第2話 男の過去
第2話
あぁ、なんて事だろうか‥‥‥。父さん、母さん信じられないかもしれませんが私は今、兵士として戦争をしています。
何をバカな事を言っている? と言われるかもしれませんが、あなた方の息子である『田中善弥』(たなか ぜんや)は今銃を持ち、銃弾が飛び交う戦場に身を委ねています。
そんなこと知らない?えぇ、そうでしょうね。あなた方は、宣戦布告と同時に爆撃され死因が何かさえわからずに死んだ第一の戦争被害者ですからね。
山奥深くにて
「田中! 佐藤! 桜井! 弾倉を交換する! カバーしろ!」
大声で指示を出す男に名前を呼ばれた男が返事を返す代わりに指示された行動をとる。
最初に2発、続けて5発、更に続けて8発。
大木に半身を隠しながらリアサイトとフロントサイトに敵を納め、小銃の引き金をリズムよく引く。小銃から出た銃弾は綺麗な一直線を描きながら狙った場所に約920m/秒、音速の2倍以上3倍未満の凄まじい速度で目標である敵兵士を貫く。
敵を一人殺すことが出来たが、より一層、敵の反撃が強くなる。
敵側からは、鳴りやまぬほどの銃声。その銃声からは、田中とよばれた男‥‥‥善弥たちが使っている弾薬よりも遥かに高威力であるかがわかる。
「ウグァ!」
銃声が耳の鼓膜を破らんと大きな音が鳴り響き続ける中、班長と善弥の後方で応戦していた桜井から痛く苦しそうな声が鮮明に耳に入ってきた。
「桜井三曹!」
佐藤が足早に桜井の元に駆け寄り桜井の身を引きずり大木の裏に隠れ、傷の具合を確認する。
「田中!佐藤をカバーしろ!...佐藤!桜井の容体はどうだ?!」
「一曹に3発の被弾を確認。脚部に2発、胴体に1発の被弾を確認! 弾丸は体を貫通しています・・・・・・鎮静の為にモルヒネを使用します!」
佐藤が冷静に桜井の状態を分析し適切な場所に注射針を立てる。依然、今だ苦しさに襲われていた桜井だが、鎮痛薬として打ち込まれたモルヒネによって激痛から解放されたのか先ほどの様な苦痛に染まった顔や苦しそうな呻き声が無くなっていた。
胴体に一発の被弾か...。この状態では桜井一曹は戦闘を続行することはできないだろう。すると残った人数は俺と班長の残り2人...。対する敵は凡そ9人ほど...、常識で考えるのであればこの場は人数的不利を考慮して撤退。
しかし、今敵を撃ち漏らす事をこの『脳筋無能班長』が許すだろうか?今現在、攻撃を仕掛けている敵部隊の中には敵の主力参謀がいる。今回のこの機会は、仲間が文字通りの必死の覚悟で敵の戦車部隊に守られていた輸送部隊に奇襲。結果、常に後方で作戦を立てている敵の参謀を銃弾の飛び交う本物の戦場に身を晒させることが出来た。
こんなチャンスはもう二度とないだろう。脳筋班長は、多少の無理をしてでも敵参謀の首を打ち取りに行くのだろう‥‥‥。しかし9対2‥‥‥戦力差は4倍以上。班長お得意の精神論だけでは敵を倒すことはできない‥‥‥。
「佐藤! 桜井を担いで後方の野戦病院に行け! 俺と田中は敵をせん滅する!」
「しかし、班長! 敵は少なくとも9人!いくら班長が猛者と言われている方だとしても、敵う戦力差では在りません!」
班長がそう叫ぶが、桜井はその意見に反対しているようで班長に反対の意義を唱える。
佐藤の意見は最もであり正論だ。実際、先ほども善弥が考えていた通り、数は力で在りそれをひっくり返す事は殆ど不可能と言っても過言ではないだろう。
「佐藤の意見は最もである!」
班長が自身の手元にある小銃の銃撃音に負けない力強い声で言葉を続ける。
「確かに敵の数は圧倒的な優勢である! しかし! 当たり前ではあるがあれ我々が引いては敵の参謀を取り逃がすことになる! それでは必死の覚悟で今回の機会を作ってくれた味方に申し訳ない!」
「しかし! このまま敵を追いかけたとしても班長達が敵に撃たれることは明確です! 此処は一旦引きましょう!」
「貴官は私の功績を忘れたのか!? 私は友軍に勝利をもたらす!」
「しかし!」
「黙れ! いいか! これは班長命令である! 速やかに桜井を連れて野戦病院まで引け!」
更に反論を言おうとしていた佐藤に対して怒鳴り声をあげ班長命令を下す。軍隊とは上官がすべてで在り、どんなに間違っている命令であっても、下の物は上官の命令を受諾しなければなければならない。
「ッ、了解しました。どうかご無事で‥‥‥」
そう言うと佐藤は桜井を担ぎ、小走りで戦線を離脱していった。
「‥‥‥すまないな、田中! だがこれは、貴様にとっても昇進のチャンスだ!」
佐藤と桜井の姿が見えなくなったころ班長は先ほどの声よりもより一層、覇気の在る声を出し善弥に語り掛ける。
「‥‥‥機会を与えてくださり、有難うございます」
昇進の機会よりも、生き残る機会を与えていただければ幸いです。‥‥‥と言えるような強い人間になりたいものだ。
善弥は当たり障りもない事を言いながら心の中で毒を吐く。
確かに佐藤二曹が言ってた通り、班長はこの国の猛者で在り完遂した任務は数が多く、遂行が難しい任務を達成したことは1つや2つではない。しかし、その遂行が難しい任務の大半は今よりも環境や補給の状態が良い状態であり、今回の状況と違い『人数的戦力』があった。
何回も説明するが、それに比べて今回は圧倒的な人数の不利‥‥‥。今すぐに逃げ出したいのは山々なのではあるが、班長が何と言うか...。
善弥が銃撃を行いながら思考を張り巡らしていると敵からの銃撃が弱くなっていたのに気づく。
ソロリと大木の元から顔を少し出し、敵の状況を確認しようとするが、バスン! と盾代わりしていた木に弾が当たった。
「気をつけろ! 疲れているのはわかるがボーっとするな! しっかりと神経を集中しろ!」
班長が叫びで、この様な地獄にも関わらず、鈍くなっていた思考を善弥は2回ほど素早く頭を振り、邪心を拭った後、敵の銃声が少しずつではあるが遠くなっていく事に善弥たちは気付いた。
善弥は班長の方を見る。班長はジェスチャーを使い善弥に牽制しながら敵を追いかけるとの趣旨を伝える。
双方の銃声が森に響き、鳥たちがバサバサと飛び立つ。銃撃音であたりは五月蠅いはずなのに、一度は集中力を切らしたとはいえ神経を尖らせているためか自分自身の感覚がいつもよりも数段に良い。
それからしばらく、敵をせん滅するために銃撃戦をしながら前進をする。
さすがは猛者と言われているだけはあるな‥‥‥。これだけの人数的不利な状態でありながら、敵を確実に撃破している。もしかしたら、もしかしたらでは在るが今回の任務は何とか完遂することが出来るかもしれない。生き残れるかもしれない。
事実、善弥が思うように9対2という絶望的な人数差だったにもかからわず班長が一人一人確実に撃破している為、現在の戦力差は2人の4対2で在り人数的な不利は完全にとはいかないものの何とか対処が可能な範囲までになっていた。
「スモークだ!」
班長が叫ぶと同時に目の前からモクモクと白い煙幕が立ち上る。
敵にこちらの視界が悪い事を良い事に距離を詰められない様に、善弥と班長は煙が上がっている付近に弾丸を10発撃ちこむ。と同時に地面にうつ伏せの状態で寝ころび銃を構え敵の出方を窺う。
「・・・・・・敵の反撃が止みましたね」
「あぁ、しかし、煙幕が晴れるまでは迂闊に敵がいた場所に踏み込むことが出来ない。よって最大限の注意をして煙幕が晴れるまで注意しろよ」
「了解です」
敵からの視覚情報が全くといって無い為、善弥たちは相手の出方に一秒でも早く対処するため神経をより一層張り詰め待機する。まさか敵たちも真正面の地面に匍匐の体制で待機しているとは思わないだろう。今はとにかく数的な振り要素を減らすべく一人でも多くの敵を殺さねばならない。
ガサガサ!と木々が音を立て善弥たちの元に強風が吹く。と同時に敵の煙幕が強風により流され目の前の状況が明らかになった。
「前方に敵だと思われる死体が1体。先ほどの煙幕展開時での射撃で死亡したものだと思われます」
双眼鏡を取り出し、前方を確認しながら班長に様子を伝える。
「了解。このまま我々は先ほどまで敵がいたポイントまで移動する」
「了解しました。ここからの道中、敵のブービートラップ等は視認できません」
「了解。では速やかに周りに警戒しながらポイントに向かう。俺についてこい」
「了解しました。行動を開始します」
そういうと同時に班長が先頭に立ち、その後を善弥が続き歩き出す。足元には、先ほども確認したがブービートラップがない事を再確認しながら歩く。
今のところ敵兵も異常も無し。敵の死体が1体あったのなら残りは3人。団体的な戦闘の展開は難しいかもしれないが、一人一人が自由に動ける遊撃戦を展開されると厄介だな・・・・・・。
想像が及ぶ範囲では在るが最悪の場面に備え、善弥は左右と背後にある木々に目を凝らすし警戒するが今の所まったくといっていい程気配がしない。
「止まれ田中、目標ポイントだ」
善弥が警戒をしながら進む中、班長が左手を上げ立ち止まった。どうやら目的のポイントに到達したらしい。善弥は班長との位置を変わり敵の進行方向で在ろう場所を見る。
敵が進んだであろう場所は木々がなく一部を除いては見通しが良い。言葉を変えるのであれば、まったく持って遮蔽物がなく銃弾を防ぐ物は何もない。そして、一部を除いての一部とは、管理をする者がいないのであろう古びた・・・・・・、というよりも寂びれた神社である。
何故、このような場所に神社が? 作戦開始前のブリーフィングではマップ上にはこのような場所は記録されていなかったはずだが。マップにも記載されない程、寂びれた神社なのか‥‥‥もしくはマップの不備か。...マップの不備の線はないな。ともあれマップに記載されていなかったとしても、目の前にあることが現実で在り事実である。とにかくは、地形の情報は必要では在るが今はどうしようもない。故に目の前の任務に専念しなければならない。
とにかく、マップの情報が無いのであれば今目の前にある実物を確認して情報を集めなければならない。
善弥は、作戦前のブリーフィングで配られたマップを出し、位置やその他諸々を確認していく。
ダメだ・・・・・・。調べても調べても出る座標の位置は、全部同じ場所。おまけに先ほどでの戦闘のせいでGPS機器も不具合を起こしていて、正確な位置を第三の目で知ることもできない。ならば今現在自分たちがいる地形を目測で測ってその情報を頼りに作戦を練る以外に方法はないか。
双眼鏡を出し神社を調べる善弥に班長が社付近の地面に指をさし善弥に確認をとる。
「敵はあの中にいるだろうな。足跡が確認できる」
「はい、それも真新しいものですね。しかし、環境的に遮蔽物がない状況では近づく事ができません」
「何とかして25mまで近づかなくてはな」
「25mでありますか?!遮蔽物は無いんですよ?!」
善弥は不可能だと言わんばかりの声を出して聞き返す。
「承知の上だ!余裕を持って25m以内の距離に入ることができれば手榴弾の投擲距離に入る。よって作戦としては敵が居るであろう社の25m以内までに前進することとする」
ダメだこりゃ・・・・・・。話を理解していないと見える・・・・・・。ダメだ!このままでは自分もろとも死んでしまう。何か、何か生き残るための作戦を立てなければ!
「では、私はこの場に残って班長の援護に徹すればよろしいのでしょうか?」
「貴様は何を言っている?」
班長が不思議そうな顔をして善弥の顔を見る。その顔には明らかに呆れている事を判らせるような顔つきであった。
あぁ・・・・・・、これはダメそうですわ・・・・・・。
「勿論、貴様も一緒に突撃してもらう」
「わ、私もですか?!」
「当たり前だろ! 今我々は人数が貴様と合わせて2人しかいないのだ! 1人で突っ込んだとしても気迫が足りん!」
何でコイツが上官なんだろうか? 頭が痛くなってきた。気迫ってなんだよ・・・・・・気迫って。
くどいだろうが何回でも言わせて頂こう。・・・・・・本当にこの人は軍人で在り、猛者・・・・・・エースなのだろうか?
善弥は、今この時ほど軍隊に入隊した事を後悔したことはないであろう。直訳するに班長は善弥に『私と一緒に死ね』と言っているのである。
作戦? これが作戦だと? 敵潜伏予想地点まで凡そ150m。その間に敵から放たれた銃弾を防ぐ遮蔽物も無ければ、身を隠す草すらもない。無謀すぎる・・・・・・。いや、無能すぎると言ったほうが正しいに違いない。本当にこの無能の班長が猛者なのか? 確かに、先ほどまでの敵に対する攻撃は猛者その物で在るが‥‥‥。しかし、この様な考えを作戦だと言う人間がが猛者?
班長の階級は自分よりも3つ上の曹長‥‥‥いうなれば上級曹長といったところ、「出兵優遇者」処遇で三曹‥‥‥もとい伍長の自分では経験も知識も班長に遠く及ばない。そんな自分でさえ今回の作戦擬きは無謀であるとわかる。いや、もはやこれは戦闘を経験したことの無い一般市民でもわかることでは無いだろうか?
班長殿は本当にこれが作戦だと認識しているのだろうか?
だとしたら、お笑い者だ!犬死にも程があるだろう!
もう一度、言わせていただく。彼‥‥‥、班長は限りなく無能である!
あぁ、もし許されるのであれば今すぐにでもこの場を去りたい。こんなバカな無能上官に殺されるのは耐えがたい苦痛。しかし、上の命令は絶対‥‥‥。覚悟を決めるしかないか。
思考をしながら善弥は手元にある小銃に銃剣を着剣する。銃剣とは、今日における戦闘では近接戦も小銃で事足りる為、装着するメリットは無くむしろデメリットのほうが多い。では何故、デメリットが多い銃剣を着剣するのか? 答えは簡単で、自分自身の士気の向上である。
危険で無謀な作戦擬きを行うのだ。先ほど、精神論は無意味と言ったが前言を撤回させて頂きたい。
精神論万歳!!
「さて、準備は整ったか?」
銃剣の着剣が完了した頃合いを見計らったのか、ちょうど良いタイミングで班長が善弥に声を掛ける。
「はい。ちょうど終わったところです」
「ではこれから敵の掃討作戦を開始する! 走れ!」
そう叫ぶや否、班長は社に弾丸を撃ちながら全力疾走で向かう。それに続き善弥も同じように目的圏内に向かうべく全速力で走る。
散々、班長の事を無能呼ばわりしていたが、自分も代案を即座に考える事が出来ないかなりの無能であったか。いや、代案は在るには在る。『撤退』の2文字!これ以上の案が在るだろうか?いや、ないであろう! ‥‥‥今さらそんなことを考えてもしょうがないか‥‥‥。
敵は我々の動きを察知し、木枠の窓から小銃を出し連発する。
もう、どうしようもない。今更、回避運動を取ったとしても予定圏内までのポイントに行く時間が余計に掛かって班長から離れてしまったら自分が死ぬリスクが何倍にも跳ね上がってしまうだろう。
とにかく死にモノ狂いで善弥は班長の真後ろについていく。何があっても班長の真後ろを着いていく。班長を盾にしてでも自分自身が生き抜くために。
走っている時間がマラソンの様にとても長く感じる。
目の前の班長の動きがゆっくりに感じるように、自分自身の動きもゆっくり感じられる。
「やぁぁぁぁぁ!」
自然と腹の底から声が出る。
やるんだ! やるしかないんだ!
「投射...今!」
そう言うと班長は手榴弾を投げると同時にヘッドスライディングをする様に地面に伏せ、善弥もそれに習うように地面に伏せる。
班長が投げた手榴弾は、敵が小銃を撃つ為に開けていた木枠の窓へ吸い込まれるように社の中へ入って行き内側から爆発する。
「うぐぁ!」
予想以上の爆音に善弥は思わず声を上げる。
爆発というモノは、甘く見てはいけない。
爆発元である社から約25m程離れているのにも関わらず、爆発による爆音が耳を襲う。
金属片での殺傷ではなく、爆発で殺傷するタイプの手榴弾が‥‥‥。今回の作戦では支給されないタイプではあったんだが、一体どこで手に入れたんだ?敵の戦利品か?
「制圧戦を開始せよ!」
爆発により、耳鳴りが止まない善弥の耳に興奮の影響か甲高い声を出す班長の声が聞こえる。
善弥は声に反応するように中腰で走りながら班長が中へ突入したことを確認すると、爆発で壁に空いた個所を目掛けて走り出した。
中に、まだ居るであろう残党を殲滅する為に。
この度も『叩き上げ天使が神様に成り上がるまで。』を読んでいただきありがとうございます。
うーんこの...。
どうすれば文章力が良くなるのか?
もし、私の書く文章にご指摘をいただけるのであれば些細な事でも構いません。
アドバイスをいただければ幸いです。
結局は何が言いたいかというと、すこしでも早く読みやすい文章を書けるようにして、私の作品を読んでくださっている皆様に快適な小説ライフを送って頂けたら、と思っているからで在ります。
さて、最後になりましたが 次回も頑張って執筆いたしますのでどうか次回の話も読んでいただければ幸いです。