ある夏の日の特別な思ひで
「こんな所で何してるんだよ」
「見ての通りここから飛び降りようとしてるんだけど?」
「飛び降り……!まてって!」
「それよりあなたは何?私を止めにでも来たの?」
ーーー
学生生活において、他人のイメージと言うのは才能が半分以上をしめていると言っても過言では無いと思う。
ここで言う才能。
例えば勉強が出来るとか。
例えば絵が物凄く上手いとか。
例えばピアノが弾けるとか。
その他にも運動が出来る、歌が上手い、人付き合いが良い。
例を挙げればキリがない。
そして、大体この才能を持っている人はクラスの中でもグループに混ざって生活している。
そう。つまりクラスで生活したいのなら他人よりも優れた才能を1つでも持っていることが最低条件となる。
そうでないと浮いてしまう。
「俺はサッカー出来る。こいつはめちゃくちゃ勉強出来る。あれ?お前は何できんの?」
この時に
「は?僕だって勉強出来るし!毎回50位以内だし!」
とか言えれば良いのだろうが、残念ながら僕の場合は後ろから50位が良いとこだろう。
かと言ってじゃあ運動出来るかと言われても出来ないし、音楽出来るかと言われても授業程度だ。
つまりだ。僕は思いっきりクラスの輪に入れてなくて真っ先に皆様の記憶から消えそうな存在だということだ。
中学3年の9月。本来なら高校受験の勉強を頑張る時期だ。
だが、正直僕に才能とか無いし。
特技とか趣味とかそんなものとっくの昔にどっかいった。
その為、行きたい高校なんてあるわけ無く。
さらには例えあったとしてもそもそも受かる程の頭を持ち合わせていないと言うなんとも受け止めがたい現実。
クラスでも馴染めない。勉強も出来ないから高校も正直行ける気がしない。
………。
僕には「何が、あるのかな」
もう生きてる意味なくない?
いや、自殺するなとか言うけどさ……。
万策尽きた。
良くやったと思うよ。今まで。
ーーー
……。で、今に至る。
僕の目の前には僕と同じ学年の女子。
そしてここは校舎と校舎を繋ぐ3階にある渡り廊下。
この渡り廊下は外に作られていて胸より下位まで鉄柵がついているが屋根は無い。
中学生であれば越えようと思えば柵を越える事は容易に出来る。
そして、まぁ。本来は来るようなところではない。
と言うのもここへ来る為のドアは両校舎とも鍵がかかっている。
手段は1つ。そのドアの近くにある窓から柵を飛び越えて入る方法だ。
(ちなみに、窓から飛び降りると2階のベランダに着地する事となる為飛び降りるのであれば窓からではなく渡り廊下からの方が……。)
それなのに僕よりも先に先客が居た。
そして彼女、実は柵の外に立っている。
「まてって!まだ死ぬのは早いって!」
……何故それが目的で僕も来たのに他人の事は止めてるんだか。
「あなたに何がわかるの」
「話しなら聞いてやるからとりあえず戻ってこい!」
はぁ。……どうしてこうなった。誰か説明して欲しい。
「話した所で何も変わらないでしょ」
「………!」
言葉を失った。確かにそうだ。話したからと言って根本的に何か変わるかと言われたらそういう訳ではない。
「……それじゃあ」
そう言って彼女は、宙に舞った。
この、自分の生きる意味が、価値が見出だせなかった世界を。
この時、彼女は微笑んでいた。
でもこの時。僕は一瞬だけ、生きる意味を見つけた気がする。
そう思った時は僕も柵を越えていた。
宙を舞い始めた時間は彼女と差はそんなに無い。
確かに見ず知らずの女子だった。
多分隣のクラスの子だった気がする。
でも、目の前にいた女子を見殺しにするほど僕は腐っちゃいない。
もともと僕だって彼女の様に飛び降りようとしていた身だ。
でも、だからと言って死にたい人を前にして死んだ方が良いとは言えない。
もしかしたら彼女はもう少し何かあったかもしれない。
そして空中で彼女の体を抱え、自分が下になったまま地面に叩きつけられる。
ーーー
「……ここは、どこだ?」
ふと気が付くと、見知らぬ白い天井が目に入った。
どこだろう、ここは。なんて思っていたら、ふと思い出したかのように全身が痛んだ。
そしてその痛みのお陰なのか、自分が屋上から紐無しバンジーをしようとしていた事と関わりが無い女子を救う為に結局紐無しバンジーを決行した事を鮮明に思い出した。
「……で、病院か。」
成る程な。
でも今考えると屋上から飛んだのにこうして生きていると言う事は結局あそこから飛ぶのは無意味では無いか……。
……。
まぁ、生きてるな。うん。
てか、そう言えば結局あの女子は生きているのだろうか?
あ、そこに気付いたらなんか落ち着かなくなってきた。
……。
……。
……。
わからん。
自分以外この病室に居ないから暇でしかない。
……。
……暇だ。
そんな事を思っていると、スーっと静かなドアの音が病室になり響く。
このドアですらなり響く位だから相当静かな病室なんだ。
そして入ってきたのは例の女子ではないか。
ベッドに寄ってきた。んー。こっからだとよく顔が見えない。
「……おはよう」
彼女の声は随分静かな声だった。
だが、静かだけれど確かに存在している様なそんな声でもあった。
「おはよう」
「その……どう?体調」
心配してくれるのは嬉しいね。
でも正直、彼女が飛ばなければ僕も飛ばなかったのだが……。
まぁ、彼女を助けようとしたのは僕の勝手だから彼女が悪い訳でもないか。
「一応、大丈夫そう。まだちょっと全身痛いけど」
実は嘘です。全然大丈夫じゃないです。全身、ちょっとどころの痛みじゃないです。
……それでも大丈夫って言うのが定型文みたいな物だろ!
「そっか。…………その、ごめん」
謝られた。
けどそんな訳で彼女が悪いとは決して思っていない僕。
「そんな、謝る事じゃないよ」
僕は軽く微笑みながら続ける。
「それより大丈夫なの?そちらは」
そもそも僕達は屋上で出会った仲だ。
もともと精神的に駄目な状態だったわけだから問題はそこにある。
「……。なんか、思いっきり落ちてみたら吹っ切れた」
「そっか」
「それに、あなたが助けてくれたから、まだ優しい人もいるんだって……」
「……。」
優しいなんて言われたこと無いからどうすれば良いかわからん。
「その、ありがとう。助けてくれて。もう少し頑張ってみようと思うの」
「それは……良かった」
そうか。僕は彼女を本当の意味で救う事が出来たのか。
それならあの時飛んで良かったかな。
「今まで、私、この世に良い事なんて無いと思ってたけど……」
んで、ここから1時間位飛び降りる前の彼女の境遇やこれからしたいことやらなんやらかんやら聞かされた。
が、僕はと言うと全身が痛むこの体なので話し3割、痛みに耐えるの7割な感じで居た。
なので話しは全くと言って良い程覚えていない。
確か、……友達が出来たとか何とか言ってたかな?
で、その後彼女は病院側の面会時間終了で帰らさせられた。
まだまだ話したそうな感じだったけど「また来るね!」って言って帰っていった。
あの子、凄く元気そうだったな。
晴れやかな顔だった。
何も出来ない僕も。
人一人救えたらしい。
それならそれで……
良かったのかな。
彼女の様に、僕も。
まだ生きてみようかな。
まだ、未来は不確定だ。
そう思えたのは意外にも死のプラットホームで出会った1人の女子のせいか。
次は、僕が明日を創ろう。
驚いた。この世を放棄しようとしたのに。
……。
「何が、あるのかな。」