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#32

「明日もよろしくね」


「あぁ、まぁ力になれてるみたいで良かったよ」


 エレベータに乗ってる間も藍原は俺に話しを掛けてきた。


「お父さん、湊斗の事気に入ってたよ」


「そうなの? よくわからなかったけど……」


「お父さん口数少ないからね。でも、あそこまでお父さんが誰かを褒めるのは珍しいよ」


「そうなのか……」


 嫌われるよりは良いが、なんか複雑な気分だ。

 まさか元カノのお父さんから気に入られるなんて……。

 俺がそんな事を考えていると、エレベーターが一階まで到着した。


「悪いな、送って貰って」


「別に良いわよ……気を付けてね」


「あぁ、ありがと……それじゃあ……」


 俺が藍原に別れを告げ、その場を後にしようと藍原に背中を向けた。 

 しかし、その時右手を藍原に掴まれた。

 

「ん? どうかしたか?」


「あ……いや……な、なんでも……なんか咄嗟に……アハハ、ごめんね……じゃあまた明日……」


「おう、また明日な」


 藍原はそう言うと、俺の手を離した。

 俺は藍原に再び別れを告げ、今度こそマンションを後にした。

 あいつ……なんで俺の手を……。

 俺はそんな事を考えながら、暗くなった夜の道を歩いて帰った。





「おう、また明日な」


 そう言って、彼は私に背中を向けて自分の家に帰って行った。

 

「……何やってんだろ……私……」


 湊斗が帰る間際、私は思わず湊斗の手を掴んでしまった。

 なんでそんな事をしてしまったのか、それは私がきっともっと湊斗と一緒に居たかったからだろう。

 なんだか、湊斗と別れるのが凄く寂しかった。


「……馬鹿みたい……私が振ったのに……」


 私はマンションの一階で、エレベーターを待ちながらそんな事を一人で呟いていた。

 嫌になって振ったのは私なのに……湊斗はそんな私にも優しい。

 そんな湊斗の優しさに、私は甘えていた。

 湊斗の事を考えるのなら、本当ならバイトにも誘わなければ良かったと考えてしまう。


「………寂しいな」


 私はポケットからスマホを取り出し、湊斗にメッセージを送る。


【気を付けて帰ってね】


 そう送ると、湊斗は直ぐに返信をくれた。


【おう、そんなに遠く無いから大丈夫だ】


 どうでも良い返信のはずなのに、それが私は嬉しかった。

 私は自分の頬が緩んでいるのに気がつく。 

「はぁ……私って……なんでこうなんだろ……」


 都合が良すぎる。

 私は自分自身にそう言い聞かせながら、自宅に帰って行った。





 俺が藍原の家でバイトをした日の翌日。

 俺は学校で直晄に昨日の事を色々聞かれていた。


「で、昨日はどうだったの?」


「どうって?」


「バイトだよ、藍原さんの家でやってきたんだろ?」


「あぁ……まぁ普通だったよ」


「普通? 藍原とは何か無かったのか?」


「俺は厨房、あいつはレジだったからな、仕事中は話しもしなかったよ」


「そっか……なんだ、つまんない」


「つまんないって何だよ」


「別に~はぁ~あ。これじゃあ今日も何も無さそうだね……」


「何かあった方が問題だろ」


「何かあって、よりを戻す事に期待してるんだけどなぁ~」


「ねぇよ、何回も言ってるだろ……」


 俺はため息を吐きながら、直晄にそう言う。 相も変わらず、直晄は俺と藍原がよりを戻すことを望んでるみたいだ。

 直晄はつまらなそうな顔で俺にそう言うと、どこかに言ってしまった。


「はぁ……あいつもしつこいな……」


「何がしつこいの?」


「え? あぁ、清瀬さんか……」


「ん? なんか反応悪いなぁ~」


「そう?」


「さては昨日のアルバイトで何かあった?」


「別に……何もないけど……」


 俺は清瀬さんにそう言われ、昨日の帰り際の事を思い出した。

 藍原はなぜ俺の手を掴んだのだろうか……。 なんでか、俺はそのことを清瀬さんに話す事が出来なかった。


「ふーん……何かあったんだぁ~」


「え? な、無いって……」


「嘘だね、私の女の勘がそう言ってる」


 女の勘、やっぱりやべーな……。

 俺はそんな事を考えながら清瀬さんに話しを続ける。


「無いって、本当だ」


 嘘は言ってない。

 本当に何も無かったのだから。

 

「まぁ、どっちでも良いけど……ねぇ、今夜電話しても良いかな?」


「え? なんで?」


「ん? ただしたいだけ……ダメ?」


「いや、別に良いけど……あ、でも今日もバイトがあるから、21時以降なら……」


「うん、わかった。お仕事頑張ってね」


「ありがと」


 清瀬さんにそう言われ、俺は笑顔でそう答える。

 電話をしたい、そう言われた時、以前の湊斗なら凄く喜んでいただろう。

 しかし、今はなんだかそこまで嬉しいと感じない。

 何故だろう……前は清瀬さんの電話であんなにドキドキしたのに……。





「んで、どう思う?」


「何が?」


「春山君の事、由羽の事なんか言ってた?」


「いや、何も言ってないよ」


 僕は屋上で今日も白戸さんと湊との話しをしていた。

 藍原さんが湊斗とよりを戻したいと思っている事を白戸さんから聞き、それならばと僕も今は藍原さんを応援しようと、いろいろと協力している。

 

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