#42
「やっぱりわかった?」
「そりゃあわかるよ」
そう言って出てきた清瀬さんの姿に、俺はドキッとしてしまった。
制服姿とは違い新鮮で、薄ら化粧をしているせいか、少し雰囲気も違っていた。
「良い天気で良かったね」
「そうだね、じゃあ中入ろうか」
俺がそう言うと、清瀬さんは笑顔で頷き、俺の後を付いてきた。
「結構並んでるね」
「まぁ、休日だから仕方ないよね」
半券の発券機の前も受付のカウンターの前も大勢の人が並んでいた。
俺たちは発券機の前に並び、順番が来るのを待った。
「映画は久しぶりだな」
「あんまり見に来ないの?」
「そうだな、あんまり来ないね、見たいと思う映画もあんまり無いし……」
「じゃあ、最後に映画館で何見たの?」
「えっと……なんだっけ? 確か何かドラマの映画だったけど……確か藍原と……あっ! ご、ごめん!!」
ヤバイ。
清瀬さんと一緒なのに、藍原とデートで行った映画の話しをしようとしてしまった。
「別に良いよ、そんなに気にしてないし。それに多分、藍原さんと行ったんだろうなって思って聞いてたから」
「そ、そうなのか?」
笑顔でそう言う清瀬さんに俺は安堵する。
良かった、怒っている訳では無いらしい。
少しして順番が回ってきた。
俺たちはあらかじめネットで取った予約番号を入れて、半券を発券して券売機の前を後にする。
「さて、映画までもう少し時間が有るけど、なにしてようか?」
「じゃあ、グッズ見ても良い?」
「あぁ、もちろん」
映画の上映開始まで後20分ある。
入場は10分前からなのでもう少し時間があるので、俺たちは最初に物販を見てみることにいした。
「パンフレットだけ買おうかな……」
「でも、最初にパンフレット買っちゃったら、ネタバレとかにならないか?」
「大丈夫! 中を見なければ大丈夫!!」
「本当?」
「それに! 映画が終わった後だと混むかもしれないし!」
「ま、まぁ……それもそうか」
清瀬さんはそう言って、パンフレットを購入していた。
「うっ……なんか買ったら読みたくなって来ちゃった……」
「見たらネタバレ」
「わ、わかってるよ! で、でも……見たい……」
「ははは! だから言ったのに」
「だって……うぅ~……」
清瀬さんにもこういうとこ有るんだなぁ……。
天然と言うか、おっちょこちょいというか……。
しっかりしているようで、少し抜けてんだな。
「あぁ……見ちゃった……え!? 何! こんなシーンあるの!?」
「あんまり読み過ぎないようにね」
入場が開始になり、俺たちは飲み物とポップコーンを購入して中に入っていった。
人気のドラマ映画とあって、中はほぼ満席状態だった。
「予約してて良かったね」
「うん、やっぱりゴールデンウイークだからかな?」
「まぁ、初日は大体どこも混むよね」
「駅前も混んでたよ、みんな遊びに行くんだろうね」
「そうだな……カップルも多いな……」
「多分その中に私たちも含まれてると思う」
「あ……そ、そっか……はは……」
清瀬さんからそんな事を言われると、なんだか照れてしまう。
そうか、周りからはそう見えるのか……。
物販でパンフレットを買っている時も、券売機の前に並んでいる時も、みんな清瀬さんを見ていたけど……隣に居た俺は彼氏だと思われていたのか。
「きっと、身の丈に合ってないとか思われてたのかな?」
「え? 何が?」
「いや、俺と清瀬さんの関係……清瀬さんは綺麗だけど、俺は普通だから」
「そうかな? 私は格好良いと思うけど?」
「いや、そんな事無いよ。言われた事ないし」
「じゃあ、私が言うよ、それに……周りなんか気にしなくて良いじゃん……」
「え? あ、あぁ……うん」
清瀬さんはそう言いながら、俺の手を取って握ってきた。
俺はそんな清瀬さんの行動に驚きながら、ドキドキ心臓が更にドキドキするのを感じた。 手汗とか掻いてないかな?
大丈夫かな?
映画が始まっても清瀬さんは手を離してくれなかった。
清瀬さんの手はほっそりしていて柔らかく、握っていて心地良かった。
映画が終わるまでの間、俺と清瀬さん手を握っていた。
おかげで映画の内容はあまり頭の中に入ってこなかった。
「面白かったね!」
「あ、あぁ……そうだね」
上映終了後も清瀬さんは俺の手を離してはくれなかった。
俺は緊張しながら手を繋いで清瀬さんと映画館を後にする。
「ね、ねぇ……と、トイレに行ってきても良いかな?」
「うん、良いよ! 行ってらっしゃい!」
そこでようやく俺と清瀬さんの手は離れた。 正直手を繋ぐのは恥ずかしい、みんな見てくるし……。
「そう言えば……藍原とは手も繋がなかったな…」
そう考えると、俺と清瀬さんの関係は藍原と俺の関係よりも進んだ関係と言うことになるのだろうか?
いや、そもそも清瀬さんとは付き合ってないし違うか……。
俺は手を洗って清瀬さんの元に戻る。