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追いつきたい。追いつけない。

作者: 円玄

 幼いころ見た夢を小説にしてみました。


 ◆ 5歳 ◆


 あれ? 


 なんでぼく、こんなところにいるんだろう。


 すごく白いお部屋だなぁ。


 それに、おっきいなぁ。


 あ、おかあさんも、おとうさんも、おねえちゃんもいる。


 ねぇ、おかあさん。今からなにするの?


 え? 今から、あのドアの向こうへいくの?


 でも、あのドアの前に行くためには、あの坂を登らないといけないよね。


 ぼく、あんな坂、のぼれないよ。


 え? それでも行かないといけないの?


 おかあさんたちだけ、行っちゃやだよ……


 ぼくも、つれてって。



 わぁ。


 おんぶしてもらうの、久しぶりだね。


 あれ? 


 どうしたの?


 はやく行こうよ。


 え? ぼくがいたらのぼれない?


 いやだよ。


 ぼくも、おかあさんたちと一緒にいくの。


 え? ぼくと、おねえちゃんだけでここにいるの?


 だって、ここ、何もないよ?


 すごく真っ白なお部屋だけど、ほんとうに何もないよ?


 やだよ。


 こわいよ。


 すごく、こわいよ。


 いかないで。


 いかないでよぉ……




 おねえちゃん、おかあさんたち、行っちゃたね……


 でも、ぼくたちも、いつか、この坂、のぼれるようになるよね。


 いつか、おかあさんたちにおいつこう。



 ◆ 10歳 ◆


 お姉ちゃん、どうしたの?


 急に立ち上がって。


 え? お姉ちゃんも、あのドアの向こうにいくの?


 でも、僕たちじゃ、あんな坂、まだのぼれないよね。


 あれ? お姉ちゃん、もうのぼれるの?


 待ってよ。


 僕はまだ、のぼれないんだよ。


 お姉ちゃんも、僕を置いていくの?


 お願い、もう少しだけ待ってよ。


 一生のお願い。


 そしたら、僕もそのうちのぼれるようになるからさ。


 え? もう行かなきゃいけない?


 なんでおかあさんたちと同じことを言うの?


 待って、待ってよ。


 お姉ちゃんが行っちゃったら、僕、一人なんだよ?


 いやだよ、そんなの。


 ひとりは、いやだ。


 こわいよ。


 さみしいよ。


 ……それでも、行かなくちゃいけないの?


 なんで、どうして。


 待って、待って待って。


 いやだよ。


 やだやだやだやだ。


 あぁ……


 行っちゃった……


 こんな何もなくて、真っ白な部屋に、ひとり……


 こわい、こわいよ。


 さみしいよ。


 僕も、はやくあの坂をのぼれるようになりたい。


 はやく。


 はやくおいつこう。



 ◆ 15歳 ◆


 ついにか。


 ついに、僕もあの坂をのぼれるようになった。


 別に何か特別なことがあったわけじゃない。


 天啓がくだったかのように、わかった。


 あ、僕はもう、のぼれる、って。


 何年も待った。


 この先に、母さんも、父さんも、姉さんもいる。


 はやく、はやくおいつきたい。


 僕は勢いよくその真っ白な坂をのぼった。


 目の前に、同じく真っ白なドアがある。


 何年も見続けてきたドアだ。


 この先になにがあるんだろう、とか、この先で母さんたちは何をしているんだろう、だとかをずっと考えていた。


 それが、今、わかる。


 僕はゆっくりと、その重たいドアを開いた。


 目に入ってきたのは、さっきの部屋とは比べものにならないくらい大きく、白い世界。


 ドアの向こうに、こんなに広い世界があったなんて。


 僕は感動した。


 あ、姉さんだ!


 今も、空中に浮いている真っ白な立方体の足場をせっせと渡っている。

 

 母さんや父さんも、すごくちっちゃいけど見える。


 もうすごく遠くにいるや。


 でも、あの坂さえのぼっちゃえば。


 すぐにおいついてやる。


 僕はそう思い、一番近くにある立方体の足場へとジャンプする。


 もう一個。


 そして、もう一個。


 しばらく飛び続けて、僕は気づいた。


 あれ? これ、すこしずつ、飛び移るのが難しくなってる。


 勢いをつけて、また、飛ぶ。


 だけど、もう無理だ。


 この先へは、今の僕ではいけない。


 わかるんだ。


 あっ、無理だって。


 なんでだよ。


 どうしてだよ。


 僕は、はやく姉さんや母さんたちにおいつくんだ。


 おいつくんだよ。


 おいつきたいんだよ……


 でも……


 でも、おいつけない。


 どうがんばったって。


 どうあがいたって。


 くそ……


 姿は見えてるのに。


 どうやっても……





 追いつけない。



 ◆ 50歳 ◆


 僕はもう、おっさんになってしまった。


 僕の前には、もうだれもいない。


 母さんと父さんは、僕が30代のときにこの真っ白な立方体の足場から飛び降りていった。


 姉さんも、ついこの前、飛び降りていった。


 母さんたちは、どこへいったんだろうか。


 下を見ても、底の無い白が続いているばかり。

  

 その白は、永遠にさえ続いているのではないかと思ってしまう。


 僕の前にはもうだれもいない。


 僕は、なんのためにこの足場を飛ぶ?


 もう、飛ぶのはつかれた。


 飛びたくない。


 でも、何か強い力が働いて飛んでしまう。


 この立方体の足場を飛ぶスピードは、僕たちには決められないのだ。


 あのころはあんなに先へ先へと飛びたかったのに、今では飛ぶのがしんどい。 


 しんどいよ。



 ◆ 80歳 ◆




 飛び降りるか。




  

 活動報告にあとがきっぽいものをあげるので是非みていってください。

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