#02
「貴方も本を読みに来たの?」
「あ、いや……自分は世界史の課題を……」
「そうなんだ、頑張ってね」
「は、はい!」
彼女はそう言うと、再び本を読み始めた。
俺は彼女の大人っぽい雰囲気に緊張してしまい、終始敬語で話をしてしまった。
綺麗な人だったなぁ……多分先輩だろうなぁ……。
なんて事を考えながら、俺は自分が座っていた席に戻っていった。
「美人だったなぁ……」
三年生かな?
何組だろうか?
部活とか入ってるのかな?
俺は先程合ったあの綺麗な女子生徒の事を考えて、まったく課題が進まなかった。
*
私、藍原由羽は放課後呼び出しを受けていた。
相手は別なクラスの男子。
確かサッカー部のエースとか言われてた人だったと思う。
「あ、あのさ……藍原、あいつと別れたんだろ?」
「うん、まぁ……」
湊斗と別れた事がもう広まっているらしい。 まぁ、私はあいつと別れられて清々してるから、別れた事が広まるのは別に何も思わない。
「じゃ、じゃあさ、俺と付き合わない?」
「え?」
「俺、ずっと藍原の事良いなって思っててさ」
「ふーん……」
「どうかな?」
「私、君の事何も知らないよ?」
「こ、これから互いの事を知れば良いじゃん!」
「ごめんね、今は誰かと付き合いとか考えてないから」
「え! じゃ、じゃあ友達からでも!!」
「友達から始めても私の気持ちは変わらないよ? じゃあ、私用事あるから」
「あ、ちょっと!!」
私はそう言い残して、告白してきた彼の元から立ち去った。
はぁ……下心丸見えだっての……。
私はそんな事を思いながら、教室に鞄を取りに戻る。
「ん? 由羽お疲れー、どうだった告白?」
「断ったわよ」
「やっぱり? まだ前の旦那が忘れられないかー」
「何言ってるの? そんな訳無いでしょ? あんなへたれ……なんであんなのと付き合ったんだろ?」
教室に戻ると、友人の白戸芽生が教室で待っていた。
芽生は中学時代からの友人だ。
昔、湊斗に告白された時に一番に相談したのも芽生だった。
「そうかな? 毎日楽しそうな顔してたのに」
「そんな訳ないでしょ? 早く帰ろうよ……今日は私に買い物付き合ってくれるんでしょ
?」
「はいはい、付き合うわよ。何怒ってるのよ?」
「怒ってない!」
「はぁ……もう、どうせまだ好きなんでしょ? 春山君のこと」
「大っ嫌いよ!! あんな奴!!」
「あっそ……昔は恋する乙女で可愛かったのに……」
「そんな事無いわよ、今と変わらないわ」
「ふーん……初デートの前日、服選びを手伝ってあげたのは誰でしたっけ?」
「うっ……そ、そんな昔の事は忘れたわよ………」
「始めて貰ったプレゼントを私に自慢したこともあったわね」
「わ、忘れたわよ……」
「それが……まさか手も握らずに終わるとはねぇ……」
「そ、そんなの湊斗が根性無しだったからでしょ!」
「由羽もガードが堅すぎだと思うけどねぇ……」
「どこがよ!」
「いや、春山君が手を繋ごうとしたときとか、あからさまに逃げてたじゃない」
「そ、そんな事無いわよ……」
「はぁ……まぁ、もう終わった事だしなんでも良いけど……折角お似合いだったのに」
「お似合いじゃ無いわよ!」
そうよ、全然お似合いじゃ無かったわよ。
すぐに可愛い子に目が行くし、髪型が変わったことにも気づかないし……。
「あぁホント! 別れて良かった!!」
「はいはい、良かったわね……じゃあ行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってよ!!」
私と芽生は教室を出てアパレルショップに向かい始めた。
*
図書室で素敵な出会いをして翌日。
俺は昨日の出来事を直晄に話していた。
「え? 図書室?」
「あぁ! すっげー美人が居てさ!!」
「へぇ~図書室にそんな人が……」
「あぁ……なんて言うか、大人っぽくてさ……胸がデカくてさ……」
「それ関係ある?」
俺は昨日帰った後も図書室で出会った彼女の事を考えていた。
ちくしょう!!
なんで俺はあの時あの人の名前を聞かなかったんだ!!
「はぁ……綺麗だったなぁ……」
「はぁ……」
「なんだよ、そのため息は」
「別に……もう藍原さんの事はなんとも思ってないんだなって……」
「当たり前だろ? 誰があんな奴……」
「あんな奴で悪かったわね?」
俺が直晄に話しをしていると、またしても藍原がやってきた。
なんでこいつは俺が悪口を言ってる時にやってくるんだよ……。
「なんだよ、もう俺とお前は別れたんだ、あんまり話し掛けんなよ」
「自分の悪口言われてんだから、黙ってられるわけないでしょ? それよりも何? 早速次の女でも探してるの? 無理無理、やめておきなさいって、アンタの不細工フェイスじゃ、誰も相手にしてくれないわよ」
「あぁ!? そう言うお前だってそんな性格じゃぁ……」
「あら、落としちゃったわ」
藍原のポケットから何か手紙のような物が不自然に落ちる。
こいつ……わざと落としやがったな……。
「なんだよそれ」
しまった、つい勢いで聞いてしまった。
俺は何となくだが、藍原が何を落としたかの見当がついていた。
俺がそう言うと、藍原は待ってましたと言わんばかりにどや顔で俺に説明し始めた。
「これ? これは今日朝来たら下駄箱に入ってたのよ、中を見る限りラブレターみたいで、放課後呼び出されてるのよねぇ~」
「そうかよ……」
「あ、ごめんねぇ~、なんか自慢みたいになっちゃってぇ~」
「くっ……ムカつく……」
「まぁ、アンタも早く新しい可愛い彼女を見つければ? 私はまだ当分無理そうだけど?」
「ぐぐっ……おまえぇ~……」
藍原はそう言って俺と直晄の元を離れて言った。
相変わらず腹が立つ女だ。
「くっそ!! ムカつく!!」
「悪口言うからだよ」
「あぁ、くそ!! 俺は絶対にあいつより先に彼女を作るぞ!!」
「あっそ……まぁ頑張ってね」
「なんだよ、協力してくれないのかよ」
「なんか、藍原さんが可哀想だから、今回は協力しない」
「そんな事言わずにさぁ~頼むよ~」
「僕みたいな、一度も彼女の出来たこと無い人間のアドバイスなんていらないでしょ?」
「あ、そっか……考えて見れば、彼女が居たっていう過去がある俺の方がお前より上なのか?」
「そうじゃない? じゃあ、そろそろ授業が始まるから」
直晄はそう言って自分の席に戻っていった。 なんとか、藍原よりも先に彼女を作って、藍原をぎゃふんと言わせたいものだが……。
残念ながら俺は藍原としか付き合った事無いし……てか、藍原以外に親しい女子とか居ないし……。
「はぁ……藍原……モテるからなぁ……」
俺はそんな事を考えながら、授業を聞いていた。