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第14話

「まただ……」


 地下二階の探索をさらに進めていくと、しばらくした頃に、再び同じような光景に遭遇した。


 すなわち、洞窟の通路の壁の一角が、俺の【サーチ】スキルに反応したのだ。


「先輩、『また』っていうのは、さっきの宝箱があったところと同じということですか?」


「ああ、ここなんだが──お、やっぱり開いたな」


 ──ゴゴゴゴゴッ!


 俺が前のときと同じように壁に触れると、その近くの壁がズレて動いていく。


 やがて先と同じような小部屋が、姿を現した。


「おーっ、今度は宝箱が二つあるっすね」


 ルシアがそう言うとおり、今度の小部屋には宝箱が二つ置いてあった。


 大盤振る舞いも甚だしいな、おい。


「ねぇ、クリード。冒険者を始めたばかりの私にはまだよく分からないんだけど、こうやって次々と宝箱に遭遇するのって、おそらくは相当に異常なことなのよね?」


「ああ、めちゃくちゃ異常だ。というか宝箱一個目の時点で驚天動地だ」


 いや、【マスターシーフの書】を見つけたあたりからもう、なんか色々とおかしいんだけどな。

 夢でも見てるんじゃねぇかなって思うぐらいだが、頬っぺたをつまんでも痛いだけだ。


 まあそれはさておき、問題の宝箱だ。


 二つのうちのいずれにも、【サーチ】スキルによる(トラップ)の反応はない。


 俺は宝箱の一つに手をかけ、ゆっくりとそのフタを開ける。

 中に入っていたのは──


「──ククリタイプの短剣、それも二本か」


 宝箱の中には、湾曲した刃型を持つ短剣が、二振り入っていた。

 ククリナイフと呼ばれる形状のものだが、これも単なるククリではあるまい。


 俺は短剣を凝視して、【アナライズ】のスキルを使用する。


 俺の頭の中に流れ込んできたのは、こんな情報だった。




【名 称】 神獣のククリ

【ランク】 A

【種 別】 短剣

【攻撃力】 40

【特 殊】 魔族、アンデッドに特攻




「……なんだこの、めちゃくちゃな性能は」


 俺は再び呆れた。


「先輩。その短剣って、やっぱり強いんですか?」


「ああ、ありえないぐらい強い。こんなの第一迷宮で手に入っていい代物じゃねぇって」


 横から覗き込んでくるユキに、そう答える。


 シーフやウィザードなどが修得可能な【アナライズ】のスキルでは、武器の情報を確認すると、【攻撃力】という数値が提示されてくる。


 一般には、この【攻撃力】が高いほど、強力な武器であるという評価になる。


 例えば短剣であれば、【攻撃力】が高いものは、その分だけ切れ味や強度などに優れていることを意味するわけだ。


 第一迷宮都市で一般的に購入できる短剣だと、その【攻撃力】は安物で5程度、高価な上級品で10程度というのが相場だ。


 俺が今装備している、第三迷宮に棲息するモンスターの牙を素材として作られた極めて高品質の短剣でも、その【攻撃力】は23だ。


 そこにあって【攻撃力】40って、もうアホかと。

 これを使ったら、そんじょそこらの子供でもホブゴブリンぐらいは倒せるんじゃないかってぐらいの逸品だ。


 ちなみに、もう一振りのほうも【アナライズ】してみたが、そちらもまったく同じアイテムだった。


「こんな極上の短剣が二振りも……ありえねぇ……」


 俺は大きくため息をつく。

 まあこれも神聖器なのだと思えば、当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。


 だが驚きはもちろん、それだけでは終わらなかった。


 もう片方の宝箱を開いてみると──


「──こっちはコートか。おそらくは防具なんだろうが……」


 宝箱の中に折りたたまれて入っていたのは、漆黒のロングコートだった。


 こちらも【アナライズ】で識別すると、以下のようなアイテム情報が手に入った。




【名 称】 常闇の外套

【ランク】 A

【防御力】 20

【特 殊】 装備者の職業が【シーフ】または【マスターシーフ】の場合、【筋力】と【敏捷力】+10%




「……いやいやいやいや、落ち着け。どうかしてる」


「んー、クリードの兄貴も、ちょっと落ち着いたほうがいいと思うっすよ? さっきからやたらと驚きまくっていて、クールな兄貴らしくないっすよ」


「バカお前。これが驚かずにいられるか」


「バ、バカ……!? う、うちのことバカって言ったっすね! ひどいっす! お詫びとしてうちのことをぎゅーって抱きしめることを要求するっすよ! 恋人みたいに、恋人みたいに!」


「やっぱり脈絡がないんだよなぁ……」


 まあルシアの相変わらず意味の分からない妄言は放っておくとして。


【神獣のククリ】に続いて【常闇の外套】だが、こちらもやはり異常な性能だ。


 武器系アイテムに【攻撃力】があるのと同様、防具系アイテムには【防御力】という値が存在する。


 防具は一般に、【防御力】が高いほど優れていると言える。


【防御力】が高い防具ほど、頑丈だったり、防刃性能に優れていたり、衝撃吸収力が高かったり、防御範囲が広かったりするわけだ。


 第一迷宮都市で購入できる一般的な衣服系防具だと、【防御力】は安物で3、高価なものでも6程度だったはずだ。


 俺が今装備している第三迷宮由来のものでも、【防御力】は13。


【防御力】20なんて、第一迷宮ではオーバースペックもいいところだ。


 それに加えて、【シーフ】向けの強力な追加効果まで付いている。

 まったくもって意味が分からない。


「短剣は二本とも、どう考えてもクリード先輩が持つべきですよね。こっちのコートも、なんだか【シーフ】向けっぽく見えますし。ただでさえものすごく強い先輩が、さらに強くなっちゃいますね♪」


 ユキがそう言って、笑顔を向けてくる。


 だが俺は、少し考えてから、宝箱の中から【常闇の外套】を手に取って、それをユキへと手渡した。


「確かにこれも【シーフ】向けの装備なんだが──ユキ、これはしばらくお前が着ておいてくれ」


「へっ……? ボ、ボクですか?」


 ユキは闇色のロングコートを両腕で受け取りつつ、ぽかんとする。


 俺はそんなユキに、自分の考えを説明する。


「ああ。少なくとも第一迷宮で活動している範囲では、俺はまずモンスターの攻撃を被弾することはない。それよりも前衛で攻撃を受けやすいのはユキだから、防具を厚くしておいた方がいい。また状況が変わったら、俺が着ることになるかもしれないけどな」


「そ、そうですか……。分かりました、先輩がそう言うなら」


 ユキはそう答えると、俺から受け取った【常闇の外套】を、もそもそと羽織っていく。


 男性用なのか丈が少し長いかと思ったが、ユキが着用したら、背丈に合わせて袖や裾がほどよく短くなった。


「ど、どうですか? 似合ってます……?」


 ユキは長袖の袖先を手でつかみながら、そわそわした様子で自分の格好を見る。


 俺はそんなユキの姿を見て、ふむと顎に手を当てる。


「まあ正規の装備じゃないし、不思議な感じではあるな。でもユキみたいに可愛いと、何を着ても似合うところはあるからな。俺はその格好のユキも可愛いと思う」


「ふぇっ……!? ……ううっ……ひょ、ひょっとして先輩って、呼吸をするように女の子を口説く人だったりします……?」


 ユキが頬を真っ赤に染めてうつむき、恨めしげな上目遣いで俺を見てくる。

 恥ずかしくてたまらないという様子だ。


「まあ可愛いと思った女の子に、可愛いとは言うよな。それをどう受け取るかは相手次第だと思うけど、俺としては率直な感想を言ってるだけだな」


「うううっ……わ、分かりました。……すみません、変なことを聞いて」


 俺はそんなユキに、笑顔を向けることで応えた。


 それから俺は【神獣のククリ】の二振りを宝箱の中から回収すると、それぞれ腰のベルトの左右に引っかけて着用する。


 そしてユキ、セシリー、ルシアの三人を連れて隠し扉の先の小部屋を出ると、壁を元通りにしてから探索を再開した。


 ちなみに、三人の少女たちは──


「だからぁ、うちはずっと言ってるじゃないっすか。兄貴は女誑しだって」


「そうかなぁ……。ボクには誠実で優しい人に見えたんだけどなぁ……。──で、でもでも、自分のことしか考えてない悪い人だったら、ボクが怪我することを心配して、こんな大事なアイテムを渡してくれたりしないと思わない?」


「や、別にうちだって、悪い人だとは思ってないっすよ。ていうかそんな悪い女誑しだったら、うちだってついていこうとは思わないっすよ」


「女誑しに、良いとか悪いとかあるんだ……」


「まあ大きな実害がなければ、何でもいいけれどね。少なくとも度の過ぎた悪人には見えないから、私はそれでいいわ」


 ──と、何やらこそこそと話し合っていた。


 俺ってわりと耳がいいから、そういう内緒話とか結構聞こえてしまうんだが……まあいいか。


 俺の人物評は、彼女らの間で適当にやっておいてもらおう。


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