♯08
「逆に聞くけど、春山君はどう言う時に人を好きになるの?」
「え……それは何か切っ掛けがあってじゃないか?」
「その切っ掛けって?」
「え? いや……その人を良いなって……思った時とか?」
「うん、私もそれがあったから春山君を好きになったんだよ」
「いや、だからその切っ掛けを……」
「ん? 良いなって思ったから。それだけじゃダメ?」
「いや……別にダメって訳じゃないけど……」
そんな大きな目で俺を見つめないでくれ……可愛すぎてドキドキする……。
しかし、藍原と別れたあとでよかったなぁ……。
あいつにこんなところを見られたら、いろいろうるさいし……。
「じゃあ、良いじゃん。まぁ、そりゃあ急に好きだと言われて、私の事を怪しいと思う気持ちはわかるけど」
「何かのドッキリかと思ったよ」
「そんな事しないよ、それにちゃんと友達からって言ったし、いきなり好きとは言ってないよ」
「ま、まぁそうだけど、てかもう言ってるじゃん」
「今日のアレはなんか勢いで言っちゃった」
「勢いで教室の真ん中であんなことを言わないでくれよ……こっちは心臓が止まるかと思った」
「ごめんね、それよりも明日からも私と一緒に帰ってくれる?」
「え……あぁ、良いけど……」
その後も俺は清瀬さんと他愛も無い話しで盛り上がり、喫茶店に一時間ほど時間を潰して店を後にした。
女子と話しをして楽しいと感じたのは、なんだか久しぶりだ。
清瀬さんと話しているのは、なんだか楽しかった。
別に特別趣味が合う訳でもないのに、何故か彼女の話しには興味が湧いた。
しかも、俺の話す話題も興味を持って聞いてくれて、話しているのも楽しかった。
話し上手でしかも聞き上手だなんて、接客をやらせたら、清瀬さんは凄いんじゃないかと俺は思っていた。
「今日は楽しかったわ、じゃあまた明日学校でね」
「あぁ、俺も楽しかったよ、ありがとう」
「あ、いつでもメッセージ送ってきて良いから、後電話もお風呂の時以外ならいつでも掛けてきて良いよ」
「なんだよそれ」
「うふふ、ちょっと私ははしゃいじゃってるみたい。じゃあ、また明日学校でね」
「あぁ、また明日」
俺と清瀬さんは駅で別れた。
清瀬さんは電車で一駅乗って自宅に帰るらしい。
「うーん……怪しいような……怪しくないような……」
まぁ、一つ言えるとすれば……あの子がメチャクチャ可愛いって事だな。
大人っぽいけど、子供っぽいとこもあって……なんか良いよなぁ……。
俺は薄々気がついていた。
自分が少しづつではあるが、清瀬さんに引かれていっている事に。
「さて……帰るか」
俺は自宅に帰ろうと来た道を戻り、バス停に向かった。
そんな時だった、背後に俺は視線を感じた。
「ん? なんだ? なんか誰かに見られているような……」
周りを見ても、怪しい人は居ない。
なんだ?
気のせいだろうか?
俺はそんな事を思いながら、再びバス停に向かって歩き始めた。
*
「なんなのよあれは!!」
「痛い! 痛いよ!」
「由羽やめなさい! 栗原君にあたっても仕方ないでしょ!!」
僕は今、藍原さんと白戸さんと一緒に湊斗と清瀬さんをストーキングしていた。
最初は我慢していた藍原さんも、後半になるにつれてイライラが溜まってきた様子で、ついに僕にあたり始めた。
「もう!! なんなのよあいつ! 私と居る時は『あぁ……』『うん』とかしか話さなかったくせに! どんだけペラペラ話してるのよ!!」
「き、気持ちはわかるけど落ち着いて……」
「はぁ……はぁ……なんで私こんなイライラしてるんだろ……」
いや、それはあれじゃないの?
まだ好きだからじゃないの?
僕はそんな事を考えながら、喫茶店で話しをする湊斗の方を見る。
端から見ても本当に楽しそうにしている。
まぁ、別れた直後に元彼が他の女とイチャイチャしてたら、なんとなく腹が立つのはわかるけど……見なきゃ良いのにとも思う……。
「あぁぁ!! マジムカつく!! 何なのよあいつ! 私と喫茶店行った時なんて、ずっとつまらなそうな顔してたのに!!」
「あぁ、はいはい、わかったから、さっさとよりを戻そうって言ってきなさい」
「そ、そんなの言うわけ無いでしょ! あんな奴誰がよりを戻すもんですか!」
「じゃあ、早く新しい男でも作って、春山君の事を忘れなさい」
「その前に、あいつの幸せを潰してからよ」
「それに何の意味があるのよ……」
一緒来た白戸さんもため息混じりにそんな事を言っていた。
湊斗はともかく、藍原さんはなんだかまだ湊斗に気があるみたいだな……。
でも、湊斗のあの顔を見ると、多分清瀬さんに惚れつつあるよなぁ……まぁ、第一印象からかなり好印象だったし。
さて、この三角関係は一体どうなるのやら……。
「あ、喫茶店を出た! 行くわよ!」
「まだやるの?」
「もう、帰っちゃダメ?」
「良いから行くわよ!」
「「はぁ……」」
俺と白戸さんは同時にため息を吐き、肩を落とした。
お互いになんでこんな事をしているのだろうという気持ちだったと思う。