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叩き上げ天使が神様に成り上がるまで。発  作者: IS提督
第0章 プロローグ 天界まで
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第10話

第10話


「ほう、それで貴様らは、儂の下した判断が間違っていると思ったわけか」


 全ての存在よりも一段階高い高所に座している創造主の目の前には(人段階と言えど、物理的な距離ではない、そこに集まっていた神々や天使達とは格の違いによって生じる距離で在る為に、見た目よりも離れている)創造主ですら全体の数を把握する事を面倒だと感じさせるだけの大勢の神々や天使達が其処に群れて居た。

 その様な状況下において創造主は一人で、目の前(創造主が見下す形ではあるが)で永遠と不愉快な言葉を吐き続ける神の話を聞いていた。

 全てを想像した存在、創造主がザイリー含む抗議隊を睨みながら、不機嫌そうな雰囲気を醸し出して、天使達と神の抗議を聞く。しかし、その内容は、当たり前ではあるが創造主からすればあまり良いモノではなく不機嫌になる事は当たり前であった。

 しかし、抗議隊としてもこの先の天界の方向性を決めるモノであると認識している為、創造主が醸し出している雰囲気に対して恐れる事も無ければ、その場から去ろうとする存在も無い。その事が更に創造主を更に不愉快にさせる。


「我々が望むのは、全てにおいての公平な判断で在ります! 恐れ多くも、主はご自身がお気に召している人間だけを優遇し、その人間に対して都合が悪い事は全て、人間以外の存在に罪をかぶせております! これでは、今後の天界の存続が危ぶまれる事になります! どうか今一度、主のお考えを改めて考えていただけないでしょうか? どうか、どうかお願い致します」


 創造主に対して、此処に集まった存在の一番の目的……一番伝えたい事を、先頭に立っていた神が口にし、そして臣下の礼の姿勢をとった。それに続き、頭を下げた神の後ろにいた存在達が臣下の礼の姿勢をとった。

 しかし、この行動が創造主の癇に障ったのだろう。目の前で、こんな大勢の存在に『貴方の考えは間違っている。考え直せ』と言われたようなモノ。自身が創造した存在に、自身を否定されたら、不愉快になる事は火を見るよりも明らかである。しかし、それと同時に創造主は違った意味で怒りと、少しばかりの恐怖を目の前にいる存在達に覚えた。


 自身の命に、絶対の忠誠を誓わせている存在達が今現在、絶対な存在に反発している。

 ……これは由々しき事態ではないか!? 自身で創造した存在が、自身の目的に沿わない。これは一体何なのだ?! この存在達が『自ら』の自我を持った? 馬鹿な!? その様に創造した覚えはない! しかし、今回の事の一部の存在の反応と行動……。『偽りの自我』が『己の自我』に変わった……。いや、この場合は、儂が与えた『己の自我』が『偽りの自我』に変わったと表した方が自然で在ろう。


 創造主はスゥと息を吸い込み、息を吐きだす。

 そして、自身の思い通りにならない存在達を改めて視界に入れ、自身の望む通りにならない事に更なる怒りを覚えた。


 そんな事を認める訳なかろう! この世の全ては、創造主である儂が作り出したモノなのだ! 目の前に居る存在は、儂が創造した創造物を『自ら否定』した! 与えてやった存在そのモノを自ら穢し、この儂を侮辱した! これは決して許されない事で在る!


 主と言えど、思い通りにならない事が在れば、創造した存在と同じように怒りもする。

 いや、主が怒る事が在るからこそ、創造した存在も怒りを覚える事が在るといった方が正しい。

 しかし、フと主は考える。怒りによって熱くなっていた感情が冷え、怒りを覚える前よりも落ち着いた澄んだ心で主は考える。


 一体何故、与えた自我を塗り替える事が出来たのか? 


 主が一番に考えたのは、その事柄で在った。


 有から有を作り出す事は簡単な事であるが、無から有を作り出す事は不可能である。それこそ最古の創造主つくりぬしでなければ不可能であるが、その最古の作り主は……兎に角不可能で在る! だが目の前に居る存在の存在は、不可能な事を可能にしている……。その事を認めたくは無いが、認めなければならない。そうで無ければ、この由々しき事態を解決する事は出来ない。


 兎にも角にも0から1を作り出す事は考えにくい一つの可能性を抜いて不可能であり、主自身にとって近くに居る存在に、この様な良い変化とは反対の悪い変化が起こっている事に疑問と恐怖の念を隠せないでいた。


 何にせよ理由はどうであれ、今のままの目の前の存在は危険である。この存在達を放っておいては、他の存在にも、この様な事が伝染してしまう可能性が十分になる。それはつまり、自身が今まで築いてきた世界を一瞬にして破壊してしまう可能性がある。そうなってしまえば、自身が描いてきた理想は全て消える。


 主はそこまで考え、ハッとした様な顔つきになり、一度目を瞑る。目を瞑ったまま、少しの時間を何も考えずに呼吸だけに意識を集中し、再び目を開いた。

 その顔には幾らかの気まずそうな、しかし、覚悟を決めたかの様な表情と雰囲気を張り付け、目の前に居る神々に対して言葉を発する。


「貴様らの話は分かった」


 創造主から発せられた言葉を聞いた存在達は、一瞬にして顔を上げる。その顔には目的を達成された……念願がかなった時に見る事の出来る表情と、自身達の意見を受け入れられた為に得る事の出来た承認欲求の満たされを感じさせる表情であった。

 しかし、次の瞬間に、創造主から発せられた言葉によって、念願が叶ったと確信していた存在達には、裏切りとも取る事の出来る言葉を発せられた。


「貴様らは、儂に絶対的な服従を行わない『危険分子』で在ることが分かった。これは、非常に残念で在る事ではあるが、貴様らの存在価値は儂に反抗した時点で無になった。貴様らは、ただ何も疑問を持たずに、理不尽だと感じるような事でも……いや理不尽だと感じる時点で存在価値は皆無であるな。……つまりは、貴様らは失敗だ。貴様らには、何の価値も無い。もう良い……下がれ」

「主よ! お待ちください! 我々が言いたい事は、その様な事では無いのです! 主よ! 我々の話の意味を確りと理解して頂きたい! 主よ! 主よ! どうか!」

「えぇい! 騒々しい! 儂が貴様らに言っている事の意味が、まだ理解できんのか!? 儂が貴様らに言っている事はそういう事であるぞ! 貴様らは、自身の存在意義を理解している上での発言か!?」


『我々の存在意義は、この天界を、しいて言えばこの世の全ての真理を正しい場所へ導く事であります!』


 先頭に居た天使では無い声……列の更に後ろから、魂の籠った声と捉える事の出来る、しっかりとした意思を持った言葉が聞こえてきた。その一瞬にして、創造主は自身の体温が下がっていく感覚を味わった。

 その声を皮切りに列のあらゆる場所から、その言葉を肯定する賛美の言葉や拍手が霰のように降り、その賛美や拍手の勢いに、更に便乗するかの様に勢いが増していく。その勢いを増した賛美と拍手が大きくなれば成る程、創造主の理想の存在から外れていく事を目の前で、ある意味で己に酔っている存在達は気付かない。


「導く、か……」


 呟くように発せられた言葉に、舞い上がっている存在達は誰一人として気付く事が無い。……だが、もし目の前の存在達が舞い上がっていなかったとしても、この小さく発せられた言葉の意味を、神々や天使達は深く考える事は無かったのかもしれない。

 そのような事が、創造主の中で大きな怒りに変わっていく。最愛の人間の事を非難する前に、己の事を考えろ……と。


 今なおも、止む事の無い神々と天使の自己心酔。その姿には一種の狂気を感じる事の出来る……いや、哀れな姿と言い表した方が適切なのかもしれない。

 何故、儂の言っている意味を理解する事が出来ないのか! やはりこれも、自我の塗り替え……いや自我の芽生えの影響なのか? とにかく、目の前の存在は、儂にとっての存在価値を失った存在……。さて、ではこの存在達は一体どの様にすればよいのか? 悲しむ事は無い。存在価値がなくなった存在に、何時までも時間を割く事は無い。


 主は改めて、この目の前に存在している神々と天使達の事を見渡した。己に心酔している存在達は創造主から見て、その眼に確かな力を宿す事無く、視点すらも定まって居ない様に見える。(実際には視点が定まって居ないなんて事は無いのだが、創造主自身が神々と天使達の状況が正気を保っていない状態である事を無意識の内に望んだ結果として、創造主の目にはその様に映ったのかもしれない)

 怒りを通り越しての失望を、創造主は目の前に居る存在達に覚えた。元々今回の事に関しては創造主の中では相当に、腸が煮えくり返る程の怒りを感じていた。しかし、目の前の存在達が言い放った言葉『導く』……その言葉を聞いた瞬間に創造主の身体から、力に似た何かが抜けていった様な感覚を感じ取った。その感覚は失望であった。


 儂は、この神々や天使達に何かを期待していたのだろうか? もし期待をしていたのであれば、一体何を期待していたというのであろうか? ここまで儂の考えに逆らって、儂の最愛の人間を侮辱した人間に一体何を期待していたのだ!? こいつ等に一体何を……。

 儂は一体何を?! 分からない! 全てを創造した創造主で在る儂ですら、全く持って分からない……!


 自身が生み出した絶望感によって急速に体が重く、そして怠さを感じた創造主は己の手で頭を支え、項垂れる。そんな創造主の姿を見た神々と天使達は、自身らの考えが創造主の考えを変える事が出来たと思い、喜びこそは表に出さなかったがその内心では、これまでにも感じた事の無い喜びを噛みしめていた。


今度こそ! 今度こそは主に理解を頂いた! いや! 我々の強い思いが主を打ち負かしたのかもしれない! やはり我々の考えは正しかったのだ! 我々の導くといった存在価値による行動は、完全に全で在り必要な事なのである! それが例え、自身を創造された創造主で在ったとしても、我々が全ての存在を導かなければならないのだ! それが我々の存在意義で在り、我々に課された天命なのだ!


 創造主が項垂れて居る目の前で、神々と天使達一同は皆その様に思い、また自身以外の存在達がその様に考えている事を言葉は無かったがお互いに感じていた。

 そこには神々と天使達の最初の目的であった『ルシフェルに対する不公平な措置に対する抗議』と言う当初の目的は存在せず、唯々己の存在価値を勘違いした神々と天使達しか存在していなかった。


 ……だがそんな中で在りながら、ザイリーはただ一人として表情や雰囲気こそは周りの神々と天使達と同じであるが、その心の中では懐疑的な感情を抱いていた。


 果たして、我々の使命……主から授かった天命は『導く』事なのだろうか? ……それを何故、我々は堂々と宣言する事が出来るのだろうか? 


 ザイリーは此処にきて、実際に創造主に抗議したことによって自身達の考えが全て間違えている訳ではないが、しかし我々の言っている事全てが正しいという理由が無いと。

 何か証拠があって思い直したわけでは無い。何かそれとは別の……、その『何か』は分からないが、兎にも角にもザイリーはこの事に関して何か間違えを犯してしまっているのでは無いか? そのように考えた。更にザイリーは考える。


 そもそも、我々の使命と感じている事、導く事が本当に天命で在るならば、何故この様に堂々と宣言できるのであろうか? 現実に、もし導く事であるならば、今回の人間が行った事も、いわば我々からすれば『悪』の行動を行った。それを我々は、事が大事になるまで何も行う事が出来なかったと同時に、最終的に我々が人間達に行った行動は最悪の方向につながった……これは、我々天使と神々の長のルシフェル様が行って、この様な結果になった。……失敗は誰にでもあるというが、それでもやはり限度というモノがある。我々は何も導く事が出来なかった……正確には、悪い方向に導く事が出来たという事ではあるが、それは完全に天界の利益には繋がって居ない。……という事はこれから言える事は、我々の天命は『導く』という事では無い! あぁ、そうだ! そうなのだ! 主が頭を抱えている理由は、我々の言葉が主に届いたからでは無い! 我々の理論……間違った解釈で、その矛盾に気が付くことも無く、自らの醜態をさらしている我々に絶望なさっているからである! なんて馬鹿なのだ! ここまで都合の良い考えを我々はしていたのか!? いや馬鹿以下だ! 馬鹿ですら、ふつうはこんな事は考えの暴走は起こさない! であれば馬鹿という言葉では片づけられない問題である! いかに自身の考え方に自信を持って居たのか!? いや違う! 都合の良い事しか見ようとして居なかったのではないか! あぁ醜い! 醜くてたまらない! そうだ! 早く、早くこの間違いを皆に伝えなくては! 


 ザイリーは急いで神々や天使達が密集している中ではあったが、自身の羽を広げ空を飛んだ。羽を広げる途中で、後方にいた神々や天使達に羽がぶつかった事による一種の敵意の様な視線を感じたが、彼はその視線を無視し空へと舞い上がった。天界の地上に居る存在達が数名程、彼の事を見上げる。彼は更に上を目指して舞い上がる。神々と天使達に声を届け、自身が直接創造主へ気が付いた事を述べる為に! 上へ! 更に上へと羽を羽ばたかせた。


 しかし、彼は突如としてバランスを崩し、上昇を止め重力逆らうことも無く、落下を始めた。これ以上に、高度を上げる事が出来なくなったからでは無い。彼は見てしまったのである。主の絶望がドス黒いオーラの様になり、主の周りを漂っていたことを! ザイリーは底知れぬ恐怖感を感じた。身体の芯から這いずり出てくる寒気を感じた。

 彼が落下している間にも、創造主から出ているドス黒いオーラは徐々に、徐々にでは在るが、確実に下へと伝っていく。下へと伝っていったオーラは、落下途中のザイリーは勿論の事、その更に下に居る神々や天使達をも包み込んだ。神々や天使達の顔を彼は上空から見る事は出来ないが、おそらくは絶望の顔色に染まっている事は想像に難くない。


「主よ! 我々の……いや! 私の話を聞いて頂きたい!」


 ハッとしたかの様に、ザイリーは落下しながら叫んだ。しかし、その声は主に届く所か、自身にさえ聞こえない程に震えていた。空中に居ながらも足までもが震える感覚……いや実際問題に、彼の足は震えていた。

 この両方の震えが恐怖故なのか、それとも別の何かなのかは彼自身、知る事が出来ない。


 「主よ! 主よ! お願いです! 私の! いや我々の懺悔をお聞きください!」


 力の限り彼は叫ぶが、その声はキチンと発声されているのかも分からないが、それでも彼は叫び続ける。


「お願いです! 我々の罪は……」


 しかし、彼が自身達が犯してしまった罪を口に出そうとした瞬間に、意識がスゥと遠のいていく感覚がした。

 とうとうザイリーの声は創造主に届かなかったのか、創造主が右手で払いのける仕草を行うと、神々と天使の視界は一斉に闇に包まれた。


どうも、IS提督です。

 相変わらずの投稿頻度・速度ではありますが、遅くなってしまい申し訳ございません。

 ただ遅くなったからと言っても、小説のクオリティが上がるわけでは無いのが、ISクオリティであります。

 さて、今回の「叩き上げ天使が神様に成り上がるまで。」ですが、いまだに過去回? であります。とは言えど、ここの箇所は今作においても重要な個所であり、飛ばしては話が先に続かなくなってしまう為、飛ばすに飛ばせない部分であります。

 今後もこの過去回が続きます。テンポが悪く、申し訳ありません。それでも、皆さまが本作品を読んで頂ければ幸いであります。

 このような作品ですが、面白いと思ったらブックマーク登録をお願い致します。

 それではまた、お会いしましょう。


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