第十七幕 前髪失敗すると地味にヘコまね?
「春斗君、髪伸びましたね」
下校途中、千秋は俺にそんなことを言った。
ナツミカンは学校から直接バイト先に行き、冬輝はいつの間にかいなくなっていたので、今日は千秋と二人で帰る事になった。
「ん、そうか?」
そーいや、最近切ってねーな
「そろそろ切りにいくか」
「私が切ってあげましょうか?」
「千秋が?」
「ええ、これでも腕には自信があるんですよ?」
ほぅ。
「せいや!」
「おごほぉ!」
ドガァン!
千秋が突然放った右ストレートを俺はギリギリでかわした。
空を切ったソレは、俺の後ろにあった電柱を粉砕した。
「ね♪」
「ね♪じゃねーよ!
何!?腕に自信あるって腕力の話!?散髪関係ねーだろが!」
「ありますよ!この腕力により一息に斬る事で淀みのない切り口を生むんです!」
「オイィ!何を斬るつもりだお前は!?」
「あ、春斗君、ウチに寄っていきます?斬ってあげますよ?」
「何をだよ!冗談じゃね――」
ドゴッ!
千秋に握りつぶされた電柱の破片が塵と化した
「斬ってあげますよ?」
ものっそいいい笑顔で千秋はそう言った。
「・・・・・ヨロシクオネガイシマス」
――――千秋宅
「お客様、今日はどのようにいたしましょー?」
テルテルボーズみたいな格好で椅子に座る俺に千秋が言った。
「じゃーモヒカンで」
「いえっさー♪」
ヴィィィン!
「すとーっぷ!」
ビビった!なんの躊躇もなしにバリカン突入させようとしたんですけどコイツ!?
「冗談だから!今の冗談だから!」
「なんだーてっきり主人公なのに地味な自分に嫌気がさしてイメチェンを図ったのかと思いましたよ」
切られた。心が。バッサリと。
「ハァ、もういい。少し短くするカンジで頼む」
「なんでやねーん!」
「いや、冗談じゃねーから!突っ込む要素なかっただろが!」
「かしこまりました♪」
千秋はそう言ってはさみを持った。
変わったはさみだな・・・・・
禍々しい装飾がしてあるし、でかいし、何より刃がひとつしかない。
つーかコレ、まるで死神の・・・・・
「れっつ・かってぃんぐ!」
「鎌じゃねーか!」
千秋の放った一撃を、俺はお辞儀をするカタチでかわす。
「動いちゃだめじゃないですか!前髪失敗しますよ?」
「ウッセーよ!前髪どころか命根こそぎ刈り取られる所だったわ!」
「さーて、冗談はこの位にして・・・・・」
「冗談かよォォォォォォ!!!」