美少女な俺様が2人の弟子を受け入れる!
「ファムちゃん師匠ーっ!」
聞き覚えのある呼び声を聞いて、振り返る。
するとそこには、砦から大荷物を背負って出てくる黒髪の少女と、片方は手ぶらで、荷物といえば肩からかけた鞄くらいの金髪碧眼の少女が見えた。
「ステラ、メアリー。
騎士見習い、辞められたんだな」
本当について来てくれるとはちょっとしか思ってなかっただけに、本当に荷物をまとめて砦の中からやってきた2人に、俺は驚いた表情を見せた。
「私はお姉ちゃんだからね。
ちっちゃいファムちゃんを1人になんてできないもの」
言いながら、頭を撫でてくるメアリー。
弟子なのか姉なのか妹なのか、もう立場がよくわからなくなってくるな、この子。
『騎士になるのをやめて、一緒に冒険者になってくれるなら、弟子にしても良いけど?』
あまりにもしつこく懇願してくるので、わずかな期待を抱きながら提案したその後の話だ。
2人は光の速さで中隊長──ハンスの元へ向かうと、本当に騎士見習いをやめて来てしまった。
なぜそこまでするのかと尋ねたときには、ステラはもっと剣の腕を磨きたいからと答え、メアリーは『お姉ちゃんだから』と一点張りした。
多分、実際はこの俺様がかわいすぎて、離れたくなくなったのだろう。
そうに違いない。
だって俺様はかわいいからな!
そんなわけで一行はユーリア砦を後にして、ユーリアの街に向かって歩き出すことになった。
砦の内側は直ぐに街になっているわけではなかった。
広大な草原が広がっていて、そこに麦畑や野菜を育てている畑などが広がっており、果樹園や牧場なども遠くに見る事ができた。
砦の外の森から抜けて来たところとは、かなり雰囲気が違う。
どちらかといえば、ここは田舎の里とか、そういった雰囲気に近い。
「ところで」
街までつながる道を歩き始めた時、俺はふと疑問を口にすることにした。
「ステラは大荷物なのに、どうしてメアリーはそんな軽装なんだ?
服とかどうしてるの?」
少し道の先を行って、振り返りざまに顔を覗き込むという少しあざとい仕草をして見せながらメアリーに尋ねた。
「あぁ、それはね──」
「──お姉ちゃんには秘密があった方が、大人っぽいでしょ?
ミスター・リーブスっていうんだっけ」
ステラが説明しようとしたのをすかさず遮るようにして、メアリーが人差し指を彼女の指に当ててそんなよくわからない回答をした。
「いやそれ多分ミステリアス……」
ツッコミを入れつつ、頭の中にレバノン出身のカナダの俳優にしてミュージシャンであるあの黒い髪をセンターで分けたイケメンの姿を思い描く。
「そう、それ!
ファムちゃん物知りだね!」
うっ、かわいい……。
俺の方が100倍かわいいけど。
ニコニコと笑顔を浮かべて荷物の件を誤魔化そうとする彼女に苦笑いを返しつつ、感傷する。
それにしても、まさかこんなところでキアヌさんの名前が出てくるとは思ってもみなかった……。
さすが世界的な俳優にしてミュージシャン。
彼の凄さは異世界に届く。
……と、それはともかくとして。
おそらく、あのカバンはよく異世界モノに登場する、容積を無視して大量に入る類の、いわゆるマジックバッグ的なそれなのだろう。
……あるいは、ステラの大荷物の中にほとんど全部入ってるとか、かもしれないけど。
「ねぇねぇ、ファムちゃん!」
「ん?」
そんなことを考えていると、メアリーが今こそ話題転換の隙とばかりに、俺の新しい名前を呼んできた。
この名前で呼ばれて日が浅いけど、そろそろ俺の名前として定着してきたのが少し感慨深い。
そんな風に思いながら2人を見ると、彼女たちはニコニコと笑みを絶やさずに告げた。
「ユーリアの街についたら、いっぱい案内してあげるからね!」
そう、楽しそうに話す彼女の指先には、巨大な石の壁が聳え立っているのが見えた。
あぁ、異世界に来たんだな。
改めてそのことを実感すると、なんだか胸のあたりがざわついて、ドキドキと感情が昂るのがわかった。
「期待してる!」
⚪⚫○●⚪⚫○●
(草原グールといえば、そういや、最近起きてるって噂の、ユーリア冒険者失踪事件の犯人も、もしかすると草原グールの仕業かもって話があったような……)
レンウォードは公衆浴場の湯船に浸かりながら、なんとなしにそんなことを考えていた。
それもこれも、ぜんぶあの銀髪の少女のせいだ。
受付で彼女のことを思い出してから、どうもこの話題が頭から離れない。
それに、相手が冒険者に限定されているのが納得いかない。
草原グール。
グールが砂漠から出てきて、魔王軍の尖兵となった魔人種。
《変身》と《魅了》を得意としており、その特技で人に化け、街に入り、人間社会に混乱を与える、いわば魔王軍のスパイ。
個人としての戦闘能力はさほど高くないはずの彼らが、戦闘のプロである冒険者を集中的に狙うというのが、どうにもわからない。
もし襲われれば、たちまち返り討ちになる。
そんな危ない橋を、果たして彼らが渡るだろうか。
(あるいは上位種がいるか。
いや、こんな辺鄙な田舎にわざわざ上位種を送る理由がない)
だとすると、やはり手下の雑魚か。
でもそうなるとどうやって何人も冒険者を?
「……っだーっ!いくら考えてもループしちまう!
せめて文字が読めれば図書室に行く手もあるんだが……」
冒険者ギルドには、さまざまな魔物や素材について纏められた本が置かれた、図書室という部屋がある。
そこには武器の使い方や、過去に冒険者が遭遇したトラブルへの対処法など、様々な情報があるのだが、しかし文字を読めない彼のような冒険者には宝の持ち腐れであった。
こういう時、彼は自分が平民、その中でも貧しい層に生まれたことを少しだけ呪わずにはいられない。
逆に、そうだったからこそ喧嘩の腕が上がって、無事冒険者としてやっていけたという過去があるのだから仕方ないとはいえ。
(金はあるが、代読屋を雇うと武具の整備費が無くなるし……)
「チッ」
舌打ちして、湯船から上がる。
筋骨隆々の肉体には細かな傷跡がいくつも走り、これまでの自分が渡り歩いてきた経験を物語る。
(まぁ、あくまで噂だしな、誰かが話を盛ってるんだろう)
既にこの街を離れた元パーティメンバーのポーラとフレッドの姿が脳裏を横切る。
「2人とも、巻き込まれてなきゃいいんだが」
そんなことを思いながら、彼は浴場を後にするのだった。
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