美少女な俺様が異世界に転生する!
トロイア戦争が、ある1人の美女を他国の王子が盗んだがために始まったように、あるいは、1人の女を愛しすぎたがためにいくつもの国が滅んだように、いつだって美しすぎる女というのは、争いを生んできた。
このように、男に破滅をもたらす女のことを『運命の女』と呼ぶ。
……俺は今、その『運命の女』の姿を目の前にして、呆然としていた。
いや、それが本当にそうなのかはわからなかったが、しかし、そうなってもおかしくないくらいの美少女に、俺の目には映った。
やや癖っ毛な銀色の髪は長く、細く、銀河のように輝くようで、それは星を織り込んだように美しい。
その蒼い瞳はさながら夏の大海原か、あるいは不可能、あるいは奇跡を花言葉にいただく青薔薇の青か。
やや吊りあがり気味の目尻。
ちょこんと小さな鼻。
幼気な顔立ち。
柳のように細い眉。
何もかもが完成された、まさに『人形のよう』をそのまま形にしたかのような女の子。
……が、池の水面に映っていた。
他に誰かの姿もない。
映っているのは彼女ただ1人。
もしや、自分が透明人間になってしまったのでは?と疑い、いろいろ動いてみるが、しかし水面に映る彼女も、それと全く同じ動きを返した。
……つまり。
「……俺、TSしちゃった……」
幼女特有の甘い声音が、自分の鼓膜を柔らかく響かせた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
時は1時間前に巻き戻る。
そこに、俺がこんな姿になってしまった原因があったからだ。
俺の名前は水銀悠。
昔から女の子みたいな名前と揶揄われていたので、少しこの名前はコンプレックスだった。
きっとこんな姿になったのも、魂だけの姿になった時にこの名前から、元々が女の子だったと勘違いされた結果なのだろう。
女のようだと馬鹿にされるのは、ひどく傷ついた。
容姿は普通だ。
特別鍛えることもなかったし、かと言って太っているわけでもない。
程々に筋肉のついた、健康体のフリーター。
平日は普通にパートをしてお金を稼ぎ、空いた時間でラノベを読んだりゲームをしたりアニメを見たり。
休日は健康のために護身術を習いに行く以外、本当に平凡な毎日を過ごしていた。
そんなある日だった。
なんともベタな展開か。
俺は突然やってきた通り魔に刺されて死んだ。
護身術には結構自信のある方だったが、さすがに突然後ろから刺されてのでは対処もできない。
しかもその通り魔、『笹塚ぁ!』とか叫びながら突っ込んできてたもんだから、俺は人違いで殺されたわけで。
死んだ後に例の真っ白な部屋で、神様を自称する、某小説風に言えば存在Xに同情された。
同情されたついでに、なんでも一つ願い事を聞いてあげると言われたものだから、俺は迷いなくこう答えた。
『じゃあ、記憶を持ったまま異世界に行きたい、とかいうのは?』
最近の若者たちの夢と言っても過言ではないだろう。
テンプレ通りに事はとんとん拍子で進んでいき、最後に神様(自称)はこう言葉を残した。
『あ、そういえばちょうど破滅寸前だった世界があるから、気が乗ったら救ってネ⭐︎』
『えっ、ちょっ、待って、俺異世界転生したのにまたすぐに死なないとダメなの!?』
結局、俺の最後の言葉は聞いてもらえなかった。
俺はどうやら、勇者として適当に選ばれ、この世界に落とされたらしい。
そう言った経緯で、この森にいるわけだが。
「……参ったな」
俺は、水面に映る自分の姿を見つめながら、色々と表情を変えたり、ポーズを取ってみたりしてみる。
「……かわいい。
めちゃんこかわいすぎる。
何これ神様、めっちゃサービスしてくれるじゃん」
さながら、ギリシャ神話のナルキッソスのようにくるくると自分の姿を観察するが、しかしこれは驚いた。
「人形のように可愛らしい、なんて言葉は、きっと今の俺のためにあるんだろうな……」
生前はモテなさすぎてやや自虐気味になっていたせいだろうか。
今のこの姿を見て、俺はかなりナルシスト気を帯び始めている気がする。
「まぁ、事実なんだから仕方ないか」
自分の感想に、ドヤ顔しながら満足に呟いた。
だってそうだろ?
俺がかわいいのは事実なんだから。
それはもう神様が文字通りそのように決めてくれたんだから、仕方ない。
ありがたや、なんてつぶやきながら、水面に映る自分の像に頭を下げる。
いつか、俺が冒険者として活躍するようになったら、きっと俺の姿を模したフィギュアが飛ぶように売れるに違いない。とか思いながら。
閑話休題。
「さて、まずはここを出て、街か村を見つけないとな。
セオリー通りなら、まずは教会か冒険者ギルドに向かうべきなんだろうけど……」
俺は、惜しみながら水面から顔を離して、あたりを確認した。
どこを見渡しても、木、木、木。
木が三つで森の中。
そう、俺は今、ちょっと木の間隔が広い森の中に置かれていたのだ。
「これじゃあ、どっちに人里があるかわかんないなぁ」
正直、迷子になる自信すらある。
せめて立て看板くらいつけてくれたっていい気がするんだけど……。
まぁ、これはもう運命に任せるとしよう。
最悪、ずっと進んでいけば森から抜けられるだろうしね。
「ニシシ、見てろよ世界の危機とやら。
この美少女な俺様が足で踏んで悦ばせてやる」
興奮気味にそんなことを呟くと、とりあえずこの森を抜けるために、適当に自然の中を進むことに決めたのだった。
──が、このあと何時間歩き回っても森を抜けることができなかったというのは、また次のお話。
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