風車小屋の出会い
入り口に見えるのは金髪の少女。
身長は高めだが、声から幼さが垣間見れる。
ふんわりとウェーブのかかった金髪は、風に優しく棚引いている。
装飾のあしらわれた、身の丈より大きな杖を持っている。
苦笑を浮かべながら、何かを伺う様にこちらを見つめている。
「貴女、村の人じゃないわね。何か用なの? 忙しいんだけど?」
ライラはツンケンと返す。別にそんなに忙しい訳ではないと思うのだが。
「うぅ……そのぉ……」
ライラの態度に怖気付いたのか、少女はモジモジとその場で立ち尽くす。
「どうしたんだ? 困りごとか?」
その姿を見ているだけでは展開はなしと判断して、自分から助け船を出すつもりで話しかけた。
「えっと、カッチャトーレの人たちを探しているのです……」
カッチャトーレといえば、さっき会ったシャッスとかいう奴が所属していたギルドだ。彼女は彼の関係者なのだろうか?
しかし探しているとなると、何か訳ありのようだ。
「あんたシャッスと知り合いなわけ?」
「知り合いというわけではないのです……でも……」
彼女の挙動のせいだろうか。ライラは怪しがっている。
「あの、私、王立魔導院の魔導師なのですが……」
「王立魔導院の魔導師? あんたみたいなふわふわが?」
言葉の途中で驚いたようにライラが聞き返す。やはり疑いといった感じの声でだ。
「俺にはさっぱりなんだが……。とりあえず凄い人ってことなのか?」
「凄いだなんてそんな……えへへ……」
少女は自分の言葉に照れて、さっきの不安の表情を捨て去っていた。
確かにライラの言う通り、ふわふわで単純な性格にも見える。
「魔導師は上位称号よ。なんでそんな称号持ちがこんな田舎にいるのよ?」
ライラの言葉から、少女は実力者だということが伺える。
もう一度少女をまじまじと見つめる。
金髪ウェーブのロングヘアー。服を押し上げる胸は間違いなく大きい。
可愛らしい系の、レースがあしらわれている服装。
口調や容姿から、ふわふわ系の女子。それが第一印象だ。
王立魔導院とかいったか、名前からしてお堅い機関だろう。そんなところに所属している人物にはとても見えない。
「えっと、今回の害獣被害が、獣にしては規模が大きかったので、魔獣の可能性も踏まえての調査が必要だと……。だから私が派遣されたのです」
少女は杖をぎゅっと握ると、我々に微笑みを向けてきた。
しかし魔獣。やはりこの世界にはそういった存在もいるのだろう。
「へぇ、研究ばっかりやってるとこだと思ってたわ」
「カッチャトーレを探してるのって、その調査のためか?」
「そうなのです!」
やっと話が伝わって安心したのか、少女は満面の笑みを浮かべている。
ライラも小さくため息をついて警戒を解いたようだった。
「シャッス達なら、とっくに出ていったわよ。もう森の中じゃないかしら?」
「ふぇっ! そうなのですかっ!?」
リアルでその声を出す人と初めて会った。
少女はさっきの笑顔とは一変して涙目になる。
本当に表情が豊かというか、忙しい人だ。
「うぅ、ちゃんと待っててって言ったのに……」
「てか、なんで置いてかれたんだ?」
1番の疑問を彼女に投げかける。
「……その、笑わないでくださいね?」
少女はうつむきながら小さく囁くように言葉を続けた。
何か重大なことなのだろうか?
「……寝坊したんです」
……これはまた心配して損したパターンの話だ。
もう時間は昼を回っている。カッチャトーレの人達も、きっと待っていたのだろう。そして痺れを切らしたといったところだろうか。
「それは貴女が悪いわね。多分シャッスたち待ってただろうし」
「うぅ、面目ないのです……」
ガチ凹みしている少女。
杖に支えられるようにして、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「早く追いかければいいだろ?」
「私、何に見えます……?」
自分より下の位置になった彼女は、上目遣いに自分を見つめた。
漠然な質問に、首をかしげる。
「……女?」
「いや、そうじゃないのです!」
からかわれていると思われたのか、頬を膨らませる。
「私は後衛職なのです。魔法は使えるのですが……、その、詠唱に時間がかかってしまって……」
「いやよ」
「そんな! まだ言ってないじゃないですか!」
何か嫌な予感を察したのか、ライラは即決で断る。
自分もなんとなく話の内容を理解できた。
「俺たちに護衛して欲しいのか?」
「そう! その通りなのです! 村の人に聞いたらあなた方がいいと……」
「シャッスと知り合いだからって、適当なこと言って……」
ライラは大きくため息をついた。
明らかに厄介ごとを押し付けられた感が否めない。
「だいたい私は技師よ? どうしろと?」
ライラの言う通りだ。
自分も体はゴーレムかもしれないが、戦闘なんてした事はない。
押し付けられても困る仕事だ。
「もう貴女たちしか居ないのです……! 報酬は魔導院から出るからお願いしたいのですよ……」
「報酬……?」
ライラの眉がピクリと動いた。
報酬という言葉に、何かしらのスイッチが入ったように見える。
あぁ、これは完全に巻き込まれるパターンだ。
ライラは座り込んでいる少女に近づくと、耳打ちで何かを聞いた。
自分には何を言ってるか聞こえなかった。
一通り話し合いを終えると、さっきまでのツンケンとした態度とは違い、がっちりと握手する二人。
「ミツキ、やるわよ」
……予想はついていた。
こちらが言葉を挟む間も無く、契約が締結したらしい。
「マジでか? 危なくないのか?」
「大丈夫よ、隣村までの護衛だから。そこで彼女をカッチャトーレに引き渡して終了。簡単でしょ?」
「よろしくなのです!」
言葉で聞くぶんには簡単に聞こえる。
この世界を知らない自分にとっては、彼女について行く他ない訳だが。
ライラも躍起になっているため、ここで反論したらどうなるかわかったものではなかった。
「俺にはなんのメリットもないが?」
「……ここで王立機関と関係を持ってれば、ミツキのこともわかるかも」
「……いま考えたろ?」
ライラは案の定、視線をそらす。
自分は小さくため息をつくと、どうしようもないので腹を括る。
「わかった、どっちにしろついて行くしかないからな……」
「決まりね。じゃあ明日出発で」
「えっ、今日じゃないのですか?」
少女と同じように、てっきり今日出るものだと思ったために、肩透かしを食う。
「貴女たちね……。隣村って言っても山の向こうよ? 今から出発したら途中で夜になるわ。 害獣がいるかもしれないのに森で野宿する気?」
「「あ」」
二人して根本的なことに気づく。同時に声を上げてしまった。
「だから、用意して出発は明日。いいわね?」
いきなり請け負った割には色々と考えているらしい。
まぁ、そこまで慎重になってれば大丈夫か……。
「わかったのです。とにかくよろしくお願いなのです。えっと、技師さんと魔動隷ちゃん」
「え、わかるのか?」
何かおかしなところがあっただろうか?
この身体は人と寸分違わないはず。シャッスも村人も、最初は気づかなかったのに、自己紹介もしてないのに彼女は気づいている。
「当たり前なのです。体内からマナを発していなくて、瞳が黄色。どれも魔動隷さんの特徴なのです」
少女はえっへんと胸を張って、自分の疑問に答えている。
「マナが見えるのよ。魔導師や魔動技師の技能みたいなもの」
見分ける術があるのか。
確かにそれがなければ、魔動隷がそうじゃないかは区別がつかないだろう。
特に自分みたいな個体は、そうでもないと人の生活に溶け込めてしまう。
「なるほどな……。ん、そういや名前は?」
「あっ、忘れてたのです!」
彼女は杖を柱にしてゆっくりと立ち上がると、ポンポンとスカートについた埃を叩く。
そして我々を交互に見つめると、一礼する。
「イーフェ・シャッテンラント。イーフェって呼んで欲しいのですよ」
「私はライラ・ライリエル。ライラでいいわ。でこっちが」
「ミツキだ。よろしくなイーフェ」
というかライラはそんな名前だったのか。
初めてあった時には名前しか教えられてなかった。
かなり遅くなったが、今回が互いの本当の自己紹介になったのかもしれない。
「とにかく、まずは歯車預けて用意しなくちゃね」
「あぁ、そういえばそうだったな」
忘れてたの? と言わんばかりにライラは自分にため息をつく。
たしかに完全に忘れていた。今やってることは、この風車小屋修理。
当然、放り投げるわけにもいかないだろう。
「さっさといくわよー」
「はいなのです!」
パーティーに一人追加。
一気に賑やかになった。賑やかなのは嫌いではない。
不安ではあるが、これが少しでも帰ることにつながると願い、三人で明日の用意に向けて小屋を後にした。
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