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#31

 あれ?

 さっき藍原のお母さんなんて言った?

 あなたって言ったよな?

 も、もしかして……この人って!?


「あ、あの……すいません、この人って……」


「あぁ、もしかして自己紹介もしなかった? この人が私の旦那なの、寡黙であんまり喋らないから色々誤解されちゃうのよ」


「え!?」


 マジか……この人が藍原の父親!?

 意外だ……こんな強面な人が父親だったなんて……。

 俺がそんな事を考えていると、藍原の父親は俺の肩をぽんと叩き、藍原の母親に向かって一言。


「採用」


「え?」


「あら、貴方が誰かを気に入るなんて珍しいわね、そんなに見所があったの?」


「……逸材」


「そんなに!? も、もしかしていつも以上に早く仕事が終わったのもこの子のおかげ!?」


「……即戦力」


 何やら俺を褒めてくれている様子なのだが……何を褒められているのかさっぱりわからない。

 

「貴方がそこまで言うなんて……」


「多分……やれる」


 一体何の話しをしているのか、俺にはまったくわからない。

 俺が二人の会話を聞いていると、藍原のお母さんが俺に尋ねてきた。

 

「ねぇ春山君、明日も同じ時間にお願い出来る?」


「え? 全然良いですけど……今日はもう終わりですか?」


「そうね、片付けも終わってるし。あ、でも安心して、お給料は21時までのお給料を出すから」


「あ、すいませんありがとうございます」


 俺は藍原のお母さんに言われて、厨房を後にして更衣室に向かう。

 すると、更衣室の前に藍原が立っていた。


「ん、今終わったの? 早いわね」


「あぁ、なんか片付けまで終わったらしくて、上がって良いって言われてな」


「そうなんだ……あ、ごめん着替えてきたら」


「おう、サンキュー」


 俺は藍原の横を通って更衣室の中に入って着替えを済ませる。

 更衣室から出ると、そこにはまだ藍原が居た。


「なんだ、まだ待ってたのか?」


「まぁね……アンタの事、お父さん褒めてたわよ」


「そうなのか?」


「手際が良くて、作業が早いから仕事が早く終わって助かるって」


 そう思ってたのか……あの人口数少ないから何を言おうとしてるのか全然わからなかったからな……。


「そうか、まぁ邪魔にならなかったなら良かったよ。じゃあ俺はそろそろ……」


 そう言って俺が帰ろうとした瞬間、またしても藍原のお父さんが俺の肩を叩いた。


「え、えっと……何か?」


「………飯……食っていけ」


「え?」





 これは一体どう言うことなのだろうか?

 俺は今、藍原の家のリビングで椅子に座っている。

 正面には藍原の父親がおり、キッチンでは藍原と藍原の母親が食事を作っている。


「………」


「す、すいません、晩飯まで……」


「気にするな……」


 なんだこの状況は……。

 俺は現在、元カノの家におり、元カノのお父さんと向き合っている。

 本当になんなんだこの状況……なんで俺は元カノの家で飯に呼ばれてんだよ……気まずくて仕方ないわ!!

 俺がそんな事を気にしていると、藍原のお母さんはテーブルに作った料理を並べていく。

「はーい、お待たせ! ごめんね、お待たせしちゃって」


「い、いえすいません……なんか飯までご馳走に……」


「良いのよぉ! こっちは仕事も早く終わって助かってるんだから!」


「そ、それは良かったです」


 そう言いながら、藍原の母親は俺の斜め前の席に、藍原は俺の席の隣に座った。

 隣に座った藍原はなんだか顔が赤い気がしたが、気のせいだろうか?

 てか、こいつも気まずいだろうな……。

 俺は出された食事を食べながら、藍原のお母さんに質問責めにされた。


「ねぇ、由羽とはどう言う関係なのぉ~?」


「お母さん! 湊斗が困るから、そう言う質問はしないでよ!」


「でも、アンタが男の子を連れて来るなんて意外だったわぁ~」


「べ、別に良いでしょ……」


「もしかしたら彼氏かもとか思うじゃ無い」


「「うっ……」」


「あら? 春山君どうかした?」


「い、いえ……別に……」


 藍原のお母さんから言われ、俺と藍原は思わず喉を詰まらせる。

 まぁ、まさか元恋人同士ですなんて言える訳も無いしな……。


「そう言えば春山君、包丁の使い方とかは誰から習ったの? 凄く上手だってお父さんが褒めてたわ」


「……素人では無い」


「あ、母から教えられました、お役に立ったのなら良かったです」


「本当に助かったわ、明日もよろしくね」


「あ、はい」


 笑顔でそう言う藍原のお母さん、藍原の父親は相変わらず無表情で口数が少なかったが、チラチラ俺の方を見ていた。


「ご馳走様でした、それじゃあ僕はこれで失礼します」


「気を付けて帰ってね、もう夜も遅いから」


「はい、それじゃあ」


 食事を終え少ししてから、俺は藍原の自宅を後にした。

 玄関先で藍原の両親と別れ、俺はエレベーターに向かった。


「湊斗!」


「ん? 藍原?」


 俺がエレベーターを待っていると、後ろから私服姿の藍原がやってきた。


「下まで送るわ」


「お、おう……サンキュー」


 藍原はそう言うと、俺と一緒にエレベーターに乗った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初感想てす。 主人公が元カノの両親に認められ中々シュールですが、そこが彼の魅力のひとつなのだなと。 色々と燻って、揺れてるのも醍醐味ですね。 [一言] 個人的には一度手放したものは大きい…
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