#15
帰りの車の中で、母さんは俺に色々と聞いてきた。
「何、漫画の主人公みたいな事してるのよ。こっちは心配したわよ」
「ごめん」
「まぁ、喧嘩とかじゃ無いから良いけど、親は子供が怪我したって言われたら心配なのよ」
「あぁ、うん」
「はぁ……何? 助けた子って知ってる子だったの?」
「まぁ……ちょっとね……」
まさか元カノなんて言う訳にはいかないしな……。
俺は藍原の事を車の中で考えながら、自宅に到着するのを待った。
藍原は大丈夫だろうか?
あいつ、性格はあぁだけど可愛いからな……狙われるのも無理も無いか……。
俺はそんな事を考えながら、自宅の自室に真っ直ぐ向かい、ベッドに倒れ込んだ。
今日は疲れた。
「はぁ……疲れた」
声に出すと同時に俺はベッドの上で大きく伸びをする。
「はぁ……まぁ、あの状況じゃ仕方ないよな……」
俺は先程の事を思い出しながら、藍原の事を考えていた。
あいつ……怖かっただろうなぁ……。
大丈夫だったか連絡してみるか……清瀬さんにも今日急に帰れなくなった事を謝りたいし。
俺はそう思い、バックに入れていたスマホを取り出す。
しかし……。
「げっ! 画面バキバキじゃねーか……うわっ……マジかよ最悪……」
俺が咄嗟に鞄を投げ捨てたのが悪かったのか、俺のスマホは見るも無惨な姿になっていた。
画面はバキバキに割れ、タッチパネルが機能しない。
ボタンは反応するので、液晶だけが壊れたのだと思うが……。
「はぁ……明日ショップ行くか……母さんに委任状も書いて貰わないと」
俺はスマホを机に置いて、ため息を吐きながら母さんに事情を説明し、機種変の許可を貰う。
はぁ……バックアップとか取れるのかな?
俺のソシャゲのデータ……。
*
『藍原!!』
私が連れ去られそうになった時、私を救ってくれたのは、別れたはずの彼氏だった。
「……湊斗」
私は自室のベッドで天井を見上げながら、今日の出来事を考えていた。
いきなり男の人に車に乗せられそうになり、私は恐怖を感じていた。
そんな時、湊斗の声がした。
見ると、湊斗が走って私の元まで駆け寄り、私を助けようとしてくれた。
必死で私の腕を掴み、私を助けようとしてくれた。
湊斗が来たとき、私は自然と安心していた。 でも、湊斗が殴られた時、私は湊斗を心の底から心配した。
「……大丈夫だったかな……」
私は警察に少し事情を聞かれ、後日詳しく話しを聞かせて欲しいと言われ、今日は帰ることになった。
怖い思いをしただろうからと、一日ゆっくり休んで欲しいということらしい。
「あいつ……頭から血出てたし……」
私は湊斗の事が心配になり、湊斗に久しぶりにメッセージを送った。
【今日はありがとう。頭大丈夫だった?】
大丈夫かしら?
可笑しな事書いてないわよね?
私は文章を見返して、変なところが無いかを確認する。
大丈夫よね?
変じゃないわよね?
そんな事を考えていたら、文章を作成して送信するのに十分も掛かってしまった。
「はぁ……なんでこんな緊張してんだろ……」
私はそんな事を考えながら、湊斗からの返信を待つ。
「あいつ……本当に大丈夫よね?」
私は湊斗が病院に行っている間に、両親が迎えに来たので、湊斗の怪我の具合について何も知らない。
私のせいで怪我をしたようなものだし、怪我の具合が気になる。
「……あの馬鹿……何格好つけて無茶してるのよ……弱いくせに……」
あいつがそういう奴だってことは、昔から知っている。
誰に対してもそうなのだ。
そんなあいつを……私は……。
「あぁぁぁ!! 何考えてんのよ私!! もう……終わったじゃない……」
私は自分にそう言い聞かせる。
そうだ、もう湊斗と私は終わったんだ。
一回助けられたくらいで、私の決心は揺らがない!
そう私は自分に言い聞かせる。
でも、湊斗が助けてくれたのは事実だし、ちゃんとお礼は言わないとね……。
「あいつ……本当に大丈夫かな?」
あれから数分経つのに、湊斗の奴既読も付かない……。
「も、もしかして……入院とかしてないわよね?」
私はそんな事を考えながら、湊斗からの返信を待つ。
しかし、待てども待てども湊斗からの連絡は無いし、既読も付かない。
「もう! なんなのよ! 私が折角心配してあげてるのに!」
結局、私は一晩中湊斗の返信を待っていた。
*
朝、俺はベッドから起きて体のだるさを感じた。
「あぁ……昨日の疲れが残ってる感じがする……」
昨日は色々な事があり過ぎて疲れたし、一日で疲れが取れるわけないか……。
俺はそんな事を考えながら、準備を済ませて学校に登校する。
教室に着くと、クラスの皆の視線が俺に集中した。
原因は恐らく頭に巻いた包帯だろう。
「おい、あれ!」
「うわ……まじかよ……これが修羅場ってやつだな」
「三角関係の縺れね……怖いわ~」
「やったのは藍原かな?」
なんかクラスメイトがコソコソ話しをしていたが、多分勘違いだと思う。