俺に説明するのは苦なのかもしれない。
ならば、俺から口を開くべきことではないだろう。
とりあえず、ここは事情を知ってる2人だけにして、相談する機会という物を作ってやらなければならないだろう。
そう考えた俺は、なるべく不審に思われない程度の言い訳を考えると、努めて笑顔を浮かべながら部屋を出る事にした。
「あー、俺ちょっと熱冷ましに運動してくるわ。
しばらくかかると思うから、先に寝てて、じゃ」
やや早口になっていたかもしれないが、しかし意図は伝わったはずだ。
俺は部屋の鍵をステラから受け取ると、しばらく2人だけにするべくその場を後にしたのだった。
(さぁて、今からどうやって時間を潰そうか……)
なんだかいろいろ、濃い1日だったなぁ。
そんなことを思いながら廊下に出たところ、ちょうど見知った人影が部屋から出てきたところだった。
「「あ」」
お互いの視線がかち合うなり、その人──この世界で初めて出会った、レンと呼ばれていた冒険者が、露骨に嫌そうな顔をして俺の横を通り過ぎる。
「丁度いいところで会ったな。暇なんだ、付き合ってくれないか?」
ニヤリとイイコトでも思いついたいたずらっ子のような顔をして、彼の背中を追いかけながら話しかける。
露骨に嫌な顔をされたのに傷ついたので、仕返しとばかりに嫌がらせのごとく付き纏う事に決めたのだ。
「やめてくれ。
2、3時間くらい前にもあったと思うが、俺にはこれから用事があるんだ」
こちらを見ずに、煙たそうにシッシと追い払うような手振りをするレン。
そういえば、時計塔広場でどうとか喋ってた気がする。
夜に時計塔広場で会う用事……。
時計塔広場は宿探しに歩いていた時に見かけて、その時にメアリーが教えてくれたが、そういえばこの街だと告白スポットになってるんだったか。
……となると、それらを鑑みるに。
「女か?」
わざわざ走圏の足運びを使って前に回り込みながら、ニヤニヤと笑いながらからかってみる。
こいつとは砦まで送ってもらうくらいしか縁がなかったが、しかしこうやって関わってみると中々弄り甲斐があるというか、話していて楽しい気分になれる不思議な感覚がある。
ほら、こいつめ、頬を赤らめて視線を反らしやがった。
大方、図星といったところなのだろう。
「はぁ、悲しいなぁ、友よ。
森ではあんな熱烈なプロポーズをしてくれたというのに、フラれたからって乗り換えるの早すぎやしないかね?」
「だ……っれが友だクソガキ……はぁ。
いや、あのプロポーズの事は忘れてくれよ。
俺はどうかしてたんだ」
「そんな軽はずみに告られては、こちらとしては傷心モノなんだが?」
思い出して恥ずかしくなったのか、一度は声を荒げさせようとしたところを堪えて、ため息混じりに返される。
そんな彼の行動に対し、俺も面白がって『オヨヨ』なんて古風な芝居がかったセリフで追い詰めてみた。
「即答でフった癖によく言うぜ……」
そんなこんなで2人は宿を出て、時計塔広場へと歩を進めていく。
石畳を踏む音が、夜の街に響き渡る──ほどでもなく、酒場で酔っ払った冒険者たちの感想に掻き消えていく。
──が。
「待って」
「なんだよ?」
円形に広がる時計塔広場へと足を踏み入れた瞬間だった。
(なんだ、この違和感は)
モヤモヤとした何かでできたカーテンみたいなものをくぐらされたような、僅かな不快感に眉を顰める。
この感覚には覚えがある。
昼間、冒険者ギルドで冒険者たちを操っていたローブとお面をつけたヤツが、姿を眩ませる時に使っていた魔術か何か。
あの陽炎のようなゆらめきと、さっき感じた肌の感覚が似ていた。
おそらく、これが魔術の気配なのだろうとアタリをつけて視線を巡らせ、耳を澄ませる。
そんな俺の不穏な動きにレンは不審に思ったのか、俺に合わせて周囲を警戒し出した。
(時計塔広場に入った瞬間、一気に人間の気配が消えた……)
視界には無論、広場を闊歩する人々の姿がある。
しかし、その全てに人間の気配を感じない。
ただそこに映像が映し出されているだけのような、あるいは、何かガラス越しに世界を見ているような。
「別に、何か変わった事は見当たらないんだが?」
怪訝そうに首を傾げるレン。
どうやら気がついていないらしい。
「いや、俺たちはどうやら、何者かから攻撃を受けてるらしいぞ」
「……は?」
こんなことをするのは、どう考えてもことらを暗殺しようと企んでいるからとしか思えない。
でもなぜこのタイミングで?
確かに俺は神様からついでに世界救ってくれと頼まれて来た勇者ではあるが、それにしても昼間の件を含めて、魔王軍が攻撃を仕掛けてくるのが早すぎる。
(……もしかして)
考える視点を少しずらしてみる。
仮に、この街が『勇者が最初に訪れる街』という言い伝えを、魔王軍側が本気にして策を練っていたとしよう。
そうすると、昼間俺が襲われた件については納得がいくのでは?
だとして、じゃあ今回はどうだ?
今夜俺がこの場所に来る確証はなかったはずだ。
であれば、元からここに来る予定があった人物、即ちレンを狙った攻撃であることが窺える。
(見えて来たぞ)
わずか2秒間で、この攻撃がレンを狙ったものであることを確信する。
だから、俺は怪訝な表情を浮かべたままの彼に、こう付け加える事にした。
「正確には、敵が狙っているのはお前だがね。
しかもその敵は、お前がここに来ることを知っていた、あるいはここに呼び出した張本人で、しかもその正体は女に化けた草原グールだ」
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